「建設現場の工場化」をA⁴CSEL®が切り拓く!鹿島建設が挑む締固め品質管理の自動化最前線
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今回お話を伺った方
2026年6月、Japan Drone 2026で、コエテコドローン取材班の足を止めたのは、会場の一角に鎮座する一台の異形の車両でした。装甲車のような重厚な車体。ドローンという言葉から連想する飛行体とはあまりにかけ離れた、その圧倒的な存在感に、思わず息を呑みました。
聞けば、展示後すぐ鹿島建設へ納品される陸上ドローン「A⁴CSEL(クワッドアクセル) AGV」とのこと。
地盤の締固め品質管理を自動化し、3名体制で行っていた作業を1名の遠隔管制へ変えるといいます。でも、数字や仕様だけでは、その存在感の理由はわかりません。
取材班は、開発の裏側にある物語をどうしても知りたくなり、鹿島建設本社を訪ねました。
迎えてくれたのは、A⁴CSELの開発を率いている鹿島建設 メカトロニクス・ソリューション部 自動化施工推進室 室長・出石陽一氏と、システム開発やAGVのマネジメント業務を担う鹿島建設 メカトロニクス・ソリューション部 自動化施工推進室 主任・佐藤周平氏。
二人が語ってくれたのは、技術の話であると同時に、幾度も壁にぶつかりながら前へ進んできた、開発者たちの物語でした。
消えゆく熟練の技、深刻化する人手不足に鹿島建設が出した答え「A⁴CSEL(クワッドアクセル)」

成瀬ダムのA⁴CSELの施工イメージ
建設業界が直面しているのは、単なる「人手不足」ではありません。熟練技能者が減少し、長年培われてきた技術やノウハウの継承が難しくなるという危機です。
この危機はどのようにして生まれ、そして鹿島建設はどう向き合ってきたのでしょうか。
建設業界の危機とA⁴CSEL誕生の経緯

左からメカトロニクス・ソリューション部 自動化施工推進室 室長・出石陽一氏と、主任・佐藤周平氏
高齢化が進む現場では、時間外労働規制も重なり、生産性と安全性をどう両立させるかという難題が横たわっています。この危機に、鹿島建設は2009年から開発を進めてきた自動化施工システムA⁴CSEL(クワッドアクセル)* でひとつの答えを出しました。
開発の軌跡をたどると、2009年、鹿島建設 技術研究所のメンバーが振動ローラの自動化に着手したのが始まりでした。
熟練オペレータの操作データを参考にしてシステム開発、実証実験を重ね、2015年には次世代の建設生産システム「A⁴CSEL(クワッドアクセル)」として発表。2017年にはブルドーザ・ダンプトラックを含む3機種の連携自動化に成功し、実用化の土台が固まりました。
そして2020年、成瀬ダム堤体打設工事(秋田県東成瀬村)の堤体CSG打設(土砂とセメント、水を混合した材料で堤体を造る工法)にA⁴CSELを本格適用。複数台の自動化建設機械が昼夜連続で施工を行ったのです。
「自動化すること自体が目的ではありません。省人化による人手不足の解消、属人化してきた作業の生産性向上、そして技能者の安全確保、A⁴CSELは、建設現場が抱える社会課題に対するソリューションです」(出石氏)
成瀬ダムが刻んだ圧倒的な実績


動画で見ると、これらの建設機械が見えない線を描くように縦横無尽に動いていて圧倒される
「ダムの堤体を築く工程では、材料の積込み、運搬、敷均しや転圧といわれる作業を、ひたすら繰り返します」と出石氏は説明します。
成瀬ダムの現場では2020年から2024年にかけて、3機種、最大14台の建設機械が、この作業を昼夜問わず休むことなく繰り返し続けました。
コエテコドローン取材班は、当時の稼働映像を見せてもらった瞬間、言葉を失いました。
人の姿はどこにもないのに、巨大なダンプトラックがCSGを運び、ブルドーザが敷き均し、振動ローラが締め固めていく。どの建設機械も寸分の狂いなく、するすると滑らかに動いていく。まるでSF映画の一場面のよう……。
「ダム堤体打設工事においてCSGおよびコンクリートを打設し、ダム工事における月間打設量の国内記録を達成しました。この記録は、従来トップだった黒部ダムの数値を塗り替えるまでになったんですよ」と語る出石氏をちらと見れば、私たちに解説をしながらも身を乗り出すようにして両手をテーブルの上につき、映像に見入っているではありませんか。
出石氏は現場にいたはずですし、動画も何度も見ているはずです。
それでも、この映像は出石氏にとって、あるいは現場や開発に関わってきた大勢の人々にとって、何度見ても色褪せない、目が離せなくなる映像なのでしょう。
残っていた課題「締固め品質管理の自動化」

ダム現場に続き、造成現場にもA⁴CSELの適用を進めています。ダム工事で培った技術を適用しつつ、造成工事特有の条件や制約などに対応できるシステムに深化させ、現場の工場化を進めています。
建設機械で土砂をすくう自動バックホウ、それを運ぶ自動ダンプトラック、敷き均す自動ブルドーザ、そして締め固める自動振動ローラ。盛土作業を形づくる一連の工程を、A⁴CSELはひとつずつ自動化してきました。あとは、その仕上がりを確かめる品質管理さえ自動化できれば、掘削から品質確認までが、初めて切れ目なくつながることになります。
締固め品質とは、盛った土や砂をどれだけ隙間なく固く締め固められたかを示す指標です。
「人が穴を掘って、そこにさらさらの砂を入れる。その砂の量から穴の体積を求め、掘り出した土の重さと合わせて密度を測る(砂置換法)。説明すると簡単なようですが、とにかく重労働でした」(佐藤氏)
陸上ドローン「AGV」が締固め品質管理に選ばれた理由

締固め品質管理の自動化にAGV(陸上走行型の無人車両)が選ばれたのは、計測機器を地盤に接地させながら牽引走行させるという、いわゆる空飛ぶドローンには果たせない役割を担う必要があったためです。
「私たちが自動化したかったのは、地盤の締固め状態を測る「Geo-DX Compaction®」* という技術です。
お話に出た、砂を使った方法ではなく、電気抵抗の値や水分量から締固め状態を面的に計測する仕組みなのですが、計測機器を地面に接地させながら走らせる必要があるんです。
だから、飛ぶドローンでは代わりが務まりませんでした」と佐藤氏は説明します。
出石氏はうなずきながら、「ブルドーザやダンプトラックは、動き一つひとつが直接生産性に結びつきます。だから内製にこだわってきました。
締固め品質管理の自動化にあたっては内製にこだわらず、オープンイノベーションを選びました。今後、他の現場にも展開していくことを考えると、ゼロから作るより、すでにある自動化技術を改良したほうが、開発コストを抑えつつ早く導入できると判断したからです」と続けました。
| 領域 | 開発方針 | 主な理由 |
| ブルドーザ・ダンプトラックなど主力建設機械 | 内製 | 動き一つひとつが生産性に直結し 深い制御技術が必要 |
| 締固め品質管理用AGV | オープンイノベーション | 牽引・走行機能が中心で 外部の完成度の高い技術を活用しやすい |
エバーブルーテクノロジーズとの連携で生まれた「A⁴CSEL AGV」

Japan Drone 2026に展示されていたAGV(コエテコ取材より)
鹿島建設が次に必要としたのは、自分たちだけでは持ち得ない技術と、それを託せるパートナーでした。舞台に登場したのが、レンタル機材大手の西尾レントオール株式会社からの紹介で出会った、エバーブルーテクノロジーズ株式会社(代表取締役CEO:野間恒毅氏)です。
MSD-F22からA⁴CSEL AGVへ

機動警備ドローン MSD-F22(オプション装備車)エバーブルーテクノロジーズより
ベースとなったのは、エバーブルーテクノロジーズが手がける陸上ドローン「MSD-F22(機動警備ドローン)」でした。
ベース機体の仕様のままでは計測機器を積載できないという壁にぶつかりましたが、「大きな籠を上に載せる形で解決できそうです」というエバーブルーテクノロジーズ側からの提案により、鹿島建設の用途に合わせて、大幅にカスタマイズされることになりました。
ソフトウェアやユーザーインターフェースの完成度、そしてカスタマイズへの対応力の高さが、パートナーとして選ばれた決め手になったといいます。
「同じようには走れない」A⁴CSEL AGV開発を阻んだ、見えない壁

バギーの代わりが自動運転のAGV
開発が動き出してからしばらく経ったころ、チームはひとつの現実に突き当たります。従来、人が乗るバギーで確立してきた走行方法を、AGVでそのまま再現しようとしても、うまくいかなかったのです。

従来の手法、人がバギーを運転し計測装置を牽引している
最小旋回半径も、機体の構造も、バギーとはまるで違う。そんな壁が、開発チームの前に立ちはだかりました。
バギーと同じようには走れない!

——開発でいちばん苦労した点を教えてください。
佐藤氏:従来はバギーで計測機器を牽引していたので、最初はその走り方をそのままAGVで模倣しようとしたんです。でも、最小旋回半径や機体の構造がバギーとは違うので、結局は同じようには走れませんでした。
——その壁は、どうやって乗り越えたのでしょうか。
佐藤氏:走行試験と計測結果の確認を何度も重ねて、AGV専用の走行経路をゼロから見つけ出すしかなかったんです。今ではエリアの情報をシステムに読み込ませると、その中でどう動けばいいかを自動的に決めてくれる仕組みを開発し、それを現場に持っていって使っています。
開発は2025年4月に動き始め、5月から本格的な検討がスタート。実働ベースで7か月という月日をかけて、AGV専用の走行経路と、それを自動で生成するシステムが確立されました。目の前の壁を乗り越えるたびに、機体は少しずつ、現場で使える相棒へと姿を変えていったのです。
数字が語る確かな成果、A⁴CSEL AGV導入で人員は3名から1名へ

オペレーションルーム 管制状況
開発チームが積み重ねてきた挑戦は、新名神高速道路の造成現場(京都)という大きな舞台での試験適用に結びつきました。
佐藤氏によれば、現在稼働しているAGV(1号機)は2026年4月中旬から試験稼働を開始し、締固め品質管理にかかる人員を、3名から1名へと削減させています。
導入現場での変化
——実際に現場へ導入して、どんな変化がありましたか?佐藤氏:以前は、現場でバギーを運転して計測結果を確認する専任の技能者が必要でした。今は管制室で、他作業と並行して自動走行計画の作成から走行指示、計測結果の確認まで一連の作業を1人で完結でき、省人化できたと感じています。
——では、現場の反応はいかがですか?
佐藤氏:実際に管制しているのは、Geo-DX Compactionを開発した技術研究所のメンバーです。管制自体はとてもシンプルなので、少しレクチャーするだけですぐに使えるようになりますし、評判は上々です。
取材を始めた冒頭、佐藤氏は硬い面持ちでした。
そんな様子から伝わってきたのは、緊張というよりも、言葉をひとつひとつ慎重に選びながら答えようとする姿勢でした。
実際、佐藤氏の受け答えは、一語一語を区切るように、とても丁寧です。曖昧なまま答えることはせず、考えを整理しながら正確に言葉にしていく。その姿には、技術者らしい緻密さと、仕事に向き合う誠実さがにじんでいました。
機体スペック一覧
では、機体そのものの仕様を見てみましょう。土木・造成工事の現場で導入を検討する方のために、公開されている数値をまとめました。| 項目 | 内容 |
| ベース機体 | MSD-F22 (機動警備ドローン/エバーブルーテクノロジーズ製) |
| 駆動方式 | 4輪駆動 |
| 連続稼働時間 | 2〜3時間 |
| 本体重量 | 約100kg |
| 最大速度 | 時速5km (牽引走行時は時速2km) |
| 搭載センサー | 2Dライダー GNSSアンテナ×2 |
| 牽引機器 | RI水分計+電気抵抗測定装置 (計3台・総重量約50kg) |
| 通信方式 | Wi-Fi/LTE/ローカル5G (現場状況に応じ使い分け) |
| 運用方式 | BVLOS対応 (管制室から遠隔で走行・停止を指示) |
締固め品質管理の体制比較
A⁴CSEL AGV導入前後の体制を比較します。| 項目 |
従来の締固め管理手法 |
Geo-DX Compaction バギー方式 |
A⁴CSEL AGV |
| 必要人員 | 3名 |
1名(現場、専任) |
1名(遠隔地、兼任) |
| 作業場所 | 現場で測定 |
現場でバギーに乗車 | 遠隔地の管制室から走行を指示・管理 |
| 運用方法 |
砂などを用いて測定 |
バギーで測定装置を牽引 |
AGVで測定装置を自動牽引 |
A⁴CSEL AGVで測定装置を牽引した場合も、測定精度・信頼性はGeo-DX Compactionのバギー方式と同等の水準を維持しています。トラブルが発生した場合には、エバーブルーテクノロジーズと連携しながら、要因分析と課題の整理を進める体制も整えられています。
今後は、2号機の納品後にダム工事をはじめ造成工事以外の工種への展開も計画されており、佐藤氏は「現場が増えていけば、次は3号機、4号機も視野に入ってくる」と、AGVのさらなる普及にも意欲を見せます。
鹿島建設は、人手不足や低い生産性、労働災害の多さという業界の課題に対し、個々の作業のICT化ではなく、生産プロセス自体を変えることを選びました。めざすのは、製造業のような「建設現場の工場化」です。
ダムから月面へ、「A⁴CSEL」が描く今後の展開

成瀬ダムでの全面採用という実績を持ちながらも、鹿島建設の自動化施工システムは、標準工法として、いわゆる「スタンダード」と呼べる立ち位置には、まだなれていないと出石氏は言います。
それでも出石氏の言葉には、確かな手応えがにじんでいました。出石氏は懐かしそうに目を細めながら、当時を振り返ります。
「私が入社して30歳くらいの頃、今では当たり前になっているレーザースキャナーによる測量が、まだ認められていなかったんですよ。測量した結果を、わざわざ別の方法で証明しないといけない時代がありました。今から考えると信じられませんよね。自動化施工も、きっと同じ道をたどるはずです」(出石氏)いつかスタンダードと呼ばれる日が来る。出石氏たちは、その日をめざして、一歩ずつ道を切り拓いています。驚くべきことに、道は、地上の現場だけにとどまりません。
JAXAとの共同研究では、A⁴CSELで培った自動化施工技術を、月面の有人拠点建設へ応用する研究も進められています。
月と地球の間には大きな距離があり、ラジコン操作では通信遅延が発生してしまうため、人が直接操作する方式では成立しません。地上で培われた自動化技術は、宇宙という新たなフロンティアでも欠かせない存在になりつつあります。
A⁴CSELが越えてきた壁、その先にあるもの

取材の最後、コエテコドローン取材班の脳裏に浮かんだのは、あの成瀬ダムの映像でした。誰も乗っていない建設機械たちが、暗闇の中で黙々と働き続ける光景。そこには、信念と技術の結晶がありました。
鹿島建設は、主力建設機械の自動化技術を粘り強く内製する一方で、A⁴CSEL AGVのような領域では外部パートナーと手を組む柔軟さも兼ね備えています。「現場の工場化」という、大きなビジョンを、出石氏と佐藤氏をはじめ、現場を支えてきた多くの技術者たちは、目の前の壁をひとつずつ越えることで、着実に現実へと近づけてきました。
締固め品質管理の自動化は、A⁴CSELが積み重ねてきた挑戦のひとつに過ぎません。ダムの現場から造成工事へ、そしていずれは月面へ。
鹿島建設はこれからも、現場で生まれる課題と向き合い続けていくでしょう。ダム建設から始まった技術は、いつか月の大地をも切り拓くかもしれません。
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