(取材)Skydio合同会社代表・柿島英和氏|AI × 自律飛行ドローンで建設・点検現場をDX
この記事では、Skydio合同会社の柿島英和代表に、同社が強みとする自律飛行技術の概要や国内での導入事例、今後の展望などをお聞きしました。

Skydio合同会社 日本代表 柿島 英和氏
自然災害が多く、人手不足が慢性化した日本にドローンで希望を
ーーSkydioはアメリカで2014年に創業し、自律型ドローンをローンチされたとのことですが、当時の状況や背景について教えてください。Skydioは現在のCEOとCTO、エンジニアの3人で創立した会社です。もともと彼らはマサチューセッツ工科大学(MIT)で、GPSに依存しない自律型ドローンの技術の第一人者として研究開発に従事していました。その後、Googleのドローン配送プロジェクト「Project Wing」立ち上げへの参画を経て創業に至っています。
ドローンは、人間が行けない場所や危険な場所に行ける、有用性の高いロボットです。われわれはそんなドローン関連技術のなかでも自律飛行技術を強みとしており、「自律飛行により、世界をより生産的に、よりクリエイティブに、そしてより安全にする(Make the world more productive, creative, and safe with autonomous flights)」をミッションに掲げて取り組んでいます。

ーー2020年には、日本に同社初の海外法人「Skydio合同会社」が設立されました。こちらはどのような位置づけだったのでしょうか。
背景にあるのは、日本でのさまざまな課題にわれわれのソリューションを提供できるのではないか、マーケットがあるのではないか、という予測です。日本はほかの国と比べて自然災害が多い国です。また、高度経済成長期に作られたインフラも老朽化しているのに加え、慢性的な人手不足も深刻化しています。
そのため保守点検業務に効率化が求められており、建設現場での生産性向上も急務となっているのが現状です。そこで、生産的でクリエイティブ、安全な解決策として自律飛行技術を活用し、貢献できるのではないかと考えました。
ーー日本におけるマーケットを開拓するにあたり、ハードルはありましたか。
もっとも大きなハードルは、新しいテクノロジーに対する受容性ですね。アメリカ、特に西海岸では「新しい技術をどんどん磨いて豊かに使っていこう」という雰囲気がありますが、日本のユーザーは慎重で、どちらかといえば新しい技術を警戒する傾向にあります。今でこそドローンをご存知の方も増えてきましたが、以前はドローンを飛ばすだけでも通報されてしまうことがありました。
この風土はレギュレーション(制限)のあり方にも関わっています。というのも、日本ではルールを作ってまず抑止し、リスクを丁寧に減らしたうえでルールを変えていく流れ。対するアメリカでは「リスクはあって当たり前」という思想が根幹にあるので、規制のあり方もずいぶん異なるんです。どちらが良いと一概に言い切れるものではありませんが、事実として、このような違いを感じることはあります。

AI×自律飛行で、GPSの届かない場所でも最大限に活躍
ーーではいよいよ、Skydioの自律飛行技術について教えてください。われわれの自律飛行技術では、ドローンに搭載された6個のナビゲーションカメラが周囲の状況を確認し、地図のようなものを自分で作りながら飛行します。そのうえで障害物を避けたり、動いている物の動きを予測して回避したりするなど、機体を自律的に制御することが可能です。
わかりやすく言えば、AIを用いてドローン側でさまざまな分析を行い、クラッシュのリスクを抑えて安全に飛行する仕組みで、ほかにはない非常に優れた技術として高い評価を受けています。
ビジョンで全てを整理しているので、GPSが届かない室内や強い電磁場がある場所でも安定して飛行し、点検業務などを行なえるのが大きなメリットです。また、従来のマニュアルのドローンではパイロットの技量が必要となる部分が大きいのですが、われわれのドローンは操縦に慣れていない人でも壁などにぶつけるリスクが抑えられており、比較的簡単に操作できるので、パイロットの育成にかかる時間や手間を大きく削減できます。
効率化という面でも優れていて、例えば3Dデジタルモデルを作りたい場合、対象物を定義すればドローンが自分で飛行ルートを決め、大きな立体構造物でも数十分で数百枚の写真を撮ってきます。人間がやるよりも正確に網羅的に写真を撮れるので、点検のエビデンスとしても使えますし、別のソフトウェアで応用してシミュレーションをかけることもできます。
3Dだけではなく、室内をキャプチャーすることも可能です。昨年12月に発表した「Skydio Dock」というドローンポートを用いれば、遠隔からパソコンなどを使って操作することもできますね。
ーー強みである自律飛行技術について、他社製品との違いを教えていただけますか。
そもそも、AIとオートノマス(自律飛行技術)を組み合わせている製品はほかにありません。自律飛行を謳っている製品はありますが、自律飛行というよりも自動飛行というべきものであったり、障害物の前で止まることはできても、避けるのが難しいものが多いです。一方でわれわれの技術では、周りに何があるかを理解して避けたり、動いている障害物を予測したりできます。
例えば、建設現場などでは大きな重機が行き来していたり、日によって重機の場所が変わったりしますが、そのような場合でも柔軟にドローン自身が判断して対処できるシステムです。
ーーまさに臨機応変な対応ができるのですね。続いて、先ほどのお話に登場した「Skydio Dock」について、概要やメリットを教えてください。
「Skydio Dock」は、ドローンの充電と温度管理を行うためのものです。
ドローンを運用するにあたり、ネックになりがちなのがバッテリーの持ちです。長時間運用する場合、バッテリーを取り替えながら運用する必要があり、なかなか手間がかかります。
「Skydio Dock」を点検場所の近くに置いておけば、わざわざバッテリーを交換せずとも、ドローンが勝手に帰還して充電するだけでなく、リモートで飛ばすこともできます。ルートを設定しておけば、日々の点検業務や進捗管理も手間要らずで実施できます。
たとえば大型の建設現場などでは、作業前の安全管理だけでも莫大な時間と手間がかかるのがふつうです。しかし「Skydio Dock」とSkydioの機体があれば、ものの数十分で見回りができ、安全管理が完了します。お客様からは「効率化や迅速化に大きくつながる」とたいへんご好評をいただいています。
ーーハード面の強みや特長をお聞かせいただきましたが、ソフト面ではどのような強みがあるのでしょうか。
ユーザーの声を常にヒアリングし、エンジニアにフィードバックしたうえで製品開発を進めている点です。ドローンはハードウェアですが、われわれはソフトウェアにも力を入れています。AIドリブンの自律飛行という分野で優秀なエンジニアが非常に多いので、ソフトウェアで解決できるところはスピーディーに対応可能です。
四半期に1回のシーズンごとに大きなアップデートを実施すると決めていますし、それ以外にもマイナーなアップデートがあればどんどん行っています。ソフトウェアの力で、製品をどんどんユーザーフレンドリーにしていくことが我々のこだわりです。

大林組・国内の電力会社ではすでに実用化。今後に向けてさらにユーザーの声を聞く
ーー実際の導入事例について、具体的にご紹介ください。Skydioのドローンは特に建設現場での利用が多く、事例の一つとしては大林組さんが挙げられます。大林組さんに限らない問題ですが、建設現場では人手不足が深刻化しており、工事の進捗管理などに非常に多くの時間を取られていたそうです。その課題を解決するためにDXを促進するなかで、一つのツールとして採用いただきました。
ドローンを活用しているのは建設現場の巡回業務で、非GPS環境での自律飛行技術や、3Dマッピング、2Dの平面地図を作成するソフトウェアなどを使って、これまではデータ取得が困難だった屋内現場の施工管理や状況記録などに役立てていただいています。
大林組さん以外にも、大手ゼネコンなどでの導入が増えていて、もはや建設現場でのドローン活用はマストになっていると感じますね。特に広い現場では、ドローンによる効率化は大きいのではないでしょうか。
Skydio合同会社のプレスリリース(2023年1月26日 10時00分)大林組、ドローンによる建設現場の自動巡回、進捗記録を実現する「Skydio Dock and Remote Ops.」の検証を実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000103582.html >
もう一つの事例として、国内のいくつかの電力会社では室内にSkydio Dockを設置して実証実験が始まっています。毎日の点検業務などにおいて省人化を図るために、ドローンで各種計器を見たり、定期的に点検したりと、さまざまなトライアルを進めています。実際にアメリカでは60以上の電力会社に採用いただき、送電線や鉄塔の点検に使っていただいていますね。
ーー利用者からはどのような点が好評ですか。
よくうかがうのは、やはり自律飛行技術が優れているので、ほかのドローンでクラッシュしてしまうようなところでも安心して運用できる点と、パイロットの育成に時間をかけずに簡単に操作できる点です。あとはリクエストに迅速に対応するという部分でも、ポジティブな声を非常に多く頂いています。
ーー未来に向けて、期待感の高まるお話をありがとうございます。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
われわれのドローンは小型で自律飛行を強みとしており、主に電力業界や建設業界といった、労働力不足などの課題が顕在化している場所にフォーカスしてきました。
そのうえで今後は、ユーザー様のお声を聞きながら、「自律飛行により、世界をより生産的に、よりクリエイティブに、そしてより安全にする(Make the world more productive,creative, and safe with autonomous flights)」というミッションにマッチするような課題をすべて解決していきたいですね。
Skydioはアメリカから始まり、現在は日本でも事業を行なっていますが、ほかの国からもSkydioのドローンを使いたいという要望を頂いています。今後はわれわれのリソースとタイミングを見極めながら、広く展開していきたいと考えています。

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