建築分野におけるドローン活用の現状と課題は?安全性確保と人材育成の取り組み
建築物の点検や調査においてドローン技術への注目が高まっています。しかし、都市部での飛行に伴うリスクや法規制への対応など、実務での活用には課題もあります。
今回のウェビナーでは、「建築ドローン飛行管理責任者」の資格を中心に、実務での活用事例や法規制の最新動向について、第一線で活躍する専門家の方々にお話を伺いました。
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■登壇者
・一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA) 理事 二村 憲太郎 氏
・バウンダリ行政書士法人 代表行政書士 佐々木 慎太郎 氏
・建装工業株式会社 MR業務推進部 技術推進部長 熊谷 皇 氏
■司会
GMOメディア株式会社 事業開発本部 柴垣 泰
■協力
一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)
■協賛
バウンダリ行政書士法人
建装工業株式会社
建設業界が直面する課題解決のためにー建装工業が取り組むドローン活用の現場
ーーまずは熊谷様にお伺いいたします。建装工業様がドローンによる点検に取り組んでいる理由・背景について教えていただけますか。熊谷氏:建装工業は明治36年に創業し、マンション事業、発電所や石油タンクなどのインフラ事業、橋梁やトンネルなどの土木事業を対象としたリニューアル事業を展開しています。
当社がドローン活用に取り組むことになった背景にあるのは、建設業界の深刻な人手不足です。
建設業就業者数は、1997年の685万人から2023年には483万人へと減少しています。さらに高齢化も進行しており、特に29歳以下の若手就業者の減少が顕著です。建設業界は、他業界に比べても特に人手不足が進んでいることが分かります。
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こうした現場離れと高齢化といった背景の中、当社はリニューアル専門企業のリーダーとして、労働環境の改善、生産効率の向上のために、ドローン技術は戦略的に推進していくべき技術として位置づけています。
ーードローンが効果を発揮する具体的な場面について教えてください。
熊谷氏:ドローンが特に効果を発揮する場面が3つあります。すべての点検をドローンに置き換えればいいというわけではなく、ドローンの特性を十分に理解し、場面に応じて有効活用することが重要です。
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まず一つ目は、多棟数団地マンションの屋上点検など、目視では作業者の負担が大きい箇所の点検調査です。作業員は重い道具を抱えて地上と屋上の間を何度も往復し、直径600mmほどの小さな点検口から出入りする必要があり、作業員への身体的負担が大きい作業です。ドローンを活用することで、これらの負担を大幅に軽減できます。
二つ目は、勾配屋根マンションの点検など、人が近づくのが困難な場所の点検調査です。この作業では、安全確保のための仮設足場を設置する必要がありますが、これには莫大なコストがかかるため、実際には地上から見える範囲での点検をすることが一般的です。ドローンを使用することで、屋根の破損状況や雨樋の詰まりなど、きめ細かい点検が可能になります。
三つ目は、外壁の高所部分など、目視では見えにくい部分の点検調査です。外壁の高所部分などは、地上からの目視では5階程度までが限界で、それ以上は望遠鏡での確認となり、角度が鋭角になると調査品質が落ちてしまいます。そのようなケースでも、ドローンであれば外壁に近接して正面から撮影でき、適切な品質での点検が可能になります。
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建装工業株式会社 MR業務推進部 技術推進部長 熊谷 皇 氏
ーーそもそも建築物における点検・調査とはどのような位置付けなのでしょうか。
熊谷氏:建築物の所有者、管理者または占有者には、その建築物を適切に管理する法的義務があります。特に多くの人が利用する特定建築物では、保全行為として定期的な点検が義務付けられています。
点検・調査は大きく二つに分類され、新築時の状態維持を目的とした「維持保全」と、時代のニーズに応じた機能・性能の向上を図る「改良保全」があります。改良保全には耐震性能の向上や省エネ性能の向上、ユニバーサルデザイン化などが含まれます。
ーー建装工業様で行われているドローンを活用した点検の実証実験の成果についてお聞かせください。
熊谷氏:現在は、実証実験を重ねてノウハウを蓄積している段階です。2024年には勾配屋根や多棟数マンションでの点検の実証実験を実施し、最近では避雷針の点検にもドローンを活用する実験を行っています。これらの実験から、従来の目視点検では困難あるいは負担が大きかった箇所を、効率的かつ正確に点検できる可能性が確認できました。
一方で、ドローンは現場の状況に応じて有効性を適切に見極める必要があると分かってきました。また、法令遵守やトラブルの未然防止のために、パイロットの飛行技術はもとより、法律を含めたドローン飛行に関する専門知識、さらには建築知識まで、幅広い知見が求められるということも感じています。
建築分野におけるドローン活用はこれからさらに拡大
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一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA) 理事 二村 憲太郎 氏
二村氏:ドローンの活用はまだ少ないのが現状です。土木分野と比較すると、建築分野は周辺に人が多い都市部での作業が中心となるため、活用が進みにくい状況にあります。
ただし、市場規模としては大きな可能性を秘めています。ドローンサービス市場の分野別のシェアを見ると、土木建築と点検分野で全体の半分以上を占めており、4年後の2028年までこの傾向は続くと予測されています。さらにその規模は1,410億円から2,513億円へと拡大する見込みです。
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また、建設業界は「建築」と「土木」という二つの分野に大きく分かれており、発注形態に特徴があります。建築分野は民間からの発注が中心である一方、土木分野は公共事業が中心となります。このため、ドローン活用を進める際にも、それぞれの分野の特性に応じたアプローチが必要となります。
安全な運用のためにすべき法規制と事故リスクへの対応
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バウンダリ行政書士法人 代表行政書士 佐々木 慎太郎 氏
ーー建築分野でドローン活用が進まない背景には、都市部でのドローン飛行におけるリスクがあるとのことですが、ドローンの事故事例や法的リスクについてお聞かせください。
佐々木氏:事故が発生した場合、保険の適用可否の問題に加え、特に事故の場合は法令違反による罰金や最悪の場合は懲役刑のリスク、さらには事業者としての信用失墜という影響も考えられます。
令和4年の航空法の改正以降は、事故が起きて国土交通大臣に報告をせず、または虚偽の報告をした場合、罰金が課せられることになりました。事故が起きた場合は、直ちに飛行を停止し、負傷者の救護を行い、その他危険を防止するために必要な措置を講じなければいけません。
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建築分野での具体的な事故事例としては、ビル点検時の外壁接触による建物損傷、点検飛行中の着陸失敗による駐車車両への接触事故、住宅設備点検時の接触による損壊などが報告されています。特に重大なインシデントとしては、橋梁点検時に推進システムのエラーにより機体が緊急着陸を余儀なくされ水没したケースもあります。
ーー建築関連事業者がドローンを活用する際、法規制においての課題はどのようなものでしょうか?
佐々木氏:課題としては、ユーザーの理解が追いついていない点が挙げられます。実際の規制内容は一つ一つを見れば特別難しいものではないのですが、規制の変化が激しいことや、法律用語が一般になじみにくいことから、とっつきにくいと感じる方が多いようです。特に現場で実際にドローンを飛ばす方々にとって、法律面での対応がハードルになっているケースが見られます。
ーーでは、ドローンを活用した点検を始める際の基本的な流れを教えていただけますでしょうか?
佐々木氏:具体的な手続きの流れとしては、まず機体の登録から始まります。ドローンを購入後、無人航空機として登録を行い、登録記号の発行を受けます。発行された番号は機体に表示する必要があります。
次に、リモートIDの搭載が必要となります。これは登録情報を電波で発信する装置で、機体への内蔵型と外付け型の2種類があります。
そして飛行許可申請を行います。点検業務での利用の場合、ほぼ100%の案件で申請が必要と考えておいていただいた方が良いと思います。
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これらの基本的な流れを押さえておけば、法令上の要件は満たすことができます。重要なのは、必要な手続きを一つ一つ確実に行っていくことです。
ーー最近の規制緩和についてもお教えください。
佐々木氏:規制緩和の動きとしては、まず、高層建築物については、150m以上の高さの建物であっても、その周囲30m以内の区域では飛行許可申請が不要になりました。
また、十分な強度を有する紐等(30m以内)で係留した飛行で、飛行可能な範囲内への第三者の立入管理等の措置を行えば、一部の飛行許可申請が不要となっています。これにより、より迅速な点検作業が可能になりました。係留装置の使用自体は各社の判断によりますが、この規制緩和により選択肢が広がったと言えます。
そのほかにも、許可承認の添付書類を簡略化する動きが進んでおり、簡単な申請であれば実質的な審査を省略して許可書を発行するなど、手続きの迅速化が図られています。
点検でのドローン使用に関係する主な法令としては、下記の法令を押さえておくと良いと思います。事前調査や必要に応じて手続きを行いましょう。
- 航空法
- 小型無人機等飛行禁止法
- 電波法
- 道路交通法
- 建築基準法
- 自治体条例
- 民法など
ーー建築基準法における点検方法の見直しについて、詳しく教えていただけますでしょうか?
二村氏:2024年6月28日に、建築基準法における定期点検(12条点検)の方法について重要な通達が出されました。これは国土交通省から各都道府県の建築行政主務課宛に出された資料で、2025年7月1日から施行される新しい基準について定めたものです。
12条点検とは、建築物の定期点検のことで、特に外壁については10年に1回の打診調査が必要とされています。今回の見直しでは、従来の「目視またはこれに類する方法」という定めが大きく変更され、一定の条件の元、新たな点検手法が認められることになりました。
具体的には、先行して認められていた赤外線装置に加え、可視カメラ・センサー等の新技術による調査が可能になります。
これらは建築物の点検におけるドローン活用の大きな後押しとなるでしょう。
建築とドローンをつなぐ専門人材「建築ドローン飛行管理責任者」とは?
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二村氏:事業者には主に4つの条件が求められます。
まず、①安全な体制を整えられること。次に、②適切な計画書を作成できること。そして、③点検結果をきちんとした報告書として提出できることです。特に官公庁からの発注では、これらの能力が厳しく問われます。
さらに重要なのが、④職務遂行に必要な知識・技術等を習得し、一定の基準により評価されて認められた者が業務に就くことです。具体的には「建築ドローン飛行管理責任者」という資格が、そうした能力を証明する一つの指標となっています。
ーー建築ドローン飛行管理責任者について詳しくお教えいただけますか。
二村氏:建築ドローン飛行管理責任者は、JADAが人材育成の一環として行っている「安全教育講習会」を受けることで称することができます。
建築物の調査者と、ドローン操縦者を橋渡しする重要な役割を担います。例えば、ドローンに詳しくない発注者に対して、ドローンで点検する方法や条件などを提示し、協議を行います。また、建築物の基礎知識を有することで、建築物の点検方法などをドローンの操縦者に適切に伝える役割もあります。
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ーーこの資格を取得することで得られるメリットにはどのようなことがありますでしょうか?
二村氏:大きなメリットとしては、ドローンと赤外線装置等を使用する建築物の外壁調査では、官公庁等から発注される入札要件として「ドローン調査安全管理者」に該当する資格となることです。また、建築ドローン飛行管理責任者になると、希望者はJADAのホームページの名簿に記載されます。発注者からの信頼性を担保する重要な要素となっており、この名簿から発注につながることもあります。
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熊谷氏:私も建築ドローン飛行管理責任者の資格を取得したメリットを感じています。資格取得の最大のメリットは、建築とドローン、両方の知識を網羅的に学べる点です。
この資格を取得するためには、建築の知識とドローンの知識の両方が必要不可欠で、これらの知識がないとそもそもスタートラインにも立てません。そのため、資格取得の過程で必要なベースの知識が得られることが、一番大きなメリットだと感じています。
私どもは、マンションでの実証実験を数多く行っていますが、マンションには様々な居住者の方がいらっしゃいます。ドローンによる点検作業の実施について説明する際、「面白そう」「どんなことができるの?」と興味を示してくださる方もいれば、「不安だ」と懸念を示される方もいらっしゃいます。
そうした様々な反応がある中で、資格保持者として安全対策や国土交通省航空局への申請内容、配慮事項などについて説明ができることが大きな強みとなっています。しっかりとした根拠を持って説明できることで、住民の方々に安心していただけているという実感があります。
外壁点検の高度な技術を習得する「JADA-JUIDAドローン建築物調査安全飛行技能者コース」
ーードローンによる外壁点検には高い操縦技術が必要になると思いますが、どのように技術を身につけていけば良いのでしょうか。二村氏:外壁点検では、ドローンを建物に近接して飛行させる必要があり、ビル風や電波障害などに対応する、高い操縦難易度が要求されます。例えば機体のフェールセーフ機能が作動した後、手動操作に切り替える場合があります。この場合は高い操縦技術が必要となります。また、建築ドローン飛行管理責任者が指示した位置に正確にカメラを向け、適切な照度など適切な画像調整をして撮影する技術も必要です。
こうした高度な技術を習得するため、JADAではJUIDAと連携して「JADA-JUIDAドローン建築物調査安全飛行技能者コース」を開設しています。このコースでは、操縦・撮影技術を徹底的に訓練し、外壁点検技術、管理方法、係留技術等を、座学と実技で学ぶことができます。
いきなり現場に出てこのような操縦・撮影を行うことは難しいと思いますので、ぜひこうしたトレーニングを受講して技術を身につけていただければと思います。
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知識と技術を習得し、建築分野でのドローン活用を推進する
本ウェビナーでは、建築分野におけるドローン活用について、知識・技術の習得、法規制、現場の3つの視点から専門家の方々にお話を伺いました。建築分野におけるドローン活用は、人手不足や高齢化という業界課題に対する有効な解決策となる可能性があります。ただし、その実現には安全性の確保と法規制への適切な対応が不可欠です。建築ドローン飛行管理責任者を中心とした人材育成の取り組みや、継続的な実証実験を通じたノウハウの蓄積により、着実に普及の基盤が整いつつあります。
2025年7月からの建築基準法における規制緩和を契機に、ドローン活用の機会はさらに拡大することが予想されます。今後は、技術革新への対応と実務での活用事例の蓄積を通じて、建築分野におけるドローン活用の可能性がより一層広がっていくことが期待されます。
登壇者の皆さま、貴重なお話をありがとうございました。
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