神戸電鉄×神鉄コミュニティサービス×兵庫県×NIRO|ドローン活用がもたらす線路点検の新時代
そのような状況下、神戸電鉄グループの神鉄コミュニティサービスは、遠隔操作によるドローンの自動飛行システムを活用した線路点検の実証実験を実施し、全国で初めて営業線内での成功を収めました。この画期的な取り組みは、兵庫県と公益財団法人新産業創造研究機構(以下、NIRO)が推進する「令和5年度 ドローン社会実装促進実証事業」の一環として行われ、鉄道インフラの保守点検における新たな可能性を示しました。
導入事例:神戸電鉄様・神鉄コミュニティサービス様・旭テクノロジー様今回使用したドローン「DJI Matrice
https://kddi.smartdrone.co.jp/column/5377/ >
今回は、この革新的なプロジェクトを推進した神戸電鉄株式会社(以下、神鉄)鉄道事業本部 技術部の高野 晃佑氏、株式会社神鉄コミュニティサービス 建設部の前田 昌彦氏と東 嘉宏氏 、兵庫県 産業労働部 新産業課の井上 大輔氏、そしてNIROの箙 一之氏に、実証実験の詳細や今後の展望についてお話を伺いました。
前人未到の挑戦、線路点検にドローンを導入へ
――これまで災害時における鉄道線路の点検はどのように対応されていたのでしょうか?前田:
台風などの自然災害が発生しますと電車は運休となります。最近では、台風等が沿線に接近する可能性がある場合でも、前もって電車を運休することも多くなっています。
このような場合に電車の運行を再開するために、神戸電鉄では運休した線区を係員が徒歩で巡回して、線路に異状がないかを目視確認しています。多くの鉄道事業者でも同様の方法で線路確認しています。
ただ、多くの係員を事前に沿線に配置する必要があり、神戸電鉄全線の確認には約60人が必要です。中小の鉄道事業者では、こういった緊急時対応で大人数の体制を組めるほど係員が十分にいません。 今のところは神戸電鉄と当社が協働して何とか回せている状況ですが、人手不足や社員の高齢化が深刻化している中で、このようなマンパワーによらない新しい目視巡回の方法を構築することが長年の課題となっています。
例えば全線にウェブカメラを多数設置して確認する方法が考えられますが、多額の設置・維持コストがかかりますし、本当に見たいところが確認できるかは災害が発生しないと分からず、実効性に疑問が残ります。このような中、近年、ドローンの機体性能や遠隔飛行制御の技術が著しく向上しており、ドローンを保守拠点から遠隔で自動飛行させて線路・沿線状況を確認する方法が最もコストがかからず、機動的で省人化できる方法と考えました。

株式会社神鉄コミュニティサービス 建設部 前田 昌彦氏
――ドローン導入を決定した後、最初に直面した課題は何だったのでしょうか?
前田:
線路の異状の有無を確認するには、線路の上空からでは不十分であり、線路内(線路建築限界内)からの目線で確認するのが一番良いのですが、線路内でドローンを飛行させた事例は、自動・手動飛行を問わず全国的にほとんどありませんでした。
そのため、今回の実証飛行で協力をいただいたKDDIスマートドローン社、旭テクノロジー社やドローンの活用を進められている他の鉄道事業者の方からのご意見等を踏まえ、線路内を遠隔自動飛行させた場合、ドローンの飛行安定性に影響を及ぼすと思われる線路の高圧架線やレールに流れている電流による磁束環境下でのドローンのコンパスへの影響を検討しました。
そして、今回は、地上波のモバイル回線(4G LTE)を使用して飛行制御を行いますが、同様に、線路内での飛行事例がなかったため、モバイル回線の通信環境やドローンの低空飛行での飛行安定性・再現性を主な検証事項としました。
――実績も少ないプロジェクトへの挑戦だったと思いますが、そこからどのように進めていかれたのでしょうか。
前田:
今回の実証飛行を上手く成功させるというより、実運用での技術的な課題などを見極めたいという想いから、鉄道の営業線上で線路内飛行という実運用に即した計画を掲げました。
まず、この前例のない計画について、神戸電鉄の運輸・施設部門の承認を得る必要がありましたが、線路内でのドローン飛行に対する安全性等を説明できる事例や資料がほとんどなかったのです。そのため、ドローンの機体性能や飛行安定性を段階的に実証・確認して、その都度、次の段階の試験飛行について承認を得ていくこととしました。これらの承認を得るための神戸電鉄内部の調整では、神戸電鉄・高野様に多くのサポートをいただきました。
実証飛行計画では、まず、営業線の擬似環境を再現できる神鉄の車両基地内に試験線を設けました。事前に試験線上の磁束を計測し、車両基地内を通電状態で線路内飛行させて、ドローンの飛行安定性に影響をおよぼすと思われる磁束の影響や線路内にある標識・信号機などの障害物に対する回避機能など機体の基本的な性能を確認しました。
次に、営業線上での飛行では、事前に飛行予定区間の磁束を計測した上で、終電車後、停電および通電状態で夜間飛行を行い、最終的に昼間時に運行本数の少ない線区の営業線上で試験飛行を実施しました。

また、今回の実証飛行を行うにあたり、NIRO・箙様より、「災害時の線路巡回方法における課題は鉄道事業者共通と思われるので、この実証飛行の情報・知見を共有して意見交換を図る鉄道事業者の会合を設置しては?」とのご提案がありました。
この提案をうけ、神戸電鉄・高野様が関西私鉄を中心に呼びかけを行ったところ、多くの鉄道事業者の方からご賛同をいただき、「線路点検等におけるドローン活用検討会」を新たに設置するに至りました。そして、検討会の中で、実証飛行の計画・課題等をはじめ、各社におけるドローン活用の状況等についても定期的に情報共有・意見交換を行ないながら実証飛行を進めました。
この検討会は、実証飛行後も定期的に開催していますが、会を追うごとにJRグループ各社からも続々と参加のお問い合わせがあり、2025年1月現在で、関西を中心とした私鉄・公営地下鉄、JR各社等25社が参加する大きな集まりとなっていますが、この会合を設立できたことも、実証事業の大きな成果と考えています。
ドローン運用で直面した技術的課題と突破口
――実証実験を進めるにあたり、技術的課題などはありましたか。前田:
影響があると考えていた線路内の磁束は、計測の結果、営業線上でも想定に反して小さいことが判り、線路内のドローンの飛行安定性に影響を及ぼさないこと、また、モバイル回線による遠隔自動飛行制御やリアルタイムの映像配信も実用に問題がないことがわかりました。
次に、自動飛行するドローンが線路内の空間、特に線路上の高度を一定に保って飛行できるかというドローンの低空飛行での安定性に関して。こちらは当初、ドローンのサプライヤーやドローン運用会社から、「今回使用する汎用タイプのドローンは、支障物の少ないより高い高度で飛行する活用が多いので、低空での飛行を想定して設計されておらず、自動飛行での高度の精度(誤差)についてはほとんど検証されていない」と聞いていました。
今回の飛行では、線路から2~3メートル、いわゆる地上すれすれの低空でドローンが飛行することになりますが、線路の勾配区間、例えば、線路に5%の勾配がある区間では100メートルごとに5メートルの高低差が生じます。そのため、ドローンを自動飛行させる場合、線路から一定の高さを保って飛行しないと、ドローンが飛行中に線路に激突したり、電車架線に接触したりする恐れがありました。実証飛行を進める中で、やはり、このような現象が生じることがあることを確認しました。

――ドローンの高さを安定させるのには、どのような工夫をされたのでしょうか。
前田:
実証飛行では、この問題解決のために試行錯誤を繰り返し多くの時間を費やしましたね。
今回使用した汎用のGPSドローンの多くは、搭載されている気圧計で計測した高度に基づき予め設定したルートを自動飛行しますが、自動飛行ルートの作成時にネットワークRTKによる位置座標の取得を前提として、線路からの相対高さを直接高度データとしてルート設定し、ネットワークRTK接続下で自動飛行することで線路上を一定の高さを保って飛行できることが判りました。低空飛行での高度の精度を上げたいのであれば、当たり前かもしれませんが、ネットワークRTKに接続可能なシステムを前提として飛行中も確実に接続して自動飛行させること。これが最大のポイントですね。
箙:
絶対座標を入力することで、その座標に沿ってドローンが飛んでいくようにしました。
ドローンに3メートルのプラスチックの鎖を下ろして、線路から3メートルの位置をキープして、それぞれ10メートルか20メートルごとに座標を入れていくことで、通行箇所を確定していきました。
ドローン運用に求められる技術的課題と仕組みづくり
――実証実験を経て、現在抱える技術的な課題はありますか?前田:
今回の実証飛行で使用した汎用機体での結果になりますが、現在のドローンの自動遠隔制御の技術水準でも線路内を安定して自動飛行できることが判ったことは大きな成果と考えています。
その一方で、線路上に高速道路などのオーバーパスがある場合は、それが狭小な桁幅でもGPS通信不良となって自動飛行が不可になってしまうことを確認しました。大幅なシステム変更をせずにクリアできる解決法があればいいのですが、線路上をオーバーパスする箇所は沿線で多くはなく、このシステムをそのまま使うのであれば、GPS通信不良箇所は飛行区間から除外するとか、運用方法で対応していく必要があると思います。
また、対地高度の精度について、ドローン下部に深度センサー等を搭載して線路からの高さをチェックしながら飛行するようにすれば、より安全に安定した飛行ができると思っています。

――技術的な面以外での、今後の課題はありますか?
高野:
ドローンの低空飛行について、沿線住民からの理解を得る必要があります。また、無人飛行の場合、盗難などのトラブルについても対応を考えておく必要があります。山間部のみに限定して飛行させるという考え方もありますが、いずれにしても、当社係員はドローン飛行の実績を持っておらず、そもそもドローンそのものを所有しておりませんので、緊急時におけるオペレーターおよび機体の確保も課題となります。
前田:
多くの鉄道会社では基本的に人による目視点検を前提として、災害時の緊急体制マニュアルがびっしり定められています。ですので、こういった新しいツールを導入した場合、災害時の緊急体制を一から見直す必要があります。また、まだまだ、航空法上の目視外飛行の規制が厳しいので、併せて、社内でのドローンオペレーターの養成も進めていく必要があると思いますね。
線路点検の新技術が社会にもたらす波及効果と期待
――今回の実証実験を経て、他社さんや世間からの期待はいかがでしょうか?箙:
実は2月に、ドローンを営業中の線路上で飛ばしたということで、各メディアさんに記事にしていただきました。そのメディアさんの記事を見られて、JR西日本さん、JR東日本さんのような方々からも、話を聞かせてほしいとお声がけいただいて、線路等でのドローン活用検討会にも入っていただきました。
2024年9月に神戸市で開催された国際フロンティア産業メッセに神鉄コミュニティさんが出展して、今回の実証実験をブースで紹介させていただいたところ、他の鉄道会社さんが線路等ドローン活用検討会に入ってくださったという事例もありました。多くの会社さんが、各所で興味を持たれたようで、我々から見るととても大きな反響だったと思っています。
――今後に向けて意気込みや期待できることについて教えてください。
前田:
私どものような中小の会社では、若手の人材不足が深刻ですが、それでも、鉄道の輸送安全サービスを低下させることはできません。ドローン導入をきっかけとして、新規人材採用の観点からも、ドローン・ロボットの有効活用などDX化について、さらに取り組みを続けていく必要があると思っています。

東:
今回の実証飛行で、ドローンの飛行に対し、沿線の方から盗撮など個人情報に関する拒否反応があるかと思っていましたが、線路内を低空でドローンが飛んでいることで周辺への違和感が少なく、思いがけず温かい目で見守っていただいたという印象でした。沿線の方の理解を得る作業が少なくてすむことは、実務上、非常にありがたい話で、こういった活用が、他の鉄道事業者でも進むきっかけとなればと思います。
あと、今回の実証飛行では、各実証飛行の状況を動画で記録するために、別のドローンで空撮をすることになったのですが、空撮のアングルや位置を細かく指示されたため、車両基地内や線路周辺で空撮用ドローンを高速移動させなければならないこともありました。炎天下の中で、撮り直しがきかない空撮でしたが、それはそれは大変でした。おかげで自分自身のドローンの操作技術は各段に向上したと思っています。

株式会社神鉄コミュニティサービス 建設部 東 嘉宏氏
井上:
我々は自治体という立場で事業を進めており、特にドローンを普及させることが目的ではありません。あくまでも社会課題の解決に資するためにどのようなテクノロジーが使えるのかという視点で捉えています。
高野さん、前田さんがおっしゃったように、地方の私鉄は非常に人材難であり、その状況下で近年多発する災害対応に追われています。鉄道は社会に必須のインフラですので、少子高齢化が進む中でいかに人材獲得、企業価値を高めていくのかを考える必要があります。
そこに新たな技術であるドローンを投入することで、現場作業をドローンオペレーターという職種に代替することが可能となります。ドローンオペレーターという今までにない職種で見られることによって、従来の鉄道会社に対する概念も変わってくるでしょうし、人材の獲得にも繋がってくるのではないでしょうか。そして本来の目的でもある、業務の効率化にも繋がってくると思います。
このような新規技術を取り入れて進めていこうとする企業の姿勢自体が、企業の価値を高めていくと思います。これから、今回の神鉄さんのような会社が県内から1つでも多く増えてもらったら嬉しいと私は思っています。
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