経済産業省に聞く国産ドローン支援「特定重要物資制度と139億円補助金」
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今回お話を伺った方
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経済産業省 製造産業局 航空機武器産業課 次世代空モビリティ政策室 係長
竹原 伸氏無人航空機(ドローン)をはじめとした次世代空モビリティ分野を担当し、経済安全保障の観点から国内生産体制の強化のための量産支援、制度設計に携わる。
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監修者
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コエテコドローン責任者
柴垣 泰氏2001年GMOメディア株式会社に入社後、営業責任者を経てドローン関連の新規事業開発を担当。コエテコ・ドローンの事業責任者として全国100校以上のドローンスクールを取材し、業界動向を深く把握。国土交通省や有識者への取材を通じて、ドローン・ロボティクス分野の最新トレンドと事業者の情報に精通。E.R.T.S産業用無人航空機操縦技能認定を保有。幅広い人脈を活かしてドローン関連企業・自治体・教育機関をつなぐ橋渡し役を担い、業界の発展に努めている。
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経済産業省 製造産業局 航空機武器産業課 次世代空モビリティ政策室 係長 竹原 伸氏に、コエテコドローン・柴垣が取材し、139億円規模の支援の仕組みや対象となる機体・部品の範囲、国産要件や量産基準について具体的に語ってもらいました。
開発から社会実装・量産へと移行する産業の転換点において、実務に直結する一次情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
ドローンが特定重要物資に指定「制度概要と追加の背景」

経済産業省 製造産業局 航空機武器産業課 次世代空モビリティ政策室 係長 竹原 伸氏
——令和7年12月、特定重要物資として無人航空機(ドローン)が指定されました。そもそも特定重要物資制度とはどのような制度でしょうか。
竹原氏:特定重要物資制度は、国民の生存に必要不可欠、または広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資を、経済安全保障法に基づき「特定重要物資」として品目指定する制度です。
これにより、有事の際にも物資の供給を途絶えさせず、安定的な供給を確保します。具体的には、事業者が行う生産基盤の整備、生産技術の開発、備蓄などに対して支援を行うことができます。
——これまでの指定品目と、今回の追加の経緯を教えてください。
竹原氏:もともと、2022年12月に初めて指定を行いました。対象は、半導体や蓄電池、永久磁石などで、当時は合計11物資でした。
その後、2024年2月に先端電子部品を追加し、指定品目は12品目となりました。さらに、昨年12月には、人工呼吸器、人工衛星、ロケット部品が追加され、まさに私たちが担当する無人航空機も特定重要物資に指定された、という経緯です。
——なぜドローンが特定重要物資に追加されたのでしょうか。

竹原氏:ドローン(無人航空機)は、物流、点検、農業、土木、建築、警備、災害対応など、多岐にわたる用途において社会実装が進んでいます。
実際、日常のさまざまな場面でドローンを見る機会も増えていますね。ドローンは日本において新たなインフラとして活用されることが期待されています。
さらに今後も、ドローン市場は世界でも国内でも拡大していくものと考えています。
しかし、現在、無人航空機は特定国が世界市場の約7割を占めており、産業用途にかかる国内市場については約9割を占めると言われています。

産業用途に係るドローンの国内市場
また、ドローンはバッテリーやモーターなどいくつかの部品を組み合わせて作られていますが、部品単位で考えても、日本のドローンメーカーが製造した機体の中身に海外製の部品が使われているケースも少なくない状況です。
国民生活や経済活動を支える無人航空機の供給を特定国に依存している状況を改善し、必要な性能と情報セキュリティを備えた機体を国内で安定的に供給する必要があります。
こうした背景から、ドローンの機体、そして重要な部品について量産体制を構築することが求められるという考えのもと、今回新たに無人航空機を「特定重要物資」として追加指定することとなりました。
特定重要物資対象となるドローンの機体・部品と「国産」の考え方

赤丸のついた機体、バッテリー、モーター、ESC、フライトコントローラー、映像伝送モジュールが対象(経済産業省資料を一部加工)
——特定重要物資の対象となる機体と部品の範囲を教えてください。
竹原氏:対象の範囲は、まず無人航空機、ドローンの機体そのもの、つまり機体を組み立てる工程がひとつです。もうひとつが、重要な構成部品になります。
その部品が具体的に何かと言いますと、
- バッテリー
- モーター・ESC(モーターの回転速度を制御する部品)
- フライトコントローラー(飛行制御)
- 映像伝送モジュール(ドローンが撮影した映像を手元のプロポ・スマホ等に送信するもの)
対象は、今申し上げた機体、バッテリー、モーター・ESC、フライトコントローラー、映像伝送モジュールに限定しています。たとえばプロペラなどは含まれておらず、現時点では、今申し上げたもので絞らせていただいております。
——国産化支援という点ですが、「国産」の考え方についても教えていただけますか?
竹原氏:部品については、日本製を使っていただくことが望ましいと考えますが、部品全てを日本製にすると、価格が上がり、結果的に需要家から購入されない機体になってしまう可能性も考慮しなければならないと思います。一部、友好国製の部品も取り入れるなどの工夫をしながら、価格競争力のある機体を作る必要があります。
少なくとも現状、日本製の部品だけでドローンを作るというのは相当難しい状況と認識しています。一方で、国産ドローンの量産をめざす方針のもと、当面は国産部品の比率を可能な限り高めた機体の開発・製造を進めていく段階にあります。
——では、量産するというのはどの程度の規模を推定しているのでしょうか?
竹原氏:量産については、供給能力の確保が大きなポイントになります。
たとえば年間100台から1,000台程度のドローンを作れますという規模では、ちょっと少ないという感触です。要するに『一定程度の規模で生産する計画でないと認められません』という形になるでしょう。下限値として例えば、年間10,000台以上の生産などを設けようと考えています。
139億円・3年間の基金設置——ドローン量産支援がいよいよ始動

——現在、ドローン関連の支援策が進められているそうですが、制度についてくわしく教えていただけますか?
竹原氏:無人航空機については、国内サプライチェーンの強化を目的に、経済産業省から「安定供給確保を図るための取組方針」というものを今後、公表します。
公表以降、事業者から提出される「供給確保計画」を審査・認定した上で支援を行う制度となり、その準備を現在進めています。
バッテリーやモーター等の部品の共通化が進むことで価格競争力も高まるものと考えており、今後3年間の補助を念頭に、令和7年度補正予算で139億円を確保しました。具体的には基金を設け、支援体制を整える予定です。

139億円は、経済産業省の無人航空機支援として計上したもので、半導体や蓄電池と比べれば規模は小さいものの、相当な額を確保できたと考えています。
サプライチェーンの強靭化事業により、2030年時点で無人航空機約8万台の生産体制を構築することをめざします。
——ドローン業界にとって大きなニュースですね。支援や補助金はどのように行われるのでしょうか?

予算は基金として運用する予定で、スキームとしては半導体や蓄電池と同様に、民間団体等に資金をプールします。この予算を活用したい事業者には、供給確保計画などの必要な書類を提出いただき、それを国が審査し、適切と認められれば、資金を交付する流れとなります。
基金は3年間の運用を想定しており、当面はこの139億円で進めていくことになります。
具体的な申請の流れとしては、まず3月頃に、特定重要物資ごとに国が「安定供給の確保を図るための取組方針」を公表します。そして民間団体等に基金が設置され、公募が開始される予定です。
——実際の申請スケジュールについても教えてください。
竹原氏:今はまだ正確な日時などは決まっていませんので、あくまで目安となりますが、おおむね次のようなスケジュールになると思います。
まず、3月頃に、特定重要物資ごとに国が策定する、「安定供給確保を図るための取組方針」を公表します。そして、民間団体等に基金が設置され、公募が開始される予定です。
事業者の方には、3月下旬から4月以降を目途* に、経済産業省に対して供給確保計画を提出していただきます。
提出された計画については、経済産業省と経済安全保障の観点から内閣府との協議を経て、国が認定を行います。
認定を受けた事業者に対して、民間団体等から資金が交付されることになります。実際には、研究開発や設備投資を進めていただいた後に、資金が支払われる仕組みです。
——機体メーカーと部品メーカーへの具体的支援についてはいかがでしょうか?
竹原氏:ドローン機体メーカーの場合、機体を量産するための支援を行います。現在、量産までは進んでいない状況ですが、各社とも既存モデルがあります。
ただ、こうした民間企業へのヒアリングなどを通じてわかったことは、既存モデルがあったとしても、量産を実現するためには、量産に適した機体設計に改めて見直す必要があるということです。そのための研究開発に関しても資金支援を行います。
また、量産となるとそれなりの生産キャパシティも必要になりますので、建物の取得費用、生産ラインの整備、試験装置の設置といった設備投資に対しても、一定割合の支援を行うことができます。
これによって、民間事業者だけでは困難な投資を推し進める環境が整うことになります。
機体・部品メーカー・政府の三者連携で国産ドローン量産へ

——では、既に進んでいる開発支援プロジェクトについて教えてください。
竹原氏:ドローン関連の研究開発としては、現在「K Program(経済安全保障重要技術育成プログラム)」で進行中のプロジェクトがあります。自律・分散制御型のドローンや、長距離物資輸送用のドローンなどを開発しています。
また、SBIRフェーズ3事業というスタートアップを応援する制度を活用して、例えば、ACSL社には小型の空撮機体を、イームズロボティクス社には中型の物流用機体の開発に取組んでいただいているところです。
これらについては、国内でどのような機体が必要かを議論した上で公募を出し、複数の事業者から応募があった中でも、最も優れた計画を提案した事業者を選定しています。
——国産ドローンの量産によって、たとえば機体の価格が下がるといったことも考えられますが、いかがでしょうか。
竹原氏:経済産業省としても各種の支援を行い、国産ドローンの量産が進むことで、スケールメリットが生まれてくると考えています。
すぐに価格が下がるかどうかについては、なかなかお答えしづらいところではありますが、徐々に下がっていってほしいと考えていますし、私自身はその方向に進んでいくのではないかと見ています。
いずれにしても、安全で適切なドローンを、さまざまな分野で社会実装していくためには、国産ドローンの生産を進めていくことが欠かせません。
——開発プロジェクトの推進、特定重要物資への追加や支援制度の構築など、国による「ドローン」への支援も加速していますね。最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

竹原氏:この取り組みは、機体メーカーだけが頑張っても実現しません。部品メーカーにも頑張っていただかなければ成り立たないものです。
部品メーカーからすると、本当にそれだけの機体が作れるのか、本当に売れるのかという不安があると思います。彼らも投資をして、実際に利益を出さなければいけない立場ですので、その点は十分理解しています。
ですから、機体メーカー、部品メーカー、そして私たち政府も協力し合って進めていかなければならないと考えています。
ドローンは今後、防災や防衛といった安全保障分野はもちろん、さまざまな産業の発展においても、極めて重要な役割を担っていくと考えています。
国産ドローンの生産体制を強化していくことは非常に意義深く、政府としても支援策の整備を着実に進めていることを、ぜひ多くの方に知っていただきたいですね。
すでに多くの現場でドローンが利活用され、社会に貢献しているという事実にも関心を持っていただければと思います。ドローンは決して一部の専門分野に限られた技術ではなく、私たちの暮らしや産業を支える存在になりつつあります。
今後も、日本のドローン産業の可能性を広げ、より一層の発展につなげていけるよう、皆さまと一緒に盛り上げていければと願っています。どうぞよろしくお願いいたします。
特定重要物資指定と補助金拡充──ドローン産業支援の新局面
経済産業省・次世代空モビリティ政策室係長 竹原氏からは、ドローンを取り巻く政策の考え方や現在の状況について、丁寧な説明を得ることができました。本インタビューを通じて、無人航空機分野がいま、次の成長段階に入ろうとしていることが浮き彫りになりました。
これまで、技術開発や制度整備を重ねることで、国内産業としての基盤は着実に築かれてきました。今後は社会実装と量産の段階に進み、部品を含めた安定的な供給体制の構築が求められます。
加えて、ドローンが特定重要物資に追加され、支援や補助金の拡充も進む中で、防衛分野での活用拡大も視野に入れた産業の発展が期待されます。
ドローン産業は、こうした環境の下で、新たな局面へと歩みを進めていくことになりそうです(質問者:コエテコドローン 柴垣)。
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