そんな中、一人ひとりが社会で自立して職業生活を送る力や基盤を身につけることを目的として、「キャリア教育」が推進されるようになりました。
当記事ではキャリア教育について、定義や育成される能力、取り組み、効果などを紹介していきます。
キャリア教育とは
まずはキャリア教育の定義や、キャリア教育が推進されることとなった背景を確認しておきましょう。キャリア教育の定義
キャリア教育は、文部科学省によって、以下のように定義されています。「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」つまり、子どもたち一人ひとりが将来的に自立して働くことができるように、基盤となる能力・態度を育成すること。そして、必要な教育が「キャリア教育」であると言えます。
引用元:文部科学省「第1章 キャリア教育とは何か」
続いて「キャリア」と「キャリア発達」の意味についても見ていきましょう。
「キャリア」とは
「人が,生涯の中で様々な役割を果たす過程で,自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」ととらえることとする。同じ人であっても場面によって役割が違い、また成長によっても役割は変化します。例えば10歳のお子さんは「子ども」「小学生」「友達」等の役割を持ち、それらの役割の関係や価値を判断しながら、日々役割に取り組んでいます。成長するとまた別の役割を持つでしょう。様々な役割が時間の経過とともに積み重なり、つながっていきます。
引用元:文部科学省 小学校キャリア教育の手引き(改訂版)「第1節 キャリア教育の必要性と意義(その1)」
このように、生涯の中で自分の役割の価値や自分と役割との関係を見出していく積み重ねが「キャリア」となります。
「キャリア発達」とは
社会の中で自分の役割を果たしながら,自分らしい生き方を実現していく過程を「キャリ ア発達」という。子どもは、その時期によって発達の段階があり、課題を達成しながら次の段階へと成長していきます。同じようにキャリア発達にも段階があり、それぞれで課題をクリアしていかなければいけません。
引用元:文部科学省 小学校キャリア教育の手引き(改訂版)「第1節 キャリア教育の必要性と意義(その1)」
各時期でふさわしいキャリア発達の課題を達成していくことが、生涯を通じての「キャリア発達」であるとされています。
キャリア教育が推進される背景
キャリア教育が推進される背景として、フリーターや新卒者の離職者が増えていることがあげられます。このことが深刻な問題として受け止められ、キャリア教育が提唱されました。社会の情報化や、それに伴う社会環境の変化、雇用の多様化・流動化。他にも、少子高齢化、グローバル化など、働く環境の変化など社会環境は大きく変化しています。このような変化があり、子どもたちの理想のモデルとなるような大人を見つけにくくなってしまっています。
変化が激しい現代では、将来を担う子どもたちが、変化を恐れることなく対応していく力が重要です。様々な問題に対処し、社会人として自立することができるように、キャリア教育が推進されています。
キャリア教育で育まれる能力
キャリア教育では社会的・職業的自立に向けて、基礎的・汎用的能力を育成すべきとしています。基礎的・汎用的能力は、以下の4つの能力に整理されています。- 人間関係形成・社会形成能力
- 自己理解・自己管理能力
- 課題対応能力
- キャリアプランニング能力
ここからは、それぞれの能力についてを紹介します。
参考:文部科学省「第1章 キャリア教育とは何か」
人間関係形成・社会形成能力
他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聞いた上で自分の考えを正しく伝える力。また、状況から自分の役割を判断し、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参加し、今後の社会を積極的に形成していく力のことです。例えば他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション力やチームワーク、リーダーシップなどがあります。どんな職業においても欠かせない力といえるでしょう。
自己理解・自己管理能力
自分ができること、意義を感じること、やりたいことなど、社会との関係を保ちつつ、今後の自分の可能性に肯定的となり主体的に行動する力。同時に自分を律しながら、今後の成長のために進んで学ぶ力のことです。つまり、「やればできる」と考えて行動する力のことで、思考や感情を律する力や、主体的に学ぶ姿勢が大切です。具体的な要素として、自己の役割の理解、前向きに考える力、忍耐力、ストレスマネジメントなどがあります。
課題対応能力
仕事における様々な課題を発見・分析して、適切な計画を立案し課題を処理・解決できる力のことです。また、社会の情報化に伴って、情報手段を主体的に選択し、活用する力も重要とされています。具体的には、情報の理解・選択・処理、本質の理解、原因追求、課題の発見、計画立案、実行力、評価・改善などがあります。キャリアプランニング能力
「働くこと」の意義を理解し、自分の果たすべき役割との関連を踏まえて、多様な生き方に関する情報を適切に活用しながら、主体的にキャリアを形成していく力のことです。社会人・職業人として、生涯にわたって欠かせない能力と言えるでしょう。例えば学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動・改善などがあります。
キャリア教育の取り組み
続いては、小学校・中学校・高校のキャリア教育の取り組み内容を、国立教育政策研究所の資料から紹介していきます。参考:
国立教育制作研究所「「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」パンフレット」、「キャリア教育に関する総合的研究 第一次報告書」
小学校の取り組み
約8割近くの小学校で、キャリア教育の全体計画の作成を行っていますが、年間指導計画の作成をしているのは約5割ほどというデータがあります。小学校におけるキャリア教育は、道徳・学級活動や、総合的な学習の時間にとりいれられていることが多いようです。またキャリア教育の学習内容として、中学校への訪問・見学や体験入学、学校説明会の参加が、よく行われています。
中学校の取り組み
約9割の中学校がキャリア教育の全体計画を作成し、年間指導計画は8割が作成しているというデータがあります。また以下の表を見ると、以前よりも多くの中学校で取り組みが進められていることがわかりますね。出典:国立教育政策研究所「キャリア教育に関する総合的研究 第二次報告書」
様々な教科による日々の授業、部活動などの課外活動、係活動・委員会活動など、日々の活動の中でキャリア教育が進められており、生徒が「将来の生き方や進路を考える上で役に立った」と感じることも多いようです。
高校の取り組み
高校では、将来の職業に関わる就業体験やインターンシップの実施が普及してきています。インターンシップの事前指導や振り返り・事後指導を行うことで、生徒の卒業後の就職や進学に関する学習も促されるとしています。また、インターンシップはキャリア教育の学習だけでなく、その後の学習全般への意欲向上につながることも調査で明らかとなっています。
キャリア教育の効果
キャリア教育は、多くの小学校・中学校・高校で行われていて、キャリア教育が充実している学校ほど、学習意欲も向上する傾向にあることがデータとして明らかとなっています。以下は児童生徒の学習意欲が向上したと回答した学校の割合です。
小学校 | 中学校 | 高校 | |
キャリア教育計画の充実度が高い学校 | 45.1% | 55.1% | 65.4% |
キャリア教育計画の充実度が中程度の学校 | 20.2% | 38.5% | 46.6% |
キャリア教育計画の充実度が低い学校 | 9.7% | 21.4% | 31.3% |
参考:国立教育政策研究所「「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」パンフレット」
まとめ
キャリア教育は、変化の流れが激しい現代において欠かせないものとなっています。実際に取り組んでいる学校も多く、またその効果もデータで示されています。先を見通すことが難しい時代。子どもたちが希望を持って社会への一歩をふみだせるように、キャリア教育へのサポートをしてあげたいですね。