(取材)右肩上がりに需要増、日本からドローン市場を盛り上げる!イームズロボティクス株式会社代表 曽谷英司氏

右肩上がりに需要増、日本からドローン市場を盛り上げる!イームズロボティクス株式会社代表 曽谷英司氏
右肩上がりに需要が伸びているドローン業界。2021年度の国内市場規模は前年度比25.4%増の2308億円となり、2022年度は3000億円を突破すると予測されています。
 
ドローンに関連するさまざまな制度の整備が進む中、日本のドローン業界を盛り上げようとしているのがイームズロボティクス社です。今回は、同社代表取締役社長の曽谷英司氏に、ドローン業界の動向や国産ドローンの展望などについて伺いました。

イームズロボティクス株式会社 代表取締役社長 曽谷 英司氏

「レベル4飛行」解禁でマーケットが拡大

――まずはドローンビジネスを取り巻く環境について教えていただけますか?

2022年度は、ドローンにまつわる制度が大きく変わります。6月には、ドローンの機体所有者を識別できる「リモートID制度」が義務化。12月には、機体の信頼性を担保する「機体認証制度」がスタートします。
 
そして年末を目途に、有人地帯で補助者も目視も必要としない「レベル4飛行」が解禁されます。これにより、物流や警備、点検といったマーケットがかなり大きく広がっていくでしょう。
 
社会情勢と照らし合わせると、安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、多くの人々が集まる屋外での警護にドローンを使用するといった検討が進んでいます。またウクライナ情勢の影響を受け、防衛観点でのドローンの活用にも注目が集まっていますね。
 
――「レベル4飛行」が可能になることで、なぜマーケットが広がるのでしょうか。 
 
現在は、人の上を飛行をするときは目視で確認する必要があるため、1台飛行させるのに2〜3人の人員が必要です。そうなると、企業がドローンを導入したいと思っても、採算の面でなかなか難しい面があります。
 
今回のレベル4飛行の解禁により、オペレーターが目視外でドローンを操作することが可能になり、オペレーターの数も減らすことができます。すなわち、より安価なサービスの展開が期待できると言えます。
 
――企業はドローンによってどのような困りごとを解決できるのでしょうか。
 
たとえば、いま物流業界は著しい人手不足です。新型コロナウイルスによる巣ごもり需要もあり、宅配の件数はどんどん増加。地方に行けば行くほど、ほしいものがすぐ手に入らない状況に置かれています。そこでドローンの出番です。
 
弊社は7月、佐川急便様やサンドラッグ様と共に、ドローンを使った物流サービスの社会実装を目指す東京都のプロジェクトに選定されました。今年度は、山間地域に住む人がネットで注文した商品を途中までトラックまで運び、そこからドローンで個人宅や山小屋まで運ぶ実証実験を行う予定です。ラストワンマイル(最後の物流拠点から目的地までの区間)をドローンに頼る形ですね。


――最初から最後までドローンで運ぶわけではないんですね。 
 
そうですね。まだドローンには航続距離の短さや安定飛行の難しさといった技術的な課題がたくさんあるので、車両とドローンを併用する形が現実的です。最低でも、どんな条件下でも安定して1~2時間程度は飛行できるようにならないと、なかなか実用化には結びつかないでしょう。
 
――東京で「ドローンがご飯を配達してくれる」日は近いんでしょうか。 
 
それはまだ少し時間がかかるでしょうね。東京は物流網が整備され、人も建物も多いので、ドローンを使用するハードルが高いです。まずは山間地域や離島などから活用が進んでいくでしょう。

日本企業がチームとなり、グローバル展開を目指す

――いまは中国のDJI社のドローンが市場の7割ほどを占めています。
 
そうですね。実は1989年にマルチコプター型のドローンを最初に製品化したのは日本企業ですが、当時は全然売れなかったようです。2010年にフランスのパロット社が発売したドローンがヒットしたことで風向きが変わり、2012年にDJI社が「Phantom」を発売すると、あっという間に世界シェアNO.1に躍り出ました。
 
――中国企業のドローンが圧倒的なシェアを占めることで、どのような問題があるのでしょうか。 
 
よく指摘されるのは情報漏洩リスクですね。DJI社のドローンはクラウドにつながっているので、 悪意を持った人物が何らかの手段でデータを抜き取るなどのリスクがあるといわれています。多くの公的機関でDJIのドローンが採用されている一方、その製品が収集するデータの安全性についてたびたび疑問視されています。

もちろん、DJI社が情報収集を意図しているかどうかはわかりませんし、AppleやGoogleだって同じようなリスクは抱えています。ただ、DJIはデータの扱いについて明言しておらず、リスクが高いことは確かです。
 
――では、事業者が国産ドローンを導入するメリットはどこにあるでしょうか。 
 
まずはセキュリティ面。あと弊社の製品で言えば、トラブル時の原因解析をすぐに行える点、顧客の要望に応じてカスタマイズできる点が強みになっています。外国企業は、あまりそういった個社ごとの対応をしていません。

ただ、国産ドローンも頑張ってはいるのですが、まだまだ機能面、コスト面でDJI社に分があるのも事実です。
 
――課題を解決するための展望はあるのでしょうか。 
 
6月、国産ドローンメーカーの連携を可能にする「ドローンオープンプラットフォームプロジェクト」を立ち上げました。これは、現在各社バラバラに製作している部品をできるだけ統一していくことなどを目指した取り組みです。そうすれば、開発コストを抑えられますからね。

国内ドローン企業が連携する「ドローン オープンプラットフォーム」

ドローン・ジャパンは、国内ドローン関連製品・サービスの社会実装を加速するため、各ドローン関連企業の技術連携を可能にする「ドローン オープンプラットフォーム プロジェクト」を開始した。

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これまで日本は、各企業の独自技術でもって世界と戦おうとして、連戦連敗してきました。このプロジェクトによって日本の部品メーカーがドローン業界に参入しやすくなり、マーケットが拡大することで大企業も動く。そうするとさらにマーケットが拡大する。こうして日本企業が一丸となってドローン開発・運用を進めていくことは、今後グローバル展開を見据える上でも非常に重要です。


――機能面ではどういった改善が必要でしょうか。 
 
安全な飛行の実現が最優先です。一般的に飛行機は何か不測の事態が起これば、山や海に墜落できるように設計、または訓練されていると聞きます。やはり物流の世界で活用が進むには、ドローンにも同様の機能が必要だろうと考えています。
 
その観点からいま東京大や産総研と実証実験しているのが、「AIドローン」です。目的地を入力して自動で運び、そのルート上に人や車、飛行機といった障害物が急に入ってきても避けて飛行する。機体が故障してもAIが飛行中に自動で診断し、安全な場所を探して不時着するといった仕組みです。これは来年度以降、製品化していく予定です。
 
Nedo  

「自律運航AI」を搭載したドローンを用いて荷物配送を行う実証実験を実施 | ニュース | NEDO

NEDOは「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」でサイバー・フィジカル研究拠点間連携による革新的ドローンAI技術の研究開発プロジェクトに取り組んでおり、今般、物流分野での実証実験を担当するNEDO、東京大学、イームズロボティクス(株)は、佐川急便(株)の協力のもと、「自律運航AI」を搭載したドローン(AIドローン)を用いて荷物を配送する実証実験を実施しました。本実証では、ドローンに搭載...

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――ドローンが墜落するのはどのような原因があるのでしょうか。 
 
何らかの要因によるモーターやGPSの故障もあります。また、長く使っていれば経年劣化ということも考えられます。しかし、事故や故障の要因として最も症例が多いのは、圧倒的にオペレーションミスです。ドローンを本格的に運用しようとすれば、航空法や電波法といった法律や電磁波・カメラなどの知識が必要になります。また本来はすごく重要なのに、あまり意識されていないのがネットワークの知識です。
 
LTEや5G、GPSの特性を正しく理解してないと、ドローンは簡単に墜落してしまいます。GPSは橋の下で途切れたり鉄塔の近くで方向性が狂ったりしますし、時間や場所によってキャッチできる電波の強さが変わります。人が多い街の中に入るとネットワークが混線し、操縦不能になることもあります。
 
ドローンはこのような要因から、安全で安定した業務の遂行が難しい。これがなかなか実証から運用に進まない理由です。最終的には、ボタン一つ押したら業務すべてが終了する形を目指しています。

ドローンに「ナンバープレート」を設置

――8月、「ドローン飛行情報確認システム」の提供を開始されました。このシステムの概要を教えてください。

ドローン飛行情報確認システムをイームズロボティクスと共同構築|ニュースリリース|TOMOWEL 共同印刷株式会社

共同印刷株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役社長:藤森康彰)と、国産ドローンメーカーであるイームズロボティクス株式会社(本社:福島県南相馬市、代表取締役社長:曽谷英司)は、ドローン飛行情報確認システムを共同構築しました。ドローンの利活用が進むなかで、空の安全、安心を確保するためのシステムの提供を8月中に開始する予定です。

この記事をwww.kyodoprinting.co.jp で読む >

これはドローンの機体に付けられたリモートID情報を受信し、飛行中のドローンの現在位置やIDによる識別、飛行ログの解析が行えるシステムです。
リモートIDとは車のナンバープレートのような役割を果たすもので、飛行中のドローンが誰の持ち物なのかを特定させるためのツールです。弊社では「外付け」タイプの開発・販売がスタートしました。実は去年の東京オリンピックで撮影用ドローンに弊社の製品が全面採用されて、世界初の運用を実施しています。リモートID情報を受信するためには、専用のスマートフォンアプリか専用の受信機を使用します。警察関係者などはこうした受信ツールを現場で使用しながら、飛行中のドローンからID情報を読み取って、監視や警備に役立てています。

「ドローン飛行情報確認システム」はこの受信機能をクラウド化したもので、主に重要施設の警備・監視を想定したサービスです。リモートIDが装着されたドローンがその施設へ接近すると、飛行中のドローンからID情報をクラウドにアップロードされますので、遠方の事務所にいても、不審なドローンが飛んでいるのがすぐにわかります。いま弊社では共同印刷様と共同で送信機と受信機、クラウドサービスをパッケージ化をしたものを開発しています。このパッケージが可能なのは現時点で世界で弊社だけです。
 
今後は原子力発電所や空港といった重要な施設や、多くの人が集まるイベント開催時などでこのシステムを使ってもらえるよう、働きかけていきます。安全対策に活用することで、ドローンがより社会に受け入れられるようになるはずです。


――最後に、ドローン業界に関心のある方にメッセージをお願いします。
 
ドローンのマーケットは今後間違いなく広がっていきます。今後日本のドローン業界を盛り上げ、海外で戦っていくためには、日本企業の総力戦で挑まなければいけません。
 
私たちはいま、レベル4飛行に向けた安全な機体をどこよりも早く製品化できるよう開発を進めている段階です。また、実際に使用する顧客自身にもいろいろな知識が必要だとの観点からは、顧客に知識をインストールする企業との連携も必要です。

新しい技術・観点を持っている人や企業と一緒になって考えることで、ドローンをさらに使い勝手のいいものにし、活用の幅をどんどん広げていきたいですね。 
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