特許取得、農業・林業に特化した国産ドローンで第一次産業の未来を拓く|株式会社マゼックス 松添正征さん

特許取得、農業・林業に特化した国産ドローンで第一次産業の未来を拓く|株式会社マゼックス 松添正征さん
少子高齢化による労働の効率化が取り沙汰されるなか、第一次産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は急務とされています。

この動きの先駆者として挙げられるのが、国産ドローンメーカーの株式会社マゼックスです。数々の特許を取得する同社は、農業用ドローン「飛助」(とびすけ)と林業用ドローン「森飛」(もりと)を代表作に、現場の声に寄り添った機体を続々と開発。これらを販売するだけでなく、運用までを一括してサポートすることで、第一次産業に従事される方々を支えています。

本記事では、株式会社マゼックス創業者であり取締役CTOの松添正征さんに、これらのドローンが第一次産業にもたらす変革と、今後のビジョンについて詳しく話を伺いました。

農家の声から生まれた「飛助」反響も大きく

—改めて、御社のご紹介をお願いいたします。

私たち株式会社マゼックスは、農林水産航空協会による認定を取得したドローン製造メーカーであり、農業・林業分野においては国産メーカーの中で出荷実績No.1を誇ります。当社では、農業・林業に代表される第一次産業向けドローンの開発から製造、出荷、納品までを一貫して担っています。

農業・林業という過酷な現場で使用されるドローンには、高い耐久性が求められます。たとえば農業用ドローン「飛助」の場合、液剤やバッテリーを含む25kgの重さを安定的に持ち上げなければなりません。なおかつ4〜5年という長い期間にわたって使用していただくため、設計には高い技術が必要とされます。この技術力こそ、私たちマゼックスの自慢です。


—御社がドローンの開発を手がけるようになったきっかけは?

お客様からのリクエストがきっかけでした。当時は個人事業主として小型ドローンの製作と販売を行っていたのですが、あるときお客様から「農薬散布ができる機体がほしい」と相談を受けたんです。 

というのも、当時も農薬の空中散布は行われていましたが、ヤマハ製の無人小型ヘリによるものが主で、1000万円程度の初期費用、ならびに300万円程度の年間維持費がかかってしまうのがネックだったのです。ここをドローンに置き換えることで、コストを抑えて農薬散布を自動化したいというのが、現場の農家さんたちのニーズでした。

当時は今ほど農業用ドローンが注目されておらず、国内で1、2社が実証実験を行なっていたくらいでした。従来のヘリなどを参考に開発を進め試作機が完成したときには想像以上の反響が寄せられました。それまでは年間で10台程度売れれば良いくらいだったが、わずか1〜2ヶ月で10〜20台ものオーダーが入るようになったんですね。

「これはビジネスになるかもしれない」と感じた私は、製品開発を本格的に進め、1年間の試行錯誤の末、農林水産航空協会の性能試験に合格して認可されました。現在では代表製品として農業用の「飛助」、林業用の「森飛」を展開するほか、電設用の「延助」も扱っています。

4枚プロペラの源流はここにあり。特許取得の設計

—ではまず、農業用ドローン「飛助」について教えてください。

農業用ドローン「飛助」の魅力はその機能性にあります。現在では主流となった4枚プロペラ型の機体ですが、その源流を作り出したのは私たちマゼックスであり、特許も取得しています。

ドローン農業が注目された当初は、墜落のリスクを懸念する農家さんにアピールするため、6枚、あるいは8枚のプロペラを搭載したドローンが数多く販売されていました。

しかし、プロペラが増えればその分部品コストは上がりますし、重量も上がるので搭載できる農薬の量が減ってしまいます。また、農薬を行き渡らせるためのダウンウォッシュ(プロペラから吹き下ろされる風)も限定的で、散布の効率が下がります。

当社の「飛助」のような4枚プロペラの機体なら、大きなプロペラを搭載できるのでダウンウォッシュが強力になります。これに散布するノズルを前後進で使い分けることで無人ヘリとほぼ同等の散布性能が発揮でき、この構造を特許取得しました。これにより穀物はもちろん、野菜や果樹などの葉裏や根にまで均一に農薬を散布できるほか、周囲の圃場に薬剤が流れてしまう「ドリフト」の防止にも有効です。




まとめると「飛助」は、まさに日本の農業に適したドローンであり、他社には真似のできない技術の結晶といえます。

—「飛助」を導入されるのはどのような事業者様が多いですか。

穀物の生産を行っている農家さんや、農薬散布の請負業者さんがやはり多いですね。とくに米、麦、大豆といった主食となる穀物での導入事例が多く、従来の無人ヘリと置き換える形で活用していただいています。

また、2018年ごろからは農薬メーカーがドローン専用の製品開発を進めるようになったこともあり、野菜や果樹といった、これまでドローン散布が一般的ではなかった作物にも拡大するようになりました。ドローンによるスマート農業を通して、現場の農家さんたちの助けになれれば嬉しいですね。

 
—農家さんのリクエストから始まった「飛助」ですが、今も機体への要望は寄せられますか?

はい、いろいろなご要望が寄せられます。たとえば農薬を入れるタンクについて、当初はドローンのランディングギアにネジとボルトで取り付けていたのですが、これは「使い勝手が悪い」と。

たとえば現場で液剤から粒剤の散布装置に変更したい際に、工具を使わずに手早く交換できるようにしてほしいということで、設計を変えました。このあたりは日々、試行錯誤ですね。


—今ほどスマート農業が浸透しないなか、農業用ドローンの開発は困難を極めたのでは。

苦労だらけでしたよ(笑)。今でこそドローンは安全なものと考える方も多いですが、開発当初はいつ堕ちても良いように20〜30mほど安全距離を取り、覚悟を決めて飛行実験を行なうような状況でした。

いかんせん農業分野は初めてのもので、部品にしても、農業部品とドローンと合わせていくなど、何もかもが未知数でした。それでも手探りのままに試行錯誤を重ね、なんとか形にしていくのは相当な苦労でしたね。それが楽しくもあったのですが。

林業のコスト削減と労務改善を叶える「森飛」

—続けて、林業用ドローン「森飛」についても教えてください。

林業用ドローン「森飛」の開発は2019年ごろに始まり、2年の開発期間を経て販売へ辿り着きました。農業用ドローンのフレームをベースにしつつ、物を運ぶこと、そして森林という特殊な環境下での運用に特化した設計が施されています。

物資を運搬するドローンというと、本体に小さな箱を取りつけ、その中に物体を収納する仕組みを創造されるかもしれません。しかし林業現場においては、現場が坂道になっており離着陸が困難です。

そのため「森飛」は「物を吊り下げて運ぶ」仕組みになっており、運搬物が地面に接触すると自動で切り離す機能を備えています。これによりドローンを着陸させることなく荷物の配送と回収を行えるのが「森飛」の大きな特徴です。


 
余談にはなりますが、「森飛」の開発で印象に残っていることがあります。物を吊り下げるギミックは作れたものの、ときおり「森飛」が墜落してしまうことがあったんです。

「なぜ堕ちてしまうのか」と原因を探りましたが、すぐには究明できず……。やっと探り当てたのが、荷物がヨーヨーのようにバウンドすることで機体の制御が失われる「ハンチング」(上下運動が収まらない)現象でした。

理由を突き止めた私たちは、共振防止装置を開発し、「森飛」に搭載しました。すると、何度飛ばしても「森飛」が安定するようになったんです。このギミックもまた、特許を取得しており、林業用ドローンとしての安全性と信頼性を大きく向上させました。


—「森飛」を導入されるのはどのような事業者様が多いですか。

「森飛」のお客様は主に森林組合や、請負業者の方ですね。林業におけるドローンの使用はまだ一般的とは言えない状況ですが、その可能性は認識されつつあり、毎年のように出荷台数が増加しています。第一次産業のスマート化が進むにつれて、今後も需要が増えていくのではと期待しています。

なお、ドローン導入による効果については、現場のお客様から多くのポジティブなフィードバックが寄せられています。とくに作業の効率化は顕著で、従来であれば往復で80分かかる山(水平距離400m/高低差150m)も「森飛」が飛べば5分です。しかも「森飛」には休憩が必要がないので、たった1台のドローンで10人分の労働力に相当します。これは大きなコスト削減につながります。

さらに「森飛」は労働環境の改善にも役立ちます。現場の方にお話を伺ってみると、以前は、山の頂上へ物資を運ぶことの困難さから、現場へ持ち込む飲料水などを遠慮してしまうケースがあったということでした。「森飛」を活用すれば、現場作業員の飲料水やお弁当も運搬でき、わざわざふもとに降りなくても充分な休憩を取ることができます。これにより作業員の健康が守られることも、林業にドローンを導入するメリットなのです。

手厚いサポートで国産の優位性を保つ

—国産ドローンの開発会社として期待される御社ですが、今後の展望は。

これまでの歩みで、農業機に関してはお客様の要望に応えられるレベルの製品が送り出せたかなと考えています。そのうえでこれからは、信頼性や長期的なサポートを重視して、ベストセラーとなるような製品作りに注力していきたいですね。

農業用ドローンは、一度導入されると長期間にわたってご愛用いただくことが多い傾向にあります。そのため部品を安定的に供給したり、トラブルが起こればすぐに対応したりといったきめ細やかな対応を重視し、より一層の普及を目指します。


一方、林業についてはまだこれからの段階です。実証実験などを重ねながら、よりニーズに応える製品を開発していかなければなりません。

現状、ドローンの機体開発はDJI社がリードしており、単なるスペック・価格競争に持ち込まれると厳しいのが現実です。

それでも弊社の機体をご愛用いただくには、手厚いサポート体制がカギになると考えています。具体的には、ドローンの機体登録、国土交通省への申請手続き、保険への加入といったプロセスをサポートすることで、お客様が面倒な周辺業務に煩わされることなく事業に集中できる環境を作れれば嬉しいですね。

大切なことですが、お客様は単に機械が好きで、ドローンを飛ばしたいから機体を購入するわけではありません。農薬を散布したいから、あるいは物資を運搬したいからドローンを導入するわけです。

ドローンを使いたいと考える農家さんや林業事業者が、面倒な手続きや運用の不安を感じることなく、安心して導入できるよう支援していくことが、我々の使命です。

まるわかりガイドでドローンを知ろう
まるわかりガイドを見る

RECOMMEND

この記事を読んだ方へおすすめ