(取材)一般社団法人無人航空機操縦士養成協会(DPTA)代表理事 志村伊織氏|スマート農業・ハンティングドローンによる農業活性化とは

一般社団法人無人航空機操縦士養成協会(DPTA)
ドローン産業の発展のため、ドローン全般への十分な技能と知識はもちろん、農業や測量などへの専門性を持つドローンオペレーターの養成を目的として設立されたのが、一般社団法人無人航空機操縦士養成協会(DPTA)です。

同協会はドローンスクールの管理団体として、特に農業分野、ハンター(狩猟)向けドローンの開発・教育・運用の推進に多大な貢献をしています。農林水産省による全国鳥獣被害対策サミットでは、ドローンによる広域捕獲の取組事例として取り上げられました。今回は代表理事である志村氏に、協会の活動やこれからのスマート農業、ハンティングドローンについて詳しくお話を伺いました。

新たな「空の領域」ドローンの将来性を見据えて協会を設立



――志村さんはどういった経緯でドローンに携わるようになったのでしょうか?

私の父親はパイロットで、子どもの頃はウクライナに住んでいました。最初はあまり飛行機に関心がなかったのですが、親の影響もあり、ウクライナ自家用操縦士、国内JCAB自家用操縦士の資格を取得しました。

父親が飛行機の学校を運営しておりましたので、パイロットの教育にも携わりつつ、映像制作の仕事もしておりました。そのうちに、飛行機にかかわる現場はもちろん、映像制作の現場でもドローンやドローン空撮の話題が出るようになり、興味を持ったんです。調べるうちにドローンの可能性は無限大であると感じ、本格的にドローン事業をスタートさせました。

――ウクライナで操縦士の免許を取得されたとは珍しいですね。その後、どういった経緯で一般社団法人無人航空機操縦士養成協会(DPTA)を設立されたのでしょう?

近い将来ドローンが産業における重要な存在になると感じ、高い技能を持つドローンパイロットの人材育成が急務だと判断したためです。

産業用ドローンの活用では、いわゆる航空法や航空工学といった基礎知識が必須になります。また、空撮なら空撮の、農業なら農業の、それぞれ専門的な領域を学ぶ必要があります。

それならば、私がこれまで培ってきたパイロット教育の経験や映像制作のスキルを活かすことができるのではないか。そう考え、実践的なドローンスクールの展開を計画しました。十分な技能訓練や航空知識を得られるカリキュラムを考え、国土交通省認定の管理団体として登録をしDPTAを設立、認定ライセンスの発行も可能になりました。

今では約40ほどのスクールにおいてDPTA認定のドローンコースを提供しており、DPTA独自の技能証明ライセンスの発行、自治体や公的機関との連携、また、農業やハンター(狩猟)のドローン利活用などに注力しております。


スマート農業とハンティングドローン~鳥獣被害でドローンを利活用~



――DPTAに所属しているスクールの特徴について教えてください。

DPTA所属のスクールは、産業用途を目的としたところが多いですね。もちろん、ホビー目的や初心者が気軽に体験できるコースもありますが、プロフェッショナルなドローンオペレーター養成がメインとなっています。

また本部校ではスマート農業と関連した取り組みとして、ハンター向けカリキュラムにも力を注いでいます。

――ハンターに特化したドローンのカリキュラムは珍しいですね。

農業におけるドローンの活用は進んでいますし、協会でも多twくのセミナーや講習を開催してきました。また系列のスクールでも、農薬散布講習を行っているところは多くあります。

そんななかで実際に農家の方々とお話をする機会があり、農家の皆さんは鳥獣害(農作物を荒らす)の問題に深く悩んでおられることを知りました。

たとえば、「イノシシが町に出現した」などのニュースはご覧になった方も多いでしょう。イノシシや鹿が山や森からおりてきて、田畑で農作物を荒らす被害はかなり多いのです。ハンターさんが駆除しているものの、鳥獣被害は年々増加し、一方でハンターさんは高齢化がすすみ減少していると。農家さんが対応に困っている現状を伺って、ドローンが活用できないかと考えました。

私は特に狩猟に詳しいわけでもなかったのですが、現場の問題を解決するには自分で体験することが必要だと思い、狩猟免許を取得しました。さらに知り合いのハンターさん達とも話し合いながら試行錯誤しつつ、ドローンで害獣をわなに追い込み、ハンターが仕留める精度を高める方法を編み出しました。これを私達はハンティングドローンと呼んでいます。



――ハンティングドローンの方法について具体的に教えていただけますか?

狩猟による害獣対策では、ハンターさんを配置した場所に猟犬が鹿や猪を追い込む「まき猟」が主体です。猟犬はとても賢いのですが、一匹では鹿一頭しか追い込めません。そこでドローンを使って、効果的な音を出しながら一気に害獣を追い込めるようにしました。

こう説明すると簡単そうですが、実際にはあまり素早く追い込んでしまうと、ハンターさんが仕留めきれません。どれくらいのスピードでどのように害獣を追い込んでいけばいいのか何度も試して、もっとも良いパターンを生み出しました。

加えて、猟友会の協力を得て研究を重ね、ハンティングドローンに特化した機体も開発いたしました。

害獣対策は非常に大きな課題で、京都府や和歌山の猟友会さんにもハンターとドローンの組み合わせでセミナーやスクールを行っています。今年に入ってからは、長崎、佐賀、群馬、大分など、ハンティングドローン関連の遠征が非常に多くなっていますね。

――そうした実績もあり農林水産省において貴会の事例が取り上げられたそうですね。

はい、2023年の2月に開催された第10回全国鳥獣被害対策サミットで、ドローンによる広域捕獲の取組事例のひとつとして取り上げていただきました。また、ハンティングドローンの機材なども紹介いたしました。

鳥獣被害は皆さんが思っている以上に広がっており、ドローンのようなテクノロジーと人間の力を組み合わせて対応していかなければならない大きな問題なのです。

ドローンとテクノロジーによって「日本の農業・産業」を活性化する



――ドローンの国家ライセンス制度もスタートしました。志村さんはドローンの未来についてはどうお考えでしょうか?

最近ではドローンスクールも増えましたし、ドローン空撮による映像も頻繁に見かけるようになりました。橋梁点検や測量、スマート農業、物流と幅広い領域でのドローン利活用が広まりつつありますが、やはり農業でのドローン活用はかなり進んでいるように感じます。

たとえば農薬散布では、ヘリコプター散布から手軽なドローン散布に移行してきたことで、「ヘリコプターの散布はコストがかかるが、かといって何十キロもする散布機を背負っての作業はもっと大変だった。ドローンが発達して本当に助かっている」といった農業関係者からのお声をたくさんいただくようになりました。

それでもまだ、ドローンによるスマート農業が完全に浸透しているとは言えません。機械が苦手だったり、うっすらとした抵抗感があったりして、ドローンを学ぶのはハードルが高いと感じていらっしゃる方も少なくありません。私たちはそんな課題を乗り越え、日本を支える農林業に携わる方々の負担をドローンの活用で少しでも減らしたいと考えています。

高齢化が進む農業を立て直すには、スマート農業やスマートハンティングによって労働の負担を減らし、生産性を上げることも大切です。それに、テクノロジーの明るいイメージがあれば、若く意欲的な人材が新規に入ってきてくれるかもしれません。

農業における後継者不足や人手不足を解消するために、ドローンやテクノロジーを駆使した「スマート農業」は今後も大きな役割を担っていくはずです。

ドローンを活用した社会貢献の「ロールモデル」に

――DPTAでは他にどのような活動を行っていらっしゃるのでしょうか?

当協会では社会貢献のひとつとして、防災などでのドローン運用にも積極的に関わっています。

たとえば水害が多い福知山市では、孤立した集落に大型ドローンで救援物資を届ける災害支援にも携わっています。また消防署において、浮き輪をドローンで運び落とす、ロープを落下させるといった救助活動の実証実験も行っています。

もっと身近なところでは、認知症の方がおひとりで出かけて「居場所がわからない」といった場合、ドローンで探すサポートもしています。そうした日常生活における問題や課題を、ドローンの活用で解決していくことも私達は重要な役割だと感じています。

――産業用途が注目されがちですが、私達を取り巻く生活にもドローンが役立つことはたくさんあるわけですね。

はい。このような日常の事例においては、当協会が率先して先駆者となることで、「ドローンによる社会貢献のロールモデル」になることをめざしています。私達が得たノウハウを惜しみなくスクールの皆さんと共有し、それぞれの地域にフィットした支援を行っていただきたいと願っています。



――では最後にDPTAにおける今後の展望についてお聞かせください。

農業やハンターといった分野での実績を活かして、全国にドローン活用を広げていきたいですね。さらに点検業務や測量などの分野においても、プロフェッショナルなドローン人材の養成に力を尽くしていきたいと願っています。

ドローンには無限の可能性があります。農業や産業分野で即戦力となるドローン操縦士をたくさん排出していけるよう、協会としてもさまざまな取組・認知活動を推進してまいります。
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