(取材)通信大手の強みを生かして「ドローンが飛んで当たり前」の世界をつくる!KDDIスマートドローン株式会社社長博野雅文氏

これまで日本のドローン産業は、スタートアップが市場の盛り上がりをけん引していました。そのような中にあって、近年バイル通信大手企業の強みを生かして目覚ましい実績を挙げているのがKDDIスマートドローン株式会社です。

大手通信事業者だからこその役割やいま挑戦している事例について、同社代表取締役社長の博野雅文氏に伺いました。

KDDIスマートドローン株式会社 代表取締役社長 博野雅文氏
(画像提供:KDDIスマートドローン株式会社)


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通信大手企業の強みを生かす 

――はじめに、KDDIという大手企業がドローン業界に参入した経緯をご紹介いただけますでしょうか。
 
弊社の設立は2022年ですが、KDDIがドローン業界に参入したのは2016年。実は結構歴史があるんです。

当時はスマートフォンの浸透が一巡して成長が鈍化し、スマホ以外に通信を活用して社会に新しい価値を提供できるものはないかと社内で検討していました。そこで注目したのが、ちょうどそのころ黎明期にあったドローンです。
 
制度面からみても、2016年は上空の通信にまつわる制度が改正されたターニングポイントとなる年でした。それまでのモバイル通信は陸上でのみ使用が許可されていたのですが、携帯電話をドローンに搭載して上空で使用するニーズが出てきたため、2016年7月に上空での試験利用が解禁されたんです。これによって通信とドローンを掛け合わせた実証実験やサービス展開が可能になりました。
 
――改めて、御社がドローン業界でどのような強みを生かせるのか、教えてください。 
 
たとえば、Wi-Fiを使うに当たっては5GHzや2.4GHzといった周波数をよく聞くと思いますが、これはいろいろなデバイスで使用できる分、いろいろな雑音が入ってしまうんです。一方、携帯事業者には5GHzや2.4GHz とは異なった携帯専用の電波が割り当てられているので、雑音の入りにくい電波を使用できるという強みがあります。
 
また、12月にレベル4飛行が解禁されると、ドローンがいまどういう状態で飛んでいるのかを常に遠隔で確認できるようにしておかなければなりません。そのためには、スムーズに伝送するための通信路が必要となります。そこで、KDDIが保有する通信網の重要性がより増しているのです。
 
――ドローンの状態を常に確認するには、どのような難しさがあるのでしょうか。
 

上空では電波を遮るものがないので、上空で行われた通信は地上を含む広範囲に届きやすいため、地上の携帯電話の通信に影響を及ぼす可能性があり、携帯電話のユーザーに影響を及ぼさないよう確実に制御することが求められています。
 
これからドローンがますます社会で一般化していくためには、ドローンがインターネットにつながることが当たり前になっている社会をつくりあげなくてはなりません。難しいですが、非常に重要な部分ですので、蓄積してきたノウハウを活かして貢献していきたいですね。

高齢者に物資を届ける物流サービスを本格展開 

――ドローンを活用した事例を教えていただけますでしょうか。
 
2016年に弊社が初めてモバイル通信を用いた完全自律の飛行実験を行ったのが新潟県山古志村です。同村では山に人工池を作り、その池で鯉の養殖をしているのですが、害虫の除去のために薬剤を散布する必要がありました。これまでは人がボートに乗って薬剤を散布していたところ、ドローンでを使えばもっと効率を高められるはずだと考えたのです。
 
そこで、池から約2.6km離れた場所からドローンを飛ばして薬剤を散布し、自動で戻ってくるという実証実験を実施。総距離約6.3km、高低差が100mある条件下においても、成功を収めることができました。



この成功を受けて、物流や点検、測量といった様々な領域で実証実験の場を広げていきました。その中でも、モバイルの「安定した電波」の特性は物流分野での長距離飛行と相性がいいと判断し、2020年から長野県伊那市においてドローン物流サービス「ゆうあいマーケット」を始めることになりました。自治体運営による本格的なドローン配送サービスの国内初の事例です。
 
もともと伊那市は中山間地域にあり、高齢者の方も多く住んでおられるため、日常の買い物に困っている住民が多いという課題がありました。そこで弊社は、ケーブルテレビの加入者率の高さに着目し、ケーブルテレビ事業者と協働してケーブルテレビの画面から地元のスーパーの商品を注文できるシステムを構築。生鮮食品から日用品まで、午前中に注文した商品を午後にはドローンが運んできてくれるサービスを提供しています。

(画像提供:KDDIスマートドローン株式会社)

 
この事業では5kgほどの荷物を積載することが可能な大型のドローンを活用しており、同市内に流れる二つの川の上空を飛行経路としているので落下リスクも抑えられます。住民の方々にも、伊那市が丁寧に説明を行ってくれたおかげでスムーズに受け入れていただけました。


物流では、送り手の課題受け手の課題の双方を考えなければなりません。

今回の場合、受け手はなかなか買い物に行けない高齢者なので、課題がわかりやすいです。一方、荷物の送り手である販売側にも隠れた課題があることはあまり知られていない。というのは、いまは重要な買い物手段として移動販売車が市内を走っているのですが、その運転手も高齢化が進んでいるんです。

ドローンを活用すれば、長距離運転や配送物の低減といった運転手の負担も減らすことができます。こうして送り手・受け手双方の課題を一挙に解決することで、ドローン物流を「便利だな」と思ってくれる人が増え、サービスとして定着・普及する可能性を広げられると考えています。
 
――興味深いです。ドローンは各個人宅まで商品を運ぶのでしょうか。 
 
いえ。ゆうあいマーケットでは、注文された商品を自宅の最寄りの公民館まで配送す形を取っています。足が悪いといった理由で公民館まで取りに来られないような方には、地元のボランティアの方に公民館からその方の家まで届けてもらっており、ドローンを介した地元のコミュニケーションの活性化の役割も担っています。
 
――すでにこの取り組みが実証実験ではなくサービス化しているのはすごいですね。実際にサービス展開したとき、どういった点に課題を感じられたのでしょうか。 
 
やはりドローン物流は実証実験はできても、導入するとなるとなかなかハードルが高いんです。その理由として大きいのが費用対効果。現状はまだコストが高くついてしまい、市の補助等がなければサービスとして成り立ちづらい。
 
コストも含めてよりワークしていくようにするためには、一人のオペレーターが複数の機体を運用して、より多くの物資を運べるようにしなければなりません。ほかにもドローンが着陸地点で自動で物資を降ろして離陸地点に戻ってくる機能も必要ですが、この機能自体はすでに開発済み。いままさにこの機能を活用し、日本航空(JAL)と奄美大島での物流の実装実験を始めたところです。

(画像提供:KDDIスマートドローン株式会社)



奄美大島には離島が多いのですが、輸送手段がフェリーに限られてしまっている現状があります。波が高いと欠航になり、物流が滞ってしまうので、ドローンが求められているわけです。
 
6月から毎月実験を行っており、2023年度の本格的な運用開始を目指しています。今後実験結果を基に、トラックや船などのいろいろな配送手段を組み合わせながら最適な輸送システムを構築し、離島に住む人たちがより安心して暮らせる社会をつくりあげていきたいですね。
 
――住民に役に立つサービスを展開されておられるのですね。
 
そうですね。他にも、「ドローンがモノを運ぶ」という非日常さを価値として提供しているサービスもあります。
 
たとえば昨年11月には、JR東日本と都内の竹芝エリアでドローンを使って昼食を運ぶサービスの実証実験を実施。静岡県熱海市のキャンプ場では、7月からドローンが朝食を運んでくれるサービスを提供しています。輸送距離としては長くなく、徒歩で提供しても時間としてはドローンで運ぶのとそう変わりませんが、こういった経験をできるということが特に家族連れなどに好評です。


――いろいろな取り組みをされておられるのですね。では、直近始められた事例はどのようなものなのでしょうか。 
 
今年度、茨城県つくば市で複数台のドローンと自動配送ロボットを組み合わせて PCR検体をドローンで運ぶ実証実験を始めます。このプロジェクトではリアルメタバースを活用してドローンの飛行経路を可視化することで、地域住民が「ドローンはこの時間にこの道を飛ぶんだ」と認識することができます。


 やはり住民にとっては、「ドローンが落下してくるんじゃないか」と不安を覚えてしまうこともあるかと思います。そこで飛行経路を認識できるようにすることで不安感を低下させ、ドローンに対する社会的な受容性を高めていくことを目指しています。

「ドローンが当たり前に飛ぶ社会」の実現に向けて 

――現状のドローン業界にはどのような課題があると認識しておられるのでしょうか。
 
まずは社会受容性ですね。いまはまだ、ドローンはもの珍しいものとして認識されていますが、最終的に社会実装されていくためには「ドローンが当たり前の社会」をつくっていくことが必要。その目標に向けて、事業者としては盤石な運航体制を構築し、実証実験やサービスを重ねて「ドローンは安全なんだ」と思ってもらえるように実績を積み重ねていく必要があります。
 
そのためにはパートナーとの連携も必要不可欠です。弊社はメーカーではないので、機体を作ることはできません。そのため、国内の有力な機体メーカーであるプロドローンやACSLと提携しています。また、それ以外にも気象の分野ではウェザーニューズと協働していますし、安心・安全な運航体制構築のために日本航空とも業務提携しています。

(画像提供:KDDIスマートドローン株式会社)


また、伊那市のように、自治体と一緒になって住民の理解と浸透を図っていく必要もあります。弊社が努力しただけでは、業界を盛り上げていくことはできません。プラットフォームをつくっていく上で、われわれが持っていない技術を持っているパートナーと一緒に取り組んでいく必要がありますね。
 
――KDDIというバックボーンを持つ御社は、そこでどのような役割を果たされるのでしょうか。 
 
いままでドローン業界はベンチャー企業が引っ張ってきました。しかし、レベル4飛行が解禁されると、より社会のインフラとして認知されていくはずですし、そうなっていかなければいけない。そのような場面では、やはり弊社のような通信事業者がしっかりパートナーと連携しながらインフラを構築していくことは重要だと考えています。
 
弊社には通信技術のほかにも、お客様の情報の取り扱いやサービスを提供し続ける運用の継続性といったノウハウがあります。「ドローンが飛んで当たり前」「ドローンがインターネットにつながって当たり前」の世界の構築に向け、弊社が貢献できることは多いはずです。
 
また弊社は4月に分社化しており「スタートアップ」としての顔も持ちます。大手企業の強みとスタートアップとしての機動性の両面を巧みに使いわけ、業界全体の連携を促進し、ドローン産業を盛り上げていきたいですね。


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