空を飛んでいる感覚が味わえるドローンレース
――まず、ドローンレースとはどのような競技なのでしょうか。シンプルな回答としては、「ドローンを使ってスピードを競う競技」になります。ドローンにカメラを積むことで、自分がパイロットになってコックピットで操作しているかのような感覚を味わえる没入体験型のレースです。
――競技人口はどれくらいですか?
正確な統計はありませんが、日本で1000~2000人、海外で5~8万人ぐらいと言われています。日本に比べると海外の方が法律面での参入障壁が低いので、順調に競技人口が増えている感じですね。
――小寺さん自身がドローンレースに参加するようになったきっかけを教えてください。
僕がドローンの業界に参入したのは2014年、23歳のころです。きっかけは「堀江貴文イノベーション大学校」というオンラインサロンでした。
当時僕は、ゲームをどうすればビジネスに昇華できるかを考えるグループに所属していて、ある日堀江さんが「ドローンレースが面白いんじゃないか」とメンバーに投げかけたんです。そこから話が進み、ドローンレースを展開していくことになりました。
当初の代表は僕ではなかったのですが、いろいろな経緯を経て僕が代表を引き継ぐことに。2015年には、日本ドローンレース協会(JDRA)の代表理事にも就任することになりました。
――若くして代表になられたんですね。JDRAではドローンレースの振興のためにどのような取り組みを行ったのでしょうか。
大きな大会を年に1、2回開催しました。テレビにも取り上げてもらうなどして、ドローンレースの知名度は大きく向上したと感じています。
いまドローン業界で活躍されている方々の中には、当時僕らが開催したイベントをきっかけに始めたとお声がけくださる方も多く、今のドローン業界にも多少なりとも影響を与えられているのではないかと思っています。
――国内外でのドローンレースの認知度についてどのように感じていますか?
認知度や注目度は年々高まってきていると思います。特に、若い子たちが格段に増えてきていますね。ドローンレースのトップのパイロットは10代の若者です。
僕がドローンレースの業界に参入したとき、20歳そこそこの人間は僕くらいしかいませんでした。あとは10代の子が少しと、残りの大部分はヘリや飛行機にかかわる40代。それがいまや10代の方が多いくらいになりました。
――若い子たちはどういった点に魅力を感じるのでしょうか。
やはり「空を飛んでいる感覚を味わいながらスピードを争う」という没入感に魅了される子は多いです。 あとは保護者が「今後産業としてドローンが拡大していくはず」と考え、子どもに勧めるケースもあります。ただ、ドローンはお金がそれなりにかかるものでもあるので、参加のハードルが高い部分もあります。ここのハードルが下がってくれば、より多くの子ども達に参加してもらえるのですが。ただ、余談ですが、RAIDENのメンバーに、この春に高校に進学する日本の中学生の子がいます。彼は活動の実績が認められ高校には特待生として学費免除で進学するのできっちり回収しています。笑
世界一のプロドローンチームを結成
――2018年、 日本初のプロドローンチーム「RAIDEN RACING」を結成されました。この経緯を教えてください。JDRAの代表理事を務めていた2017年ごろから、世界各国でドローンレースのリーグが開催されるようになりました。日本でもリーグを作る動きがあったのですが、関係者の方向性の違いや資金不足から断念してしまいました。
そこでJDRAを退職し、グローバルに活躍できるチームをつくろうと思って結成したのが「RAIDEN RACING」です。日本の中に世界で闘えるチームがなければ、世界のドローンに関する情報がキャッチアップできず、取り残されてしまうと感じたことも結成を決めた理由です。
いまは世界最高峰のドローンレース「ドローンチャンピオンズリーグ(DCL)」を主軸において参加しています。メンバーは知り合いのパイロットに「世界リーグに出る気はないか」と声をかけ、地道に探しました。いまのメンバーは性別も国籍も多様で、最年少はトルコの14歳の男の子です。
――これまでのご活躍をお聞かせください。
結成1年目の2018年にDCLに参加したところ、8組中4位の成績を納めました。ただ、2018~19年にかけてDCL以外の世界大会にも遠征するなどとにかく活動を優先した結果、チームが疲弊してしまったんです。
そこで2019年からは、パイロットのスキルよりも目指す方向を合わせることを重視。優勝できるチームを目指し、3か年計画を立てました。
2019年は1勝もできず最下位に沈みましたが、2020年に4位になり、2021年には優勝することができました。ディフェンディングチャンピオンとしての闘いとなった2022年でも優勝を飾りました。なので、いまは日本のチームが世界一という状況です。
――世界一とはすごいですね。優勝の秘訣を教えてください。
やはり同じ方向を見てまとまることができたのが一番大きな要因だと思います。チームにメンバーを引き入れるにあたっては、それぞれの得意不得意を見極め、加入してもらうことでチームにどんなメリットが生み出されるのかを常に考えています。実際に加入する前には、メンバー同士のフィーリングが合うかを確認する場も設けています。
チームに対しては制限や縛りをあまりかけていません。自由なスタンスで、パイロット自身が自分とチームのためになる行動を積極的に取ることを推奨しています。自律的に動くことのできるチームなので、マネジメントは随分楽になりましたね。
――実際に渡航するとなるとけっこうな費用がかかるかと思います。
リアルのレースに参加する上では機体の費用のほかに渡航費や滞在費など、それなりに費用がかかります。ただメンバーには中高生もいるので、その費用はチームで負担する形を取っています。コロナ禍によりここ2年間はオンラインでの開催ですが、渡航するとなるとスポンサーを獲得しないと難しいですね。
――スポンサーはどうやって獲得するのでしょうか。
リーグ自体にスポンサーがついているのと、F1と同じでチームはチームとしてスポンサーを獲得しにいく形です。僕らで言えば、DMMさんがスポンサーとして支援してくださっています。DMMの会長 亀山さんに何十回もスポンサーのお願いに行って最終的に亀山さんから「お前しつこい。けどわかった。まあ頑張れ」っという温かいお言葉を頂戴しました。笑
ほかの企業からの「スポンサーになりたい」とのご連絡も増えてきています。ただ現状は試合数が年に5回程度と多くないので、スポンサーとなってくれた企業にどのようなメリットを提供できるかを検討している最中です。
――レースではどのような機体を使っているのでしょうか。
スピード勝負の機体になるので、重さは大体500~800gぐらいと軽量です。既製品ではなく、モーターやカメラ、バッテリーといったパーツをそれぞれ取り寄せ、自分たちではんだ付けして作っています。
0.1秒でも早くするためには、「この1グラムをなんとか削れないか」と試行錯誤することが欠かせません。必要のない線をなくしたり、フレームの厚さを薄くしたり。機体を薄くしすぎるとトレードオフでクラッシュ時の損壊リスクが高まるので、軽さと丈夫さのバランスを取るのが難しいポイントです。
年齢も国籍も性別も障害も関係ない
――改めて、ドローンレースの魅力を教えてください。誰視点で語るかによっても異なりますが、パイロット視点で言うと、やはり自分が空を飛んでいるかのような感覚で操作できることですね。飛行機やヘリを操縦できる人は限られますし、身体能力も必要ですが、ドローンであれば操縦者に制限もなければ身体能力も関係ありません。
もちろん瞬発力や動体視力は関係してきますが、ジェンダーも障害も関係なく闘える環境が整いつつあります。実際、私たちの一番のライバルであるイギリスの「XBlades Racing」というチームには、車いすの女性パイロットがいます。彼女の操作するドローンはすごく速いんですよ。
もう一つ大きな観点からいうと、引退後の選択肢が広いことも魅力です。たとえばサッカー選手であれば、引退した後の選択肢は限られますよね。なかなかサッカースキルが民間企業で求められる能力と直結することはありません。
一方ドローンに関しては、空撮やインフラ点検などさまざまな分野で活用できます。いまは映画やCMの撮影など、撮影分野に移っていく方が多いですね。
僕が代表を務める DRONE SPORTS株式会社でも、事業としてインフラ点検や機体開発を展開しています。たとえプロであっても、まだドローンレースだけで潤沢な稼ぎを得られているわけではないので、レースに参加しながら点検や撮影といった分野で稼いでいます。
――「私もプロになりたい」と思ったら、何をすればいいのでしょうか。
まずはドローンレースを始めることが必要ですが、本格的なレースに参加するにはアマチュア無線の資格を取るなど、いくつかの壁があります。それを乗り越える必要がありますし、いきなりレース用の機体を買って動かすというのは難しいと思います。
それを踏まえると、まずはうちのチームのメンバーが運営しているようなコミュニティに顔を出すなどして情報収集してみるのがいいのではないでしょうか。例えばWTW(WednesdayTokyoWhoopers)という毎週水曜日の夜に集まるドローンコミュニティがあります。東京だけでなく全国に輪が広がっているので、まずはここに行ってみるといいと思います。実際のレースを見てみたいと思う方はJDL(Japan Drone League)という日本のリーグが年5〜7戦を各地で開催しているので行ってみるといいと思います。雰囲気の合うコミュニティが見つかれば格段に情報を得やすくなるはずですよ。
ゲームから始めるのもいいですね。DCLにも「DCL The Game」という公式ゲームがありますし、ほかにもさまざまなコンテンツが販売されています。何にせよ、ご自身が負担なく、楽しく入っていける入口を見つけることが大切だと思います。
――ドローンレースが今後さらに発展していくために、何が必要だと感じますか。
今後の要になるのはスポーツベッティング(スポーツの試合結果に賭けるエンターテインメント)だと考えています。アメリカではすでに許可されていて専用のアプリもあり、百数十億円の規模のお金が動いています。日本とは桁が違いますよね。
「賭ける」というと忌避感を抱く人もいらっしゃるかもしれませんが、スポーツベッティングにはファンとのつながりを増やせるメリットもあります。
スポーツを発展させるカギは、いかに「にわかファン」を増やすかです。たとえばこの前のワールドカップも多くの日本人が熱中しましたが、ふだんからJリーグを見ている人はそう多くありません。特別なお祭りを開くことで、にわかファンを増やしているわけです。これと同じで、賭けを入り口にドローンを知らない人を巻き込んでいくのは一つの有効な手段なんです。
あとはスポーツテック分野との融合でも進化を図っていく必要があります。たとえばフェンシングでは、従来は勝敗がわかりづらかったところを、剣の先端にLEDを付けることで格段にわかりやすくしました。
ドローンレースもまた、ドローンの速度が速いので、視聴者を置き去りにしてしまう可能性があります。このような課題を一つずつクリアし、いかに視聴体験を良くしていくかを検討する必要があります。
――世界チャンピオンとして、今後何を目指していくのでしょうか。
まず、DCLでは3連覇を目指します。世界チャンピオンの座は譲れません。その一方で、優勝は「通過点の一つ」だとも考えています。優勝を目標にしてしまうと、優勝した後に燃え尽き症候群に陥ってしまう危険性もありますからね。
いまは、「これだけ練習すれば当然優勝するだろう」と思えるくらいしっかりと準備しています。また、どのスポーツでもそうですが、ドローンレースでもメンタルが重要です。マネジメントする立場から、メンバーに「追われる立場であることを考えるな」「ポジティブに失敗を恐れずやっていこう」などと声をかけています。
またDCL以外のリーグにも参加しており、この間はアメリカのリーグでも優勝することができました。今後も活躍の場を広げていくつもりです。最終的にはドローンレースの普及に尽力し、もっと盛り上げていくのと併せて、「日本のチーム」であることに囚われずに世界各国から面白い才能が集まるグローバルなチームをつくっていきたいですね。