いよいよ社会実装へ!国土交通省・江口課長に聞く「空飛ぶクルマ」の現在地と国際連携が拓く日本の空の未来
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今回お話を伺った方
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国土交通省航空局安全部無人航空機安全課 課長
江口 真氏ドローン・無人航空機に関する制度設計や安全対策を担当。機体認証・操縦ライセンス制度、レベル4飛行をはじめとする無人航空機の社会実装と利活用促進を推進している。
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2025年の大阪・関西万博では、実際に機体が空を舞う姿が話題になりました。国土交通省は「空飛ぶクルマ」商用運航開始の目標を「2027〜2028年」と打ち出し、ブラジルとも新たな国際協定を結ぶなど、実現に向けた動きを加速させています。
今回は、国土交通省航空局安全部無人航空機安全課 課長の江口真氏に、空飛ぶクルマの実態から国内の準備状況、国際連携の狙い、そして「空飛ぶクルマが飛び交う日常」の具体像まで、じっくりお話を聞きました。
「空飛ぶクルマ」とは?

「空飛ぶクルマ」と呼ばれているのですが、実は、これは自動車ではありません。道路を走るクルマがビュンビュン空を“走り回る”イメージをしがちですが、れっきとした航空機です。
「空飛ぶクルマ」は、電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段である。
空飛ぶクルマの社会実装に向けた取組について/国土交通省
名前は「クルマ」でも、中身は航空機です
近未来を描いた映画やアニメで、車がそのままビルの間を飛び回るシーンを見たことがある人もいるかもしれません。でも「空飛ぶクルマ」は、SFの世界の話ではありません。実際には、電気で動き、その場でまっすぐ離着陸できる新しい航空機で、海外では「eVTOL(電動垂直離着陸機)」とも呼ばれています。
日常的な移動手段としてのイメージから「クルマ」と呼ばれていますが、航空法上は紛れもなく航空機です。
なぜ国はブラジルと協定を結んだのか

2026年2月2日、国土交通省では、空飛ぶクルマについて、ブラジル民間航空庁(ANAC)との連携を強化するため、「空飛ぶクルマに関する協力枠組み」への署名を行いました。この協力枠組みへの署名を担当したのが、今回お話を伺った江口氏です。
空飛ぶクルマは、基本的に都市内や近距離の移動用であり「国境を越えて飛ぶ」わけではありません。ところが国土交通省はこれ以前に米国と協定を結び、ブラジルとも新たな協定を締結しました。
いったい、なぜなのでしょうか?
飛行機やヘリコプターのような従来の航空機には、ICAO(国際民間航空機関)という国連の機関が定めた国際標準があり、世界中の国がそれをもとに自国のルールを作っています。
一方、空飛ぶクルマは世界各国で開発が進んでいるものの、国際的なルールづくりはまだ途上にあります。
ICAOでの議論もまだスタートしたところで、「これが世界共通のルールです」と言えるものが存在しないのです。
その背景には、飛行ルートの話ではなく、機体をどの国で認証し、どう国境を越えて調達・運航するかという別の課題がありました。その詳しい内容を、江口氏に伺いました。
日本が挑む、空飛ぶクルマの国際ルールづくり

——2026年2月に署名した「空飛ぶクルマに関する協力枠組み」について、その背景と国土交通省としての狙いを教えてください。
江口氏:世界では空飛ぶクルマの開発が急速に進んでおり、日本でも機体を開発するメーカーがある一方、海外メーカーの機体を国内で運航したい事業者も増えています。
今回ブラジルと協力することになったのは、同国の航空機メーカー・エンブラエル傘下のEve Air Mobilityが、空飛ぶクルマを開発する有力企業だからです。
開発を進める国同士が早い段階から連携し、安全認証や運航ルールについて意見交換を重ねることで、将来的に機体を各国で円滑に運航できる環境を整えたいと考えています。
日本はこれまでも米国のFAA(連邦航空局)や欧州のEASA(欧州航空安全庁)とも同様の協力枠組みを結んでおり、今回のブラジルとの協定も、その取り組みの一環です。
——世界各国で同時並行的に開発が進む中、なぜ今、国際的なルール調和が重要なのでしょうか。
江口氏:空飛ぶクルマが世界中で普及するためには、国際的な基準のハーモナイズ(各国の制度や基準をできるだけ共通化・整合させること)が欠かせません。
たとえば、国ごとに機体の安全認証やパイロットの資格、運航ルールが異なれば、メーカーや事業者は進出先ごとに異なる基準へ対応しなければならず、開発や事業展開の大きな負担になります。
大型旅客機のような従来の航空機では、ICAO(国際民間航空機関)が定める国際標準をもとに各国が制度を整備しているため、こうしたルールはすでにハーモナイズされています。しかし、空飛ぶクルマはICAOでの標準づくりが始まったばかりで、世界共通のルールはまだありません。
そこで日本は、ICAOでの議論に貢献しながらも、その完成を待つのではなく、米国や欧州、ブラジルなどと直接協力し、認証や運航の考え方を早い段階ですり合わせたいと考えています。その成果を、将来的にはICAOの国際標準にも反映させていく考えです。
航空の世界ではこれまで、ボーイングのある米国やエアバスのある欧州が国際標準づくりを主導してきました。
一方、空飛ぶクルマは欧米も日本もまだ開発段階にあり、スタートラインはほぼ同じです。日本は大阪・関西万博で実際に飛行を実現した実績もあり、国際ルールづくりでも存在感を発揮できる可能性があると考えています。
空飛ぶクルマ、国内の準備は今どこまで進んでいるのか

国際的なルールづくりと並行して、国内でも着実に準備が進んでいます。2018年に立ち上がった官民協議会からスタートし、2025年の大阪・関西万博でのデモフライトを経て、今、目標として掲げられているのが「2027〜2028年の商用運航開始」です。
2018年からの積み重ねと、万博での実現

国の制度整備は、2018年に設立された「空の移動革命に向けた官民協議会」で、民間事業者と共に進められてきました。2026年3月の第12回会合では、大阪・関西万博後を見据えたロードマップ改訂が行われ、商用運航開始の時期が明記されています。
商用運航に向けた現在地と、残された課題
——機体安全性審査・運航ルール策定・バーティポート*に関する制度設計は、現在ロードマップ上のどのフェーズにありますか?江口氏:国の制度整備は、2018年発足の官民協議会で、民間事業者と一緒にずっと進めてきています。

当初は2025年の大阪・関西万博で実際に飛ばすことが大きなマイルストーンで、官民ともにそこをめざしてルール作りを進めていました。必要な最低限のルールは2023年度末までに整備を終え、昨年の万博でデモフライトという形で無事飛ばすことができました。
次のフェーズは社会実装、空飛ぶクルマの商用運航開始です。
昨年度末の官民協議会でロードマップを改訂し、商用運航開始を2027~2028年としました。今年はその1年前にあたる大事な年なので、必要な制度整備の詰めの作業をしているところです。
——「社会実証」から「社会実装」へ移行するにあたり、クリアすべき最大のハードルはどこにあるとお考えですか?
江口氏:ハードルという表現が当てはまるかはわかりませんが、万博でのデモフライトも各地での実証も、あくまで社会実証の段階であり、搭乗しているのはパイロットや関係者のみです。万一何かが起きても地上への影響が生じないよう措置を講じたうえで、許可を出しています。
一方、社会実装となると、実際に一般の方に乗っていただくことになります。
そのためには、機体そのものが安全であることを証明する「型式証明」をメーカー側に取得してもらう必要があります。加えて、運航ルールの整備や、離着陸するポートの準備も並行して進めていかなければなりません。
現在、国産メーカーをはじめ、国内航空会社と連携している海外メーカーも含め、複数社が型式証明の申請を進めています。型式証明は機体の完成を待ってから審査に入るのではなく、開発と並行して進められているのが特徴です。
空飛ぶクルマが社会に受け入れられるために国交省が進める取り組みとは

国際ドローン展に登壇し、次世代航空モビリティを巡る現状と動向について語る江口氏。さまざまな場所で発信をするのも「認知」を広げる取り組みのひとつ。
どれだけ制度が整い、機体の安全性が証明されても、実際に人が「乗ってみたい」と思わなければ、空飛ぶクルマは日常に根付きません。
だからこそ国土交通省は、空飛ぶクルマを広く知ってもらうだけでなく、安全性や静粛性などの特徴について正しい理解を広め、社会受容性(新しい技術やサービスを社会が受け入れること)を高める取り組みを進めています。
まずは知ってもらうこと、そして安心してもらうこと
——社会受容性の醸成に向けて、国交省としてどのような取り組みを進めていますか?江口氏:まずは、空飛ぶクルマについて正しく知ってもらうことが重要だと考えています。まだ実際に見たことがない人も多く、「車がそのまま空を飛ぶ乗り物」とイメージしている方も少なくありません。
空飛ぶクルマは航空機の一種であることを理解していただき、その上で安全性への理解を深めてもらう必要があります。
そのために最も効果的なのは、実際に飛行する姿を見てもらうことです。
大阪・関西万博では、多くの来場者が機体の飛行を目の当たりにしました。実際に見た方からは、「思ったより静かだった」「早く乗ってみたい」といった声も多く聞かれました。
言葉で「静かです」「安全です」と説明するだけでは伝わりにくいことも、実際に体験してもらうことで理解が深まったと感じています。
こうした経験は、空飛ぶクルマに対する社会的受容性の向上に大きく寄与したと考えています。
空飛ぶクルマが社会に受け入れられるためには、安全性を確保するだけでなく、その安全性を国民の皆さんに理解していただくことも欠かせません。今後も講演会やイベントなどを通じて、丁寧な情報発信を続けていきたいと考えています。
ドローンとの接点“UTM”という共通言語

空飛ぶクルマとよく比べられるのが、ドローンです。同じ「空を飛ぶ乗り物」でも、この2つはどのようにつながっているのでしょうか。
——空飛ぶクルマの運航管理において、ドローン分野で先行するUTM*の知見は活用されていきますか?
江口氏:正直、ドローンと空飛ぶクルマは法的扱いが違うので、直接つながっているという感じではありません。
ただ、空飛ぶクルマは従来の航空機やヘリコプターに比べて、街中で高頻度・高密度に飛ばすというイメージがあるので、従来の航空管制のようなやり方ではなく、新しい交通管理が必要だという議論を官民協議会でもしていて、万博でもその実証をしています。
空飛ぶクルマ向けの新たな交通管理の考え方は、ドローンのUTMと共通する部分も多く、これまで蓄積してきた知見やノウハウを相互に生かしていけると考えています。
空飛ぶクルマが連れてくる、これからの空

制度が整い、安全性が証明され、社会にも受け入れられていく。その先に、どんな未来を描いているのでしょうか。江口氏に、少し先の話を聞いてみました。
——江口課長ご自身は、「空飛ぶクルマが日常的に空を行き交う社会」をどのようにイメージしていますか。
江口氏:私自身も、一日でも早く多くの方に空飛ぶクルマへ乗っていただきたいと思っています。そのためにも、まずは商用運航をできるだけ早く実現したいですね。
サービス開始当初は機体数も限られ、運賃もそれなりに高くなるでしょう。まずは観光や遊覧飛行など、「特別な日に空を飛ぶ」という非日常の体験から始まると考えています。
今は旅行に行くため空港まで出かけて飛行機に乗るのが一般的ですが、将来は街なかから気軽に空へ飛び立つ。そんな体験ができるようになるかもしれません。
そして、その先にめざしているのは、「空飛ぶタクシー」として日常の移動手段になる世界です。
都市では、渋滞を避けながら目的地へ移動できる新しい交通インフラとして活用される。一方で、離島や山間部など、これまで移動が難しかった地域では、人々の暮らしを支える貴重な交通手段になることも期待しています。
空飛ぶクルマは電動であるため、従来のヘリコプターよりも運航コストを抑えられる可能性があります。これまで採算が取れずヘリコプターではサービスを提供できなかった地域でも、新たな移動手段として成立する可能性があります。
街を見上げると空飛ぶクルマが静かに行き交い、必要なときに誰もが空路で移動できる。そんな光景が当たり前になる日をめざしています。
まとめ:頭上に広がる、新しい「道」
2018年の官民協議会発足から、大阪・関西万博でのデモフライト、そして2027〜2028年の商用運航開始という目標まで、国内の制度整備は着実に前へ進んでいます。同時に、ブラジルとの協定に見られるように、国際的な基準づくりでも日本がリードできる可能性が見えてきました。江口氏の話から伝わってきたのは、空飛ぶクルマへの確かな期待と、その実現を見据えた冷静な視点でした。
印象的だったのは、空飛ぶクルマを「新しい乗り物」としてではなく、未来の社会インフラとして捉えていたことです。制度づくりや安全審査、国際連携。一つひとつは地道な取り組みですが、その積み重ねの先に描かれているのは、人や地域を空でつなぐ新しい日常です。
地上の混雑を避け、離島や山間部にも新しい移動の可能性を届ける。空飛ぶクルマが切り拓こうとしているのは、単なる次世代の乗り物ではなく、私たちの頭上に広がる、まだ誰も歩いたことのない「道」なのかもしれません。
空飛ぶクルマが日常の風景となる未来は、思っているよりもずっと近くまで来ています。
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