東京への人口一極集中が全国的に進むなか、浜松市ではスマートシティ時代における新たな地方創生のモデルケースとして、モビリティサービスを通じた持続可能な都市の実現に向けた官民一体の取り組みを進めています。
浜松市が取り組むドローンを活用した地域活性化や浜松版MaaS構想について、その背景や具体例、将来の展望などを、浜松市役所のデジタル・スマートシティ推進課で課長を務める米村 仁志氏に取材しました。
ドローンで解決する「移動」の社会課題
――まず、浜松版MaaS構想の概要を教えてください。米村:
この構想には二つの重要なポイントがあります。一つは日本全国共通の課題である少子高齢化への対応です。浜松市においても人口減少に伴い、交通サービスの維持が困難になってきていることから、その解決策を探ろうというものです。
もう一つは、令和元年に浜松市が宣言したデジタルファーストの方針です。これはデジタルの積極活用で地域をもっと便利にしようというものですが、この2つの要素が時期的に重なったことで、「デジタル技術を活用した交通課題の解決」という方向性が見えてきました。
また買い物など生活における移動の課題も顕在化していたため、浜松市の強みであるモビリティ産業とデジタル技術を組み合わせることで、社会課題の解決を目指すことになりました。これが浜松におけるMaaS構想です。
――その中で、ドローンはどのように位置づけられているのでしょうか。
米村:
デジタル技術や最先端技術を活用して社会課題を解決するという構想の中で、ドローンは重要なソリューションの1つとして位置づけられています。特に物流面での活用を重視しており、市域の60%以上を占める中山間地域(平野の外縁から山間地にまたがる地域)における課題解決に期待が寄せられています。
中山間地域では、医薬品や日用品・食料などを入手するために市街地まで1時間以上かけて移動しなければならないケースもあります。ドローンの活用を通じて、必要な時に素早く物資を届けられる仕組みを構築することが目標です。
コンソーシアムで取り組みを加速させつつ、地域住民への理解を得る
――浜松市モビリティサービス推進コンソーシアムについて、その設立の経緯を教えてください。米村:
このコンソーシアムは、構想を実現するための官民連携組織として設立されました。幹事として浜松市・遠州鉄道・スズキが中心となり、現在では130を超える企業・団体が参画しています。
また、総務省や経済産業省、国土交通省などの官公庁や大学など26団体もオブザーバーとして参加いただいています。
特にコンソーシアム傘下の「ドローン利活用推進部会」には40の団体が所属しており、現在活躍している企業に加え、将来的なドローン活用を検討している企業が多く参画しているのも大きな特徴です。
官民連携及び異業種連携により次世代モビリティを推進し、地域の移動手段の確立やモビリティと様々なサービスの連携による地域の活性化を通じ、持続可能な都市づくりを目指します。
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/digitalsmartcity/mobilityconsortium.html >
そのため会員構成も、ドローンの製造企業やドローンスクール、そしてドローンを活用したサービスを提供している企業など非常に多様です。また大手企業から地域に根ざしたローカル企業まで、規模を問わず多様な企業が集まっています。
各団体からは多角的な視点でプロジェクトを支援いただいており、ドローン技術の新たな可能性を探る上で大きな強みとなっていると感じますね。
――コンソーシアムに参加することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
米村:
まず、多様な会員が持つドローン技術や活用事例について、業界の最新情報を共有できる点が挙げられます。会員同士で交流を持つ機会も豊富にあるため、この交流を通じて新たなビジネスアイデアや協力関係が生まれる可能性があるのもメリットです。
交流が進展すると、共同プロジェクトや実証実験などの具体的な協業に発展することもありますね。とくに、浜松市では天竜川水系がドローン航路として国から指定を受けており、この航路を活用した実証実験を行うことも可能です。
新しいビジネスモデルの確立を目指す企業にとって、コンソーシアムは非常に魅力的な存在だと自負しています。
浜松市モビリティサービス推進コンソーシアムは、11月21日(木)に、「ドローン航路」をテーマとした具体的なサービスを創出するためのイベント「ドローン航路活用に係るワークショップ」を開催いたします。 これからのモビリティサービスの進化に関心のある企業や自治体、スタートアップの皆様は、ぜひご参加ください。
2024/11/08 00:02
――天竜川水系におけるドローン航路の整備状況はいかがでしょうか。
米村:
現在は経済産業省の事業として、今年度中の社会実装を目指して整備を進めています。物流企業による実際のビジネス展開は2025年の初め頃になりそうです。
この航路は完成すると約180キロにも及ぶため、さまざまなオープンデータや企業からのデータを活用して、障害物や人流を考慮した安全な経路を設定しています。
米村:
住民への説明も重要な取り組みの1つです。ドローンについての理解がまだ十分でない方も多く、特に安全性への不安の声もあるため、丁寧な説明を心がけています。
実際の物流用ドローンは一般的な玩具用のものと比べてかなり大型になるため、「もし落下したらどうなるのか」といった安全性への不安の声も聞かれます。
このような不安に対しては、安全管理の仕組みや具体的な運用方法について丁寧な説明を行うことを意識して取り組んでいます。ドローンの重要性への理解は少しずつ深まってきていますが、特に導入初期の段階では、住民の方々の不安に寄り添った対応が不可欠ですね。
また航路整備に当たっては、実世界の動的・静的な情報を取り込んだデジタルデータを集約させ、3D空間上に障害物を再現することでドローン輸送を効率化する「デジタルインフラ技術」も採用しています。
社会実装は「持続可能な事業」にすることで実現する
――具体的なユースケースとして、医薬品配送の実証実験についてお聞かせください。米村:
現在、中山間地域における医薬品配送の実証実験を計画しています。特に注目しているのが移動診療における医薬品の即日配送です。
たとえば医師が巡回診療で訪れた際に、必要な薬のストックがない場合もあります。
従来であれば、患者さんは自宅から離れた薬局に行くなどの対応が必要となり、大きなストレスとなっていたんです。この課題に対し、市街地から患者さんが薬を受け取るスポットまで、1時間以内にドローンで配送することを目指しました。
ただし、高齢者の方々のデジタル決済への対応や、配送の効率化などいくつかの課題は依然として残っています。
――決済対応や効率化について、具体的にどういった点がネックになっているのでしょうか。
米村:
最も大きな課題が決済システムです。中山間地域にお住まいの高齢者の方々の中には、デジタル決済に不慣れな方が多くいらっしゃいます。
スマートフォンを使った決済システムの導入を検討していますが、現金決済のニーズも無視できません。現金をドローンで運ぶことは現実的ではないため、適切な決済方法の確立が急務となっています。
配送の効率化については、効率性と即時性のバランスをどう取るかが大きな検討課題です。採算性を確保するためには複数の配送をまとめて行う必要がありますが、そうすると必然的に待ち時間が発生します。
医薬品の場合は非常に緊急性の高いケースもあるため、最善の方法を模索しています。
「ドローンの最先端都市」をめざしてモデルケースを量産
――ドローンの河川点検への活用について、詳しくお聞かせください。米村:
河川点検へのドローン活用は、ビジネスモデルとしての持続可能性を重視して検討を進めています。
物流単独のサービスとしては、一件あたり数百円程度の料金設定しかできないので、採算性の確保が困難です。
そのため、医薬品配送などの往路便と組み合わせた複合的なビジネスモデルを構築することで、全体としての収益性を高める工夫を行っています。
具体的には、出発地点から診療所への医薬品配送の帰路便を活用して、国土交通省が実施している河川の点検を行うことを検討しています。1つのフライトで複数の業務をこなすことでドローン運用の効率を高め、サービスの持続可能性を確保するという方針です。
このような取り組みは、他の地域でも応用可能なモデルケースとなることが期待されていますね。
――今後の展望についてお聞かせください。
米村:
現在、日本で唯一河川のドローン航路指定を受けている強みを活かし、浜松市で様々なドローンビジネスの実証を進めていきたいと考えています。
将来的には「ドローンといえば浜松」と言われるような最先端の都市になりたいですね。
まずは往路で医薬品を配送し、復路で河川の点検を行うような複合的なビジネスモデルの構築を進めて、持続可能なビジネスモデルの確立を目指していきます。
これからもものづくりの街としての強みを活かし、ドローン産業の発展にも貢献していきたいですね。