富士フイルムではこうした建築業界のドローン活用を推進すべく、コンクリート建築物の定期点検時にドローンが撮影した画像をAIに読み込ませ、壁面や柱のひび割れを発見する社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」を提供しています。
これまで1,500社以上に導入されている「ひびみっけ」の開発背景やドローンとの相乗効果などについて、富士フイルム・佐藤氏に取材しました。
医療分野で培った技術を建築業界に応用
――ひびみっけというサービスはどういったニーズから開発されたのでしょうか?佐藤:
2012年12月に発生した笹子トンネル崩落事故がきっかけです。天井板が崩落したことで9名が死亡したこの事故を受け、国はトンネルなどのインフラ設備で行う定期点検時に、近接目視点検を行うよう制定しました。
これにより、コンクリート面に走る0.1~0.2mmのひび割れを見つけるという、非常に細かい点検が求められるようになりました。髪の毛のような細さのひび割れを橋やトンネルで探す作業なので、当然現場の業務量は大幅に増えることになります。ひび割れを見つけて図化する作業に加え、少子高齢化による人材不足も重なり、「人はいないのに業務が増える」という状況に陥ってしまったのです。
そこで、写真を撮るだけでひび割れ図ができる「ひびみっけ」を開発し、業界の効率化を目指すことにしました。
――製品化にあたって苦労された点を教えてください。
佐藤:
技術的な難しさよりも、社会実装の面で課題がありました。従来の点検方法は、目視でひび割れを見つけ、チョークでスケッチし、それをCADデータ化するという流れでした。それが、写真を撮ってAIで解析するという方法に大きく変わるわけです。
この大きな変化に対して、業界の方々の多くは懐疑的でした。そのため、信頼の獲得が難しかったですね。
サービス開始から約6年になりますが、全国で1件ずつ丁寧に従来の点検方法と比較しながら実績を積み重ねてきました。
こうした草の根活動が実を結び、現在では多くの現場でひびみっけが使われるようになっています。
――AI技術の学習と精度向上についてお聞かせください。
佐藤:
当社にはX線フィルムやCT画像から血管だけを検出するなど、医療分野で培った世界最高峰のAI画像解析技術があります。この技術をコンクリートのひび割れ検出に応用しました。
まずサービス開始時にコンクリートのひび割れ画像を数千点収集し、それをもとに開発・学習を進めました。
現在は1,500以上の企業がひびみっけを利用しており、日々膨大な画像がアップロードされています。それらの画像をAIの教材としつつ、日々精度向上を図っています。
――他の点検サービスと比較して、どのような優位性がありますか?
佐藤:
最大の強みはデータの収集量です。全国からさまざまなパターンのコンクリート画像が集まっているのは、現在のところひびみっけだけです。これにより、多様な状況下でも高い精度を維持できています。
実績も大きなストロングポイントですね。最終的に納品先となる自治体は新しいものを採用することに慎重なので、何よりも実績が重要になります。
ひびみっけは国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)で10年再検査が不要というVE評価を受けており、国交省から非常に信頼性が高い技術だという「お墨付き」をいただいています。こうした安心感も、独自の強みです。
ドローン活用ガイダンスで「誰でも使える」サービスに
――ひびみっけを展開する中で、特に印象的だったプロジェクトを教えていただけますか?佐藤:
大企業と一緒にスケールの大きい案件を実現するといった性質のものよりも、「誰でも使えるようにする」という全体的なプロジェクトが最も印象深いです。
たとえばドローンを使った点検についても、2018年のサービス開始当初はほとんど需要がなかったものの、2020年頃からドローンを使った点検の要望が増え始めたことで、北海道から九州までさまざまな現場に同行し数十社にヒアリングを行いました。
こうした地道な活動が実を結び、どのようにすれば道路のひび割れを鮮明に映せるのかというノウハウを獲得できたので、得られた知見をガイダンス化して「誰でも使えるようにする」ことに力を注ぎました。
プラントでのドローン点検も、1度やってみるという最初の一歩を踏み出すことは大変ですが、その次のステップである「どう普及させるか」の方がより大きな挑戦でしたね。
――ドローン撮影のガイダンスについて、もう少し詳しく教えてください。
佐藤:
2021年4月18日に「ドローン撮影ガイダンス」を公開したのですが、このガイダンスではカメラの設定や撮影方法についての詳細な情報を記載しています。
たとえば晴天時は絞り優先モードにして、ISO感度は200以下、シャッタースピードは1/240秒以上にする…といった形で、具体的な設定値を提示しています。
他にも、ドローンの機種ごとに、0.2mm以上のひび割れを撮影するために必要な距離を載せたり、ドローン撮影の最大の課題である「明るさ」についても記載したりしています。
とくに橋脚の下部など暗い場所での撮影が難しく、カメラの感度設定によってはノイズ除去機能が働いて肝心のひび割れが消えてしまう可能性もあります。
このガイダンスで「どこまで接近すれば映るのか」「実際にどう映るのか」を示したマニュアルを提供することで、誰でも適切な点検用の写真を撮れるようになることが目標です。
ドローンの操縦には慣れていても点検用の撮影に不慣れな方にとって、有用な情報を提供できていると自負しています。
――これまでに嬉しかったフィードバックや、改善のためのコメントなどはありますか?
佐藤:
効率化を主な目的としているので、「作業が楽になった」という声が一番嬉しいですね。従来の手書きの結果よりも、ひび割れの位置がわかりやすくなったという声を頂くことも多いです。
一方で、ソフトウェアの改善要望を求める意見も頂戴します。こうしたご意見に対しては、精度の向上やソフトウェア自体の定期的なアップデートでより品質を向上させることで応えるというスタンスです。
ひびみっけは使った分だけ料金を支払うシステムなので、ユーザーには無償でバージョンアップの恩恵を受けていただけるようにしています。
改良を重ね、日本のインフラを守るサービスに
――ひびみっけの展開にあたって、苦労されている点はありますか?佐藤:
事例の収集と公開ですね。とくに橋の点検などでは、ひび割れが載っている写真を公開してほしくないという声が多いため、分かりやすい活用事例を示しづらいんです。
これには、橋やトンネルという公共インフラの性質上、実際の点検を行う建設コンサルタント会社や建設会社から了承を得ても、最終的に自治体からの掲載許可が必要になることが大きく影響しています。
現状は1つ1つの事例について、丁寧に許可を得ながら公開していますが、今後はより事例紹介を増やし、「ひびみっけを導入すれば、これだけ便利になります!」と自信を持って紹介していきたいですね。
――今後の展望についてお聞かせください。
佐藤:
具体的な展開については明言できませんが、降雪地帯で行う冬季の点検や夏場の熱中症リスクなど、厳しい現場で働くユーザーの声を聞きながらバージョンアップを重ね、より効率化できるようにしていきたいと考えています。
大変な点検作業を少しでも楽にできるよう技術を進化させ、日本のインフラ維持と点検者の負担軽減に貢献していければ、こんなに嬉しいことはありません。
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