一人ひとりの子どもたちが自立できる基礎となる能力や態度を育成するキャリア教育について解説していきます。
また、本記事では、2020年4月から導入が始まったキャリア・パスポートや実践例が確認できるサイトも紹介していきます。
文科省が進めるキャリア教育とは?
キャリア教育は、平成23年の中央教育審議会の「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」によると、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育 」であると定義されています。産業・経済の構造的変化や雇用の多様化・流動化などにより、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しています。
このような変化の中、「働くこと」 を通して社会にかかわり「自分らしく生きること」が大切となります。
そのため、社会の変化に応じて子どもたちが直面する様々な課題に対して、柔軟かつたくましく対応して自立できるようにする教育の重要性が叫ばれるようになりました。
学校で実施する際には、家庭や地域と協力をして職場体験などの体験学習を重視して学習が進められます。
キャリア・パスポートとは?
キャリア・パスポートとは、文科省によると下記のように定義されています。児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの 学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。キャリア教育を小学校から高校までの各段階で各学校ごとに実施するだけでは、連続した学習とならないですよね。
しかし、キャリア形成は本来は中・長期的に行われるものですので、各学年での学習をポートフォリオとして記録して学校ごとに引き継いでいく取り組みがキャリア・パスポートとして提案されました。
キャリア・パスポートは2020年4月より全国の小・中・高校で導入されています。
キャリアパスポート導入の背景とは
キャリアパスポートの導入が進んだ背景には、子どもたちを取り巻く環境の変化、社会のニーズなどを考慮して約10年ごとに改訂されている「新学習指導要領」の存在があります。「学習指導要領」とは、全国どこの学校でも子ども達が一定の水準を保てるよう、文部科学省が定めている教育課程の基準のことです。子供たちの教科書、時間割は、「学習指導要領」 を基に作られています。
新学習指導要領では、小学校~高校にかけて生徒達の発達段階を踏まえた上で「キャリア教育」の推進が求められています。新学習指導要領では、キャリア教育は学校の教育活動の全体を通して行う必要があるとされるようになり、キャリアパスポートの導入が進められる運びとなりました。
キャリア教育の実践例を確認できるサイト
千葉県のキャリア教育実践例
千葉県教育委員会のHPでは小学校から高等学校までのキャリア教育の実践例を紹介しています。年間の実践計画まで公開されており、現場の先生方も参考にできる内容です。
高知県のキャリア教育実践例
高知県の小中学校の取り組み事例です。授業の記録以外にも、キャリア教育を運営する様子も記載されています。
岡山県のキャリア教育実践例
岡山県ではキャリア教育として、小学生を対象に「夢への授業」を行っています。これは、中学進学後に授業についていけないなど、挫折感を味わう生徒が多い傾向があるため行われるようになりました。具体的には、夢をつかむ計画表を作成したり校内テレビ番組を製作したりします。これによって、将来への展望を具体的に描けることを目標としています。
秋田県のキャリア教育実践例
秋田県ではキャリア教育の一環として、小学生が『あきたでドリーム(AKITA de DREAM)』を作成しています。キャリアノートを用いて地域の人々や高齢者、祭りとふれあい、ふるさと教育にも活用されています。小学校によっては1年生からキャリアノートを導入しており、長期間に渡って生徒の自主性や高い意欲を育むキャリア教育を実践しています。
・校種を貫き,一人一人の 持ち味 に寄り添うキャリア教育持ち味 が輝くキャリア教育 ・教室の外でも生涯にわたって一人一人の 持ち味 が息づくキャリア教育 ・一人一人のキャリア発達にふるさと秋田の 秋田県総合教育センター キャリア教育プロジェクト 高い志を育てる あきた型キャリア教育 記録いろいろ 学年間,校種間の円滑な接続と,効果的な連携のために,また,児童生徒自身が自己の変容・成長を実感する上でも,キャリア教育に関わる活動やキャリア発達の記録を残し,引き継いでいくことはとても大切です。 わか杉っ子のキャリアノート「あきたでドリーム(AKITA de DREAM)」の各校の活用例です。ぜひ実践の参考に! H30kotooka-es.pdf へのリンク 職業的自立,社会的自立を目指し,キャリア発達に応じて書き込めるような記録を工夫しましょう。 地域や自校の実情,児童生徒の実態に応じた活用の仕方を工夫し,次の学年,次の校種へと着実に残していきましょう。 (※)体験活動の事前・事後での活用
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阪神淡路大震災以降、子ども達が心に傷を抱えたことで校内が荒れてしまうことが問題となりました。これに対し、兵庫県教育委員会が打ち出したのは、「トライやる・ウィーク」です。5日間に渡って職場体験や福祉体験をすることで、生徒達の心境や行動にも変化を与えました。職場体験を実施した翌年には不登校率が低下し、校内が落ち着きを取り戻した学校も多くみられたそうです。
【小学校キャリア教育】キャリア教育の第一人者、筑波大学の藤田先生に聞く!「キャリア教育の今とこれから」 | 光文書院
小学校におけるキャリア教育は、2020年度から全面実施された新学習指導要領から明確に提示され、新しく「キャリア・パスポート」という取り組みも始まりました。ですが、小学校でキャリア教育をやる意義がよくわからないという先生方や、キャリア教育の授業とは、一体何をしたら良いのかわからないという先生方も多いのではないでしょうか。そこで、キャリア教育を専門とされている筑波大学の藤田先生にキャリア教育の目...
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奈良県では学習意欲の低下が学生にみられているため、小学校から高校までキャリア教育を継続させていくことが特徴です。生徒1人ひとりに寄り添ったキャリア支援を行うため、キャリアカウンセリングも実施しています。きめ細やかなキャリアカウンセリングを実施するために、教員はコミュニケーションスキルを向上させることが課題だとされています。
まとめ
以上、キャリア教育やキャリア・パスポートについて紹介しました。各教科の勉強だけではなく、将来のことを見据えた職業観や態度が重要となるのですね。職場体験を経験したことのある読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、2020年より小学校から高等学校までが連携してキャリア・パスポートを引き継ぎ、長い時間をかけてキャリア教育を行っていく仕組みが実施され始めています。
キャリア教育を各学校で実施して終わり、というわけではなく、次の学年や学校でもキャリア・パスポートを有効に活用できるように機能すると良いですね。
参考サイト
・国立教育政策所「生徒指導・進路指導研究センター」https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div09-shido.html
・文部科学省「小学校キャリア教育の手引き」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1293933.htm