(取材)日本ドローン業界の屋台骨を支える!一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長 鈴木真二氏

(取材)日本ドローン業界の屋台骨を支える!一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長 鈴木真二氏
日本のドローン黎明期からドローン産業の発展に向け尽力してきたのが、2014年に設立された一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)です。

JUIDAは「日本の無人航空機の新たな産業・市場の創造支援と産業の健全な発展への貢献」を掲げ、 法律に先んじていち早くガイドラインを策定するなど、日本のドローン業界を語る上では欠かせない存在です。そんなJUIDAで理事長を務める東京大学名誉教授の鈴木真二さんに、JUIDAの活動内容や日本のドローンの展望についてお話を伺いました。

JUIDA理事長 鈴木 真二氏

国に先駆けガイドライン策定

――JUIDAが設立されたのは2014年7月だったそうですね。当時はまだそこまでドローンの知名度も高くなかったように思うのですが、設立の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
 
世界的に見ると、ドローンへの注目が高まるきっかけとなったのは2013年12月にAmazonが流したテレビCMです。注文した商品をドローンが玄関先まで届ける映像を見て、多くの人が「ドローンを使えばこんなことができるんだ」と思ったんですね。
 
とはいえ、当時はまだ日常的に使うものではなく、本格的に普及させるにはさまざまな壁がありました。どうすればこのCMの世界観を実現し、ドローンを日本で広げることができるかを考えたときに、法人格を持った団体をつくってドローンに関わる人が意見交換できる場をつくるべきだと思ったんです。
 
――JUIDAはドローン業界において、どのような役割を果たしているのでしょうか。 
 
まずは時代の変化に即したガイドラインの策定ですね。2015年には首相官邸にドローンが墜落し、その出来事を契機に改正航空法が制定されました。しかし実は、JUIDAではその動きに先んじてドローンを安全に使用するためのガイドラインを策定していたのです。

その後も政府や関係者を巻き込んでガイドラインを作っていますが、こういった活動ができるのは法人格という責任を持った組織ならではですよね。

(JUIDA提供)


そのほか、ドローン操縦者の育成や資格認定、イベントの実施や研究開発支援など、幅広い分野でドローンの健全な発展と市場創造のために活動しています。
 
また、近ごろはドローンが普及してきたからこそ、ドローンに対する正しい知識や注意点などの啓発活動にも力を入れています。たとえ小さなドローンであっても、操作を誤れば大きな事故に繋がります。落下してけが人が出る事故は世界中で発生していますし、空港にドローンが飛んできて飛行場が閉鎖したこともあります。大事故が起きたときの社会的・経済的な打撃は計り知れません。
 
――人材育成にも尽力されておられますが、具体的にはどのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか。 
 
一つは認定スクールです。安全にドローンを活用するには、一定の能力を持つ人材の育成が重要です。そこで、2015年に日本ではじめてとなるスクールの認定制度を作りました。これは私たちが受講者を直接指導するわけではなく、スクールに対して教科書・カリキュラムの指導や講師の養成を行い、「指導できる能力がある」と認めるものです。2022年8月段階で全国に301校のスクールがあり、ライセンス取得者は全国で2万2900人を超えています。

(JUIDA提供)

 
ほかには小中学生向けのプログラミング教室の支援もしています。自分が組んだプログラム通りにドローンが飛ぶので、子どもたちは面白がってくれます。やはり若い人に興味を持ってもらわないと、産業は発展しませんからね。人が自由に空を飛ぶのは難しいですが、ドローンを使えば簡単に自分が飛んだかのような感覚が楽しめます。「空を飛ぶ喜びがこんなに簡単に得られるんだ」と感じてもらうことが、ドローンの裾野を広げていくはずです。

ドローンの課題は「安全」と「コスト」

――日本のドローンビジネスについて、現状の課題を教えてください。
 
大きくは二つの課題があります。まずは安全面です。現状ではまだ十分に安全性が担保されているとは言えません。
 
安全性確保の第一歩として、今年の12月から「機体安全認証制度」と「操縦ライセンス制度」が始まります。自動車を運転するには、車検を経た車体と免許が必要ですよね。安全だと認識されているからこそ、安心して社会に受け入れられているわけです。新制度はドローンにとっての車検と免許を意味しますから、事業者にとっては規制の強化を意味する一方、業界の発展を考える上ではやはり必要です。
 
また、自動車をスムーズに走らせるには交通規則や信号機も必要ですよね。そこでいま、空にもローン用の道路や信号機といったルールを作るための議論が始まろうとしています。
 
二つ目の課題が金銭面です。ビジネスとして成り立たせるには、利益を上げなければいけません。ですが、いまのドローンは人が目視している必要があり、かつ大きなものは運べないのでどうしてもコストが高騰します。

この問題に対していま検討されている解決策は、「自動走行できる複数台のドローンを一人のオペレーターが飛ばすこと」と、「ドローンを大型化すること」です。
 

――いま、解決策の実現に向けどの程度進んでいるのでしょうか。 
 
ドローンの自動飛行はすでに実証実験が始まっています。自動車業界でも自動運転が導入されようとしていますが、安全性に関して厳しく定められている自動車でも、市街地を自動で走ることには不安を覚える人も多いですよね。
 
それに比べると、ドローンが通るルートは空という道路よりも格段にオープンな空間なので、自動運転は今後発展していくと思いますね。
 
それに比べると、大型化はまだ時間がかかるかもしれませんね。大きいものを飛ばせるようになることはすごく便利な反面、リスクも上がります。大きな事故の可能性が高まるだけではなく、たとえばドローンが故障して宅配中のピザが上から降ってきたら嫌ですよね。

また、ドローンはどうしても飛行音が発生します。大型化すればその音も大きくなりますし、飛行機と違って低高度を飛ぶので、騒音対策も必要になります。
 
――本格的な社会実装はどのような場所から始まっていくと考えられるでしょうか。 
 
ドローンの実証実験はいま、落下してもそれほど危険を及ぼさない無人地帯や人が少ない地域で進んでいます。今後は市街地でも飛べるようにしていきたいという方向性ではありますが、実態としてはやはり当面の間、地方での活用が進むでしょう。
 
安全性の問題のほかにも、ドローンに対する期待は、地方に住む人の方が大きいですからね。東京に住んでいれば、確かにピザをドローンが配達してくれれば嬉しいですが、家を出てちょっと歩けばコンビニもあるわけですから、なくてはならないものとまでは言えません。また、ドローンが自分のすぐ近くを通ることを受け入れがたい人もいるでしょう。
 
一方、地方にはコンビニもなければスーパーも遠いといった場所に住んでいる人もたくさんいます。ドローンがあれば生活が変わります。そのように必要とされていて、かつ安全にオペレーションできる保障が得られる地域から始まるのが自然な形ですね。

2022年は「ドローン実装元年」

――今年は新しい制度も始まり、ドローンにとって節目の年です。今後の展望を伺えますでしょうか。
 
JUIDAでは毎年その年の状況に合わせたスローガンを掲げており、今年は「ドローン社会実装元年」としました。いままでは「実証」ばかりで「実装」がなかなか進んでいませんでしたが、2022年末に新しい制度ができることで、本当に社会の中で使えるドローンが普及していくはずと期待をしています。
 
――今後活用していきたいのはどのような場面でしょうか。 

 
まずは災害時ですね。日本は災害大国で、地震や水害などで大きな被害が出ています。いまでもドローンによる状況把握は行われていますが、もっと迅速に状況を把握したり、被災者にモノを届けたりといったシーンでさらに活用できるはずです。

陸上自衛隊東部方面隊と災害時の応援協定を締結(JUIDA提供)


物流では、都会よりは地方が課題です。従来のように山に住んでいる人にトラックなどでモノを届けるのは大変ですし、離島では天気が悪いと船が出せず、物流が途絶えます。このような状況下でドローンがモノを運ぶことは、そこに住む方たちにとっても望まれていることではないでしょうか。
 
あとは点検。携帯電話の基地局や送電線は山の上に作られることも多いのですが、そういったところに人がバッテリーを担いで登るのは重い上に危険です。最近では、屋根の上のソーラーパネルの点検も増えています。危険な仕事をドローンが担ってくれるといいですよね。
 
――ドローン業界を発展させる上で、特に事業者に求めるものは何でしょうか。 
 
やはり安全さと健全な発展ですね。「たぶん大丈夫だろう」で事業を進めるのではなく、「何かトラブルが起きるかもしれない」と事前に想定し、徹底的に検証した上でビジネスを展開しなければなりません。
 
ドローンビジネスにはまだまだ可能性があります。ターゲットとしては、いまは男性が中心ですが、女性や子どもにももっと広げていくことができるはずです。いまでもカメラマンを目指す女性が重いカメラではなくドローンを活用したり、ドローンレースで大人を抑えて小学生が優勝したりといった動きが見られます。ぜひいろいろな人・企業と一緒に業界を盛り上げていきたいですね。 
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