(取材)エアロネクスト・田路圭輔氏|飲み物も運べる⁉荷物が傾かないドローンで実現する、ドローン物流が当たり前になった未来

エアロネクストの機体構造設計技術4D GRAVITY
ドローンがランチを運んできてくれる未来。ピザやサンドウィッチなら想像がつきますが、ラーメンやホットコーヒーだとしたら、「到着時の惨劇が目に浮かぶ」という人も少なくないかもしれません。

しかし、汁物や飲み物をこぼさずに運んできてくれるドローンがあったとしたら?株式会社エアロネクスト独自の「機体構造設計技術4D GRAVITY®」を搭載したドローンなら、それが実現できるかもしれません。

今回は、特許を取得した技術で「荷物が傾かないドローン」を実現し、近い将来私たちが直面する物流課題に挑む、エアロネクスト社の代表取締役CEO・田路圭輔氏に、ドローンが実現する物流の未来についてうかがいました。

株式会社エアロネクスト 代表取締役 CEO 田路 圭輔氏


「特許を見れば未来がわかる」エアロネクストに感じた可能性

__まずは、田路さんのご経歴と、エアロネクストを立ち上げた経緯を教えてください。

エアロネクストは、私が創業したわけではありません。

私は2017年7月、ドローン産業の発展を知的財産で支援する「株式会社DRONE iPLAB」という会社を共同創業しました。私はもともと特許ビジネスに関わっており、つねづね、スタートアップに必要なのは「特許(知的財産)」だと考えていました。しかし、スタートアップの経営者はプロダクトやサービスなどに関心が向き、知的財産まで関心が及びません。そこで、スタートアップを知的財産で支援する会社を創業することにしました。

そこでマーケットとして着目したのが、ドローン産業でした。というのも2017年当時は、ドローン産業の特許数はわずか数千件程度しかなかったんです。ふつう、特許は1カテゴリーあたり10万件を超えることが多い。それを踏まえると、数千件という数は非常に少なかったんですね。

特許を見れば産業の未来がわかります。まさに、当時のドローン業界は黎明期だったのです。そのなかで私は、重心制御などにより空力特性を最適化しドローンの基本性能を向上させる「機体構造設計技術」というものすごい特許を見つけました。そして、その特許技術を持つ会社こそ株式会社エアロネクストでした。この特許技術に未来を感じた私は同社と資本提携し、代表取締役に就任しました。

__なるほど。しかし、なぜスタートアップには知的財産が必要なのでしょうか?

スタートアップには、事業をドライブするためのヒト・モノ・カネが不足しています。そのまま戦っていたのでは、リソースが豊富な大企業にたちまち潰されてしまうでしょう。

その前提のもと、スタートアップが唯一持ちうる武器はアイデアだと考えています。アイデアを生み出し権利化することは、スタートアップにとって、成功のための最も合理的なアプローチといえます。なぜなら特許には、タイムアドバンテージが効くためです。

__特許のタイムアドバンテージとは?

特許の世界は早いもの勝ちです。どれほどの大企業であっても、時間の壁を越えることはできません。


スタートアップが成長して市場ができると、必ず大企業が参入してきます。というよりも、大企業が参入しなければ、産業として成熟していかないのです。そうなると、スタートアップは大企業に買われたり、ともすれば潰されたりする可能性があります。先ほど述べたとおり、大企業のほうがヒト・モノ・カネが充実しているためです。

しかし、特許だけは、後から入ってきた企業はどうやったって追いつけません。プロダクトを作る際に必要な技術の特許を取得しておけば、小さな企業でも大企業と戦えます。だからこそ、スタートアップにはアイデアを権利化する「特許意識」が重要なんです。

機体構造設計技術で目指すのは、メーカーではなくライセンサー

__ではいよいよ伺いますが、田路さんが可能性を感じた「機体構造設計」とはどのような仕組みなのでしょうか。

ひとことで言えば、機体が傾いても荷物が傾かない技術です。

ドローンは通常、飛行部(プロペラ、モーター、アーム)と搭載部(カメラや荷物等)の部分が一体になっています。当社の「機体構造設計技術」とは、飛行部と搭載部を物理的に切り離す「分離独立構造」で、機体を安定に保つ技術です。

従来は、機体が傾くと重心が変化するため、一部のモーターにばかり負荷がかかる構造になっていました。しかし、飛行部と搭載部が分離されたドローンなら、機体が傾いても重心が変化しません。すると、飛行中のモーターにかかる負荷を均一化できるので、機体が安定するだけでなく、エネルギー効率も改善します。

この技術は、ドローン業界最大手であるDJI社ですら持っていません。私がドローン産業に参入した2017年、既にドローン業界はDJI社の独占状態でした。すでに趨勢は決したと思われるなか、DJI社が唯一手を出していなかったのが「物流」でした。

DJI社は、空撮機体に特化した会社です。すなわち、機体にカメラを搭載し、ホバリングさせる技術においては敵うべくもありません。しかし、物流に必要なのは荷物を安定的に移動させる技術であって、カメラをホバリングさせる技術ではありません。この違いこそが、我々が業界最大手であるDJIに勝てるポイントではないかと考え、当社の「機体構造設計技術」に注目したんです。


__そのうえで御社は、「機体構造設計技術」を導入したドローンメーカーを目指すのではなく、ライセンサーのポジションを選択されました。メーカーにならなかったのは、なぜでしょうか?

これも、大企業との兼ね合いがあります。というのは、メーカーとして技術力競争に巻き込まれれば、結局はヒト・モノ・カネの争いになり、大企業に負けてしまうと考えたためです。

市場が確立していない中、無駄な争いに疲弊するくらいなら、自社が獲得した特許を機体メーカーにどんどんライセンスし、技術の流通スピードを上げていくビジネスモデルの方が、無駄がなく効率的です。

ドローン市場で当社の技術を搭載したドローンが普及すれば、「これが物流ドローンの正しい形です」とみんなが認めるようになります。そこで組んだのが、日本の国産ドローンメーカーで、唯一上場しているACSL社です。ACSL社と共同で開発した物流専用ドローン「AirTruck」は、当社の機体構造設計技術を搭載し、さらに前傾飛行時に空気抵抗を最小化する形状を取り入れています。

ACSL社がAirTruckで実績を上げていけば、「物流のドローンはこれ」という一つの正解ができ、他のドローンメーカーも追随するようになるでしょう。そして、この形のドローンを作るには、私たちの特許技術が絶対に必要になるのです。

ラーメンの汁さえこぼさず運ぶ。フードデリバリー革命への第一歩

__御社のこれまでの実績で、印象的なものを教えてください。

まずは小菅村に作った拠点「ドローンデポ®」が挙げられます。

【事例】山梨県小菅村 | NEXT DELIVERY

小菅村が抱える課題 小菅村は人口約700名(約330世帯)、高齢者率45.9%(2020年10月時点)であり、市街地から離れた山奥に位置する過疎地域です。村内にはコンビニも無く小型商店が1店舗あるのみで、スーパーに買い物に行くには、車で片道

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セイノーHDとエアロネクスト、ドローン配送を含む新スマート物流の社会実装を進める山梨県小菅村で2つのSkyHub®サービスを11月1日から本格スタート

株式会社エアロネクストのプレスリリース(2021年11月8日 10時00分)セイノーHDとエアロネクスト、ドローン配送を含む新スマート物流の社会実装を進める山梨県小菅村で2つのSkyHub®サービスを11月1日から本格スタート

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2020年9月、ドローンを飛ばす飛行場を作るために小菅村を訪問しました。そこで村長と話した際に、村の高齢者が買い物に困っているという話をうかがったんです。

小菅村は人口700人弱、殆どが高齢者の過疎化した村です。村にあった商店はどんどん減り、店主も高齢化しています。村民は、週末に若夫婦に頼んで、近くの町のスーパーまで往復2時間かけて通わなければなりません。

このとき初めて、私の中で過疎の課題とドローンサービスがうまく繋がりました。

しかし、ドローンで荷物を最初から最後まで運ぶというのは到底無理な話です。そこで思い至ったのが、運送会社と連携して荷物を共同配送するモデルです。村の入り口に拠点を設け、運送会社にはそこまで運んでもらい、個宅へはドローンで運ぶリレー方式を取り入れたんです。

起点はセイノーホールディングス社と立ち上げたプロジェクトでしたが、その後、地域の運送会社からも次々と声がかかりました。今までは1個2個の荷物のために配達員が2時間かけて村内を走り回っていたところをドローンにお任せできるわけですから、彼らとしてもメリットが大きかったのです。

このモデルには全国の自治体から問い合わせや視察の申し込みが殺到し、岸田内閣のデジタル田園都市国家構想の代表事例としても選出されました。

3/22開催「デジタル田園都市国家構想を実現する新スマート物流シンポジウム」でSkyHub(R)の取組みを先進事例として紹介

株式会社エアロネクストのプレスリリース(2022年3月25日 10時00分)3/22開催「デジタル田園都市国家構想を実現する新スマート物流シンポジウム」でSkyHub(R)の取組みを先進事例として紹介

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__物流の始点から終点まで全てドローンで担うのではなく、従来の陸送とリレー方式で運ぶというのは面白い取り組みですね。陸送とドローンを組み合わせることは、最初から想定していたのでしょうか?

そうです。当社はまず、何をやったら市場で「負けて」しまうのかを考えました。そうしてたどり着いた結論は、「自分で荷物を集めにいったら勝てない」(規模と地力に勝る運送会社に負けてしまう)でした。

ドローンの本質的価値は、オンデマンドデリバリーにあります。つまり、今運んでほしいものをすぐ運ぶということです。そしてこれを最も体現しているサービスがフードデリバリーだと考えました。

そこで最初に取り組んだのが、横須賀市の事例です。この事例では、病院で働く医療従事者に向けて、ドローンによるフードデリバリーを実施しました。


当時、コロナ禍で医療関係者は疲弊していました。1日に20時間以上も働く日々が続くのに、食堂が開いておらず、食べるものがない。これはどうにかしなければならないと考えた私たちは、出前館さんのアプリで吉野家さんの牛丼弁当を注文してもらい、ドローンで病院へ運びました。この試みは、とても喜んでいただけました。

なお、出前館さんとはその後、業務提携して、将来的にデリバリーをドローンで無人化していく計画も発表しました。

出前館とエアロネクスト、ドローンを活用した新しい商品流通の 仕組みの構築に向けて業務提携〜空輸と陸送のハイブリッドによるデリバリーサービスの地域導入を共同で推進〜 | エアロネクスト - Aeronext| ドローン・アーキテクチャー研究所

株式会社出前館(東京都渋谷区、代表取締役社長:藤井 英雄、以下「出前館」)と株式会社エアロネクスト(東京都渋谷区、代表取締役CEO:田路 圭輔、以下「エアロネクスト」)は、2022年12月29日(木)にドローンを活用した新しい商品流通の仕組

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__重心制御で傾かないドローンなら、汁気の多いものでも安定的に運べるのですね。

はい。フードデリバリーこそ、当社のドローンにアドバンテージが発揮しやすいと私たちは考えています。当社のドローンの機体構造設計技術なら、搭載部が常に水平を保つので、ラーメンの汁さえもこぼさずに運べます。これはフードデリバリーに革命をもたらすでしょう。

ドローンは、「物流2024年問題」へのソリューションになる

__御社が抱く、ドローン事業への展望を教えてください。

当社は、ドローン事業の未来だけを見据えているわけではありません。当社がドローンによって実現したいのは、「新スマート物流」です。

すでにいろいろなニュースが流れてくるとおり、2024年には、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が制限されること等によって物流クライシスが起こるのではないかと懸念されています。今や、モノを頼めば家まで届くのは当たり前。そんな社会インフラと化した物流が危機に瀕するなかで、ドローンは有効な打ち手となりうるのではないかとにらんでいます。

F-logi  

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__「ドローン市場の拡大」をゴールに据えるのではなく、社会課題を解決するツールとして、おのずとドローンが広がっていくだろう、と捉えているのですね。

はい。物流クライシスが深刻化すれば、最初にひずみが来るのは過疎地域でしょう。しかしその課題をこれまでの物流会社だけで解決するのは難しい。市場が小さいため、参入しても儲からないと皆さんは考えるからです。

しかし、我々にはドローンがあります。ドローンという、最終的に物流を無人化できるソリューションを持っている会社なら、この物流課題をクリアできるかもしれません。

日本のドローン産業は、未だ黎明期です。しかし、ドローンの可能性に気づけば、大手が参入してきます。そして大手が参入すれば、産業は成熟し、技術も磨かれていくでしょう。そのために今、我々が果たすべき役割は、ドローンが地域の社会課題解決のソリューションになると証明すること。これからもさまざまな取り組みを通じて、新スマート物流の実現をめざしていきます。
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