長崎県が”絆”特区に指定、ドローン技術で描く離島の物流革命と地域活性化

長崎県が”絆”特区に指定、ドローン技術で描く離島の物流革命と地域活性化
ドローン技術の進化は、これまで不可能だった課題の解決を可能にし、新たなビジネスチャンスを生み出しています。

長崎県は、その先進的な取り組みを背景に、福島県とともに新技術実装連携”絆”特区に指定されました。人口減少や高齢化が進む中、地域社会を持続可能にするための鍵として、ドローンの活用が期待されています。

特区指定を契機に、ドローンを活用した物流や産業振興の取り組みが加速する中、長崎県はどのような未来を描いているのでしょうか。この記事では長崎県企画部デジタル戦略課 課長 髙橋 圭さんにお話を伺い、その全貌に迫ります。

長崎県企画部デジタル戦略課 課長 髙橋 圭さん

(前回記事はこちら)

(取材)長崎県企画部デジタル戦略課|全国から事業者・自治体が集まる長崎県の取り組みについて聞く

長崎県は、すでに民間企業による離島での物流支援が社会実装されているなど、ドローンの活用に力を入れている自治体の一つです。2023年9月には第2回ドローンサミットも開催され、全国から事業者や自治体が集まって交流しました。今回は、長崎県企画部デジタル戦略課の井手潤也課長と松本祥生課長補佐に、ドローン活用に向けた取り組みや課題、今後の展望についてお話を聞きました。

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特区指定により、ドローン物流のビジネス加速に期待

——今回、長崎県は福島県とともに新技術実装連携”絆”特区に指定されました。そもそも、長崎県がドローンにおいて一歩先を行く取り組みをしてきた背景には、どのような事情があるのでしょうか。

長崎県には離島が多く、ドローン技術との相性が非常に良いという物理的環境に恵まれています。このうち有人離島は51島で、約11.3万人が生活していることから、ドローンを活用した物流のニーズは非常に高いです。

一方で長崎県が抱える課題として、深刻な人口減少や高齢化があります。たとえば五島列島には大学がないため、進学を機に島を出てしまい、県外で就職する若者が少なくないのです。その結果、一部地域では高齢化率が40%に達し、生活インフラを支える人手が不足するだけでなく、地域の事業者までもが減少する事態につながっています。

しかし、たとえ人口が減少しても、地域に暮らす人々の生活は続いていきます。中には移動販売などを実施し、地域の暮らしを守ってくださっている事業者もありますが、それなりにコストがかかりますから、永続性は望めません。ここにドローン技術を活用することで、持続可能な形で人手不足を解消することに期待が寄せられている状況です。


——では改めて、新技術実装連携”絆”特区について教えてください。

新技術実装連携”絆”特区は、国家戦略特区の一類型として設置されました。「”絆”」という名称には、地理的に離れた複数の自治体が連携して共通の問題を解決しようという国の意図が込められているようです。そのため、これまでの特区が地域単独で指定されてきたのに対し、”絆”特区には複数の自治体がセットで指定されることになっています。

Pref  

長崎県が新技術実装連携"絆"特区として区域指定されました

令和6年6月4日に国家戦略特別区域諮問会議が開催され、長崎県及び福島県が新技術実装連携"絆"特区に指定されました。 区域指定までの取組 長崎

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現在のところ”絆”特区には長崎県と福島県が指定されており、ドローン配送などの新技術を全国に先駆けて実装し、地域課題を早期に解決するだけでなく、全国的な課題解決のモデルケースとして展開することを期待されています。

長崎県が”絆”特区に指定された背景には、離島や半島が多く存在することに加えて、五島列島地域での先進的なドローン配送の取り組みが大きく影響しています。というのも五島列島では、豊田通商が100%出資する子会社「そらいいな」がすでにドローンサービスを展開しており、1回550円での日用品の配送などを行っているほか、海水浴場へのハンバーガーやインドカレーの配達など地域のニーズに応える多様なサービスがすでに社会実装されているのです。

(そらいいな株式会社への取材記事(2023年3月))

(取材)五島列島の空をドローンが飛ぶ!そらいいな株式会社が見据える物流の未来

豊田通商株式会社の100%子会社として誕生した「そらいいな株式会社」は2022年、長崎県南西部に浮かぶ五島列島でドローンによる日用品・医薬品の配送を開始しました。試験飛行開始から約1年で440回ほどの飛行を行い、累計航続距離も約2万1000kmを記録。実際に配送を行う中で見えてきた課題やドローン物流の展望について、同社のヘッド・オブ・オペレーション(配送統括責任者)、土屋浩伸氏にうかがいました。

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そうはいっても、現在のドローン配送はレベル3飛行という形態に限られています。この制限下では無人地帯に荷物を投下する必要があるため、配送先が港や大きな公園などの人がいない場所に限定されます。そのため、住民が荷物を受け取るには車や徒歩で取りに行く必要があり、特に高齢者にとっては大きな負担となっています。

——これをクリアするには、有人地帯を運航できるレベル4飛行の許可が必要だったのですね。

その通りです。こうした状況を改善するには、人々の頭上を運航できるレベル4飛行を導入するほかありません。

しかし、レベル4の導入には安全性を確保するための「型式認証」が必要で、複数の試験や審査をクリアする必要があります。この認証プロセスは非常に厳格で時間がかかり、事業化を進めるうえで高いハードルになっています。

なおかつ現在の法律では、レベル4の機体認証を取得した後でも、飛行するごとに国土交通省から許可を得る必要があります。具体的には、「A地点からB地点に荷物を届けます」といった飛行ルートを申請書に記載し、途中で何か問題があった場合の安全管理措置を示さなければなりません。

この申請プロセスには3ヶ月程度かかるため、例えば食品デリバリーをしたいときに、「注文が入ってから申請許可を取る」フローは非現実的です。すべての想定ルートを事前に申請しておくという方法もあるかもしれませんが、数カ所ならともかく、数千、数万の住居に対してルートを設定するのもまた現実的ではありません。そうした面でも、ドローン配送を事業化するには大きな壁があったのです。

しかし今回、”絆”特区に指定されたことにより、市街地や住宅地全体をエリア単位で申請できるような規制緩和が現実的になってきました。これが実現すれば、どの家庭や薬局からの注文にも迅速に対応できるようになり、より現実的で便利なドローンサービスの実現に向けて一歩を踏み出せると期待しています。

すでにサービス提供中のドローンデマンド配送、今後は医薬品にも

——すでに実現している取り組みとして、ドローンデマンド配送について教えていただけますでしょうか。

現在、長崎県で実装されているドローンデマンド配送のユースケースとしては、主に日用品と医薬品の配送が行われています。

さらに、買い物代行サービスも提供されています。利用者が電話で「これを買ってきてほしい」と注文すると、スタッフがスーパーまで買いに行き、「そらいいな」の拠点からドローンで配送する仕組みです。このサービスの料金は配送料込みで1100円となっており、非常に利用しやすい価格設定です。

こうしたデマンド配送はこれまでに累計2,200回超行われていますが、機体や荷物が落下してしまう事故は一度も起こっていません。ドローンによる配送能力も向上しており、現在では1回で約1.5キログラムの荷物を運べるほか、連続飛行で複数の荷物を運搬できるようにもなりました。荷物の投下は、専用の機構にパラシュートで落とす形式を採用しており、これによって安全かつ効率的な配送が実現されています。

規制緩和が進めば、こうしたサービスがさらに便利になるだけでなく、医薬品の配送などにもサービスの可能性が広がります。現状、五島列島の拠点は中心部にしかなく、周辺地域には常備薬しか置かれていないこともあります。珍しい薬が必要になれば、フェリーで翌日や翌々日に届ける仕組みだったのです。しかし、ドローンを活用すれば、即日での配送が可能となり、患者の命に関わるケースでも迅速な対応が期待できます。

しかも医薬品は比較的高価であり、運搬することによるビジネス上のメリットも大きくなります。地域課題を解決できるだけでなく、事業としても持続可能な領域に広がることで、より一層ドローンのデマンド配送が社会に浸透していくのではないかと考えています。


——これを踏まえて、今後はどのような取り組みを進める予定でしょうか。

これからの取り組みとして、国が”絆”特区に対して調査事業の予算を用意し、民間事業者を採択して実証実験等を行うことが予定されています。長崎県でも年度内に何らかの実証を進めることを目指して準備を進めています。

ただしレベル4飛行に関しては、県内での実績がまだなく、事業者も含めてノウハウの蓄積が十分とは言えません。事故事例はないとはいえ、頭上をドローンが飛行することに不安を覚える住民がいるかもしれません。そのため、まずはリスクの少ない地域、例えば離島や人口が少ないエリアから始めるとともに、基礎自治体と連携し、十分な説明とコミュニケーションを通じて住民の理解と協力を得たいと考えています。

ドローンで地域を盛り上げる「3つの柱」

——長崎県では、ドローンによる地域活性化に向けて「空飛ぶ未来を拓くドローンワールドプロジェクト」も実施していますね。この取り組みについても教えてください。

「空飛ぶ未来を拓くドローンワールドプロジェクト」は今年度から新たに始まった事業で、長崎県をドローン先進県として位置づけ、ドローンの活用による遠隔化や生産性向上、そしてイノベーションの創出を目的とするものです。具体的には、各産業におけるドローン活用フィールドの需要拡大と、ドローンオペレーターの創出推進を目指しています。

事業は大きく3つの柱に分かれています。まず1つ目は、ドローンプラットフォームを通じたマッチングの推進です。

長崎県 DRONE PLATFORM

ドローンプラットフォーム・クロスは、ドローンを通じて産学官を超えた相乗効果を創出し、地域課題解決を目的として生まれました。 本当に役に立つドローンサービスを提供することをミッションとし、ドローンの社会実装の加速を目指しています。

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このプラットフォームでは、県内のドローン事業者一覧や提供されるサービス、概算見積もりなどを確認でき、サービスの需要者と供給者をスムーズにマッチングすることが可能になります。例えば、農薬散布のようなドローンサービスを利用したいが、どの事業者に依頼すれば良いかわからないといった場合でも、このプラットフォームを利用することで、適切な事業者を見つけやすくなります。

これまで、たとえドローン活用に関心が向いても、県内の事業者を知らず、他府県の事業者に依頼が流れてしまうケースがありました。マッチングサイトを設置することにより、県内の事業者にチャンスが開かれるだけでなく、依頼者側としても交通費などのコストを抑えられるメリットがあると考えています。

 ——人材育成についてはいかがでしょうか。

2つ目の柱である人材育成の取り組みとしては、ドローンオペレーターの資格取得支援を主要な活動としています。ドローンを操作するためには民間資格や国家資格が必要な場合がありますが、専門的なトレーニングが必要であるため、どうしても取得費用がかさんでしまいます。県として費用の4分の3を補助することで、サービス供給側の人材を増やし、ドローン産業の発展を促進することを目指しています。

また、高校生への教育提供も重要な柱となっています。長崎県をドローン先進県として発展させるためには、将来を担う若者たちがドローン技術に親しむことが必要です。これを目的として、普通科の高校生を対象とした入門講座(8月に実施)と、専門学科の高校生を対象とした専門講座(今後予定)の二つを提供しています。

このうち普通講座では、ドローンやプログラミングの知識がまったくない普通科の高校生を対象に、夏休み期間中に合宿形式でドローンの基本操作とプログラミングを学ぶ機会を設けています。この合宿では長崎大学の先生方の指導のもと、小型ドローンを自分でプログラミングして飛ばしてもらいます。

一方、専門講座では、漁業や農業、建設業といった将来的にドローンを実際の仕事で使用することが想定される専門学科の高校生を対象とし、専門的なソフトウェアを使いながら、実際の仕事で活用できる技術を学んでいただくことができます。

これらの取り組みのねらいは、ドローン技術を身近に感じてもらい、将来的にドローンを使った仕事に就く若者を増やすことです。ドローン教育を通じて地域の未来を支える人材を育成し、長崎県全体の産業振興にもつながればと期待しています。


 ——ドローンを実証・普及させるためには、どのような取り組みをされていますか。

 3つ目の実証・普及の取り組みとしては、農業分野と建設業分野において具体的なプロジェクトを推進しています。

農業分野においては、すでに農薬散布でドローンが使用されていますが、これをさらに発展させるために、センシング技術や飛行ルートの最適化を通じた実証実験を行う予定です。さらに、防除という農業作業においても、現在は使用できる品目が限られていますが、今後は他の品目でもドローンを活用できるようにするための実証を進めていきます。

建設業分野も、ドローンの活用が盛んな領域です。これをさらに促進するために、ドローンを使用する際のガイドラインの作成を予定しています。

また、ドローンの社会実装に向けた支援として、県内での先進的なドローン活用プロジェクトに対して最大1000万円の補助金を提供する取り組みを進めていますが、これは、ドローンを活用した新たなビジネスやソリューションを県内で実装するプロジェクトに対して、県がバックアップする形で支援を行うものです。

これらの取り組みを通じて、教育、農業、建設業といった分野においてドローンの活用をさらに促進し、地域の課題解決や産業振興に寄与することが期待されます。県としてもバックアップを行い、ドローン技術が様々な分野で活躍することを期待しています。

ドローンが日常に飛び交う社会の実現をめざして

 ——上記の取り組みを通じて、長崎県をどのような 地域へと育てていきたいとお考えですか。

 長崎県ではドローンの利活用を通じて、少子高齢化や人口減少に起因する地域課題に対処し、特に買い物困難や人手不足といった問題の解決を目指しています。ドローン技術を活用することで、人手不足の解消や効率的な点検業務の実現など、幅広い分野での効果も期待しています。

さらに、産業振興の面でも、地元の飲食店や日用品の事業者がドローンを活用することで商圏を広げ、地域特有の事業者の活性化に繋がることが期待されます。こうした取り組みや支援を積極的に行うことにより、ドローンが日常的に飛び交う社会を早期に実現し、県内の経済や社会全体を活性化させたいですね。長崎県をより豊かで持続可能な地域にしていくことが、我々の願いです。

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