(取材)カシワバラ・コーポレーション|足場不要、人の入れないエリアのサビも点検!ドローン×AIで実現する次世代の修繕計画とは
同社は保守的な傾向が強い建設業界でいち早くDX化に取り組み、ドローンとAI分析を組み合わせた革新技術によるイノベーションを実現。建設業に特化したスタートアップ支援「JAPAN CON-TECH FUND」も設立・運営もしています。
この記事ではカシワバラ・コーポレーションの挑戦について、現場監督や営業のキャリアを活かし、現在はサービス企画を担当する山下さんに詳しく伺いました。
カシワバラ・コーポレーション 新規開発営業部 山下さん
調査診断にドローンとAI分析を活用
――まず、貴社の業務とドローンの関連について教えていただけますか?弊社は、石油プラント塗装をはじめとしたインフラメンテナンス、マンションの大規模修繕、オフィスビルの修繕維持をメインに事業を営む会社です。とくに塗装に関しては長きにわたって蓄積してきたノウハウを持ち、何百種類という塗料の組み合わせから、劣化状況に対してどのような塗装を施すべきかを適切に提案できる強みがあります。
現在のインフラ設備の多くは高度経済成長期に一斉に整備されたもので、老朽化問題が目前に迫っている状況です。そのような状況下では、何か不具合が起きてから修繕する「事後対応」ではなく、不具合が起きる前に修繕を行う「予防保全」を行なっていくことが非常に重要です。
たとえばプラントを放置しておけば、劣化がすすみ薬品が漏れる危険がありますので、薬品が漏れる前に劣化場所を特定してメンテナンスすることが大事です。また、予防保全を行うと建造物を長寿命化させられるため、維持費や管理費の削減にもつながります。
予防保全をするにあたっては、事前に調査診断をし、どのような修繕が必要かを判断、工法の選定を行い、仕様提案をします。つまり、事前の調査と分析が非常に重要になります。
そこで調査診断に対するアプローチのひとつとしてドローンの活用に注目したというのが、弊社がドローン領域とかかわりを持ち始めたきっかけでした。そのために、2019年にはドローンパイロットエージェンシー(DPA)と資本業務提携を行いました。
――自社でドローン事業を完結させず、ドローンパイロットエージェンシーと資本業務提携する形を選んだのはなぜですか。
ドローンパイロットエージェンシーさんは、ドローン市場が黎明期であった2019年の時点で、すでにさまざまなシーンにドローンパイロットを派遣できる強みを持っていました。建設現場は非常に幅広い領域ですから、フレキシブルに動けるドローンに特化した企業と手を結び協業することによって、先ほどお話しした調査診断においてもドローンの活用が推進できると確信したのが出資のきっかけです。
その後、マンション、工場、戸建てなど、ドローン調査と施工を組み合わせた事例を積み上げていく過程で、たとえばインフラメンテナンスに関してはセンシンロボティクスさん、戸建ての修繕ではCLUEさんといったように、複数のドローン事業者さんと提携をするようにもなりました。イメージとしては、弊社がハブとなり、それぞれの会社が持つ強みを活かしやすい環境を整えたうえで、ドローンに関するサービスを一元提供しているような形です。
――建設業界といえば保守的な傾向が残る業界と言われますが、実際のところ、DXやドローン活用への期待はどのくらい高まっているのでしょうか?
ご指摘のとおり、建設業界にはまだまだアナログな領域が多く残されています。その中でも弊社は、3年ほど前からドローンをはじめとしたデジタルツールを施工に紐付けていくことに注力してきた実績があり、最近ではその成果を少しずつ感じるようになってきました。
たとえば、これまでは弊社からツールをご提案しても、セキュリティ面・安全面など各事業所様が抱えている複雑な諸問題により、簡単に導入まで至らないケースが多かったのですが、最近では、「ドローンでの調査って、どうやるんですか?」と関心を示してくださることも多くなりました。さらにはもう一歩進み、「ドローンでこの作業を改善できないか?」と具体的にご相談いただくことも増えています。
このような実態を踏まえると、確実に、建設業界にも実際にデジタルツールを活用した施工実例も着実に増えている状況です。
ドローンによる事前調査のメリットとは

カシワバラ・コーポレーション「ドローン調査の構成図」
――実際に貴社で行っているドローンの活用やAI分析の分野についても教えてください。
カシワバラ・コーポレーションの主軸事業は塗装工事です。塗り替え工事においては「サビ(錆)」の有無を確認し、優先順位をつけて塗装作業を行います。化学工場やプラントなどの設備においても、より具体的な塗り替え工事計画、修繕計画を立てていくには、足場を組んでサビ・腐食などの詳細な状況を確認しなければなりませんでした。当然、コストと時間も掛かってきます。
各事業所様の状況にもよりますが、ドローン調査を活用できる場所においては足場の組み立てが不要になりますし、化学工場内の配管ラックの上部など地上から人間が確認できない箇所も容易に調査可能になります。さらには空撮した映像をAIで解析し、サビの度合いを黄色(弱い)〜赤(もっとも進行している)と色分けすることによって、ひと目で進捗が判断できます。これにより、修繕計画の一次スクリーニングにおける業務フローの効率が向上しました。


それから、こちらはタイルの浮きをAIで診断したものです。これまでなら足場を組んで人がひとつずつ確認していたところを、ドローンを活用すれば、撮影画像からタイル浮きの兆候を分析できます。
このような調査を大規模修繕の前段階で行っておくと、より正確な数値や高い精度での診断書をもとに適正な見積りを出すことができ、工事がスムーズに進むメリットがあります。
改めて整理しますと、ドローンを活用した事前調査には大きく分けて3つのメリットがあると言えます。
- 工期の短縮と効率化
- コストの削減
- 危険の回避
先ほど申し上げたように、足場を組んで事前調査を行うと、工程が増えて工期も長くなります。ドローンで代替できれば工期を大幅に短縮できるだけでなく、AI解析による状況分析の効率化も図れます。さらに言えば、工期の短縮はコストの削減にもつながります。
加えて、見逃せない大きなメリットが作業に関わる方の安全を確保できることです。高所での作業や危険なエリア・設備では、たとえば墜落災害が起こるリスクがあります。ドローンが作業を行うことで、こうした事故を防ぐことができるのです。
——正確なデータが得られ、コストを削減でき、作業員の安全も守れるとは、良いこと尽くめに聞こえますね。しかし実際のところ、現状の業務を100%ドローンが代替することは可能なのでしょうか?
いえ、まだ難しいと感じています。今のところドローンは完璧ではなく、赤外線カメラの性能や日照時間などに影響を受けることがあるためです。また、危険物などを取り扱う設備条件が難しい場所ではドローンを飛ばす条件が複雑で、活用場所がお客様の保有施設や保有敷地内での活用に限られてしまいがちなことも挙げられます。
ですから現状のところは、基本的には人が業務を行いつつ、人に難しい業務や、効率アップが見込める業務をドローンが補う形で活用しています。ベストな運用方法については、今も試行錯誤を続けている途中ですね。
ドローンや革新技術の導入は「現場ファースト」から始まる
――保守的な傾向が強い建設業界で、ドローンのような新しいテクノロジーを導入するには苦労もあったのでは。
アナログな領域が多く残され、新しい技術を警戒する風潮が漂う建設業界でも、弊社がドローンの活用を精力的に進められているのは、進取の気質を持つ社長の存在が大きいです。
たとえば、カシワバラ・コーポレーションならではの支援策のひとつに、JAPAN CON-TECH FUND(ジャパンコンテックファンド)があります。
これは建設分野における技術革新の推進を目的としたファンドで、建設系ITスタートアップ企業に成長に必要な投資資金の投入、実証実験や導入支援のために建設現場を提供するといったバックアップを行っています。「建設業界に特化したスタートアップ投資によって、業界へのテクノロジー導入に貢献したい」という社長の強い願いが込められたファンドなのです。
――踏み込んだ支援を行う背景には、建設業界ならではの課題があるのでしょうか?
おっしゃる通りです。建設業界は「マンパワー」で産業拡大を続けてきた業界ですが、作業員不足や作業員の高齢化に伴い、マンパワーには頼れない時代になりつつあります。抜本的な改革が求められる中で、ドローンを含めたテクノロジーの活用が模索されてきたのです。
――では現場での反応はいかがでしょう?
正直なところ、はじめからスムーズに現場の理解を得られたわけではありませんでした。いくら詳細な資料を公開し、「ドローンならこういうことができるんですよ」とお話しても、関心を持ってもらえないことが多かったです。
とはいえ、当初はかたくなな態度をとっていた方でも、現場でデモンストレーションをしたり、実証実験の結果を見てもらったりすると、「なるほど、便利だね」と納得していただけました。現場で作業を見ていただき、「こういうものか」と知っていただくだけで、新しい技術やテクノロジーに対するハードルは一気に下がるのだなと感じました。
――心理的な抵抗感さえ取り除けば、有用性については認めてもらえることが多い、と。
はい。私も現場にいたからこそ分かるのですが、業務効率や安全性などの課題は皆さん「解決したい」と思っているのです。ただ、よく知らないために抵抗感を覚えてしまう。そこを解きほぐすためには、丁寧に対話しながらひとつずつ課題を解決していくほかありません。そうしているうちに信頼感が生まれ、やがて業界全体のDXも達成されるのではと感じます。
弊社はドローンをはじめとしたテクノロジーに注力していますが、革新技術の開発自体が目的ではなく、あくまでも現場を良くするための手段だと捉えています。根底にあるのは、常に「現場ファースト」の精神なのです。
建設業界の今とこれから「DX化とドローンテクノロジーへの期待」
――社会全体においてDX化が急務と言われていますが、貴社として今後の展望をお聞かせください。
建設業界は今、アナログからデジタルへと推移している最中です。
2025年には、団塊の世代が75歳以上になります。労働人口の減少が避けられない中、業界としてテクノロジーの活用は急務です。さらに、今の20代はデジタル技術の活用が当たり前の世代ですから、未来につながる人材を得るためにも、DX化、デジタルツール活用は欠かせないのです。
その過程において、ドローンに期待できる役割は大きいと考えています。高所や危険エリアでの作業では、残念ながら作業員の方が怪我をするようなこともゼロではありません。ドローンを導入すれば、労働災害を減らせるのはもちろん、より効率的な作業が可能になり、作業員を守ることにもつながります。
カシワバラ・コーポレーションの「現場ファースト」精神は今も昔も変わりません。DXを着実に進めることにより、現場の負担やリスクを減らし、若い人材が新しい働き方を実現できる環境を作りたい。それにより、建設業界の革新を担っていければというのが我々の願いです。
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