産業構造の変革が進む現代において、新時代を開拓する技術の研究開発には産学官連携の研究開発体制が不可欠。こうした民間企業と大学等のアカデミアを結ぶ技術開発の「ハブ」としての役割を持つのが、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)です。
独自の支援体制を築く同機構の支援体制や具体的な研究開発の取り組みについて、NEDO 経営企画部 広報企画・報道課 主査 田邊 俊一氏と、航空・宇宙部 次世代空モビリティ・ユニット チーム長 ReAMo PJ プロジェクトマネージャー平山 紀之氏に取材しました。
産学官連携を支える「支援機関」として研究開発をコーディネート
――NEDOは「国立研究開発法人」という聞き慣れない組織形態ですが、NEDOにはどういった特徴があるのでしょうか?田邊:
NEDOは経済産業省が所管する国立研究開発法人で、「革新的な技術開発」を支援する組織です。民間企業や大学だけでは資金や期間の面で実施リスクが高いプロジェクトに対して、ファンディングエージェンシーとして資金援助や研究開発のマネジメントを実施しています。
支援形態としては、1つのプロジェクトに対して公募などで事業者を募集し、企業や大学等の研究機関と一緒に事業を展開していく形をとっています。新しい技術開発や実証を行い、その先の社会実装まで見据えた伴走支援を行うのがNEDOです。
たとえば洋上風力発電のような、1事業者では取り組みが難しい大規模プロジェクトの支援が例として挙げられますね。
また、民間企業や官公庁からの出向者が多く在籍しているのも特徴の1つです。限られた期間での出向となりますが、それぞれの分野の専門知識や経験を活かしながら、活躍している者が多くいます。
平山:
私自身も電機メーカーの出身で、もともとはテレビ、パソコンやロボットのソフトウェア開発に携わってきました。
NEDOでは、中立的な立場で国家プロジェクトを企画・運営したり、企業・大学等の研究機関の様々な人と意見交換したりできるなど、外からでは学べない知見を得られます。NEDOで経験した知見を出向元に戻ってからの業務に活かすことで、出向元とNEDOの双方にとってウィンウィンの関係を築けているんです。
――組織の成り立ちについて教えてください。
田邊:
NEDOは1970年代のオイルショックを背景に、エネルギーの多様化を目指して1980年に設立されました。
設立当初は「新エネルギー総合開発機構」という名称で、その後1988年に産業技術の研究開発業務が追加され、現在の組織名になりました。今年で設立から44年を迎えています。
現在は、エネルギーシステム/省エネ/産業技術/新産業創出の4分野で研究を進めており、ドローンをはじめとするモビリティ領域は、産業技術分野で研究開発を行っています。
特徴の一つに、イノベーション戦略センター(TSC)というシステムタンクとしての役割を持つ専門部署があります。ここでは各分野の国内外の研究動向分析を行い、現状分析だけでなく将来予測も実施しています。
ここでとりまとめた分析結果が、次の研究開発プロジェクトの方向性を決定する重要な基礎情報ともなっているんです。
「標準化」と「情報発信」でドローン市場の発展&課題解決に貢献
――NEDOでは、どういった形で研究開発が進められるのでしょうか?田邊:
まずは内部で情報収集と技術戦略の策定を行った上でプロジェクトの企画立案を行い、実際の研究開発や実証実験を進めるという形で展開されます。プロジェクト終了後も追跡調査を継続して実施することも大きな特徴です。
また、NEDOでは1つのプロジェクトに複数の事業者が参加することもあり、それぞれの得意分野を活かした異業種間交流が行われます。海外事務所を通じた国際的な連携も行っているので、国内企業が開発した技術の海外展開も支援しています。
平山:
最近では標準化への取り組みも重視しており、ドローンを含めた次世代空モビリティの分野ではICAO(国際民間航空機関)Advanced Air Mobility Study Groupで将来像を議論する一方、米国や欧州など海外の標準化団体で標準化が進められていますので、我々が開発した技術が世界で広く使われるようこれらの団体での議論に加わり、標準化を提案しようとしているところです。
――とくに力を入れている領域があれば教えてください。
田邊:
第5期中長期計画では「研究開発マネジメントを通じたイノベーション創出」、「研究開発型スタートアップの育成」、「技術インテリジェンスの強化・蓄積」を掲げています。例えば、「研究開発型スタートアップの育成」では、ディープテック・スタートアップ分野において、年間複数回の公募を実施して各フェーズに応じた支援を行ったり、事業者間交流イベントの開催といった取り組みを推進しています。
――そのほか、力を入れて取り組まれていることはありますか。
情報発信では今年4月にYouTubeのサブチャンネルを開設し、専門的な内容をより分かりやすく伝える取り組みを始めました。
X(旧Twitter)などのSNSでも随時情報を発信し、シンポジウムやイベントを通じて成果を公開しているんです。
今後もさまざまな形で情報発信を続け、各分野の発展に貢献していきたいと考えております。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公式チャンネルです。 NEDOは、持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する、国立研究開発法人です。 リスクが高い革新的な技術の開発や実証を行い、成果の社会実装を促進する「イノベーション・アクセラレーター」として、社会課題の解決を目指します。
https://www.youtube.com/channel/UCd4OTUB8A9PIdNs-vxF5t8g >
https://x.com/nedo_info >
――次世代空モビリティ領域の大きな取り組みとして「ReAMoプロジェクト」を展開されていると伺いました。これはどういった内容なのでしょうか?
平山:
ReAMoプロジェクトは、次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクトです。労働力不足や物流量の増加に伴う業務効率化、コロナ禍を経て非接触化が求められる中、次世代空モビリティによる省エネルギー化や人手を介さないヒト・モノの自由な移動が期待されています。その実現には次世代空モビリティの安全性確保と、運航の自動・自律化による効率的な運航の両立が求められており、これらの社会実装を目指してプロジェクトを立ち上げました。
ReAMo(リアモ/次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト)公式サイトです。ReAMoプロジェクトについての説明、最新情報や各コンソの研究・開発の概要や成果をお伝えします。NEDOへのReAMoに関するお問い合わせも本サイトからどうぞ。
https://reamo.nedo.go.jp/ >
私たちの役割は、国の制度整備に資する技術的エビデンスを提供することです。運航管理の仕組みを安全に運用できることを実証することで、国の制度整備に役立てるべく活動しています。
すでに約40の大学や研究機関・民間企業が参加しており、2022年8月から5年間にわたる長期プロジェクトとして、無人航空機の分野で培った研究開発の経験を活かしながら、次世代空モビリティの新しい標準作りを進めている最中です。
他にも毎月トピックを決めて海外制度・国際標準化動向の調査を実施し、その結果をホームページで一般公開しているほか、オンラインでの意見交換会も定期的に開催し、ドローンや空飛ぶクルマの動向について業界関係者と議論を重ねています。
日本の産業が抱える課題は、きっと世界のどこかで同じように困っている人がいるはずです。一緒に課題解決策を考えながら、日本も含めた世界全体で課題解決していければいいなと思いますね。
ドローン業界の行く先を示す「水先案内人」
――ドローン領域では、他にどのような研究を行っているのでしょうか。平山:
主に「狭くて障害物が多い空間」におけるドローンの性能評価手法の研究開発を進めています。
こうした空間ではドローン自らが発生させた気流の影響で動作に影響を受けることもあるのですが、こうした点も含めてドローンのカタログ性能と実際の使用環境とのミスマッチを防ぎ、使用環境に最適なドローンを選定できることを目指しています。
具体的には、ドローンの飛行制御を「奥行き飛行時の水平飛行」「奥行き飛行時の上下移動」「鉛直方向での開口部通過飛行」「壁・天井付近での飛行」という4つの要素を抽出し、それぞれの性能を定量的に評価する手法を開発しているところです。
この評価手法はドローン自体の性能評価だけでなく、パイロットの技量評価にも活用できるんです。例えば上下移動は苦手でも水平方向の狭所通過ができれば問題ないという場面もあるので、用途に応じて必要な性能評価基準を選択できる仕組みを目指しています。
今後は現場でドローンを活用している事業者の方の協力も得ながら、いろいろな意見を反映させていきたいですね。
さらにReAMoプロジェクトメンバーである新潟工科大学(新潟県柏崎市)や日本原子力研究開発機構(福島県双葉郡楢葉町)などで、半年に1回のペースで、デモで実演しながらメーカーやオペレーターなど業界関係者との意見交換会を行っています。
11月末に行われた「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2024」に出展し、大人から子供まで幅広く参加者にドローン操縦体験できる機会を設けていました。
他にも、評価用のテストコースをDIYで作れるような研究も特徴的な取り組みの1つです。
これはポールなどホームセンターで購入できる身近な材料を使って作れるよう工夫しており、この作り方も公開する予定です。将来的には学校の授業などでも活用していただければと考えています。
――今後の展望を教えてください。
平山:
NEDOは経済産業省所管のイノベーション・アクセラレーターとして産業技術力の強化を目指しており、現在研究開発中の評価手法によってドローンの使用範囲が広がることを期待しています。
物流や点検といった代表的な用途だけでなく、高所作業や鳥獣対策など様々な市場へ、健全な競争と協力を生み出すためにドローン市場全体が拡大していくことを目指していきたいですね。