現場監督者によるドローン操作 | カシワバラ・コーポレーションに聞く、建築業界におけるドローン活用のススメ

現場監督は全員ドローンパイロット! ドローン活用の実例と体制づくりの秘訣に迫る  株式会社カシワバラ・コーポレーション 新規開発営業部 部長 山下洋平氏
人手不足や高齢化、作業効率の向上など、多くの課題を抱える建設業界。デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが指摘される中、インフラ点検やマンション、商業施設などの建物診断にドローンを導入する動きが広がっています。

こうした先進的な取り組みを行っている企業の1つが、東京都港区と山口県岩国市の2箇所に拠点を置くカシワバラ・コーポレーションです。同社は全国の営業所にドローンを配備し、マンションなどの外壁や設備の点検など多くの場面で活用しています。

いまや同社において日常化しつつあるドローンについて、建設業における具体的な活用法や社内の体制などを、同社の新規開発営業部で部長を務める山下洋平氏に伺いました。

株式会社カシワバラ・コーポレーション 新規開発営業部 部長 山下洋平氏


(前回の取材記事はこちら)
(取材)カシワバラ・コーポレーション|ドローン×AIで実現する次世代の修繕計画とは?

産業インフラ・大規模建造物の維持・保全分野で建設業界を牽引してきた株式会社カシワバラ・コーポレーション。 同社は保守的な傾向が強い建設業界でいち早くDX化に取り組み、ドローンとAI分析によるイノベーションを実現。建設業に特化したスタートアップ支援にも注力してきました。 この記事では同社の挑戦について、現場監督や営業のキャリアを活かし、現在はサービス企画を担当する山下さんに詳しく伺いました。

(取材)カシワバラ・コーポレーション|ドローン×AIで実現する次世代の修繕計画とは?
大橋礼
大橋礼

2024/08/26 14:46

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ドローン活用で変わる建設業務:現場監督の新たな役割と効率化

――貴社の事業概要と、ドローンをどのように活用されているのか教えてください。

山下:

当社は元々塗装会社として創業し、現在はインフラメンテナンス事業、マンション大規模修繕事業を主軸としています。プラントや橋梁、高速道路などのインフラ設備のメンテナンスはもとより、マンションの大規模修繕や一部新築工事も手がけていますね。工事領域においては「既存の建造物に付加価値を付けること」を目指してサービスを展開しています。

ドローンについては、主に修繕工事の提案前の現状確認ツールとして活用しています。現状確認、劣化傾向を把握する事で、より的確な提案やコストダウンに繋げる事ができます。

――従来の調査方法と比べて、どのような変化がありましたか。

山下:
従来の建造物のメンテナンスは足場を組んで調査する必要があり、マンションなど足場の届かない部分がある場合は手の届く範囲だけを調査し、そこから全体を推測して数量を算出していたケースもありました。

ドローンを活用することで、これまで確認できなかった箇所まで調査ができるようになったことは大きな変化ですね。

ただし、精度という観点では実際に足場を組んで人の手で確認する方が高い場合もあるので、現在は両者の特徴を理解したうえで、案件に応じて最適な調査方法を選択しています。

――御社内ではドローン操縦者の数が大幅に増えたそうですが、その背景を教えてください。

山下:

当社では約9割の操縦士が各営業所に所属する現場監督で、ドローンパイロットと兼任をしているのですが、当初は各営業所に1、2名程度しかおらず、その担当者が現場の都合で動けない場合に代替要員がいないという課題がありました。

そこで各営業所3〜4名体制を目指して育成を進めており、60名から約120名に増員することで、調査がより柔軟かつ迅速に対応できるようになりました。

工事の知識を持った現場監督がドローンを操縦することで、建物の劣化傾向や注意すべき箇所を理解しながら撮影できる点も、当社の大きな強みとなっています。

――具体的にはどのような案件が多いのでしょうか。

山下:

外壁診断調査が中心ですが、対象物は小規模マンションから大規模タワーマンション、商業施設や物流倉庫まで幅広く対応しています。他にもソーラーパネル設置工事の進捗管理やマンション屋上の緑化工事の事前調査、配管内部の点検など、案件は多岐にわたっています

これまでは、人が立ち入って内部を確認することが難しい工事の場合、お客様の予想をもとに見積もりを出していましたが、事前にドローンで内部を確認することでより正確な見積もりを出せるようになっていますね。

お客様の体感では5割程度の劣化と思われていた箇所が、実際には8割近く劣化していたというケースもあります。ドローンを活用することにより、見える化の範囲も広がり、お客様との認識共有もスムーズになっています。

全社的な取り組みが業務改善から採用PRまで波及

――社内でのドローン活用推進体制について教えてください。

山下:

ドローンプロジェクトとして、2週間に1回の定例会議を実施しています。メンバーはインフラメンテナンス経験のある私をプロジェクトリーダーとし、マンション事業部門から2名、技術・ロボティクス部門の責任者、投資部門のリーダーなど異なる部門から5名を選出しています。

各営業所には1名ずつドローンリーダーを配置しており、月次でリーダー会議も開催するなど、ドローン活用は全社的な取り組みとして広がっています。

さらに、各営業所からは「フライト報告書」が毎月提出されています。これは実施日時や顧客情報、飛行目的や金額といった基本情報に加え、現場で行った工夫やお客様からの反応など詳細な記録が記されているものです。

プロジェクトでは想定していなかった営業所独自のドローンアプローチも日々増えており、自発的に取り組む動きが日々加速していると感じています。

これらの成果は月次の報告会で共有され、他の営業所への応用・横展開が進み、さらなるお客様の課題解決につながっています。

――ドローンを使った業務の一環として、デジタル技術を活用した研修も行っていると伺いました。

山下:

4年前の新入社員研修から、ウェアラブルカメラを使用した「デジタル現場代理人 山下君」という社内内製化システムを導入しました。これは全国の現場代理人がウェアラブルカメラを装着して現場を歩き、その映像を研修センターの大型スクリーンにリアルタイムで投影するというものです。

新入社員は、現場代理人の視点をリアルタイムで共有できるため、遠隔ながらも従来の座学では得られない臨場感や現場のリアルさを体感できます。また、その場で疑問や気になる点を質問できることで、研修に対する新入社員の満足度が一層高まったように感じます。

コロナ禍における研修の必要性から生まれた施策ですが、導入当初から予想以上の成果が得られました。特に、若手社員の現場理解度が大きく向上し、約40人の新入社員が半日で北海道から九州までの現場を疑似体験できるという、非常に効率的な研修となっています。

さらに、今年からは新入社員研修の正式なカリキュラムにドローン研修を組み込み、より実践的な学びの場を設けました。

この取り組みの派生として、営業所をドローンで空撮し、新入社員に配属先の周辺環境を見てもらいました

その場で360度旋回して周辺環境の確認もできたので、新入社員からは「配属先となる街を空から見ることで、イメージが具体的になった」「周辺環境まで把握できて安心した」といった感想をもらいました。

――若手社員の不安解消と現場理解の促進に大きく貢献した取り組みになったのですね。新しい取り組みに対して、社内から反発はあったのでしょうか。

山下: 
まだまだアナログ色が強い建設業界では、新しい技術に対して懐疑的な傾向が根強く、「ドローンで何ができるのか?」という反応が全体の9割を占めていました。しかし全国の所員を集めてもらいデモフライトをしてみると、ベテランの現場監督からも「これなら自分の現場でも使えそうだ」という前向きな声が上がるようになりました。

資料での説明では全く興味を示さなかった社員が、実演を見た途端に「こんなに簡単に操作できるんだったら、自分の営業所にも導入したい」と前向きに捉えてくれる場面もありました。

――ドローンの活用は採用面でも効果を挙げているそうですが、どのような活動を行っているのでしょうか。

山下:
2023年9月にカシワバラグループ6社を集約し、東京本社を品川シーズンテラスに移転したのですが、移転後に株式会社Liberawareさんと、点検用ドローンを活用した会社紹介映像を制作しました。


「狭く・暗く・危険な」屋内設備の点検に特化したドローンだからこそ実現できる、これまでにない視点からの映像が、会社の革新性を一層際立たせる内容になっています。

他にもエントランスやオフィス空間の撮影など、建築物の魅力を視覚的に伝える新しい表現手法も模索中です。

若手人材の採用は業界全体の課題ですが、ドローンをはじめとするデジタル技術の積極的な導入により、業界のイメージは着実に変化しつつあります。

現場ニーズに即した実践的ソリューションを提供していきたい

――デジタル化・DX化が進んでいない業界の1つとして建設業界が挙げられることもありますが、こうした状況についてどのようにお考えですか。

山下:

新たなテクノロジーを導入しようという意欲のある企業は決して少なくありません。しかしながら建設現場の実情を十分に理解せずに開発されたシステムも多く、「導入したはいいものの、ふたを開けると本採用するほどメリットを感じられなかったというケースもよくお聞きします。

とくに、ベテランの社員は「現場は人の目で見るものだ」という従来の考え方が強く、新技術の導入に抵抗があったんです。その一方で、若手社員はデジタル技術への親和性が高く、むしろ積極的に活用を提案するケースも増えています

そこで当社はIT企業と協業し、現場の声を直接システム開発に反映できる体制を整え、本当に必要なものを見極めながら、実践的で使いやすいシステムの構築を進めています。

社長が新しいことへの挑戦を積極的に受け入れてくださるおかげで、非常に恵まれた環境にあると実感しています。このような支援のもと、私たちも新しい取り組みに積極的にチャレンジできており、この環境は建設業界の中でも特に有利な立場にあると感じています。

――今後の展望についてお聞かせください。

山下:
私たちはドローン会社ではなく、あくまでも建設会社です。だからこそ建設会社である強みを活かし、現場のニーズに即した実践的なソリューションを提供していきたいと考えています。

また単に映像を撮影して解析するだけでなく、実際の工事作業にドローンを組み込んでいくような可能性も探っていきたいと思います。米国での事例も参考にしながら、建設現場ならではの活用方法を模索していきます。

これからも各営業所での創意工夫を促しながら、建設業の未来を見据えた技術革新の推進に貢献していきたいと考えています。
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