- そもそも、未経験からIT業界に転職できるのか?
- 異業種からのエンジニア転職でアドバンテージがあるとすれば何?
- 手を動かすエンジニアから5年、10年先を見据えたキャリアパスとは?
といった点ではないでしょうか?
今回はiOSアプリの設計から実装までできるエンジニアとしてフリーランスも経験しつつ、現在はIT企業のVPoEとして働かれているDさんに、普段のお仕事やエンジニア採用の実際を本音でくわしく伺いました。
エンジニアの採用、育成、組織設計などマネジメントができる人材は貴重
ーDさんは現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか。私は、現在大手メディアを運営する東証マザーズ上場企業のエンジニアリング部門で執行役員VPoE(Vice President of Engineering)として働いています。自社のエンジニアは約50名ほどおり、組織面の取りまとめがメインの仕事。具体的には部門の予算やミッションを決めたり、エンジニアの評価制度を作って運用する人事面を担当したりすることがVPoEの仕事です。
ー企業によってはVPoEとCTOの立ち位置が異なってくる(CTOの下にVPoEが置かれる場合もある)と聞きますが、Dさんのお勤め先ではいかがですか。
まず一般論から説明しようと思うのですが、そもそも、CTOとVPoEはどちらも企業の幹部で、CTOが技術者のトップ、VPoEはマネジメントのトップです。同じ職位であり、対等ではあるのですが、実際にはVPoEだけが予算や人事権を握っていることも多いです。そのため、単純に比較するのは正直難しいなというのが個人的な意見です。
弊社の場合は、それぞれの立ち位置は横並びといえば横並び。ただ、「プレーヤーとマネージャーが同等か否か」は議論の余地がありまして、はっきりと言い切りづらいところがありますね。
ーなるほど。エンジニアのキャリアパスとしては、将来的にプレイヤーまたはマネージャーとしてのトップがあるということで、現在VPoEとしてお仕事のやりがいについて教えてください。
VPoEの一番重要なミッションは、組織のマネジメントです。私はiOSアプリのエンジニアとして中途採用で入社し、数年経ったころに「組織を変えてほしい」と経営陣から打診があり、執行役員に就任しました。自分が裁量を持って人を採用したり、チームを作ったりする中で、退職者がいなければ「みんな楽しく働けているのだな」と実感できますし、その結果として事業が推進していくところにやりがいがあります。
ーIT業界はエンジニアの転職が激しいイメージがあったので、退職者が少ないのは意外です。
もちろん、弊社でもエンジニアの退職者が多い時期がありました。
私がVPoEとして着手した組織改革の1つに、エンジニア用の評価制度があります。それまでは、社内でエンジニアの技術面に対する評価が曖昧だったため、きちんとそこが評価されるよう改革。そのほかには、個人プレイではなくちゃんとチームで開発しましょうとチームワークを重視する開発体制に変えたことで徐々に退職者が減っていきました。このようにVPoEはエンジニアをマネジメントし、組織の生産性を向上させる課題解決能力が求められます。
ーエンジニア業界でも「マネジメントはやりたくない」と発言する人が中にはいると思いますが、その点についてはいかがでしょうか。
確かに、「エンジニアでマネージャーになりたい」という人は少ないです。とはいえ、弊社にもエンジニアのマネージャーは必要なので、マネジメントができる人や今すぐでなくてもやろうかなと気力のある人は積極的に採用しています。
30歳を過ぎてエンジニアに。それまでの経験が仕事で役に立つはず
ーエンジニアのマネジメントをされているDさんですが、現在のキャリアに進むまでの経緯について教えてください。私はエンジニアとしてのキャリアのスタートは遅い方でして。実は、30歳を過ぎてからエンジニアになりました。というのも、大学は化学を専攻しており、自分が大学にいた1995年頃はちょうどWindows95が出た時期。大学生がアルバイトでホームページ制作をしていたような時代だったため、それがそのまま自営業になった感じです。
当時は、小さい会社の社内SEのような立ち位置で頼まれれば何でもやるというか、なんならパソコンのセットアップもしていました。その後はフリーランスとして生計を立てたり、ちょっと会社を作ったりとかいろいろあるんですけれども、iOSアプリを作っていたときにたまたま参加した勉強会で「人手が足りないからうちに来ないか」と誘われて入ったのが今の会社です。
ーエンジニアになろうと思った原点は何だったのでしょうか。
それまでWebサービスを開発していく中で、企画やデザイン、インフラなど、どちらかというとコードを書かないその他の仕事を担当していました。見よう見まねで少しコードを書いてもプロと言えるレベルには及ばない感じでした。
それまでは、自分のアイデアを人に依頼してWebサービスを作る立場で、思った通りのアウトプットが出てこないこともありました。それなら「自分で作れば思った通りのものができるんじゃないか」と思ったのが原点です。実際にやってみたところ、なんだ、自分でも作れるじゃん!と。エンジニアは楽しいなと感じたことから働き続けて、現在に至ります。
ー自分で作った方が早いと気づかれたのはすごいですね。現職に着く前の、iOSアプリを作っていたときのことを教えてください。
オリジナルアプリで収益化する方法には、無料で公開して広告視聴で収益を得るモデルと、はじめから有料で販売するモデルがあり、私は両方行っていました。ただ、今では個人で制作とマーケティングをするのはもう難しいと思います。やるとしたら、ニッチな方向で戦っていく方向になるでしょうね。でもそうなると、収益も小さくなりますし……。大きなマーケットを取りに行っても成功確率が低く、小さいマーケットを取りに行くと儲からないわけで、厳しい環境になりました。
ーネット上で「プログラミングスクールに通えば、未経験からフリーランスのエンジニアになれる!」というような文言を見かけますが、フリーランスとして生計を立てていたDさんからすると、その点についてどう感じますか。
できる人はいますが、かなり例外ではあると思うので、そういう文言を見て「みんなができる」と勘違いしない方がいいのではないでしょうか。
私の周りにいる“できる技術力の高いプログラマー”は、だいたい自力でどうにかする力が強い方です。プログラミングスクールに行くだけで稼げるようになるとか、有能になる人はほとんど見たことがありません。
ーなかなか厳しいお言葉ですね。そんな中で現在、コロナ禍でIT未経験者からのエンジニア転職を希望する人が増えています。転職をを成功させるにどういった資質が必要だと思われますか。
やはり、「自分でどうにかする力」が一番大事です。プログラミングで何かを作り出そうとすると、アイディアもリソースも出し切る根性が必要になるため、1人でどこまでやりきれるのかの素質が重要になってきます。ですから、助けがないとできないような受け身の人は、どこかで挫折してしまうのではないでしょうか。
エンジニア採用はカルチャーフィットを重視
ー次にエンジニア採用の実態についてお伺いします。採用ではどちらかというとスキル面よりも自社への共感を判断する企業が多いと聞きますが、御社でもその傾向はありますか?そうですね。やはり、カルチャーフィットは重視します。
カルチャーフィットとは、いわゆる自社の行動規範に合っているかどうか。エンジニアを採用する時は、自社の行動規範が体現できそうかなどを複数の角度から判断しています。
正直、サービスへの共感は強くても弱くても構いません。まあ、さすがに「嫌い」「興味がない」レベルでは困りますが……。普通程度の興味があれば採用基準としてはクリアしています。というか、むしろ、入社する前から「御社のこのサービスが大好きです!」という人が来ることってほとんどないんですよね。
ー例えば、技術はそこそこでも、カルチャーフィットが強ければ、エンジニア採用に至ることも……?
もちろんです。技術的なところは最初の方で一定の足切りラインはありますが、「ガッツがあるな」「今後、この人は伸びるだろうな」と感じれば、スキル面は多少低くてもOKとする場合もあります。
ーなるほど。一般に面接官の方は、自分がこの人と一緒に働きたいと思えるかを判断する際に、おそらくキラー質問(回答により、合否が大きく左右される質問)を用意していると聞きますが、Dさんにはそういうものはありますか?
キラー質問のストックはいくつかあって、私の場合は、面接をしていく中で「この人にはこれを聞いておこう」と思ったものをその場で選んでいます。具体例は、「これまで受けた評価・フィードバックで心に残っているものを教えてください」などですね。
これまでに他人からどういう高評価、フィードバックを受けて、どう変わったのかを聞くことで、「この人は自分をどう評価してもらえると嬉しいのか」「どういう評価に対してどういう反応を示すのか」などがわかります。批判的な評価を受けた方が伸びるのか、単純に褒められた方が嬉しいのかは、人によって異なるもの。この質問をフックに、結局はその人自身の価値観を聞き出したいと考えています。
ー30歳を過ぎてからエンジニアになったDさんから見て、ずばり異業種からのエンジニア転職はおすすめできますか。
プログラミングやWebサービスを作ることが好きならおすすめします。逆に、そういうことが好きではないのにとりあえずエンジニアを目指すのはおすすめしません。
異業種からのアドバンテージがあるとすれば、視野が広いかどうか。私自身がそういうタイプだったのですが、例えば、デザイナーの経験があるエンジニアとないエンジニアでは、会話のスムーズさが変わってきます。ほかにも営業職の人がエンジニアになると営業部との会話がスムーズにできますし、他職種の大変さが理解できるので、そこをわかった上で仕事をできるのは1つのアドバンテージになるのではないでしょうか。
ーありがとうございました!
マネジメントで生産性を最大化することがVPoEの仕事
マネジメントのトップとして、高いコミュニケーション能力や問題解決能力が求められるVPoE。エンジニアのチームをマネジメントして、組織の生産性を最大化することが仕事です。エンジニアとしての経験はもちろん、採用や育成、組織設計といったスキルも必要になるため、新卒や異業種転職からすぐに目指せるものではありません。しかし、PdM(プロダクトマネージャー)などマネジメントを経験した先にあるキャリアパスとして注目すべきポジションといえるのではないでしょうか。