鳥取県鳥取市では2023年11月28日、孤立集落を想定したドローンによる物資の輸送と遠隔医療体制構築の実証実験が行われました。この記事では、実証実験の概要や関係者へのインタビューなどをお伝えします。
過疎化が進む鳥取市佐治町における地域課題
実証実験の舞台となったのは鳥取市の南部に位置する佐治町。中山間地域が多く存在する市内でも特に急速に過疎化が進んでいる地域の一つで、総人口に対して65歳以上の人口の割合を示す地域高齢化率は54.73%にのぼります(2023年3月31日現在)。また、この地域は豪雪や台風によって道路の分断や停電が発生し、2023年には2度も集落が孤立状態に陥っています。土砂災害などによるリスクが高い土地である上に医療的支援を必要とする高齢者も多いことから、災害時の医療的支援などの強化が地域課題とされていました。
そんななか、鳥取市は2023年度にスマートエネルギータウン推進室を設置し、水力や太陽光などの地域資源を活用して生み出した電気エネルギーを行政サービスに活用することで地域課題の解決に取り組んでいます。その取り組みのモデルケースとして佐治町が選ばれることになったのです。
孤立集落を想定した実証実験の概要
今回の実証実験は株式会社NEXT MOTION(鳥取市)と有限会社徳吉薬局(鳥取市)が主催し、鳥取市とすがクリニック(鳥取市)が協力しました。また、ドローン機体の提供や運航管理はエアロセンス株式会社(東京都)が担っており、使用した機体はエアロセンス社製の「AS-MC03-T-Box」です。実験では、佐治町津野地区で土砂災害が発生して集落が孤立したという想定で、鳥取市佐治総合支所から佐治町津野地区公民館(ふれあいの館)までの往復約3.4kmを2回にわたり飛行。ウェアラブル端末や通信機器を輸送した後にオンライン診療を行い、その上で必要な医薬品(ダミー)を届けました。
ドローンによる遠隔医療体制構築と医薬品輸送の流れ
津野地区から佐治支所に支援を求める電話が入ると、職員がウェアラブル端末と通信機器などをパッキングし、ドローンに装着して出発。約5分後にドローンが津野地区ふれあいの館に着陸した後、運ばれた通信機器などを設置して住民がウェアラブル端末を身に付け、オンライン診療の準備をしました。ウェアラブル端末では、住民の心拍や心電図、睡眠などの生体データを計測できます。オンライン診療では、ビデオ会議システムを通して住民とすがクリニックの医師や徳吉薬局の薬剤師が顔を合わせ、生体データの確認やヒアリングにもとづいて住民の持病に対する薬の処方や服薬指導を行いました。
その後、処方された薬を再びドローンがふれあいの館まで輸送し、住民が必要な薬を無事に受け取ることができました。孤立した集落にもドローンが医療的支援を届けられると確認できたことで、有事の際に過疎地域で住民が抱えるリスクや不安を少しでも解消することにつながったといえるのではないでしょうか。
ドローンによる実証実験を終えて
実証実験を終え、関係者の方々にお話を聞きました。佐治町津野地区長 青柳さん
「津野地区は、佐治町のなかでも僻地に位置しています。今年の台風でも、1週間にわたって全面通行止めとなりました。いつなにが起こるかわからないので、良い訓練になったと思います。
普段から地域内に複数のタブレットを設置しておいたほうが良いのか、タブレットを住民が操作できるように教室などを開いたほうが良いのかなど、実験をしてみないとわからない課題がありました。今回の実験を通して学んだことを、次のステップにつなげていきたいです」
株式会社NEXT MOTION 代表取締役 西原 徹さん
令和4年から鳥取県にて徳吉薬局さん、鳥取市さん、鳥取県さんとドローン物流の実証実験を複数回実施していますが、医薬品等をドローンで運ぶことにこだわってやってきました。
私たちはドローンを取り扱う事業者として、今後の未来に向けて、あらゆる産業においての新しい取り組みを技術支援していくことが使命だと考えています。
しかし、令和5年1月と8月に2回も被災した地元鳥取の集落を目の当たりにし、未来に向けてではなく、今すぐに実用化できるレベルの技術支援をしていきたいと感じています。
今後は災害時にすぐにでも活用できるようなドローン活用を進めていくとともに、日常的に事業化できるよう地域社会と協力しながら進めてまいりたいと思います。
徳吉薬局 専務 徳吉雄三さん
「前回は鳥取市内のほかの地域で物資輸送の実証実験を行いましたが、今回は物を運ぶだけでなく診療までつなげられるのかという実験でした。実験ではビデオ会議システムを活用しましたが、徳吉薬局では体重や身長、血圧などの状態を記録してオンライン診療に役立てるためのアプリも開発しています。このアプリを活用するなど、より細やかな診察や迅速な薬の配送につなげられるように展開していきたいです」
鳥取市経済観光部 経済・雇用戦略課 スマートエネルギータウン推進室 主査 保木本さん
「スマートエネルギータウン推進室は、今年4月に発足しました。脱炭素社会に向けた取り組みのなかで、ドローンを活用した物流も重要なツールの一つだと感じています。車では入れないような場所にも輸送できる点も魅力的です。将来的には物流においてドローンが必要な存在になってくるのかもしれません」
患者役を務めた地域住民 谷口さん
「緊急時に具合が悪くなってしまった人がいる場合に、どのような流れでドローンが物を運んでくれるのかという流れがよくわかりました。悪天候によって予定していたより時間がかかった点も良い学びになったと思います」
なお、本実験を主催したNEXT MOTIONは鳥取、兵庫でドローンスクールを展開しています。
国家資格から民間資格まで、プロの講師が熱心に指導しておりますので、興味のある方はお気軽にお問い合わせください。