国土交通省航空局 勝間裕章氏|「ドローンが当たり前な社会」を官民で推進。担当者に聞く「空の産業革命」の現在地
現在では空撮や物流領域への活用はもちろん、測量や点検など多くの領域で活用され、安全性や効率性の向上に寄与した例が数多く挙げられています。
ドローンは今後もさらなる発展が見込まれる領域ですが、それだけに新たな使い方や事業における安全性の確保や社会受容性の向上など、持続可能な発展に向けた課題が存在しているのも事実です。
こうした課題に対処すべく国交省が策定した「空の産業革命に向けたロードマップ2024」の考え方や、社会実装・環境整備・技術開発の各観点における国交省の取り組みなどについて、国土交通省航空局安全部 無人航空機安全課課長補佐(総括)の勝間 裕章氏にお聞きしました。

国土交通省航空局安全部 無人航空機安全課課長補佐(総括) 勝間 裕章氏
災害対応の実績を活かした制度整備で、緊急時のドローン活用に対応
――まず、2024年11月15日の官民協議会で示されたロードマップ2024の目標達成状況について、現時点での進捗をお聞かせください。勝間:
発表からまだ2ヶ月ほどしか経っていない状況ですが、制度面では着実な前進が見られています。特に災害時の航空法特例の適用対象の明確化については、2024年1月に発生した能登地震での活用事例もあり、同年11月中に実施することができました。
ドローンの許可承認手続きについても、12月にDIPSを使用してレベル3.5の申請が可能になりました。レベル1から3についても、今年度中に1日で申請が通るようにすることを目指して、システム改修を進めています。
これを実現するための申請書類の合理化についても既にパブリックコメントを出していますし、今年度内に予定しているシステム改修とあわせて、ドローンの事業化をさらに推し進めようと取り組んでいます。
――災害時の特例適用については、今後どういった形で制度を運用されるのでしょうか。具体的な取り組みなども含めてお聞かせください。
勝間:
能登地震の際には、能登半島全域というこれまでにない広域の緊急用務空域を設定しました。
その中で、自治体から依頼を受けて生活用品や食料品をドローンで輸送するというオペレーションが行われたのですが、これが特定適用範囲についての重要な議論のきっかけとなりましたね。
元々の特例は捜索救助が目的でしたが、生活必需品や食料品の輸送も災害関連死の防止に役立つ飛行として捜索救助の一環と解釈し、特例適用を認めることにしたのです。
当時はこうしたオペレーションを行おうとする事業者向けに弾力的な運用として対応しましたが、今後の災害時にも活用できるよう明文化して残していきます。
――ロードマップには、そうした災害時の教訓も盛り込まれるのですね。
勝間:
災害時の捜索救助特例については、今後の活用を見据えて事例集の公表も進めています。どのような場合に特例が適用可能かを明確に示すことで、災害時のドローン活用を推進することが狙いです。
こうした特例適用の判断基準をロードマップ2024に基づいて文書化することで、「これなら特例で飛ばせる」という理解が広がり、より効果的な災害対応が可能になると考えています。解釈通達で対象範囲などを示すことに加えて、実際の活用事例を示すことで、より明確で理解しやすい形での情報提供ができそうです。

能登半島地震以前で緊急用務空域を設定したのは山火事ということで、その範囲がそこまで広くなかったため、緊急用務空域内でドローンを飛行させたいという声はほぼなかったのですが、能登半島地震では「特例の適用は難しいようなケースで、ドローンを飛ばしたい」という申請がありました。
通常であれば許可までに10開庁日を要すると案内していますが、緊急用務空域内で飛行させたいという要望があった場合は、電話で許可を出す形を取り、即日あるいは翌日には許可を発行するような運用をとりました。
――物流や点検など数多くの分野で活用されるドローンですが、全体的な普及状況や今後の可能性についてお聞かせください。
勝間:
物流については、レベル3.5の実績が着実に増加していますね。他にも点検業務での事業化も進んでおり、中にはドローンショーのような、制定当時はほとんど想定していなかったような活用法や事業も生まれています。
活用が進んでいる事例として、レベル3.5の普及スピードに注目しています。2018年にレベル3を作った時は数件程度でしたが、レベル3.5は去年12月末時点で131件の実績があります。
かなりのハイペースだと認識していますが、これはレベル3で培ったノウハウを持つ事業者がレベル3.5にシフトして拡大していることや、行政書士など専門家のサポートが得られやすくなったことも要因と考えられます。先ほどお話しした災害対応でも、レベル3.5の知見を活用して行ったというオペレーションもあったと聞いています。
ドローンの制度が生まれてから10年が経過しようとしていますが、今後も現在の姿からは想像できないようなユースケースが出てくると考えています。
そのためにも特定飛行におけるライセンスと認証機体の推進をさらに進め、ドローンの活用範囲がさらに広がっていくことを期待しています。
ライセンスと機体認証はドローン促進の「両輪」
――こうした事業者やドローンパイロットの質を担保するのも国家資格制度の意義だと思いますが、この国家資格制度についての現状と今後の展望をお聞かせください。勝間:
現在の国家資格には一等と二等があり、レベル4やカテゴリーⅢの飛行には一等資格が必要です。また二等資格と機体認証があれば、レベル4以外の特定飛行の大半を許可承認なしで行うことができます。
2024年12月現在では一等が2,500件弱・二等が2万件弱と、かなりの数の資格取得者がいらっしゃいます。一方で、国内の登録無人航空機における認証機体は、無人機全体が43万3千機近くある中でわずか22機という状況です。
そのため、ライセンスの最大のメリットである「認証機体を飛ばす場合は個別の許可・承認なしに飛行可能」という点を活かすには課題があると言えますね。とくにレベル4飛行が可能な認証機体はわずか4機であり、これもレベル4が広まらない大きな理由だと認識しています。
最近では双葉電子工業が1種認証の申請を行うなど新たな動きも出てきていますが、まだまだ拡大の余地があると考えています。
法律的には「認証機体を飛ばす」ことが基本であり、それによらない場合は許可承認を取って認証がない機体を飛ばすことも認めるという形になっています。
しかし、現状では「許可承認を取って飛ばすのが当たり前で、中には認証を取った機体を飛ばしている人もいる」という逆転現象が起きています。
今後はドローンの特定飛行におけるライセンスと機体認証の両方を促進することで、特定飛行の際は分野・業界やユースケースを問わず「基準適合性が確認された認証機体を、きちんとした技量と知識を持ったライセンス保有者が飛ばす」という姿を実現し、社会全体の受け入れにつなげたいというのが我々の考えです。
――社会受容性の向上に向けた取り組みについて、具体的な施策や事例をお聞かせください。
勝間:
社会受容性の向上には、ドローンが単なる騒音源や危険な物ではなく、「自分の生活のどこかで役に立っている」という実感を多くの方に持ってもらうことが重要です。
ドローンが単に空を飛んでいる存在ではなく、私たちの暮らしの一部として機能していることを理解していただくことで、「ドローンって便利なものだ」という意識が広まっていくと考えています。
だからこそ、ライセンスを持っている人間がドローンを飛ばすという安心感が社会的な受容にもつながっていきますし、レベル3.5や4といった概念を広めていくことも重要なポイントだと捉えています。
長期的な展望としては、認証を受けた機体をライセンス保持者が飛ばすことが当たり前となり、高度な多数機同時運航なども行われる社会を目指しています。
ドローンの事業が自律的に発展し、空を飛ぶドローンを見ても違和感を感じない、そんな未来の実現に向けて取り組んでいるところです。
官民一体で推進する技術開発と運用体制
――取り組みの中には民間事業者も巻き込んだものもあると伺っていますが、官民の連携体制について具体的な取り組みをお聞かせください。勝間:
ドローン分野は非常に進化が早く、最先端の知見は実際に使用している事業者の方々にあります。
そのため事業者の方から話を伺って、どういうことを実現したいのかという点も含めてキャッチアップするため、官民協議会の下にワーキンググループを設置して基準の検討などを行っています。
さらに、2023年12月にはドローンの事業化に向けたアドバイザリーボードを立ち上げ、実際のドローン事業者から制度改善の提案を受ける場を設けました。
このアドバイザリーボードにはANAホールディングスや日本郵便をはじめ、測量分野ではパスコ、農業分野ではジャパンアグリサービス、インフラ点検ではグリッドスカイウェイなどさまざまな分野の主要事業者に参加いただいています。
さらに各省庁もオブザーバーとして参加し、省庁横断的な連携体制を構築しています。安全を確保しつつ最大限の効果を実現するため、常に民間事業者の意見を聞きながら制度整備の方向性や制度運用の改善点を検討したいですね。

――先ほどお話があった、多数機同時運航の実現に向けた取り組みについてもお聞かせください。
勝間:
アドバイザリーボードでいただいた意見をきっかけとして、2023年10月に多数機同時運航の普及拡大に向けたスタディグループを立ち上げました。
これまでは多数機同時運航の基準がありませんでしたが、NEDOの実証実験など、先行的に多数機同時運航を経験している事業者の皆さんに参画してもらって、基準を作ろうと考えているんです。
2024年11月にはJALとKDDIスマートドローンが1対5の実証実験を実施しましたが、こうした実験の成果もスタディグループでの検討にフィードバックしたいですね。
運航管理についてもUTMの整備を進めており、こちらはNEDOなどの機関や企業で技術開発を行っているところです。我々は2025年のステップ2実現に向けて制度整備を進めており、将来的にはより高度なステップ3の実現を目指しています。
これらの取り組みを含めた民間事業者との連携を通じてドローンの環境整備を行い、ロードマップの策定やライセンス制度・機体認証のさらなる促進を通じて、「ドローンが空を飛んでいることが、当たり前の光景として受け入れられるような社会」の実現を目指してまいります。
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