(取材)ミラテクドローン|神戸市役所の壁面調査にラインドローンシステムを活用。人口集中地区でのドローン活用を促進。

ミラテクドローン  神戸市役所の壁面調査に活用  安全性の高い点検・調査を実現できる ラインドローンシステムとは?
2024年2月、神戸市役所において、人口集中地区でも安全に作業が行えるラインドローンシステムを用いた壁面調査の実証試験が行われました。
参考:ドローンを活用した神戸市役所1号館の壁面調査実証試験|神戸市

神戸市では、施設管理業務の効率化を目的として、庁内におけるドローン活用が進められています。今回の実証実験はその一環として、神戸市役所1号館南側の壁面をドローンで撮影し、後日、撮影データから面状態の確認や修繕箇所の特定に繋がるかどうかを検証するというものです。

この実証試験においてドローン撮影を担当したのが、ミライト・ワングループに属する株式会社ミラテクドローンのドローンテクノポート神戸事業所です。

今回の記事では、神戸市役所で実際に壁面調査を担当した森井健二さんと安原健矢さんに、実証試験の様子やラインドローンシステムの利用メリットについて伺いました。

(左)安原健矢さん、(右)森井健二さん


ミラテクドローンとは

株式会社ミラテクドローンは、情報通信機器・設備の建設や保守点検業務に強みを持つミライト・ワングループに所属する、ドローン活用のスペシャリスト集団です。

ドローンによる点検・測量、人材育成のためのスクール運営、ドローンの販売・システム構築を三本柱に据え、最新のテクノロジーと蓄積されたノウハウを駆使してビジネスにおける課題解決に尽力しています。

これまでのフライト実績は3000件以上にも及び、近年その活躍の場は災害現場にまで広がっています。2024年1月に能登半島地震で起きた災害では、全天候型ドローン操縦のためのパイロット支援に当たりました。また操縦とは別に、ドローンを旋回させて撮影した写真から現場のオルソ画像を提供し、災害現場の検証に貢献しました。

(取材)3000件を超えるフライト実績!点検業務の老舗ならではの業務ノウハウとは?株式会社ミラテクドローン社長佐々木康之氏

情報通信機器・設備の建設や保守点検業務に強みを持つ株式会社ミライト・テクノロジーズ(現ミライト・ワン)から、2020年に独立した株式会社ミラテクドローン。3000件以上のフライト実績をもとに、サービスの拡大を続けています。同社社長の佐々木康之氏に、強みや活用事例、業務ノウハウについてうかがいました。

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高層ビルも余裕でカバー、安全性の高いシステム

―今回の実証試験に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

安原:
弊社はかつて神戸市の入札案件を受注したことがありました。そのご縁からお声がかかり、弊社のラインドローンシステムを高層ビルなどの点検に活用できないか、実証実験を行うに至りました。

森井:
神戸市ではドローンを積極的に活用しようという方針を打ち出しています。それに関連して、弊社がドローンを使用するための研修を実施しているという繋がりもあります。

―今回利用されたラインドローンシステムについて、詳しくお聞かせください。

安原:
ラインドローンシステムとは、建築物の屋上と地上をラインで結び、ドローンを係留することで、人口集中地区でも安全に飛行できる仕組みです。設置する際には、釣り竿のような棒を屋上に設置し、そこから錘(おもり)を使ってラインを下ろします。
※参考:ラインドローンシステム|西武建設株式会社

ラインドローンシステムは、弊社が所属するミライト・ワングループの西武建設株式会社が開発しているシステムで、都会や街中など、いわゆる人口集中地区にある高層ビルや高い建築物の点検に適しています。


―神戸市様の市庁舎は100メートルを超える非常に高い建物ですが、ラインドローンシステムは何メートル程度の高さをカバーできるのでしょうか。

安原:
釣り竿につけるリールによって変わりますが、標準的な仕様ですと、約200メートルのラインを運用できるようになっています。

200メートルと言っても分かりづらいので例を挙げると、神戸ポートタワーが約108メートル、通天閣が約100メートル。梅田スカイビルが約173メートルです。

関東の例ですと、東京の恵比寿ガーデンプレイスが約167メートルです。このようにラインドローンシステムは、多くの高層建築物に対応できるシステムとなっています。

人口集中地区でも申請不要、コストカットにも

―従来のゴンドラを利用した調査と比較して、ラインドローンシステムにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

森井:
ラインでドローンを係留するため、ドローンがどこかへ飛んで行ってしまうリスクがありません。また、飛行許可申請を行う必要がないため、人口集中地区でも運用しやすい点もメリットです。
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通常、人口集中地区におけるドローンの飛行は航空法の規制対象となる「特定飛行」に該当し、事前に国土交通省航空局へ飛行許可承認申請を出す必要があります。

一方、ミラテクドローンの扱うラインドローンシステムは、屋上と地上を結ぶ2点係留装置として安全性が確保されているため、人口集中地区でも飛行許可承認申請を行う必要がないのが大きなメリットです。

森井:
また、ゴンドラの場合は上下左右に移動しながら目視で点検を行いますが、ゴンドラの範囲内でしか身動きが取れませんし、何より非常に長い時間がかかります。

ラインドローンシステムを使えば安全性が向上し、作業時間も削減されます。ドローンでは撮影だけを行い、終わったあとにまとめて点検をする形式なので、落ち着いた状況で念入りに点検を行えるのもメリットです。

安原:
ドローンが定着していけば、人手不足、技術者不足もさることながら、安全性の確保という問題も解決できます。

人力で点検を行う限り、安全性を高めるためには多くのコストがかかります。ラインドローンシステムを使えば、安全性を確保したうえでコストが安くなります。この点は大きな強みだと思います。

南面の撮影は半日で終了、結果は「満足」

―今回の実証実験では、具体的にどのような業務を委託されたのでしょうか。

安原:
今回の実証実験では、ラインドローンシステムを活用した撮影のみを依頼されました。弊社が撮影したデータを元に、神戸市の方で打診点検を実施し、この仕組みが実用化できるかどうかを見ていく流れでした。

今回は南面だけだったので、実際の作業時間は半日程度でした。壁面のひび割れや、建物の角に使用しているゴムの劣化などについて撮影を行いました。結果として神戸市役所の方からは、気になる箇所がしっかりと確認でき感謝している、というお声をいただけました。

―実証実験の当日は、どのような流れで進みましたか。

安原:
ラインドローンシステムの撮影では使用する機材が多いので、準備に時間がかかります。8時ごろに集合し、屋上側と地上側の機材を1時間ほどで準備。それが終わったら、30分ほどかけてラインを地面へ降ろします。

なお、ラインを降ろす工程については、天候や風の合間をぬって行うため、日によってはもっと時間がかかるかもしれません。というのも、ラインにつけた錘はかなり重いので、突風が吹くと窓に当たってガラスが割れてしまう危険性があるんです。

できるだけ危険性を下げるために、錘の周りには柔らかいスポンジのようなものを巻いていますが、完璧ではありません。風が強いタイミングでは降ろさない、あるいは風が吹いている方向によって降ろす場所を変えるなどの対応が求められるでしょう。

ちなみに、ドローンを飛ばすか飛ばさないかを判断する目安は、マニュアルに書かれてありますが、およそ風速5メートルです。
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風速5メートルというと、顔に風を感じる、小さめの旗が揺れる、木が揺れ始めるくらいの強さですね。

安原:
機材のセッティングが終わったら、ドローンのフライトに入ります。フライトは2時間半か3時間くらいで、昼過ぎ頃には撮影作業が終了しました。

森井:
準備作業がスムーズに進んだのは、神戸市役所のもともとの設備と相性が良かったのもあります。神戸市役所にはもともとゴンドラが設置されていたので、ゴンドラのレールの上に木枠を乗せ、スライドしながら運用できたんです。ケーブル1本分、1ラインの撮影が終わると、上と下で声を合わせて横にスライドさせていく流れで進めました。


―ドローンでの作業には安全対策が欠かせませんが、今回の作業ではどのような対策を講じられましたか。

安原:
かなり人通りの多い場所だったので、ドローンが離発着するスペースは完全にコーンで囲み、前後に交通誘導員を立てて誘導を行いました。

また、屋上で作業する人には必ず落下防止の器具を取り付けたほか、それぞれの道具にも落下防止用器具を付けました。いずれも基本ではありますが、安全を確保するためには徹底することが大切です。

ラインドローンシステムの課題と今後の展望

―ラインドローンシステムの普及に向けて、今後の課題などがあれば教えてください。

安原:
神戸市役所は比較的作業のしやすい場所でしたが、屋上に機材が置かれているなど、作業をしづらい現場にどう対処するかは、今後検討するべき課題です。

森井:
今回は屋上にあるゴンドラのレールに台板を乗せられましたが、もしもゴンドラがない場合、「パラペット」(屋上やバルコニーにある、落下防止の手すりのような部位)の有無に応じて対応を変える必要があります。

パラペットの大きさにはバラつきがあるので、現場を見て判断するほかありません。また、パラペットにかなりの奥行きがある場合、現状では対応が難しいです。

5階建てくらいの建物であれば、釣り竿を手持ちで対応することもできますが、これも建物の大きさによります。ケースバイケースで判断しながら知見を蓄積していかなければいけません。

また、いくらラインドローンシステムの安全性が高くとも、人通りが多い街中ですと、場合によっては歩行者の不安を煽ってしまうかもしれません。周囲の民家にお住まいの方が「家の中が写り込むのでは」と心配される場合もあります。あらゆるリスクや心情に配慮しながら、慎重に進めていくことが求められるでしょう。

―ラインドローンシステムの今後の可能性は。

安原:
今後は、東京にいるメンバーでも可視光カメラや赤外線カメラを使ったラインドローンシステムの実証実験を行う予定です。同時に神戸市でも、さまざまな高層建築物の点検にラインドローンシステムを活用してもらえないか、あらゆる可能性を探っていきたいと考えています。

また昨今では、バブル期に建築された高層ビルの劣化が激しい時期になってきている、という話をよく耳にします。点検の需要が増えてきている中、ラインドローンシステムの需要もさらに高まっていくと予想しています。

森井:
最近、建物の建築に関する法律が変わり、打診点検以外の方法(ドローンによる赤外線調査など)も認められるようになりました。これは我々ドローン事業者にとって大きな追い風です。
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2022年4月に建築基準法が改正され、建築物の定期調査報告における点検方法として、ドローン(無人航空機)による赤外線調査が明記されました。

参考:定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン|国土交通省

森井:
世間の関心がドローン活用に向かうなかで、我々としてはパイロットの育成にも注力していきたいと考えています。実際に弊社のスクールでは、ラインドローンシステム講習や、建築物コースという形でラインドローンの運用方法について指導しています。しっかりと講習を受け、正しい知識と経験を身に付けたパイロットを輩出することで、ラインドローンシステムをさらに普及させていければと期待しています。


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