【説明会レポート】KDDIスマートドローン 石川県での遠隔運航実証と全国1,000拠点展開を発表

【説明会レポート】KDDIスマートドローン 石川県での遠隔運航実証と全国1,000拠点展開を発表
  • 今回お話を伺った方
    • KDDIスマートドローン株式会社 代表取締役社長

      博野雅文氏

      2004年KDDI入社以降、WiMAX基地局の開発業務を経て、長くセルラーネットワーク構築に関わる企画・開発業務に従事。 2014年より、端末における無線通信プロトコル開発リーダーを務めた後、2016年10月より、セルラーネットワークを活用したスマートドローンの事業化を推進。 2022年4月に、KDDIスマートドローン株式会社代表取締役社長に就任。

KDDIスマートドローンは2025年10月16日(木)、AIドローンポートの全国展開に向けた説明会を開催しました。

前日15日に石川県能登地域で実施した遠隔運航実証の結果を報告するとともに、ドローンポート「Skydio Dock for X10」の全国1,000拠点展開と遠隔運航サービスの大幅アップデートを発表。説明会では悪天候のため当日のライブデモは中止となりましたが、前日の実証映像を通じて平時・有事双方でのドローン運用の可能性が示されました。

「ドローンポート全国展開により新たな社会基盤へ」博野社長が語る決断

KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏の写真

KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏は冒頭、「かねてより検討を進めてまいりましたドローンポート「Skydio Dock for X10」(以下、ドローンポート)の全国展開、これをいよいよ始動いたします」と宣言。今回は石川県に設置したドローンポートの状況と活用可能性、そして遠隔運航サービスのアップデートについて紹介すると述べました。
 
博野社長はまず、ドローンポートの運用条件について説明しました。当日の能登半島は悪天候で、特に雨量が基準を超えていたため、当初の進行を変更し、前日に行われた実証実験のデモンストレーションが公開されることになりました。
 
石川県内のドローンポート設置場所についても詳細が明かされました。

石川県のドローンポート設置場所の写真

ドローンポートは、輪島市では中屋トンネル付近と輪島消防署屋上の2カ所、七尾市には和倉温泉お祭り会館と西部水質管理センターの2カ所に設置されています。

「輪島市は昨年の能登半島地震、それから奥能登豪雨でかなり被害の大きかった地域ですので、何かあった際にすぐに状況を確認できるよう設置しました」と博野社長は語りました。

東京と北海道から石川のドローンを操縦|10月15日実証実験の詳細

KDDIスマートドローンのAIドローン石川県の実証実験をデモする写真

悪天候により当日のライブデモは中止となりましたが、前日10月15日に同様の実証を成功させていました。その映像を見ながら、運航指揮者の浦氏(KDDIスマートドローンオペレーション事業)が詳細を解説しました。

ドローン遠隔運航の画面構成と安全確認プロセス

KDDIスマートドローンAIドローン設置に関する説明会でのデモンストレーションの様子

浦氏はまず、画面構成を説明しました。

「左側の上下2台が操縦者が見ている画面です。右上が運航管理、つまり運航指揮者が管理のために確認している画面、右下は状況確認のためにプラスして表示しています」

運航指揮者は、オペレーターが記入したチェックシートを確認しながらダブルチェックで安全を確認します。オペレーターは、ドックに搭載されたカメラで機体の傷や機体番号の剥がれを確認し、プロペラをテスト回転させて異常がないかも確認します。

飛行前の徹底した安全確認の様子がとてもよくわかりました。

1対2運航による3Dモデリング撮影

ドローン遠隔運航による3次元データサービスの写真

最初に飛行したのは中屋トンネル付近での3次元データ取得のためのドローン飛行です。「現在我々が提供している遠隔運航サービスにおいて最もご依頼の多い飛行内容で、工事の進捗や災害の被害状況など、経過観察のための3次元点群データを取るための飛行です」と浦氏は説明しました。
 
自動運航が始まると、1人のオペレーターで2台の機体を監視・操縦する「1対2運航」が実施されました。この場合も、運航指揮者がサポートし、安全を確保しているとのことでした。

緊急地震速報への対応シミュレーション

AIドローンとドックを用いた災害対応のデモンストレーションの写真

デモ飛行中、シナリオとして緊急地震速報が発表されました。「幸い空中に浮いている機体には影響はありません。ですので慌てて機体を降ろすことはせず、状況確認を続けるよう運航指揮者からオペレーターへ指示を行いました」と浦氏。
 
「最大震度6強の地震速報が発表されたので、北海道のオペレーター、緊急対応をお願いできますか」という指示が出されます。災害時を想定し、ひとつの拠点ではなく複数の拠点から、ドローンを遠隔運航できるようにしています。

浦氏によると、今後は KDDIスマートドローンパートナーズやKDDIスマートドローンアカデミーなどを通じて、全国に広がるドローン人材ネットワークをさらに活用していきたいとのこと。

確かに災害はどこで起きてもおかしくありません。そのため、一箇所に限らず、全国各地からドローンを遠隔操作できる体制が重要です。東京の会場で石川県の状況を見ながら、北海道から遠隔操作が行われる様子を目にしたのは、とても印象的でした。

KDDIスマートドローンパートナーズの詳しいレポートはこちらから↓
競争から共創へ!「KSD CONNECT 2025」で始動するKDDIスマートドローンパートナーズ

強風下でも安定した着陸性能を実証

水質管理センターの機体が着陸する際、「この時、着陸時、割と強めの突風が吹いてちょっと機体が暴れているのがおわかりいただけるかなと思います」と浦氏。映像を見ていると、揺らぐドローンに一瞬不安を感じたものの、しかし機体は無事に着陸しました。

「耐風性能12.8メートルということになっておりますが、基本的には15メートル以上の風で着陸試験を何度も繰り返しておりますし、今までドックを外れて着陸ということはありません」と、機体の高い性能を強調しました。

津波警報を想定した沿岸確認飛行

ドローンを使った地震災害時の津波の到来状況の確認映像

シナリオはさらに進み、石川県から津波警報に伴う沿岸確認の依頼があったという想定で、輪島消防署からの飛行準備が指示されました。

海上については、あらかじめ確認したい場所がピンポイントで想定できないため、オペレーターがコントローラーを使ってマニュアルで飛行していく形です。
 
輪島消防署近辺には自衛隊の駐屯地があり、ドローンの飛行は禁止されています。システム上でルートを山沿いを経由して移動するよう指示し、運航指揮者がしっかりと飛行状況を監視する体制をとりました。

想定されたルートを外れている場合や、第三者の存在に気づかない場合、運航指揮者が補助者のような役割も担うことで、より安全を優先したフライトを実施することが可能となっています」と浦氏は説明しました。

緊急用務空域への対応と発災直後の有効性

最後は、付近を有人機が飛行する可能性があるという連絡を受けて、全機帰還の指示が出され、飛行は終了となりました。

大規模災害が発生すると、「緊急用務空域」と呼ばれるドローンの飛行が原則禁止となる空域が設定されます。

ドローンを飛行させるためには、自衛隊や災害対策本部など関係機関との調整が必要となり、運用には多くの制限が課されます。そのため、発災直後の段階で即座に離陸できるこのドックの仕組みは、非常に有効だという浦氏の説明に、参加者の多くがうなずいていました。

ドローンポート全国1,000拠点展開と遠隔運航サービスの大幅アップデート

KDDIスマートドローンの遠隔運航について語る博野社長

デモ映像の解説後、博野社長が再び登壇し、同社の戦略と新サービスについてスライドを提示しながら詳細を発表しました。
 
「機体の外観点検や、プロペラが回るかどうかの確認、周辺状況の確認として風速や雨量を遠隔で確認しながら安全な運航を実現していく。これが実現できる機体がようやくできてきました。我々はそこに資する運航オペレーションの体制を今回構築してまいりましたので、ドローンポートの全国展開に舵を切ったというわけです」と博野社長は説明しました。

AIとモバイル通信で実現する次世代ドローン

KDDIスマートドローン「AIドローン設置に関する説明会」での博野社長の写真

博野社長は、ドローンに通信を掛け合わせることで、さまざまな社会課題の解決に貢献していきたいと強調しました。
 
「人口減少に伴う労働力不足の解消や、人が行う危険作業の代替、また防災減災のための活用といった形で、ドローンの活用の幅というのはますます広がっています」
 
「従来のドローンでは、人がドローンを現地まで運び、ドローンを制御していくというところが一般的でした。ただ、これを、モバイル通信を活用することでどこからでもドローンを遠隔制御することができる。先ほどのデモであれば東京と北海道から石川のドローンを遠隔で制御する、こういったことが可能になっております」と博野社長は語りました。
 
KDDIグループは2016年からこのような取り組みを行っており、2024年5月にはアメリカのSkydioに出資し、資本業務提携を締結しています。また、2022年にKDDIスマートドローンを設立し、その後日本航空からも出資を受けて、JALの空の知見も活かしながらドローンの運航オペレーションを磨き上げてきました。

Skydio X10の360度空間把握能力

「Skydio X10」の機能についての画像

今回活用しているAIドローン「Skydio X10は、上下に3つずつビジョンセンサーを搭載し、360度の空間を把握しながら飛行できます。「何か横に障害物があった際もドローンがそれを検知して自動的に避けながら飛行することができる」と博野社長。
 
Skydio Dock for X10(ドローンポート)とKDDIスマートドローン博野社長の写真

ドローンポート「Skydio Dock for X10」と博野社長


 さらに、自動離発着・充電を可能とするドローンポート「Skydio Dock for X10」が日本に上陸したことが大きな転機となりました。「このドローンポートを活用することで24時間365日のリモート運用が可能になる」と博野社長は強調しました。

フェーズフリー社会の実現を目指して

同社は、ドローンポートを活用することで、平時においては施設の巡回、インフラ点検、見守りサービス等を行いながら、災害時等の有事においては災害状況の一次確認や救助者の捜索活動にあたります。

「このような有事、平時に活用可能なフェーズフリー*社会になくてはならない存在にしていければ」と博野社長は語りました。
* 「日常時(平常時)」と「非常時(災害時)」という2つの異なるフェーズを分けず、どちらの状態でも役立つモノやサービス、仕組みを設計・利用しようという考え方

ドローンポートを全国1,000拠点に展開することで、「全国どこでも10分で駆けつけるサービスの実現が可能になります。これをまず石川から構築を開始します」と力強く語りました。

石川県との包括連携協定

2024年10月に創造的復興の実現に向けた包括連携協定を石川県と締結しています。

「協定において、平時、有事を問わずフェーズフリーでデジタル技術を活用していく、これによって防災のDXをともに推進していくことを合意しております」と博野社長。

協定の中でローソンとの連携も進めており、「町の安全、安心を守る地域防災コンビニ、これをともに作り上げる」取り組みも進めています。
 
協定締結以降、KDDIスマートドローンでは石川県、石川県警とさまざまな実証を行ってきました。2024年12月には行方不明者の捜索や交通事故時の初動対応、2025年4月には河川の氾濫状況の把握や避難誘導実証も実施し、すべての実証でその有効性を確認しています。

遠隔運航サービスの3つのアップデート

KDDIスマートドローンの遠隔運航サービスのアップデートについて

「めざすべきところとしては、お客様のドローン運用の手間をゼロにしていく」と博野社長。現在法人向けに提供している遠隔運航サービスについて、3つの大きなアップデートが発表されました。
 
1つ目は、24時間365日の運航体制の実現です。これまで平日日勤帯に限定していた定期運航を強化し、大型施設の定期巡回や早朝の現場データ確認などのニーズに対応します。また、お客様が「飛ばしたいタイミングで飛ばしてほしい」というニーズに応える「スポット運航サービス」も開始します。

2つ目は、測量パッケージのサービス化です。KDDIスマートドローンに在籍する測量士が点群データの取得から生成、データ分析までを一貫して行い、「ドローンで取得してから最短3時間で測量データの提供を行う」サービスを実施します。
 
KDDIスマートドローンの測量パッケージについての解説書

3つ目は、生成AIを活用した現場運用の高度化です。MODE社が提供する現場特化型のAIアプリケーションと連携し、「ドローンが撮影したデータを生成AIを活用して見たいタイミングで見たい場所の映像をチャット形式で呼び出す」ことが可能になります。このサービスは2025年内にサービス提供を開始する予定です。

今後の展開とビジネスモデル

KDDIスマートドローン「AIドローン設置説明会」で登壇する博野社長の写真

説明会後の質疑応答では、博野社長が全国展開の方針について語りました。災害危険地域への展開を重視し、「今後、南海トラフ等も発生する可能性がありますので、こういった危険地域への展開も検討を進めていきたい」としました。
 
パートナーシップについては、自治体(県警・消防含む)との連携に加え、「特にインフラ企業や建設会社からは非常にニーズが高い」として、民間企業とも一緒にユースケースを開拓していく方針を示しました。
 
通信途絶時の対策として、Starlinkによる衛星通信の活用実証を年度内に実現する計画も明らかにされました。「モバイル通信がないエリアにおいても遠隔運航を実現していく、より災害に強いシステム運用体制を実現していきたい」と述べました。
 
ビジネスモデルについては、「ドローンをお客様が意識する必要がない、サービス型のモデル」を想定しており、「まず石川でサービスモデルの検証を行いながら、ビジネスとして成り立つモデルを構築していく」としました。

ドローンが日常の中で社会を支える時代に

博野社長は最後に、「KDDIグループが持つ通信、AI、ドローン、それから運航オペレーション、これらを掛け合わせて、ドローンの活用の可能性を追求していく」と語り、「今後もドローンの活用の可能性というのを信じて、社会をより良い方向にしていくために取り組みを進めてまいりたい」と締めくくりました。
 
平時と有事を区別しない「フェーズフリー」の考え方で、日常的なインフラ点検や測量に活用しながら、災害時には即座に被害状況確認や避難誘導に転用できる体制。多くの飛行実績に裏打ちされた運航ノウハウと、AIによる自律飛行技術、24時間365日対応可能な遠隔運航体制。

ドローンの社会基盤化への道筋が、着実に形になりつつあります。空と地を結び、未来を守る――ドローンが日常の中で社会を支える時代が、すでに始まっています。
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