代表理事の舘良太氏はドローンとは関係のない業界からさまざまな縁を機にドローン業界に飛び込み、日本のドローン業界を発展させるべく奮闘しています。そんな舘氏に、同団体の活動内容やこれからのドローン業界に必要なことについて伺いました。
中小企業はニッチな領域にこそ活路
――まずは、舘さんがドローン業界へ参入された経緯を教えていただけますでしょうか。私はもともと、家業である写真アルバムの台紙を作る会社を手伝っていました。今年でちょうど創業100年となる、歴史のある会社です。ただ、スマートフォンが普及し、「このままでは衰退していくだけだ」との危機感が年々強くなっていきました。そこでブライダル事業者向けのアプリ販売を開始したのです。
そんな中で、アプリの説明のために訪れた会社の役員から「ドローンを使った事業をやってみれば」と言われたのですね。当時の航空写真はセスナを使って撮影していましたが、それだと1回で40万ぐらいかかります。ドローンを使えばカメラマンだけで撮影できるので、安価にサービスを提供できるというわけです。
とはいえ、私はドローンのことなんて何にも知りません。どうしようかと思っていましたが、その後いろいろなご縁に恵まれ、少しずつドローンへの知見が増していきました。そして最終的には、ある国産ドローン開発者との出会いにより、「国産のドローンをもっと普及させたい」とIAUの立ち上げを決めました。
――いろいろな人との出会いによって現在に至るのは面白いですね。IAUはどのような事業を行っているのでしょうか。
いまはドローンスクールでの撮影講習と大手企業とのドローンの機体やエンジニア講習の共同開発に力を入れています。各企画は準備段階で、公開できないものも多いためどうしても抽象的な説明になってしまうのですが、業務の高度化や省人化など時代のニーズに寄り添いながら、国内外の団体と連携を深めて様々な産業分野への展開を推し進めているところです。
――IAUならではの取り組みとしては、どのようなものがあるのでしょうか。
弊団体はニッチな領域に注目しています。
昨今のドローン市場の傾向として、特に大手企業は、大型の物流ドローンの開発を進めている企業が多いんですよね。採算や将来性を考えると仕方のない流れなのですが、小さいドローンを開発したり、特定の領域に注力している会社が少ないんです。
しかしこれは、やる気と技術のある中小企業にとってはチャンスにもなり得ます。大手が参入しないけれど必要な分野にこそ可能性があるというのか。事実、最近当会が出展したドローンサミットでは、GPSが入らないような屋内で自律走行でき自動給電できるドローンを展示し、ものすごく反響がありました。いまは毎週のようにあちこちからいろいろなお問い合わせが来ている状態です。
ほかにも、まもなく千葉大名誉教授の野波先生とも連携して離島への配送の実証実験も進めていく予定です。今後もエンジニア講習や特殊な点検や警備、災害支援業務など、分野を絞って「ある用途では本当に役に立つ」事業を展開していきます。
ドローンエンジニアを育てる
――中小企業×ニッチ領域で戦っていくとのことですが、現状のドローン業界の課題をどのように捉えていらっしゃいますか。ドローン市場が拡大するために乗り越えるべき壁はいくつかあります。一つは、国産ドローンのコストと質の問題です。いまのドローン業界は、中国製のドローンが主流。コスト面でも技術面でも、 国産ドローンで勝負が出来るような会社がほとんど存在していない状態です。
しかし、中国製のドローンだと、位置情報等を中国に送られてしまう可能性があります。それは安全保障上、非常に大きなリスクですよね。とくに物流に用いられるドローンなどは、離島地域など国同士の摩擦が起きやすい領域で運用したいわけですから、他国製のドローンしか選択肢にない状況はかなりリスキーです。
ウクライナ情勢を見るにつけても、どうしても国産ドローンが必要。そこで日本政府は、中国製のドローンを事実上排除する方針を打ち出しました。
ソニーやNTT東の「国産ドローン」 DJI排除は追い風か - 日本経済新聞
ソニーグループやNTT東日本などが相次いでドローン市場に参入している。シェアの過半を占めていた中国DJIが政府調達から排除され、勝機があるとにらむ。課題はコスト競争力。克服できなければ海外進出は望めず、「ガラパゴス化」しかねない。高さ約53×幅59×奥行き51センチメートルの中型ドローンは、空に舞い上がったかと思うと角度のきつい細かい旋回を繰り返し、高度な運動性能を披露した。事前の飛行プラン
この記事をwww.nikkei.com で読む >この方針を示したことで、大手企業も「ビジネスチャンスがある」と色めき立ちました。今後どうなるかはまだ分かりませんが、より優れたドローンが開発されていくことに期待が高まります。
ただし、仮に国産ドローンが盛り上がっても、二つ目の課題であるドローンエンジニア不足が大きな壁となります。これまで日本企業が「コストに見合わない」とドローン開発に力を入れてこなかった結果、そもそも開発を行うことができるエンジニアがほとんど育っていないのです。
優秀なエンジニアを抱えている企業はたくさんありますが、「ドローン業界で」と但し書きを付けると片手で数えられるくらいしかありません。エンジニアを育成できれば、日本のドローン業界はもっと発展していくはずです。つまり、ドローンに特化したエンジニアを積極的に育成していく必要があります。
――ドローンに強いエンジニア育成のために、IAUはどのような取り組みをしているのか、ご紹介ください。
国家資格の「操縦ライセンス制度」が12月に始まることが発表されてから、ここ数カ月で400ほどスクールの数が増えました。確かに需要はありますが、中には指導能力やスキル、経験が足りないスクールもあります。
このような状況を受け、弊団体ではむやみにスクールを展開しても本質的なエンジニア育成にはつながらないと考え、数を絞ってドローンの産業応用に必須となる操縦技術を高められる講習を行っています。また、今後はドローンエンジニア養成のための講習を始めますが、講習内容は大手IT企業と連携し、株式会社ACSLの創業者でもある千葉大学名誉教授の野波健蔵先生に監修をお願いしています。
具体的な例を挙げると、東海大では大学内にドローンアカデミーを開講し、エンジニア育成に向けたドローン資格の授与に関っているほか、来春からは沖縄にある21万坪の敷地を誇る日本最大の職業訓練校でも講習を行う事が決まっています。
今後はドローン本体に限らず、運送用の仕組みやAIなどドローンに関連する分野を共同して開発していけるようなエンジニアの養成に力を入れていきたいですね。
――2019年にはスクールの認定制度を始めておられます。どのようなスクールがあるのでしょうか。
2022年現在、認定スクールとして20法人、フランチャイズを入れると25校開講しています。私たちが提供しているのは、ドローンを単に操縦できるようになるスクールではありません。質が高く、独自性のあるスクールです。
たとえば大阪のあるスクールは、全国に2,000軒以上の写真館やカメラマンの取引先をもつ卒業アルバムのトップメーカー「ダイコロ(株)」が運営しています。このスクールには、撮影業務を生業とする得意先が「ドローンを活用した新たな映像表現を取り入れたい」と、日本全国から受講に訪れています。
ほかには、ソーラーパネルの点検を年間数百件行っているインストラクターがいるスクールもありますね。いま、ソーラーパネルの需要は右肩上がりに伸びていますが、人が屋根に登るのは危険が伴います。したがって、ドローンの需要も増加しているのです。
また、三重県松坂市の消防隊司令本部のドローンチームへ指導を行うなど、公共機関向けに特化したスクールも。行政や公共事業においてもドローンを活用し、地域貢献していきたいと思っています。加えて、来年度以降の話にはなりますが、東海大学の協力の下、固定翼機の講習も行っていきたいと思っております。
ドローン業界参入はいまからでも遅くない
――今後ドローン業界が発展していくために、国全体としてはどういったことが必要だとお考えですか。
2022年は、免許の国家資格化だけではなく、将来、誰もが思い出すドローンビジネスの節目の年になると思います。ドローンビジネスは一事業者だけで展開していくのではなく、国や地方自治体、大学の研究機関と企業などの事業体が一体となって取り組む必要があるでしょう。
また、独自の基準での進展ではなく、業界標準を定めていけるようなドローン業界全体が順調に伸びていくような仕組み作りも重要です。
――いま参入を考えている事業者に対して、何かアドバイスをいただけますでしょうか。
ドローンはビジネスとして右肩上がりの市場です。セキュリティ面や中長期な観点で国産ドローンが求められており、いまから参入しても全く遅くありません。
いま、ドローンは撮影の場面で使われることが多いですが、今後点検や測量、防災、物流などドローンが必ず必要となる分野が数多くあります。まずは自分の興味を持つ分野から始めていけば、その中からすごい会社も出てくると思っています。
ただし、短期的な利益を求めるのはやめた方がいいですね。お金儲けを目指した結果、潰れてしまった会社もたくさんあります。
必要なのは中長期的な視野と「国産ドローンの事業を行っていく」という強い意思です。いまは中国をはじめ、アメリカやフランス、イスラエルといった国々が世界のシェアを握っています。日本メーカーで世界シェア1%を誇る企業は一つもありません。日本の企業が戦略を持ち、同じ方向を向いて切磋琢磨していけば、技術力を駆使して他国を凌駕するドローン先進国になれると信じています。