「目指すはドローン後進国からの脱却」ドローン議連・田中和徳前復興相に聞く

「目指すはドローン後進国からの脱却」 ドローン普及と今後の展開を語る  ドローン議連 会長代理 田中和徳前復興相
2015年、首相官邸にドローンが墜落した事件をきっかけに、無人航空機(ドローン)の存在が日本社会で大きく注目されました。衝撃を持って迎えられたこの事件は官民の関心を高め、これまでホビー用品として認識されてきたドローンが、使い方によっては兵器にも、新しい産業にもなりうることが知られるようになりました。

しかし、日本国内におけるドローンの技術開発や法整備、安全規制には多くの課題が残されていました。これを解決するため、2016年に設立されたのが無人航空機普及利用促進議員連盟(通称:ドローン議連)です。ドローン議連は、官民一体となったドローンの普及促進や関連産業の振興を目指し、活動を展開しています。

今回は、ドローン議連 会長代理である田中和徳元復興相に、議連の設立背景や現在の活動、そしてドローンの普及における課題と今後の展望について詳しく伺いました。空飛ぶクルマや水中ドローンなど、注目の最新事例についても伺います。

日本は「ドローン後進国」首相官邸事件の衝撃

——ドローン議連の設立背景と、主な目的は。

私がドローンの存在を強く認識するようになったのは、2015年4月22日のことでした。私のオフィスからは首相官邸が見えるのですが、屋上に大勢の人が集まり、ものものしい雰囲気だったんです。これこそが、のちにドローンと呼ばれる無人小型機が首相官邸に墜落した事件でした。

事件が大きく報道されたことにより、それまでホビー用品という認識だったドローンは、攻撃手段にもなりうるものとして警戒されるようになりました。しかしながら同時に、諸外国ではすでに利活用が進んでおり、国内でも撮影、農業、物流、測量などの様々な分野で活用が期待される存在であることが、我々国会議員にも伝わってまいりました。

正しい利活用を進めるためには、何らかのルールが必要になります。そこで行われたのが、2015年末の航空法改正とドローンの利用方法等に関する法制度の準備(飛行の許可・承認等)でした。これにより日本は、ドローンの本格的な利活用に向けて一歩を踏み出すこととなりました。

しかしながら一方で、機体性能などの技術開発面や操縦資格、安全規制などの各分野の環境整備については、課題が山積していることが明らかになりました。すでに日本は諸外国に大きく遅れをとっている、“ドローン後進国”であることがはっきりしてきたのです。


この状況を打開するためには、官民一体となって課題を解決していかなければいけない。そこで無人航空機の普及、あるいは有効活用、製作等関連産業の振興を進行するために、2016年に無人航空機普及利用促進議員連盟(通称ドローン議連)を設立いたしました。現在の会員数は衆議院58人、参議院25人で合計83人となっており、幅広い議員が関心を持って参加しています。

——現在進行中の主要な活動は。

発足以来、ドローン議連は各省庁のハブ役として産業を盛り上げる準備を整えてきました。いかんせんドローンは新しい存在でしたから、どこが関係省庁になりうるのかすら分からなかったんですね。課題の整理や細分化も、まったくの手探りでした。

こうした準備の時期を経て、現在ドローン議連では、民間事業者や関係省庁からドローンに関する立法案や政省令案、各役所の分担や政府の取り組みについて事前説明を受けたり、最新の動向や今後の施策の方向性等を聞き取ったり、諸外国の動きについての説明を受けたりしながら、問題点の指摘をする役割を果たしています。

同時に、次世代のモビリティとして注目される空飛ぶクルマやドローン航路を含めたデジタルライフラインについて、専門のプロジェクトチームを立ち上げ、関係省庁に対して政策提言を行っています。のちほどお話ししますが、ドローンには航空機タイプだけでなく、海中・海上ドローンと呼ばれる機体も多く、これらの活用可能性も含めて産業を盛り上げようとしているところです。

安全確保と参入しやすさのバランスが重要

——ドローンが一般化するにあたり、懸念されるリスクは。

ドローンが兵器として使われるリスクです。ドローンは軽量でスピードが速く、安価で組み立ても簡単ですが、これは悪意ある者にとっては非常に便利です。なぜなら、ばらばらの状態で持ち込み、現地で組み立てて映像を撮影したあとで、本体は使い捨てるような運用も可能だからです。私もドローンによって撮影された映像を見たことがありますが、ほんの小さな機体でも驚くほど高精細な動画が撮影でき、その危険性は看過できません。

さらには、ドローンの頭脳が高性能化することにより、攻撃手段としても有効性を増していくことが考えられます。SF映画などではよく、自律型の思考を搭載したロボットが人類に反抗するといったシナリオが描かれますが、これがフィクションではなくなる時代がすぐそこまで来ているのです。悪用を防ぎ、国民の安全を守るためには、防衛省を中心とした取り組みが欠かせないでしょう。

——ドローン普及における課題は。

ドローンが健全に普及していくためには、安全性が鍵となります。ひとたび大きな事故が起きれば、普及に向けた社会的コンセンサスを得ることが困難になるためです。たとえば空飛ぶクルマが墜落すればどうなるでしょうか。レベル4飛行となれば、人家の上空を飛行する可能性もあります。「ドローンは危ない」と忌避感情をもたれないためには、無事故であることを、関係者が徹底して守っていかなければなりません。

産業としての観点からは、ビジネスの可能性拡大と振興も非常に大事です。ドローンの分野は急拡大していますが、莫大な利益を出せている事業者は少ないのが実情です。「ドローンでひと儲けした」という会社が出てこない限り、市場は盛り上がりづらいでしょう。

ドローン普及において安全性が最優先であることは言うまでもありません。しかしながら安全確保のために運航者に過剰な負担を強いると、コストが増大し事業として成立しない問題があります。操縦者ライセンスについても同様で、取得費用や難易度が現実離れしてしまえば、誰もパイロットになってくれません。安全性と普及、このバランスを取りながら各方面でのユースケースを増加させることがきわめて重要といえるでしょう。

能登半島地震ではJUIDAが活躍

——ドローンの普及のために、具体的にはどのような取り組みを行なっていますか。

いろいろな取り組みをしておりますが、まずは各市町村などの基礎自治体、都道府県での行政業務執行上の活用促進が挙げられます。行政が先導してドローンを活用していくことで、ユースケースを増やそうという取り組みですね。

たとえば先般の議連総会では、石川県の副知事をオンラインで招き、能登半島地震におけるドローンの活用実態や今後の課題を聴取しました。この地震では鈴木真二先生率いる一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が大活躍され、素晴らしい実績を残されたと伺っています。

JUIDA  

【重要】能登半島地震に対するJUIDAの活動について[更新] | JUIDA

令和6年1月1日の能登半島地震の発生に際し、日本UAS産業振興協議会(以下JUIDA)は、1月4日に輪島市から要請を受け、1月6日よりブルーイノベーション株式会社と株式会社Liberaware(リベラウェア)の協力の元、 [...]

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ただし、こうした取り組みには課題もあります。現状、行政におけるドローン活用は実証実験や奉仕活動の意味合いが強く、活動に対する正しい評価や経費負担がなされていません。わかりやすく言えば、請求書をやりとりして支払いをする段階まで進めていないわけです。

ドローンを産業として盛り上げていくためには、適切な報酬が支払われ、ビジネスとして成り立つことが欠かせません。ここをどう整備するかが、今後の課題であると認識しています。

レベル3.5飛行でドローン物流を後押し。イノベーションを刺激する公的支援も

——ドローンに関する法律や規制の整備状況は。

簡単に状況を整理すると、2022年12月に改正航空法が施行され、レベル4飛行制度が創設されました。

無人航空機レベル4飛行ポータルサイト - 国土交通省

無人航空機レベル4飛行に関するポータルサイトです。より便利で快適な社会を実現するために、2022年12月5日から、無人航空機の新制度を開始します。これにより機体認証、無人航空機操縦者技能証明、運航に係るルールが整備され、現行のレベル1~3飛行に加え、有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行を指すレベル4飛行が可能となります。無人航空機の活用範囲の拡大に伴う各種制度の内容をご確認ください。

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さらには昨年12月、ドローン物流の事業化に向けてレベル3.5飛行制度を創設いたしました。レベル3.5というのは、一定の条件のもとであれば必要な立入管理措置を撤廃するというものです。これにより、従来は条件的に難しかったドローンでの物の輸送や広域に及ぶ点検作業などが容易になります。これにより、ドローンの事業かが一層加速することが期待されます。


ご存知のとおり、今般運送業界などは人手不足に悩まされています。ドローン配送が一般化すれば、課題解決の大きな助けとなるはずです。

現場を知るため、私自身も去年、米ジップライン社を視察し、ドローン配送の実情についての説明を受けました。こうした諸外国の事例にも目配せしつつ、今後も実態に即した制度整備を進めていきたいと考えています。

ドローン配送の米ジップライン、新たに3社と提携、健康食品やピザ、医薬品など配送へ(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

ジップラインは2011年にサンフランシスコで設立された。これまでに、アフリカのルワンダで血液、ガーナで新型コロナウイルスワクチンなどの医療物資を空輸したほか()、米国大手小売りウォルマートと連携した配送サービスなどで注目を集めた。同社のグローバル航空規制担当責任者のオケオマ・モロンヌ氏によると、同社の配送実績は5月時点で50万件以上に上り、2023年末までに100万件に達すると見込まれている...

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——ドローン産業の成長を促進するために、政府と産業界はどのように連携しているのでしょうか。

官民協働の動きとしては、「空の産業革命」の実現に向けた官民協議会を発足し、政府と産業界、民間事業者間で、あらゆる課題についての議論を行なっています。たとえば冒頭でも申し上げた、安全性と普及スピードの両立は難しい問題です。このようなテーマについても、官民協議会を通じて議論を尽くす努力をしております。

加えて新しい機種製作や、関係企業の育成を融資等で支援する取り組みも行っております。ドローンに限らず、日本では新興産業への投資金額が少ないためにイノベーションが盛り上がりきらないという課題があります。ここを公的に支援することで、市場として盛り上げるだけでなく、国としてもドローン産業を応援する姿勢を示していくことが重要です。

中国依存から脱却し、国際標準をリードできるか

——日本のドローン産業が国際競争力を持つためには、どのような課題を乗り越える必要がありますか。

喫緊の課題は、海外機種、とりわけ中国依存からの脱却です。今やホビー用はもちろん、測量用などの専門的なドローンもほとんどが中国製です。これらは値段が安いだけでなく、機能的にもオリジナリティが高く、はっきり言って便利なのです。ここから競争に勝つのは容易ではありませんが、やれることはやらなければ始まりません。

とくに機能面については、福島ロボットテストフィールドなどにおいて優秀な技術者たちが活躍しているという希望もあります。大量生産には向かなくとも、用途に応じた特殊な能力を発揮できる機種が登場すれば、充分に競争できるでしょう。

(取材)福島ロボットテストフィールド|陸海空、あらゆるテストを一箇所で。ドローン開発について副所長 細田慶信氏に聞く

世界に類を見ない「陸・海・空のフィールドロボット・ドローンの開発実証拠点」として多くの研究者・事業者に活用されているのが福島ロボットテストフィールドです。広大な敷地には長い滑走路や市街地、トンネル、橋梁など実際の使用環境を再現した施設が並びます。この記事では福島ロボットテストフィールド副所長 細田 慶信さんに、施設の内容やドローンにおける今後の展望について伺いました。

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それから、複数機を同時に運航させるための方策の確立も必要です。今後、物資の輸送や点検・巡視などに活用するためには、複数機での対応が不可欠です。ここが可能になれば、生産数の増加にもつながり、大量生産による生産コスト削減が可能になります。国内外での販売支援と合わせて検討すべきポイントです。

戦略的なところでいくと、国際標準化や国際基準の策定に積極的に関与していくことも重要です。アメリカをはじめとした諸外国が議論をリードすると、すでにあるルールに追従するしかなくなり、競争上不利になります。ドローン産業を“絵に描いた餅”にしないためには、あらゆる面で戦略的に立ち回ることが求められます。

水中ドローン、空飛ぶクルマ…最先端事例に期待大

——ドローンの新たな利活用方法として注目している事例は。

ドローン航路が広がることで、各種災害時を含めて、より円滑でスピーディーな飛行が可能になることを期待しています。

また、空だけにとどまらず、海で使用される「水中ドローン」にも注目しています。たとえば遠隔操作型無人潜水機、いわゆるROV(Remotely Operated Vehicle)は、海上の船舶から遠隔で操作して海中の作業を行う水中ドローンです。とくに有名なのは国立研究開発法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する「かいこう」で、最大水深4500mの深海で海底資源調査を行えます。

Jamstec  

無人探査機「かいこう」 | JAMSTEC | 海洋研究開発機構 | ジャムステック

「かいこう」は操縦性能に優れ、重作業を得意とする世界トップクラスの無人探査機です。改造を重ねて4世代目になるビークル(Mk-IV:マークフォー)は深海域での調査や、重作業を必要とする海洋資源調査を主な目的としています。「かいこうMk-IV」以前の探査機、初代である「かいこう」は、マリアナ海溝水深10,911mで底生生物の「カイコウオオソコエビ」の採取や、インド洋で熱水活動と熱水噴出孔生物群の...

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さらに、新しい分野として注目されているのが自律型無人探査機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)で、国内での実用化が急速に進んでいます。AUVにはコンピュータが内蔵されているため、搭載されたセンサーで周辺の状況を把握しながら、自律的に運航することができます。遠隔操作のための船舶を必要としないため、ROVよりも運用コストが大幅に安くなるという利点があります。

ただし、日本は欧米諸国に比べてAUVの産業化が遅れており、日本国内で発売されているAUVの多くが海外製です。これを受けて、政府は昨年の12月に国産AUVの普及をめざす「AUVの社会実装に向けた戦略」を策定。2030年までに日本のAUV産業を育成し、海外展開も可能にする目標を掲げています。この分野は高い実用性が期待されるため、今後の展開が楽しみですね。

AUV戦略について

内閣府では、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な政策に関する業務等を担当しています。

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——2025年に大阪・関西万博において運航が予定されている空飛ぶクルマについてはいかがですか。

空飛ぶクルマはドローンと同じように、次世代の航空モビリティの重要なツールです。我々ドローン議連の空飛ぶクルマ委員会においても、関係省庁に対して、さまざまな取り組みの促進を提言してまいりました。現在では2025年の大阪・関西万博をひとつのエポックとして成功させるべく、機体の安全基準や離着陸場の整備指針の策定などが急ピッチで進められています。

空飛ぶクルマ | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

2025年の万博、日本、大阪・関西で開催!テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。

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また本年(2024年)12月には次世代エア・モビリティEXPOが関西でも開催される予定と伺っており、空飛ぶクルマ運航の実現に向けた機運が高まっていくのを感じております。

ジャパンドローン 2024 / Japan Drone 2024

第3回次世代エアモビリティEXPO 2024 ページです。日本で初めての本格的な民間ドローン専門展示会&コンファレンスの単独イベント、Japan Drone 2024。キーワードは「さあ、次の時代へ ON to the NEXT ERA」イベントの進行状況にしたがってトピックスを適時に表示します。

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ドローン産業を「絵に描いた餅」にしないために

——ドローン産業についての総括と、今後に向けて期待することは。

ドローン産業については毎年、大規模なカンファレンスや国際展示会が開催されています。とりわけJUIDAが主催する「ジャパン・ドローン」(本年で8回目)や、日本ドローン・コンソーシアムと日本能率協会による「国際ドローン展」(9回目)は非常に大きなイベントで、新しい機種や利活用モデルの発表など、日進月歩でドローンが発展していくことを感じさせます。

(イベントレポート)Japan Drone 2024|ドローンの社会実装が加速!防災・点検・物流の最新事例が集結した3日間

2024年6月5日〜7日までの3日間、千葉県の幕張メッセにて、ドローンに特化した国内最大規模の展示会「Japan Drone 2024」が開催されました。「さあ、次の時代へ ON to the NEXT ERA」をテーマに、大きさや用途がさまざまなドローンの展示をはじめ、キーパーソンによる講演を実施。本記事ではJapan Drone 2024の様子を詳しく紹介します。

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また、自治体の取り組みを全国に発信するとともに、自治体間の連携を強化し、ドローンの社会実装を加速させる取り組みとして、2022年より国と自治体で「ドローンサミット」を開催しています。第1回目は兵庫県、第2回目は長崎県で、3回目となる本年は北海道で開催予定です。本イベントを通し、地域特性に合わせた取り組みが広く知られていくことは非常に有意義です。


ドローンは技術面でも利活用の面でもまだまだ成長段階であり、今後も新しい流れが生まれてくるでしょう。機体性能やバッテリー性能の向上によって輸送量や活用地域が拡大されれば、人口密度の高い都市部の上空でも当たり前のようにドローンが飛行する未来がやってくるかもしれません。

ドローンを新たな産業へと育てていくためには、パイロットの育成から機体の製造、ビジネスの創出に至るまで、官民一体となった取り組みが欠かせません。すでに国際競争において遅れを取っている現状を踏まえ、これからも一層の尽力をしてまいる所存です。
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