株式会社Liberaware|危険な場所の点検に特化した機種「IBIS」で作業者の安全を守る

株式会社Liberaware|危険な場所の点検に特化した機種「IBIS」で作業者の安全を守る
インフラの老朽化が進む日本。橋梁やトンネル、下水道など現代人の生活を支える重要な施設の多くは、定期的な点検が義務付けられています。しかしながら、そうした点検には莫大なコストと時間がかかり、時には危険を伴うこともあります。

そうした状況下で注目されているのが、ドローンを活用したインフラ管理です。なかでも株式会社Liberawareでは「狭くて、暗くて、危険な屋内空間」での点検・計測に特化したドローン「IBIS」シリーズを展開しており、販売だけではなくパイロットの派遣なども行っています。

Liberaware代表の閔弘圭氏に、IBISの強みや特長、今後の展望などを取材しました。

株式会社Liberaware 代表取締役 閔 弘圭氏

福島第一原発で痛感した「小型ドローンの必要性」

――まず、Liberawareの事業概要について教えてください。

閔:

当社では「日本のインフラを守る事業」を展開しています。ドローンの開発・販売や、下水道をはじめとするさまざまなインフラ施設の点検が主な事業です。ボイラーやバラストタンクなど、人が容易に立ち入れなかったり怪我などのリスクがあったりする場所の点検を主に担当しております。

原子力発電所関連の施設なども対象としており、こうした危険な場所に当社が開発した小型ドローンを活用して、効率的かつ安全に点検作業を実施しています。


――会社設立の経緯を教えてください。

閔:

会社設立のきっかけは、私が千葉大学の大学院生だった頃にさかのぼります。当時ドローンの研究会に所属していたのですが、そこでドローンを活用した東日本大震災後の福島第一原子力発電所の調査プロジェクトに関わる機会がありました。

プロジェクトには約2年半にわたって研究員として参加したのですが、当時のドローンは現在と比べてかなり大型で扱いも難しいものでした。実証実験では一応の成功を見ましたが、個人的にはちゃんとやり切れていないような、モヤモヤした気持ちが残っていたんです。

その後国産産業用ドローンを手掛けるACSL社にて、橋梁やトンネルなどさまざまなインフラプロジェクトに関わる中で、点検における課題の大きさを実感しました。

これらの経験を通じて、自分がこれまで培ってきた技術で社会の課題を解決したいという思いが強くなり、インフラ点検に特化したドローン事業を展開するべくLiberawareを創業しました。

東京証券取引所グロース市場への上場のお知らせ

株式会社Liberaware(本社:千葉県千葉市、代表取締役 閔 弘圭、以下「当社」)は、本日、2024年7月29日に東京証券取引所グロース市場へ上場いたしました。ここにご報告させていただくとともに、 [...]

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――ドローンはさまざまな場面で活用されていますが、なかでも貴社のドローンはインフラ点検に特化しているのですね。原子力発電所の点検にドローンを活用する利点は何でしょうか?

閔:

原子力発電所、特に福島第一原発のような被災した施設では、爆発によって大量のがれきが生じており、人間が上層部に登ることができません。そのような環境下では、飛行可能なドローンが最も自由に施設内部に入り込むことができるのです。

当時使用していたドローンは現在のものと比べてかなり大きく、約1メートルもありました。しかし、現地からの要望で「この大きさでは使いづらい」「落下時の事故リスクが高い」といった指摘を受け、小型化の必要性を強く感じました。

当社のIBISという小型ドローンは、重さわずか243グラム、サイズは20センチ角ほどです。このコンパクトさにより、非常に狭い空間でも対応できる範囲が格段に広がりました。

実際に福島第一原発でのドローンを使用した調査の様子を公開しているのですが、その映像を見ると、いかに狭い空間での作業が求められているかがよくわかります。


狭小空間点検ドローン「IBIS」が福島第一原子力発電所1号機原子炉格納容器内部調査に活用されました

株式会社Liberaware(千葉県千葉市、代表取締役 閔 弘圭、以下「当社」)が開発・製造する狭小空間点検ドローン「IBIS(アイビス)」が、東京電力ホールディングス株式会社(東京都千代田区、代表執 [...]

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防塵&放熱性と小回りに優れるIBISシリーズ

――IBISの特徴について、詳しく教えていただけますか。

閔:

原子力発電所での経験を源流としたIBISは、「暗くて、狭くて、危険な場所専用のドローン」というコンセプトで開発しました。

たとえば一般的なドローンのモーターは冷却のために穴が開いていますが、それでは製鉄所など粉塵の多い環境では使えません。そのため、モーターは日本電産と共同開発した密閉型のモデルを搭載し、防塵性能を高めています。

さらに、モーターを密閉することで生じる熱問題を解決するため、プロペラの素材には熱伝導性の高い樹脂を使用しています。また、IBISはドローンのボディとプロペラがラジエーターの役割を果たすよう設計されております。

小型化に伴い大きなLEDライトを搭載できないため、高感度カメラモジュールを採用し、暗所でも鮮明な映像が撮影できる点も大きな特徴ですね。

――最新モデルの「IBIS2」では、どのような改善を行ったのでしょうか。

閔:

「IBIS2」では、飛行時間の延長やカメラ性能の向上などの改善を行いました。特筆すべき新機能としては、機体がひっくり返っても自力で元の姿勢に戻せる「タートルモード」があります。

以前のモデルでは、ひっくり返ると復帰できずに諦めるしかありませんでした。しかしIBIS2は4方向すべてにプロペラを装備しているため、プロペラの回転方向を変えることで、どの方向に転倒しても自力で姿勢を立て直すことができます。


また初期モデルでは一体型の基盤を使用していましたが、今回は個別の基板を使用しているため、製造やメンテナンスがより容易になりました。また、40グラムまでのペイロード(追加搭載物)に対応しています。

充実のサポート体制に加え、機体の無償修理&公認パイロットの派遣で差別化を図る

――ドローン市場は国内外で競争が激しくなっていますが、貴社の強みは何でしょうか?

閔:

最大の強みは、迅速な修理とサポート体制です。海外の競合他社の製品が故障した場合はメーカー修理に3ヶ月ほどかかりますが、国内メーカーである当社は迅速に自社修理を完了し、現時点で全ての修理機体は5営業日以内に返送しております。

また当社のドローンは使用時間による定期的なメンテナンスの必要性が少なく、運用コストが低いのも特徴です。競合他社の製品では40時間ごとにモーター交換が必要なケースもありますが、我々の製品はそのような頻繁なメンテナンスは不要です。

製品の性能面でいえば、従来は壁面に足場を組んで点検を行わなければならなかった駅の天井裏の点検や、製鉄所で使われる炉の点検において活用できるのが大きいですね。

時間や労力を大きく削減できるうえ、高所などの危険な場所・場面の点検が安全かつ迅速にできるようになりました。導入実績も着実に積み上がってきており、これまで人が目視で確認する必要があったインフラ点検の在り方を大きく変えつつあると実感しています。

ダクト内部での点検の様子


――「IBIS」を利用するには、どのようなプランがありますか?

閔:

現在、Liberawareでは点検サービスプランとIBIS導入プラン(定額制レンタル)の2つのプランを提供しています。

インフラ点検には特殊な環境や安全教育が必要であり、誰でも簡単に行えるものではありません。そのため、当社公認のパイロットを派遣して点検・撮影を行うのが点検サービスプランです。

一方の導入プランでは、パイロットの派遣こそ行わないものの、「何度ドローンを壊してもOK」な無償修理サービスや、月1回〜開催の講習会を何度でも受講いただけるサービスを提供しています。

ここまで手厚く対応するのは、顧客に安心して使ってもらうことでより多くのデータを収集・解析し、技術の向上につなげたいと考えているためです。「ドローンを壊したり、建物を傷つけたりするのが怖い」というお客様も、ぜひ安心してご活用ください。

煙突内部での点検の様子

目指すのは「誰もが安全に暮らせる社会」

――今後は、どのような形でドローンの機能向上を図られるのでしょうか。

閔:

最終的には、ドローン運用の完全自動化を目指したいですね。

前述の通り、インフラの老朽化は確実に進行しているにもかかわらず、点検方法はあまり変わっていません。多くの場合は、昔ながらのマニュアルに基づいて人間が点検を行っています。

我々はこれを課題として事業に取り組んでいるわけですが、インフラ施設には、「短期間で環境が変わることはない」という特徴があります。しかも、車両の自動運転などとは違い、歩行者が飛び出してくるなどの突発的な事象も起こりづらいです。つまり、一度ドローン点検を取り入れさえすれば、次回以降はそのデータに基づき、自動化できる余地が大きいのです。

むろん、人間の判断が必要な場面は依然としてありますが、回数を重ねて収集したデータを解析すれば、自動化は十分に実現可能だと考えています。ノウハウも積みあがってきているので、これからはさらに歩みを加速させていきたいですね。


――最後に、未来へのチャレンジと社会へのインパクトについてお聞かせください。

閔:

我々の最終的な目標は、「誰もが安全に暮らせる社会を作る」ことです。そのためには、すべてのインフラ設備の状態を可視化しなければなりません。

このミッション実現に当たって、当社ではGoogle Mapsのように地図情報に紐づいてインフラ設備を管理できるプラットフォーム「TRANCITY」を開発しています。


Trancityにデータを蓄積していけば、身の回りの建物がいつ点検されたのか、地震が来たときに本当に大丈夫なのかといった情報の可視化が可能です。どの区画の点検が不十分なのかを一目でわかるようにしてインフラ管理のプラットフォーマーとしての役割を果たすことで、真の意味で安全な社会づくりができると考えています。

最近ではGoogleとの連携も進めており、Googleの3D地図上に我々が独自に収集したデータを統合する取り組みも行っています。「誰もが安心して暮らせる社会」という究極の目標に向けて、これからも設備管理・点検に取り組んでいきます。

国産の点検・測量ドローン開発【Liberaware】

株式会社Liberaware(本社:千葉県千葉市、代表取締役 閔 弘圭、以下「当社」)は、一般社団法人日本医療防災技術研究所及び一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の要請に基づき、9月 [...]

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