工場パトロール40分を13分に|東レ株式会社 東海工場が進める完全自律巡視の仕組み【上空電波(4G LTE)導入事例】
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今回お話を伺った方
ドローンによる自律巡視を導入した結果、巡回時間は40分程度から約13分へと短縮され、従来の約3分の1に短縮。広大な工場ならではの通信課題に対しては、上空電波(4G LTE)を活用し、安定した通信環境を実現しました。
今回は、完全自律巡視の仕組みに携わる方々へのインタビューと現場見学を実施。導入の背景や通信課題をどう乗り越えたのか、実際の運用まで詳しく紹介します。
製造業やプラント、インフラ分野で、巡視業務の効率化やドローン活用を検討する方にも参考となる事例です。
工場内でドローンによる巡視自動化が進みにくい理由

一方で、場内での完全自律化を実現するには、乗り越えなければならない課題もあります。そのひとつが、プラント特有の構造物による通信環境への影響です。
東レ株式会社 東海工場でも、プラント特有の構造物がドローンの通信距離を大きく制限していました。工場や建設現場では珍しくない状況です。
工場・プラントで求められる巡視自動化
製造業やインフラ企業では、広大な敷地内の巡視・点検業務にドローンを取り入れる動きが進んでいます。暑さや悪天候の日でも変わらずプラント内を歩き回る巡回は、担当者にとって負担になりやすい業務のひとつです。
巡視に必要な人員の確保も容易ではなく、安全面への配慮も欠かせません。同じ壁にぶつかっていた企業のひとつが、東レ株式会社 東海工場です。
コエテコドローン取材班が取材に訪れた日は、東京はあいにくの空模様だったのに対し、東海工場は快晴で、強い日差しが照りつけていました。
敷地内をわずかな時間歩いただけでも汗が止まらず、この炎天下を毎日歩いて巡回する現場の大変さを肌で実感しました。
「巡回やパトロールと一口に言っても、実際の現場における過酷さがわかりました」と思わず漏らした言葉に、東レ株式会社 ケミカル製造部 第1合成課の河瀬優太課長(2等無人航空機操縦士)は大きくうなずきました。
実は、東レ株式会社 東海工場ではすでに、ドローンによる点検・巡視を行っていたのです。
「ただ、プロポ(無線で遠隔操作するための通信機器)での通信に限界があったのです」(河瀬氏)すでにドローンを巡回に活用していたにもかかわらず、なぜ通信が課題になったのでしょうか。そこには、広大な工場ならではの「通信距離の壁」がありました。
直接通信(プロポ操縦)が抱える通信距離の壁

ケミカル製造部 第1合成課の河瀬氏
河瀬氏は、当時の状況を次のように振り返ります。
「プラント設備・配管ラック・金属柱・建屋などの影響を受け、仕様上の伝送距離どおりには、なかなか飛行できませんでした」 (河瀬氏)ドローン飛行に影響を与えていた要因は、主に次の3つです。
- 配管ラック
- 金属柱
- 建屋
これらは、多くの工場が「ドローンによる点検」を検討する際に、導入のハードルとなる課題です。
運用のたびに発生していた調整の手間
障害物の多いエリアでは、通信状態を確認しながら、その都度、飛行ルートを調整する必要がありました。「特定の環境では、ドローンの飛行負荷が高くなる場所がありました。通信状態を見ながら飛行ルートを調整しなくてはならず、運用・検証に手間がかかっていました」特に、ラック下や金属柱が多く立ち並ぶエリアでは通信への影響が大きく、ドローンを安定して飛行させることが難しかったそうです。
「既存のドローンでパトロール代替が可能であることは確認できたものの、完全自動化に向けては、通信距離・安定性・遠隔運用・基地運用が課題となっていたのです」(河瀬氏)
ここからは、課題が多いなかで東レ株式会社 東海工場が取り組んできたドローン運用について、詳しく見ていきます。
東レ株式会社 東海工場の概要と、ドローン導入の経緯

左から東レ株式会社 東海工場 西川氏、藤原氏、河瀬氏。
東レ株式会社 東海工場でのドローン活用は、安全パトロールの自動化ニーズを背景として段階的に広がってきました。
素材メーカーの主力拠点、東海工場
東レ株式会社は、素材・化学分野を代表する大手メーカーの一社です。東海工場は主力生産拠点のひとつで、広大な敷地内に多数のプラント設備を擁し、日常的な巡視・点検業務が欠かせません。配管やタンクなどの設備が密集するエリアも多く、くまなく巡視するには日々相応の人手と時間が必要です。

東レ株式会社 東海工場のクーリングタワー 高所・大型設備もドローンなら短時間で広範囲に点検できる
なにしろ、敷地は東京ドーム12.5個分ともいわれる広さ。実際に現場に足を踏み入れると、煙突やプラント設備がいくつも連なり、視界いっぱいに広がる光景に圧倒されます。
今回、現地を取材したことで、この広大な敷地と数多くの設備を、人が歩いて一つひとつ確認していくことの負担の大きさを、あらためて実感しました。
さらに河瀬氏によると、パトロールの自動化には、単に「広いから」という理由だけではない背景がありました。工場で扱う原料の特性からも、安全面を考慮したパトロール自動化へのニーズが高かったといいます。
工場現場を効率よく巡回することに加え、作業員の安全を確保する。その両面から、東海工場では「人が歩いて確認する」だけではない巡視のあり方が求められていました。
そこで活用が検討されたのが、ドローンによる自動巡回です。
ドローン活用のきっかけと推進体制

DJI Dock 3(自動離着陸・充電ポート)が自動化の鍵となった
ドローンの活用開始は約3年前にさかのぼります。東海ドローン協会への相談をきっかけに、消防とも連携しながら導入を進めてきました。
- 東海ドローン協会への相談
- 消防へのヒアリング
- 高所設備点検・パトロール代替からの活用開始
東海ドローン協会では、代表理事の蟹江氏による全面的な協力のもと、より具体的な課題解決とドローンソリューションの実現に向けて動き出したのです。
次の一歩として選ばれたのがKDDIスマートドローン株式会社の「上空電波(4G LTE)」でした。
DJI Dock 3×KDDI上空電波(4G LTE)の導入で変わったこと

上空電波(4G LTE)と、自動離着陸・自動充電を担うドローン基地ポート「DJI Dock 3」の組み合わせにより、巡回時間はおよそ3分の1に短縮されました。導入から実施までの過程と変化についても、詳しくお話を伺いました。
導入の決め手となった出会い

粘り強くドローンソリューションを築いてきた「これまで」を振り返り、笑顔を見せる西川氏、藤原氏、河瀬氏。
通信の安定化に向けては、電波の増強や中継といった方法も検討されていました。ただし運用の煩雑さから、いずれも採用には至りませんでした。ドローン基地をセキュリティ上の理由で社内LANに接続できない制約もあったといいます。
状況を変えたのは、展示会でポラリスエクスポートの佐藤亮汰氏と出会ったこと。
ポラリスエクスポートはKDDIスマートドローンのアライアンスパートナーであり、ドローン本体とセットの貸し出しサービスと、明快なサービス説明が導入の後押しになったといいます。
河瀬氏は、最終的な決め手を次のように語ります。
「上空SIM・地上SIM・ドローンの組み合わせで、通信・基地運用・遠隔管理の課題をまとめて解決できる見込みが立ったことが決め手です」(河瀬氏)DJI Dock 3は、ドローンの自動離着陸や自動充電に対応した運用ポートです。簡単に言えば、お掃除ロボットのように、ドローンが自動で出発・巡回し、戻ってくる仕組みです。
さらに、上空電波(4G LTE)とWi-Fiを組み合わせたハイブリッド通信により、工場内のような通信が不安定になりやすい場所でも、機体との通信を維持できるようになりました。
巡回時間を3分の1に短縮した仕組み
通信の安定によって、巡回時間・頻度・稼働率は次のように変わりました。| 項目 | 導入前 | 導入後 |
| 巡回にかかる時間 | 人が巡回:最低40分程度 | ドローンで13分程度 |
| 巡回頻度 | 人によるパトロール6回/日 | 人+ドローンで9回/日 |
| 天候による制約 | 雨天・強風時は運用不可 | 雨天でも飛行可能 |
| 時間創出 | —— | 1日1.5時間の創出を計画 |
人によるパトロールを置き換えるのではなく、ドローンによる巡回を加える形で監視の網羅性を高め、監視の頻度を増やした点が特徴です。
通信が万一途切れた場合も、自動帰還やホバリングといったフェールセーフ機能によって機体が安全な状態に戻る仕組みになっており、運用開始からトラブルは発生していないといいます。
現段階では監視の網羅性向上が主な成果ですが、河瀬氏は将来的な展望について「人によるパトロールを置き換えつつ、監視強化と効率化を両立させることをめざしています。巡回の半分、2回に1回程度はドローンによるパトロールに置き換えたいと考えており、そのための開発も進めています」と語ってくれました。
社内での準備プロセス

第1合成課の藤原淳史氏
通信環境が整った後も、クラウド上の管理システムを社内で使えるようにするための申請・調整に、1か月ほどの期間を要したといいます。社内調整の実務は、藤原氏が担ってきました。

DJI Mavic 3(ドローン)と藤原氏
地道な調整を重ねた末に、現在の自律巡視体制が動き出しています。
ドローン巡回による時間短縮効果と、他の現場への広がり

東海ドローン協会、KDDIスマートドローンとポラリスエクスポートが加わり、自動化の実現に至った
ドローンの活用による巡回の負担軽減にとどまらず、確認漏れの防止につながり、他拠点からも関心が寄せられています。
現場担当者が実感した業務負担の改善
「広範囲を歩いて確認する必要がなくなり、映像を見ながら短時間で確認できる点が大きいです。同じ場所を見る時間は人の巡回のおよそ3分の1になり、確認漏れリスクの低減と時間創出につながっています」(河瀬氏)現場に足を運んで近くで確認する作業も減り、危険を伴う原料を扱う工場ならではの負担軽減にもつながっています。法令や社内基準に基づく点検・記録・責任者による確認は従来どおり必要ですが、常時近接で見て回る負担は着実に下がっています。
生まれた時間は、人員削減ではなく他の改善業務への人材シフトに充てられています。巡回に追われていた時間を使って、設備の改善提案や別のプラント管理業務に取り組める体制づくりが進んでいます。
天候による制約が減ったことも、現場にとって大きな変化です。
雨天・強風時は運用そのものができなかった以前と比べ、雨天時にも運用できるようになったことで、天候による制約が以前より少なくなり、一定の頻度で巡回しやすくなりました。
サーマルカメラによる煙突・設備の温度異常の把握

サーマルカメラで撮影された熱画像(提供:東レ)
サーマルカメラは対象物の表面温度を色の違いとして可視化できるため、可視カメラでは判別しづらい温度の変化を捉えやすい特徴があります。
導入した機体にはサーマルカメラも搭載されており、煙突や設備の温度確認にも活用が進められています。
他の工場・プラント事業者にも応用できるポイント

ケミカル製造部の西川泰義部長
東海工場の取り組みは、広い敷地内に複数の設備を持つ製造業、建設現場、インフラ点検の現場であれば、同じ考え方を当てはめられる可能性があります。
導入を検討する際に、まず確認しておきたいポイントは次のとおりです。
- 敷地内で電波が届きにくい場所の洗い出し
- 人による巡回に何分かかっているかの把握
- 巡回で置き換えたい範囲と、残したい範囲の切り分け
こうしたポイントを整理したうえで実際に一歩を踏み出したのが東海工場であり、その歩みは今、社内外にも広がりを見せています。
西川氏は、「実証段階から実用化フェーズへと移行しつつある東海工場の取り組みは、社内でも他部署・他工場と比較して話題に上ることが増えています」と、その手応えを力強く語ってくれました。
社内外への広がりと今後の展望

東海工場で進められている自律巡視の取り組みは、社内外からも関心を集めています。問い合わせや視察の依頼も増えているそうです。
人が歩いて行っていた巡回をドローンに置き換え、巡回時間を約3分の1に短縮できたことは、単なる作業時間の削減にとどまりません。これまで「人が現場に行って確認する」ことが前提だった巡視のあり方そのものを見直すきっかけにもなっています。
もちろん「人の目で確認する」ことの重要性はこれからも変わりませんが、同様の仕組みが他の工場や拠点にも広がれば、安全性の向上や現場の負担軽減にもつながっていく可能性があります。
仕組みや利用シーンを詳しく見てみる↓
よくある質問

Q. 上空電波(4G LTE)とは何ですか?
A. KDDIスマートドローンが提供する、ドローン向けの上空LTE通信サービスです。Wi-Fiと4G LTEを組み合わせることで、通信が途切れにくい環境を実現します。Q. DJI Dock 3と上空電波(4G LTE)はどのように組み合わせて使うのですか?
A. DJI Dock 3が自動離着陸・自動充電を担い、上空電波(4G LTE)が安定した通信を担うことで、遠隔から自律巡視が可能になります。Q. 通信距離はどれくらい伸びますか?
A. 現場の構造物や運用状況によって変わるため、一概にはいえません。導入前に自社の敷地でどの程度電波が届きにくいかを確認しておくことをおすすめします。Q. サーマルカメラでどのような点検ができますか?
A. 可視カメラでは判別しづらい温度の変化(温度異常)を把握できます。煙突や設備の状態確認に活用が進められていますが、異常検知の成果は現在も知見を積み重ねている段階です。Q. 導入にはどのくらいの準備期間がかかりますか?
A. 通信環境の整備に加え、社内システムを使えるようにするための申請・調整も必要です。東海工場では、社内調整だけで1か月ほどの期間を要したといいます。東レ株式会社 東海工場が示す、チームでつくる巡視自動化のかたち

左から、株式会社ポラリスエクスポート 佐藤氏、(一社)東海ドローン協会 蟹江氏、東レ株式会社 西川氏・藤原氏・河瀬氏、KDDIスマートドローン株式会社 板山氏、(一社)東海ドローン協会 玉田氏
東レ株式会社 東海工場では、上空電波(4G LTE)とDJI Dock 3の組み合わせにより、巡回時間をおよそ40分から13分へ短縮し、巡回頻度も6回から9回に増やしました。
人による巡回を単純に置き換えるのではなく、補完する形で監視の網羅性を高めている点が、今回の事例の要点です。
東海工場のドローン活用は、東海ドローン協会への相談から始まり、展示会での出会いをきっかけにポラリスエクスポート、そしてKDDIスマートドローン株式会社が加わり、ひとつずつ課題を解決しながら形にしてきた取り組みです。
現場と地域のドローン協会、通信事業者が手を組むことで、一社だけでは踏み出しにくかった自動化に着実に近づいている姿は、同じ課題を抱える現場にとって心強い実例といえます。
巡視に課題を感じている製造業・建設・インフラ関連の担当者にとって、東海工場の取り組みは実践のヒントになるはずです。まずは自社の巡視業務のどこにドローンを取り入れられそうか、身近なところから考えてみてはいかがでしょうか。
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