(取材)エアロセンス株式会社代表・佐部浩太郎|国産機初のVTOL型ドローンで災害対策のDXに挑む

地震や台風、豪雨など、残念ながら日本は世界でも災害が多い国として知られています。自然災害による被害を最小限に抑えるためには、日ごろからの設備点検や、災害時の素早い状況確認が欠かせません。

しかし、点検や状況確認は広範囲に及び、ときには人が足を踏み入れにくい場所もあります。そんなときのソリューションとして今期待されているのが、ドローンです。

エアロセンス株式会社代表・佐部浩太郎氏は、かつてソニーでエンターテインメントロボット「アイボ」を開発した、AIやロボティクスの第一人者です。

技術開発への情熱をもう一度呼び起こし、空飛ぶロボットの開発に乗り出した佐部氏に、日本の災害対策をDXするドローンの開発と活用、そして未来への展望について、お話をうかがいました。

エアロセンス株式会社代表 佐部浩太郎氏

人間にできないことの実現こそ、世界を変えるソリューションになる

__御社は2015年8月創業とのことですが、創業に至るまでにはどんなストーリーがあったのでしょうか?

弊社はもともとソニー株式会社と株式会社ZMPとの合弁会社として設立されました。単なる要素技術ではなく、新しい産業を作り出すような新規事業を立ち上げるために、「ドローン開発」事業を始めることになったのです。

私自身、新しい産業を作り出す技術の開発と聞き、昔「アイボ」の開発に携わっていた頃の気持ちが蘇ってきました。当時のロボット技術では、アイボを「エンターテインメントロボット」にするしかなかった。でも、ドローンは人の役に立ちます。今度こそ、本当に人の役に立つロボットを作りたいという夢を抱いて、研究開発に乗り出しました。

2015年当時のドローン市場は、「おもちゃのヘリなんて、誰が何のために使うの?」と言われるような状態で、期待度も低かった。しかし、人ができないことをできるようにするのがテクノロジーです。ドローンは、「空を飛ぶ」という、明らかに人間にできない技術を持っています。

「人間の代わりに空を飛ぶロボット」、これは必ず身近な技術となると確信して、エアロセンスを立ち上げました。


__「空飛ぶロボット」の技術として、最初はどのような事業から取り組まれたのでしょうか?

当初は土木建築に特化し、測量に関する課題をドローンで解決するサービスから提供を開始しました。

ご存じのように、「測量」は人が何日もかけて行う大仕事です。人が地面に立ち、少しずつ起点を変えながら1点1点計測します。一方写真測量は空中からまとめて撮影し、膨大な量の画像をコンピュータで解析をして3次元データを作成するんです。
圧倒的な作業効率と情報量。
だからこそ、ここにドローンによるソリューションを入れたら、絶対に普及すると確信しました。

しかし、実際にやってみると意外と難しい。ドローンが飛んで写真を撮り、それを画像解析し、3次元データにするまではできるのですが、それが現実世界の位置と結びついていない。 結局地上に目印を置かざるを得ず、これなら今までと全く変わらないと気づきました。

そこで、空撮中にマーカーの位置を自動計測できる、対空標識「エアロボマーカー」という技術を開発しました。 これでようやく、測量士の確認が不要となり、測量という作業を圧倒的に省力化することに成功したんです。

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ただ現場にドローンを入れればいいわけではなく、それぞれの現場に必要な技術やシステムがあるのだとわかったことは、 それ以降のドローン開発における原体験となりました。

速く、長く、もっと遠くへ。VTOL型ドローン「エアロボウイング」

VTOL型ドローン「エアロボウイング」


__写真を見ると、御社のドローンは他社の物に比べ、とても特徴的な形をしています。この形を選んだのはなぜでしょうか?

設立当初から意識していたのは、ドローンの世界シェア最大手、DJI社との差別化です。DJI社のドローンは全てマルチコプター型。 世界のなかでもこのマルチコプター型が大多数を占めています。

そこで、弊社では戦略的に競合他社と差別化できる、VTOL型を選びました。もちろんVTOL型(飛行機型)はマルチコプター型と比べ、開発が非常に難しい。しかしだからこそ参入障壁が高くなり、他社がなかなか真似できないというメリットがあります。おかげでVTOL型ドローン「エアロボウイングの商品化までには、5年という歳月を費やしました。


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__ドローンをVTOL型にすることのメリットはなんですか?

まずはバッテリーが長持ちすることです。見ての通り、マルチコプターを飛ばすためには常に高速でプロペラを回転させ続けなければなりません。これだと非常に燃費が悪いんです。

しかし、飛行機型なら前に進む力がかかれば紙飛行機の要領で飛び続けられるので、エネルギー効率がとってもいい。時速70㎞で40分は飛び続けられます。

ただし飛行機型には、空中に飛び立つまでの加速のため、滑走路が必要というデメリットがありました。そのため、マルチコプター型のよいところを取り入れて、飛行機型のドローンにもプロペラを付けてVTOL型にしました。

それによって、プロペラを回してまずは上空に飛び立った後に、上空を滑走路のようにして加速できるようにしたのです。これにより、滑走路不要で長時間飛べるドローンが可能になりました。

セキュリティ上の課題を解決する「国産ドローン」

__これまでどのような実証実験を経て、どのような知見を得られたのでしょうか?

弊社のVTOL型ドローンには、マルチコプター型と比べて低燃費で長く飛べ、スピードも速いという特長があります。その特長を活かし、損保会社さまと共同して球磨川で水災の損害調査を行いました。

熊本県の球磨川周辺では、2020年の熊本豪雨により大規模な氾濫が起こり、多くの方が被災されました。

川の氾濫による被災家屋の調査は、広範囲に及びます。それを通常のマルチコプター型ドローンで調査しようとすると、1ヵ月以上の撮影期間が必要です。それを弊社のVTOL型ドローン「エアロボウイング」を導入することで、数日程度で撮影を終えることができ、より迅速な保険金支払いが可能となりました。

エアロボウイングは目視内飛行という条件下で800ヘクタールという広大な広さを、たった4回のフライトで撮影できます。これがレベル4で目視外飛行が可能になれば、1回か2回程度で調査が完了するでしょう。


また、2023年1月には、首都高速道路の点検を実施しました。首都高の点検には、長距離フライトが条件となります。弊社のエアロボウイングは最長50㎞の飛行が可能です。


調査では、弊社のドローンが長距離・広範囲にわたる点検や監視が必要になる高速道路や河川、堤防、送電線などに最適であることを、改めて確認できました。

飛行距離が長くなるほどセキュリティ上の懸念が強くなるため、弊社のドローンは全て自社設計で、国内工場にて製造しております。

__御社が国産のドローンにこだわる理由は、公共のニーズに応えるためなのですね。

はい。特に広範囲の調査になるほど、公共性は高くなります。また、国産ドローンは行政ニーズにもマッチしています。行政の建造物を海外製のドローンで調査することには、セキュリティ上の問題もあるでしょう。

また、海外製の機体はサポート面でも不安があります。やはり空を飛ぶ物なので、操縦者としてはしっかりメンテナンスをしておきたいところでしょう。しかし、海外製ドローンの場合は、不具合が発生した際には製造した国に送らなければならないという面倒な事態が発生してしまうのです。

「課題大国・日本」だからこそ、世界に先駆けた技術開発を目指す

__ドローン事業を実施してきて、現在どのような点に課題を抱えていらっしゃいますか?

最も大きな課題となるのは「通信」の問題でしょう。通信がなければ、ドローンを飛ばす手段がありません。

ドローンは人が行けないような場所にこそニーズがあります。しかし、人が行けない場所には通常通信の基地局がありません。特に弊社のドローンはスピードが出るだけに、通信が途切れやすくなってしまいます。

ただし、希望もあります。 通信の基地局は山々の尾根に設置されていることが多く、地上から「電波が悪い」と感じる場所でも、上空の尾根近くにドローンを飛ばすには問題がないことがよくあるんです。

これは、ドローンの運用を繰り返すうちにだんだんわかってきたことですね。

__御社は、今後ドローンの活用のため、どのように事業を成長させ、社会にどのような変革をもたらしたいと考えていますか?

まずは国産のドローンメーカーとして、行政ニーズをしっかり捉え、お役に立ち、日本の隅々で弊社のドローンを使っていただけるようになりたいですね。

日本は残念ながら、台風、地震、大雨など世界的に見て多くの課題を抱えた国です。 裏を返せば、課題大国という特徴を活かし、世界に先駆けて災害に対するソリューションを開発できる国でもあるのです。

日本で通用する技術は、世界でも通用します。技術を必要とする世界中の国の方々に、私たちのソリューションを届けていきたいと思っています。


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