取材)無人航空機(ドローン)産業の未来と安全運航「空の安全」から読み解くJUAAの役割とは

取材)無人航空機(ドローン)産業の未来と安全運航「空の安全」から読み解くJUAAの役割とは
  • 今回お話を伺った方
    • 一般社団法人日本無人航空機協会(JUAA) 理事

      山﨑 利武氏

      日本航空(JAL)の自社養成制度を経てパイロットとしてキャリアをスタートし、DC-8やB767、B747-400、B737-800の操縦に従事。その後、訓練部長を務めたのち退職。国土交通省航空局では航空事業安全室および航空監査室にて、安全管理や監査業務に携わる。「空の安全」に関する豊富な知見をもとに、現在は無人航空機分野における安全文化の構築と業界の発展に取り組んでいる。

ドローン(無人航空機)の商用利用が急速に広がる日本において、2022年に創設された国家資格制度は業界の転換点となりました。しかし制度整備が進む一方で、安全運航や制度運用、現場での実務などには依然として課題が残されています。

こうした多様な課題を受け止め、情報共有と支援のハブとなるべく設立されたのが、一般社団法人日本無人航空機協会(JUAA)です。

同協会の理事である山﨑 利武氏は、大型旅客機のパイロットや国土交通省航空局での経験を持つ「空の安全」の専門家です。有人航空機で培った知見が、無人航空機の未来にどう活かされるのか。話を伺いました。

有人航空機の世界で積み上げたキャリア「パイロットから国交省へ」

インタビューを受けている山﨑利武氏

山﨑利武氏


山﨑氏は日本航空(JAL)の自社養成制度を経てパイロットになった人物です。そのキャリアは、日本の航空産業がまさに発展を遂げていった時代と重なります。

——これまでのご経歴を教えていただけますか。

山﨑氏:日本航空には自社養成という制度がありまして、それでパイロットになりました。入社が1974年です。

最初はDC8という飛行機で、フライトエンジニア職に相当するセカンドオフィサーからのスタートでした。当時はその制度がなくなっていく過渡期でして、会社の方針でセカンドオフィサーを5年行い、それから副操縦士になりました。

——DC-8からのキャリアを重ねる中で、次のステップはどのように訪れたのですか?

山﨑氏:DC-8の副操縦士をやっている最中に、2人乗りの初めての飛行機として767が導入されることになり、そちらへ配属されました。機種の世代で言うと、DC-8系が第1世代、在来ジャンボ(747)が第2世代、767が第3世代に当たります。

長らくパイロットを務め、その間には訓練部長を担当していました。2009年に退職しました。

——退職後は国土交通省に移られたとのことですが。

山﨑氏:1年間のブランクの後、国土交通省に行くことになりまして、おおよそ5年ほどお世話になりました。航空局の航空事業安全室と航空監査室の嘱任として勤務しました。

安全室では担当する航空会社を複数持ち、安全上の問題や不具合に関する報告を受け取り、その要因を分析し、是正措置まで行う業務に携わりました。

監査室の方は、各航空会社に出向いて、安全監査を行い各社の安全システムの進捗状況を確認していく、その中で安全担当の人と最近どうかといった話をし、安全性に問題のないことを詰めていく。

4〜5人のチームで行って、手分けしていろいろなところを見て、チームリーダーが監査報告書をまとめるという流れでした。“何かおかしいな”というところはすぐわかるので、そこを深掘りしていくわけです。

——課題点が明確でなくとも違和感があれば深掘りしていく。安全のために当然のことではありますが、なかなか難しい立場ですね。

山﨑氏:たぶん、嫌がられていたと思いますけど(笑)。しかし、安全管理という面では、やはり監査というのは必要ではありますね。

「言語化」と「ダブルチェック」有人機が積み上げた安全の哲学

ジャンボ機767

山﨑氏が有人航空機の世界で長年かけて身につけた安全への考え方は、単なる規則の遵守にとどまりません。「教育訓練」こそ最も重要だという信念は、さまざまな事案と改善の積み重ねの中で培われたものです。

——有人航空機における安全運航の要は何でしょうか。

山﨑氏:一番大事なのはやはり教育訓練ですね。機長、副操縦士の間では同じパイロット同士でも経験値に大きな差があります。

キャプテンの方がはるかに経験豊富ですが、神様ではありませんから間違えることもある。でも、副操縦士から「ちょっとおかしくないですか」とはなかなか言いにくい。特にひと昔前は徒弟制度的なカルチャーが色濃く残っていた世界でしたから。

そういう問題への対応として、1980年頃からアメリカでCRM(コックピットリソースマネジメント)という訓練が始まりました。

CRMとは、操縦室内の乗組員が互いに効果的にコミュニケーションを取り、判断ミスや事故を防ぐための訓練、考え方の体系といったものです。CRMからさらにリスクマネジメントは発展していきます。

——CRMはその後どのように発展したのでしょうか。

山﨑氏:スレット・アンド・エラーマネジメント(Threat&Error Management)という考え方にも発展していきました。

事前にある程度危ないことは予想がつくわけです。たとえば今日は天気が悪いから気をつけなくてはならないとか、あるいはそのために運航が遅れる可能性もあり、お客様が苛立つかもしれないとか。

今日気をつけるべき点を事前に考えておくと、実際その場に当たった時に心の余裕が生まれる。焦ってミスをする可能性が低くなります。

ミスをなくすことはできないかもしれませんが、リスクを想定してパイロット同士が把握しておき、どのように対応すべきかを認識していれば、事故を未然に防ぐ、避けられる可能性が高くなるという考え方ですね。

キャプテンから「今日はこういうことを気をつけて飛ぶぞ」と伝えて、副操縦士も「自分はここが気になります」「その場合はこうしよう」という会話が成り立っていれば、何かあった時に焦らずに対応できます。そういう教育訓練が大事です。

——パイロット同士で読み上げるチェックリストもあると聞いたことがあります。

山﨑氏:はい、チェックリストは安全な運航を担保するためにあり、その手段のひとつがダブルチェックです。

プロシージャー(安全を担保するために、事前に定められた行動の型)の中でこれをやりなさいということは全部マニュアルに書いてある。でも2人しかいないので、隣で何をやっているか常に見てはいられません。

節目節目でチェックリストを出してきて、これだけは抜けてはいけないというものを2人でもう一度確認する。こういったダブルチェックの仕組みで、より安全性を高めるようになっています。

——ふたりで確認し合うことが重要ということでしょうか。

山﨑氏:一番大事なのは、共通の認識を持つことです。「今これをやるぞ」「今こう考えている」ということをお互いに言語化する。「言わなくてもわかっているだろう」はやっぱりダメで、口に出さないとわからないことも多いのです。

運航に関しての会話を通じて共通認識を持てれば、もしそこからずれた時に「さっきと違いますよ」と言える。当たり前のことのようですが、安全を確保するのにはとても重要なポイントです。

こうした訓練や手順の積み重ねは、さまざまな事案を経ながら、長い時間をかけて航空業界が徐々に改善、進化してきたものです。

ドローンの「扱いやすさ」と安全意識のギャップ

山﨑利武氏がドローンについてのインタビューを受けている

有人航空機で培われた安全への哲学から見ると、現在のドローン業界はどう映るのでしょうか。山﨑氏は操作の容易さの裏に潜む危うさを指摘します。

——無人航空機(ドローン)の現状について、どのようにご覧になっていますか。

山﨑氏:国家ライセンス制度は整備されつつありますが、現時点ではすべての運用が対象となっているわけではなく、一部には制度の網がかかっていない領域も残っています。

一方で、ドローンの性能は従来のラジコン飛行機と比べて大きく進化しており、操作も直感的です。ジョイスティック感覚で扱えるため、特に若い世代にとっては扱いやすく、飛行そのもののハードルは決して高くありません。

——それが、安全意識という面では逆に課題になる、と。

山﨑氏:そうですね。ドローンを飛ばすこと自体はそれほど難しくないでしょう。しかし「万が一のリスク」を十分に想定できていないケースが多いと感じます。

ドローンは複数のモーターで飛行していますが、たとえばひとつが故障すれば機体は傾き、状況によっては安全に着陸できないかもしれません。2つ以上が停止すれば墜落につながる可能性がありますよね。

操作方法だけでなく、「万が一何が起きるのか」を想像できるようなリスク管理の教育を、より手厚くしていく必要があるのではないでしょうか。

特に問題なのは、機体を目視できない距離まで飛ばした際に、その下に何があるのかを想像できているかどうかです。こうしたリスクを踏まえた「想像力」をどのように身につけてもらうかが課題だと感じています。

また、法的な規制の存在自体は知られていても、「なぜ人や物から30メートル以内で飛行してはいけないのか」「なぜ目視外飛行が制限されているのか」といった理由まで十分に理解されているとは言えないのではないでしょうか。

本来は、こうした規制の背景にある考え方まで含めて伝えていくことが重要です。

——商用利用における事業者の責任という面では、いかがでしょうか。

山﨑氏:商用でドローンを運用する場合、多くは航空法上の「特定飛行」* に該当し、一定の規制や許可のもとで実施することになります。
* 特定飛行とは、航空法上、立入管理区画の設定なしに行う夜間飛行や目視外飛行など、特別な条件下での飛行を指す。

事業として展開する以上、規制を形式的に守るだけでなく、「なぜそのルールが存在するのか」という背景まで理解しておくことが不可欠です。

さらに、現場で操縦を担うパイロット一人ひとりが、自らの飛行が特定飛行に該当しているという認識を持つことも重要です。

今後、ドローンの活用領域が拡大していくにつれて、事故やトラブルが発生した際の影響も大きくなります。その意味で、事業者に求められる責任はさらに重くなっていくと考えています。

JUAAがめざす業界底上げと官民の橋渡し スタートラインとしての「情報共有」

山﨑利武氏がJUAA設立について語る

こうした問題意識を背景として生まれたのが、一般社団法人日本無人航空機協会(JUAA)です。設立の経緯とその先に描くビジョンについて伺いました。

——JUAA設立の経緯を教えてください。

山﨑氏:ドローンの事業に携わる方々に、特に安全に関しては一定の水準まで到達していただきたいという思いがあり、その実現に向けて何か支援できないかと考えたのが、JUAA設立の出発点のひとつです。 

また、個人で活動されている方々に対しては、制度の変更や新たな取り組みに関する情報を継続的に届ける仕組みが十分に整っていないという課題があります。協会という形で参加していただくことで、さまざまな情報を共有しやすくしたいと考えました。

これらを通じて、業界全体の水準を引き上げていきたいという想いが設立の重要な動機となっています。

——既存の民間管理団体との関係はどう整理されるのでしょうか。

山﨑氏:既存の民間管理団体に取って代わるのではなく、あくまでそれぞれの取り組みを補完し、支える立場だと考えています。

航空行政と連携して進めるべき分野と、民間として柔軟に対応できる分野があり、それぞれの役割分担が重要です。

民間管理団体の側にもいろいろな要望や課題意識があるものの、それらを集約して発信する場が十分に整っていないのが現状です。個別に行政へ伝えた場合でも、すべてに対応するのは難しい場合があります。

JUAAとしては、現場の声を受け止め、関係者間をつなぐハブとしての役割も果たしていきたいと考えています。

——具体的な活動としては、どのようなことを考えていますか。

山﨑氏:一例としては、登録講習機関の監査を担う組織に対して、有人航空機で培ってきた経験をもとに改善の提案を行っていくことですね。

監査機関ごとに得意・不得意があるため、一律の基準を押し付けるのではなく、それぞれの状況を踏まえながら、意見交換を重ねていく。監査がしっかりしていれば、安心ですから。みんなで話し合えるような機会を作ることからスタートできたらいいなと思っています。

農業分野ではドローンの活用が急速に進んでおり、従来のヘリコプターに代わる存在になりつつあります。こうした分野を足がかりに、さまざまな現場で役立つ取り組みを広げていきたいというのもありますね。

将来的には、何か課題が生じた際に「まずJUAAに相談してみよう」、何かわからないと思ったら「JUAAに情報があるはずだから聞いてみよう」と思っていただけるような、情報提供や支援の拠点となる組織をめざしています。

——海外の動向も参考にされるのでしょうか。

山﨑氏:海外ではドローンの活用が先行している事例も多く、動向については積極的に情報を収集していきたいと考えています。たとえば、アメリカでの活用事例を参考にしながら、日本でも応用できる可能性を探っていきます。

ただし、海外の取り組みをそのまま日本に適用するのは難しく、制度や運用環境の違いを踏まえた調整は必要です。

そのため、私たちのような中間的な立場が、海外の事例を日本向けに整理し、どのように取り入れるべきかを検討したうえで提案していくことが重要です。

特に、情報等が少なく、試行錯誤を重ねている現場に対して、実務に活かせる具体的なヒントを提供していきたい思いがあります。

JUAAは既存の仕組みとすみ分けを図りながら、国家資格制度のもとで官民の橋渡し役を担う存在として独自の活動を進めていく方針です。

JUAAが架け橋に!空の安全と業界の発展をつなぐ新たな一歩

ドローンが飛んでいる

有人航空機の世界が何十年もかけて積み上げてきた安全の文化。CRMによる意思疎通の標準化、チェックリストによるダブルチェック、事前のリスク想定と共通認識の共有。

それらはいずれも、繰り返すヒヤリハットや事案を教訓に磨かれてきたものです。

山﨑氏が無人航空機業界に向けるまなざしは、批判ではなく、その経験を次の産業に受け渡したいという思いに根ざしています。

JUAAはまだ動き出したばかりですが、「空の安全」に半生をかけてきた山﨑氏の知見が、これからのドローン産業の安全文化をどう形作っていくのか。JUAAの今後の活動が注目されます。
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