そんな、多くのビジネスパーソンが抱えるモヤモヤの正体に光を当てます。
お話を伺ったのは、人事、経営、キャリアコンサルタントと様々な立場からキャリアを見てきた森数さん。
森数さんは「納得できるキャリアは、未来の目標設定ではなく、過去の経験を正しく棚卸しすることから始まる」と述べています。
自分だけの「判断軸」を見つけ、“選べる自分”になるための、具体的で新しいキャリア戦略を学びましょう。
人事・経営・コンサルタントの視点で見る、現代のキャリア形成の課題
現代のキャリアにおける最大の課題は、「選択肢は増えたのに、選び方が難しくなっている」ことだと強く感じています。
かつては、出産を機に女性が仕事をセーブすることが当たり前とされていました。
しかし今は、共働きが一般的になり、男性も育児や家庭との両立を前提にキャリアを考える時代へと変わってきています。
さらに、転職は当たり前になり、副業や独立といった働き方も珍しくなくなりました。
つまり、働き方やキャリアを考えるうえでの前提そのものが、大きく変わっているのです。
一方で、その多様な選択肢をどう選ぶかは、以前よりずっと複雑で難しくなっています。
多くの人は、これまでの人生で社会的な正解に沿って生きてきて、人生の大きな分岐点で主体的に選んできた経験がまだ少ない。
そのため、いざ自由な選択肢を前にしたときに、自分にとっての最適な判断軸がわからないまま意思決定してしまったり、そもそも自分にある選択肢やチャンスにすら気づけていなかったりする。
この「選択の自由」が、かえって多くのビジネスパーソンを悩ませる根源になっていると感じます。
「やりたいことが見つからない」「キャリアの軸が定まらない」という悩みが、個人の資質の問題ではなく、社会構造的に生まれやすくなっているということですね。具体的に、どのような背景があるのでしょうか?
はい、背景は大きく3つあると考えています。
1. 「やりたいことやWillがあって当然」という空気が強いこと
私自身も、長くやりたいことが明確ではない『Willなし人間』でした。
『やりたいこと=職業』だと思い込んでいたので、やりたいことがない自分に焦りを感じていました。
私は、こうした“借り物の目標”に振り回されている人が非常に多いと感じています。
2. キャリアを「未来からの逆算」で考えようとしすぎている
ビジネスの世界では「目標を立て、そこから逆算して(バックキャストで)行動を決める」という手法がよく使われます。
これは、ある程度未来が予測可能で、目標が明確な場合には有効です。
しかし、個人のキャリア、特に今の不確実性の高い時代においては、この手法がうまく機能しないことが多い。
3年後、5年後に自分がどうなっていたいか、社会がどうなっているかを正確に予測するのは困難です。
不確実な未来を起点に「これから何がしたいのか」だけを考えても、具体的なイメージが湧かず、答えに詰まってしまうのは当然です。
3. 「好きなことを仕事にすべき」「成長し続けなければならない」というプレッシャー
リスキリングの重要性が叫ばれるなど、学び直しや新しい挑戦は確かに大切です。
しかし、その前に、自分がすでに持っている経験や強み、価値観という「資産」に気づけていない方が非常に多いです。
自分の足元にある資産を整理しないまま、隣の芝生ばかりを見て「自分にはあれも足りない、これも足りない」と、新しいスキルの習得ばかりを追いかける。
すると、かえって自分の価値を見失い、「何者でもない自分」という不安を増幅させてしまうのです。
なるほど。自分の軸がないまま、そうしたプレッシャーの中でキャリアの選択を重ねていくことには、どのようなリスクがあるのでしょうか?
最大のリスクは、「自分で選んだつもりでも、実際には周囲の期待や目の前の分かりやすい条件に流されて決めてしまうこと」です。
自分の判断軸が曖昧だと、どうしても年収や企業規模、役職、働きやすさといった、比較しやすく分かりやすい「外側の基準」で選んでしまいがちです。
その結果、その場では良い選択に思えても、後から「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが起こりやすくなります。
仕事に意味を見出せなかったり、やりがいを感じられなかったり。
納得感がないまま進むと、その違和感を言葉にできないまま心身を消耗してしまうケースも少なくありません。
さらに、本来あるはずの自分だけの強みや可能性に気づけず、「自分には専門性がない」「市場価値がない」と思い込み、挑戦する前から可能性を自分で閉じてしまう。これは、個人にとっても社会にとっても、非常にもったいないことです。
「やりたいこと」がなくても作れる、本質的なキャリア戦略
では、「やりたいこと」が明確でない状態から、納得感のあるキャリアを築くには、まず何から始めればよいのでしょうか?
はい、「やりたいこと」が明確でない方こそ、最初に無理に未来の目標を決めないことが重要です。
先ほどお話ししたように、変化の激しい時代に最初からゴールを固定すると、かえって視野を狭め、予期せぬチャンスを見逃すことにもなりかねません。
だからこそ、私がキャリア戦略の最初の一歩として強くおすすめしたいのは、未来ではなく「過去」を見ることです。
なぜなら、過去は誰にでもある、動かしようのない確かな「事実」の集合体だからです。
未来のことは誰にも分かりませんが、自分が何を経験してきたかは、自分だけのオリジナルなデータソースなんです。
これまでどんな仕事をしてきて、どんな場面で力を発揮し、何に喜びを感じ、逆に何に違和感を覚えたのか。
納得感のあるキャリア戦略は、すべてこの「過去の棚卸し」という確かな土台作りから始まります。
「過去の棚卸し」とは、具体的にどのように進めればよいのでしょうか?自己理解を深めるための具体的なアクションを教えてください。
はい、キャリパトでは、3つのステップで自己理解を深めていきます。
STEP1:経験を「ピース化」する
まず、自分の仕事を「営業」「マーケティング」といった職種名や役職で大雑把に捉えるのをやめます。
「営業をしていました」で終わらせず、「どんな業界の」「誰に」「何を」「どういう工夫をして提案していたか」といった具体的なタスクや行動のレベルまで分解して書き出す。
これが「経験のピース化」です。
この一つひとつのピースが、あなたのキャリアを再構成するための、かけがえのない材料になります。どんな小さなことでも構いません。この作業を通して、自分の仕事を客観的に捉え直すことができます。
STEP2:「好き・得意・ストレス」で感情を可視化する
次に、書き出したピースの一つひとつに、「好きか嫌いか」「得意か苦手か」「やっていてストレスを感じるか」といった感情のラベルを貼ってみてください。
大切なのは、ポジティブな面だけでなく、「何にストレスを感じたか」「何にモヤモヤしたか」というネガティブな感情も正直に見つめることです。
何かに対して「ストレスだ」「おかしい」と感じたネガティブな経験の裏には、自分でも気づいていない価値観が隠れていることが多いのです。
ネガティブな感情は、自分の価値観を知るための重要なヒントの宝庫です。
STEP3:「なぜ?」を問い、自分の価値観を掘り下げる
最後に、STEP2でラベリングした感情に対して「なぜ?」を問い、深く掘り下げていきます。
「なぜこの仕事は得意だったのか?」「なぜあの状況がストレスだったのか?」を5回繰り返すようなイメージで自問自答することで、「自分はどんな状態なら力を発揮しやすいか」「何を大切にして働きたいのか」という、あなただけの判断軸や価値観が、解像度の高い言葉として浮かび上がってきます。
これが、今後のキャリア選択における重要な判断軸になるのです。
自己理解の過程で、壁にぶつかる人も多そうです。そうした際、「キャリアコーチング」と「転職エージェント」は、それぞれどのように活用すればよいのでしょうか?
「キャリアコーチング」と「転職エージェント」は役割が大きく異なるので、順番を意識して活用することが重要です。
まず、キャリアコーチングは、「自分は何を軸に働きたいのか」「そもそも転職すべきなのか」といった、自分自身の価値観や判断基準を整理する役割を担います。
一方、転職エージェントは、その判断基準が整理された後に、具体的な求人紹介や転職活動を支援する存在です。
多くの方は、判断軸が曖昧なまま市場に出てしまい、条件や求人に意思決定が引っ張られてしまいます。
だからこそ、まずは自分自身の考えを整理したうえで、転職エージェントを活用することが大切だと考えています。
その中で、一般的な言葉でいえば、キャリパトはキャリアコーチングに近い領域です。
ただ、大きな違いは、内省だけで終わらないことだと思っています。多くのキャリアコーチングでは、「答えは自分の中にある」という前提で、自分の気持ちや理想を整理していきます。
キャリパトでも内省は重視していますが、それに加えて、過去の経験を構造的に整理し、強みや価値観を言語化したうえで、「それが市場でどう伝わり、どう評価されるのか」まで含めて考えていきます。
つまり、気持ちが整理されるだけではなく、実際に選択肢が広がる状態をつくるところまで支援しているのが特徴です。
ハイクラス人材の次なる一手と「キャリパト」が提供する価値
特に、ある程度の実績を積んだ30〜40代のハイクラス層が次のキャリアを考える上で、陥りがちな罠はありますか?
経験豊富な方ほど、逆説的ですが「色々やってきたけれど、自分には専門性がないのではないか」という焦りに囚われがちです。
特に、部門を横断するプロジェクトマネジメントや、部署の立ち上げ、メンバーの育成など、いわゆるゼネラリスト的な経験を積んできた方に多い悩みです。
こうした経験は、複数部門をつなぐ能力や、曖昧な状況で物事を前に進める力など、非常に価値の高いポータブルスキルなのですが、本人はそれを「広く浅い」と過小評価してしまうケースが後を絶ちません。
もう一つは、ライフステージの変化や、「この年齢ならこうあるべき」「この役職ならこう振る舞うべき」といった社会的・組織的な固定観念によって、無意識にキャリアのブレーキを踏んでしまうことです。
過去の成功体験や与えられた役割に固執するあまり、環境の変化に自分を柔軟に適応させられない。その結果、本当はもっと挑戦できるのに、逆に諦めてしまうこともあります。
だからこそ、次の一手を考える際は、年収や役職といった分かりやすい指標だけで判断せず、「どの環境なら、自分がこれまで培ってきた経験や強みを最も価値として発揮できるのか」を、一度フラットに見直すことが非常に大切です。
その経験のピースをどう再構成し、どう物語るかで、見える選択肢は大きく変わってきます。
まさにそうした課題を抱える方々のために、森数さんは「キャリパト」を運営されているのですね。キャリパトは、どのような課題を持つ方に特に価値を提供できるのでしょうか?
キャリパトが特に価値を発揮できるのは、30〜40代の中堅〜マネジメント層で、「これまで頑張ってきて、一定の経験は増えたが、このままでいいのか」と立ち止まっている方です。
昇進したけれどモヤモヤしている、ゼネラリストとしてのキャリアに不安がある、といった方々の本質的な課題は、「自分には選択肢がある」という実感が持てていないことだと感じています。
キャリパトの独自性は、この「選択肢がある」と心から思える状態を作るための、一貫したアプローチにあります。具体的には3つの特徴があります。
1. 「やりたいこと探し」から始めない
私たちは、いきなり「何がしたいですか?」とは問いません。
まず、事実である過去の経験を「ピース化」し、そこから強み・価値観を言語化します。
未来という不確かなものではなく、過去という確かな事実から始めるので、誰でも着実に、納得感を持って自己理解を深められます。
2. 自己理解を「市場で選ばれる武器」にまで高める
ただ気持ちが整理される「癒やし」で終わらせません。
言語化した強みや価値観を、第三者、特に転職市場で評価される「伝わる言葉」にまで翻訳します。職務経歴書が劇的に変わる方も多いです。
これにより、自己理解が自己満足で終わらず、実際に選択肢が広がる状態を目指します。
3. 転職をゴールにしない
私たちのゴールは、転職を成功させることではありません。転職や現職での役割変更など、あらゆる選択肢をフラットに検討し、その人にとって最も納得感のある選択ができる状態を作ることです。
つまりキャリパトは、「やりたいこと探し」のサービスではなく、「“選べる自分”になるための戦略設計サービス」です。
これからのキャリアを主体的に選びとっていくための、一生使えるキャリアの判断軸を手に入れたい方にこそ、その価値を実感いただけると確信しています。
最後に、自身の可能性を信じながらも、次の一歩をためらっている読者に向けて、応援のメッセージをお願いいたします。
「自分は何者なんだろう」「このままでいいのだろうか」と不安になることは、真剣にキャリアと向き合っている証拠であり、誰にでもあります。でも、どうか忘れないでください。
これまであなたが悩み、考え、行動してきたことに、無駄なことは一つもありません。
キャリアプランニングは、一人で考えると難しく感じるかもしれません。
しかし、やみくもに悩むのではなく、考え方には順序やコツがあります。
正しい戦略を描き、努力の方向性を定めることができれば、今よりもずっと納得感のある未来に近づくことができます。
もし次の一歩をためらっているなら、いきなり転職活動を始めたり、大きな決断をしたりする必要はありません。
まずは今日、自分がやってきたことを5分だけでも書き出してみる。信頼できる友人や先輩に、少しだけ話を聞いてもらう。その小さな一歩で十分です。
あなたは「何者でもない」のではありません。まだ、言葉になっていないだけです。
あなたの経験の中には、まだ名前のついていない素晴らしい価値や強みが眠っています。
自分の可能性を信じて、今日できる一歩を踏み出してみてください。
見える景色は、そこから必ず変わっていきます。応援しています。


人事、経営、キャリアコンサルタントと様々な立場からキャリアを見てこられた森数さんが感じる、現代のビジネスパーソンに共通するキャリア課題とは何でしょうか?