(取材)国土交通省航空局 勝間裕章氏|無人航空機(ドローン)の国家ライセンス制度と機体認証制度の現状

ドローン国家ライセンス制度・機体認証制度について有識者に聞く
2022年12月、ドローンの国家ライセンス制度が始まりました。レベル4飛行が解禁し、許可申請も一部免除されたことにより、今後ますますドローン活用の幅が広がることが予想されます。

この記事では国土交通省航空局安全部 無人航空機安全課課長補佐(総括)の勝間裕章氏に、国家ライセンス制度や機体認証制度創設の背景や、現在の状況などをお聞きしました。

国土交通省航空局安全部 無人航空機安全課課長補佐(統括) 勝間裕章氏

レベル4飛行に向け、国家資格・機体認証がスタート

ーー昨年12月に、ドローンの国家ライセンス制度が始まりました。その背景にあった課題や目的などを教えてください。

やはり一番の目的は「レベル4飛行の実現」に尽きます。つまり有人地帯での目視外飛行ですね。これを実現するためにどうするべきかを考えたときに、さまざまな側面からドローンの安全性を確保しなければなりませんでした。これまでは個別の許可承認でしたが、機体の安全性や操縦者の技量をしっかり確保する手段の一つとして、ライセンス制度が始まりました。

まず、2015年の時点で「3年以内に物流でドローンを活用する」という目標がありましたが、その段階ではいきなりレベル4ではなく、まずはレベル3(無人地帯での目視外飛行)を想定していました。その次の段階として、ドローンを発展させていくためには、やはり有人地帯での目視外飛行が必要であることから、「2022年にレベル4を実現する」という目標が打ち上がったのが2019年です。

その後、同年10月に制度設計の基本方針の中間取りまとめが出て、翌年3月にこの制度の骨格ができました。それからさらに制度の詳細を詰めて2021年の国会で法改正が通り、昨年12月に改正航空法が施行されたという流れですね。

ーードローンの発展のためにはレベル4を実現する必要があったということですが、その理由について詳しく伺ってもよろしいでしょうか。

レベル3だと活用できる場所が離島や山間部に限られてしまうんです。もちろん最初はリスクが低い無人地帯から活用を進めていきますが、やはり将来的には街中を含めたさまざまな場所で使えるようにしないと意味がありません。そのためにはレベル4に向けた制度の整備が必要でした。

ーー同じく12月には、ドローンの機体認証制度も始まりましたが、こちらはどのような背景があったのでしょうか。

ライセンス制度と同じように、2022年にレベル4を目指すということが背景にありました。やはりレベル4はリスクが高い飛行でもあるので、安全確保が重要な観点です。ライセンス制度で操縦者の技量を確保するのと同時に、当然機体の安全性も守らなくてはいけません。そこで、個別の機体について基準を満たしていることを認証する制度を作ることになりました。機体の安全性というのは、第三者上空を飛行するにあたって落ちない・壊れないという点になります。さまざまな基準を設けてそれをクリアした機体に国がお墨付きを与えるという制度ですね。

もともとは、個別の許可承認で機体の要件を見ていて、安定して飛べることや、電波が通じなくなったときにきちんと安全に降りられるような機能などを求めていました。機体認証制度ではよりメーカーの品質管理も含めて厳しい基準が設けられており、その基準への適合性を厳格に証明してもらう必要があります。


ーー機体認証制度の対象は、空撮や農業、点検などの用途に限らない全般的なものですか。

そうですね、そこは限定していません。ただ、それぞれの機体は、空撮、物流や薬剤散布などメーカーがある程度用途を想定して作られていることが一般的です。なお、ライセンスの方は操縦可能な機体の種類があり、マルチコプターやシングルローター、飛行機などの区分があります。車の免許でいうところの大型免許や普通車、二輪などのようなイメージですね。

国家ライセンス取得者の現状は?

ーー昨年12月にライセンス制度がスタートしてから、一等、二等の取得者はそれぞれどれくらいいらっしゃるのですか。また、どのような方が取得されているのでしょうか。

6月下旬時点で一等が大体180人ぐらい、二等は約1100人ぐらいですね。仕事で使う方もいれば、個人で腕試しとして取った方もいらっしゃるようです。特にドローンを仕事で使っている方がアピールポイントとして取得する動きが広まっていると、事業者さんから話を聞きました。今後も着実に取得者は増えていくと思います。

ーー国家ライセンス制度と機体認証制度が始まってから半年ほど経ちましたが、実際に変化を感じたことは何かありますか。

さまざまなルールを整備して資格制度もできたことで、ドローン飛行の安全に対する意識が高まっているという肌感覚がありますね。ライセンス取得者にはドローンのルールについて勉強してもらっていますし、飛行計画の通報や事故の報告なども義務で求めています。また、職員からは、基準の解釈に関する問い合わせなどが増えていると聞いています。厳密にルールを守るという安全に対する意識が、利用者の中で育っているのではないでしょうか。

ーードローンが普及するにあたり、ライセンスの部分で課題に感じてることなどがあればお聞かせください。

もともとの制度の狙いとして、ライセンスと機体認証があれば個別の許可承認を不要にする仕組みですが、まだ機体があまり出てこないので、そこは少し残念に思っていますね。現段階では一等を取得した機体がACSLさんの機体だけで、二等はまだありません。ライセンスと機体認証はセットで個別の許可承認が不要になる仕組みなので、利用者のみなさんの手間も減りますし、役所側の行政負担も減ります。

ーー国家ライセンス制度を普及させて社会実装していくにあたり、民間事業者がどのような役割を果たすことが理想的だと思われますか。

ライセンスを取って、安全運航を心がけていただくということが一番大事ですね。万が一事故などがあったら、社会に受け入れられなくなってしまいますから。ドローンの社会受容性
を高めて、ドローンの健全な発展に役立てていただきたいと思っています。

ドローンは社会課題解決の切り札になる

ーーさまざまなドローンのニーズが生まれている状況だと思いますが、まず国としてはドローンにどのような役割を期待しているのでしょうか。

やはりさまざまな社会課題の解決の切り札になると思っています。いろいろな用途が想定されますし、私たちも想像しないような用途で使う方もいるかもしれません。ドローンの利活用がどんどん進んでいく一方で、制度によって安全確保の枠組みができたことにより、安全に利活用が広がって社会受容性が高まることを期待していますね。

今まではできなかった省力化にもつながるのではないでしょうか。これまではインフラ点検のために人が危険な場所に登ったり、空撮のためにヘリを飛ばしたりするなどしていましたが、ドローンを使えばある程度は省力化できます。あとは、山小屋への物資輸送についての相談を受けたこともあります。もっと重量物を運ぶドローンが出てくればそのような幅広い課題の解決に役立つのではないかという期待も持っていますね。

ただ、「なんでもドローンで解決」とはいかず、適した分野とそうでない分野があります。ときには人がやったほうが早い作業もあるでしょうから、ドローンが担うことで経済合理性があり、かつ安全な用途に収まりつつ、普及していくのではないかと思います。

ーードローン市場に参入する事業者も増えています。ライセンス制度や機体認証制度という枠組みを作るねらいとしては、イノベーションを刺激するという意図もあるのでしょうか。

そうですね。用途や機体自体にもさまざまな技術開発があると思いますし、認証を与えることでイノベーションが進む側面はあるのではないでしょうか。逆に、国による規制がイノベーションを阻害してしまったら本末転倒なので、そうならないように考えていく必要があります。

ーーいま、各地でドローンの実証実験やサービスが進んでいます。個人的にやりがいを感じたエピソードなどがありましたら教えてください。

先日視察に同行し、ドローンが飛ぶのを見ました。やはり自分が携わっている制度に基づいてドローンが飛んでいるのを見ると、感慨深いものがありますね。特に私はレベル4の前段階にあたる登録制度を導入したときに法改正に携わっていましたので、自分が作った制度が世の中で動いていることを実感しました。


ーー最後になりますが、今後のドローン活用にどのような期待を寄せていますか。

いろんな活用を考えてもらいたいと思っています。我々省庁は安全のために守るべき枠組みを提供していますので、その枠組みを守ったうえで自由な発想でドローンの活用を進めてもらって、社会受容性が高まって利活用が広まっていけばいいと思っています。
まるわかりガイドでドローンを知ろう
まるわかりガイドを見る

RECOMMEND

この記事を読んだ方へおすすめ