2019年に「ドローン教習所 伊賀名張校」としてドローンスクールを開校したなばり自動車学校では、国家資格コースの他、AGRAS農業ドローン協議会の認定を受けた「農業ドローン講習」コースを設置。農業の作業効率を向上させるドローンの普及に取り組んでいます。
同校で講師を務める庄司光彦氏は、自身もドローンパイロットとして農薬散布の代行を行う「農業ドローンのプロフェッショナル」です。庄司氏に、スクールの強みやサポート体制などについて取材しました。
「時代の流れ」が背中を押したスクール開校
――まず、ドローンスクールを始められた背景を教えていただけますか?庄司:
一番大きな理由は生徒数の減少です。時代の流れによる部分も大きいのですが、自動車学校が持つノウハウを活かせる新しい道を模索する必要がありました。
そこで目をつけたのがドローンであり、自動車教習で培った「伝える」というスキルが、ドローンのライセンス取得にも十分に活かせると考えました。
施設面でのメリットも大きかったですね。自動車学校の教室をそのままドローンの学科講習に使えるので、新たに設備投資をする必要がなかったことも理由の1つです。
名張市からもご助力いただいており、廃校になった小学校の体育館や市で運営しているソフトボール場をお借りする許可をいただきました。実地訓練はそちらで行っています。
――具体的にどのようなコースを展開されているのでしょうか?
庄司:
現在はドローン国家資格講習と農業ドローン講習の2コースを開講中です。国家資格講習はドローンの基礎知識や法律、安全管理などを学ぶ基礎コースと、夜間飛行や目視外飛行などの特殊な飛行方法を学ぶ上級コースに分かれています。
農業用ドローン講習は、DJI社の農薬散布用ドローンの操縦ライセンスを取得するためのものです。農業分野でのドローン活用が進んでいるので、このコースへの需要も高いですね。
どちらも座学と実技の両方をバランスよく学べるカリキュラムになっており、特に実技では安全面に十分配慮しつつ、より実践的な練習ができるよう工夫しています。
セカンドキャリアから定年後の趣味まで活用
――受講生の方はどのような年齢層が多いのでしょうか?庄司:
50代の方からの問い合わせが最も多いですが、20代から70代までさまざまな方が受講されています。特徴的なのは、定年退職後の新たな趣味や副業としてドローンを考えている方が多いことです。
「カメラが趣味なのでドローン撮影に挑戦したい」という方や、「定年後に何か使えるかもしれない」という期待感を抱いて入校される方もいらっしゃいます。
一方で、企業からの受講者が少ないことには課題感を感じています。ドローンは多くの業界で活用されつつありますが、まだ検討段階の企業が多いのかもしれません。
ドローンは測量やインフラ点検、警備などさまざまな分野で活用できるので、そういった業界の方々にも興味を持っていただければと思います。
――ドローンの操縦で特に難しいポイントはありますか?
庄司:
GPSを使用しない状態でのホバリングや、複雑な飛行パターンの習得は難所ですね。たとえば8の字を描くように飛行する技術「8の字飛行」は、かなり操縦者の技量が問われます。
8の字飛行を指導する際は時計の文字盤をイメージしてもらい、「12時の位置に来たときは機体をこちらに向ける」「3時の位置ではこう」といった具合に、具体的なイメージを持てるよう意識して指導しています。
屋外でのホバリングでは「想像の10倍、しっかりと機体を見てください」と教えています。風の影響を受けやすいドローンを一定の位置に保つには風向きや強さを常に意識し、それに合わせて微調整を行う必要があるのです。
「どれだけ機体を傾けたらこの風に対してバランスが取れるのか」を体得するには経験と感覚が必要なので、ここは特に多くの練習が求められます。
「農業用ドローンのプロ」ならではの視点でアドバイス
――庄司さんご自身も農薬散布などの現場に出られることがあると伺いましたが、こういった実地経験も指導に反映されているのでしょうか。庄司:
もちろんです。たとえば最近のドローンはかなり優秀になっており、センサーの改良で障害物に接触することも少なくなってきました。
しかしセンサーの感度が上がりすぎてしまい、離陸時は障害物として感知しなかった害獣除けフェンスなどが、離陸時と同じ場所に着陸する際に障害物として認識され、着陸してくれないこともあります。
なので、離着陸場所選定のコツや、最悪の場合に備えた障害物センサーに頼らない着陸の練習など、現場目線での指導を行っています。農業に関しては教本だけでは体験できないことがたくさんあるので、そうした経験を指導に生かしています。
――他に気をつけていることはありますか?
庄司:
教えるうえで、受講生の緊張をほぐすことを意識しています。緊張は操縦に悪影響を与えるので、初めてで固くなっている生徒さんには「僕の方がもっと緊張してますよ」なんて冗談を言いながら、和やかな雰囲気を作るようにしています。
また、操作が粗雑になりがちな方にはあえてゆっくり飛ばすことを提案するといった形で、受講生それぞれの操縦の癖にも注意を払っています。
ドローンは早く飛ばすのは比較的簡単なのですが、ゆっくりと滑らかに動かすのは比較的難しいんです。こういった細かな指導を通じて、より安全で確実な操縦技術を身につけてもらえるよう努めています。
講習中の「朝練」から資格取得後の手続きまで万全のサポート体制
――学科講習と実技講習、それぞれで受講生が苦労するポイントはありますか?庄司:
学科講習については、内容自体は皆さん真面目に聞いてくださるのですが、試験で苦労される方もいらっしゃいます。
特にご高齢の方の中には、パソコン操作に不慣れな方もいて、ドローンの国家資格試験がパソコンで行われることに戸惑う場合もあるんです。
また、試験での時間配分に苦労される方も少なくないですね。「時間が足りなかった」という声をよく聞くので、今後は模擬試験などを通じて時間管理のクオリティも上げていきたいです。
実技講習については、練習場所が屋内で風の影響を受けにくいこともあり、安定して飛ばせる方が多いです。一方で、センサーに頼らない飛行など高度な技術を要する項目では苦労される方もいます。
――ドローンの練習方法について、アドバイスはありますか?
庄司:
安価なおもちゃのドローンを購入して練習するのがおすすめです。おもちゃのドローンにはセンサー類が付いていないため、すべて手動で制御する必要があるので、実は本格的なドローンよりも操作が難しい面があるんです。
また一等資格を目指す方には、より高度な技術を要する飛行パターンの練習のために自動車学校のコースを使って「朝練」をしてもらうこともあります。
実際の現場での練習も大切です。特に農薬散布などの実務を想定した練習では、風や地形の影響を実感することが重要ですね。
ドローンの活用ときめ細かいサポートで実現する「地場農業の効率化」
――卒業後のサポートについて教えてください。庄司:
卒業後のサポートには特に力を入れています。ライセンス取得までの手続きは複雑なので多くの方が戸惑われるため、当スクールでは手元にライセンスが届くまでしっかりとサポートしています。
具体的には、講習前の段階から始まります。ドローンの講習を受けるには、事前に「技能証明申請者番号」を取得する必要があるのですが、これは初めての方にとってはハードルが高いので、無料説明会の際にDIPSアカウント作成などのサポートをしています。
講習後も、実際にライセンスが手元に届くまでには多くの手続きが必要です。当スクールでも手順を詳しく説明した独自の資料を作成していますが、それでも「やり方がわからない」という連絡をいただくことがあります。
特にご高齢の方が手続きを進めていくのはなかなか難しいので、つまずいた方には再度来校していただき、一緒に手続きを進めていきます。こうした資格取得「後」まで寄り添ったきめ細かいサポートが、当スクールの強みの1つです。
――ドローンスクールの今後の展望についてお聞かせください。
庄司:
まず、地元である三重県名張市でのドローンの認知度を高めていきたいと考えています。実は、国土交通省への飛行計画の申請状況を見ると、私たちの地域だけポッカリと穴が開いているんです。まだまだ名張市でドローンの活用が進んでいないことの表れだと思いますね。
我々もドローンによる農薬散布などを行っており、農業分野でのドローン活用を推進することで地場農業の効率化・省力化に貢献できればと考えています。
――最後に、これからドローンを始めたい人へメッセージをお願いします。
庄司:
今まで経験したことがない最初の一歩を踏み出すことは、誰でも不安なものです。ですが、伊賀名張校ではライセンスが手元に届くまでしっかりとサポートしますので、安心して一緒に頑張りましょう。また卒業後の初フライトで不安を感じる方は、私たちも現場に行かせていただくのでぜひお声がけください。
ドローンは趣味としても仕事としても新しい可能性を開拓できるツールです。今後ますます社会に浸透していくものなので、ぜひ私たちと一緒にドローンの世界を広げていきましょう!