(取材)WINGGATE代表・扇拓矢氏|ワンタッチでドローンがフライト。全自動ドローンAtlasの可能性

ワンタッチの簡単操作でドローンがフライト!ラトビア発・全自動防災ドローンAtlas
業務の効率化や社会課題の解決など、ドローンの活躍の場が広がっています。その一方で、ドローンを使いたくても「ドローンを操縦するスキルがない」「本当に活用できるのか不安」といった悩みを持つ人も。

そのような悩みに応える全自動防災ドローン「Atlas」は、ワンタッチの簡単な操作で誰でも簡単にドローンを飛ばすことが可能です。雨風や寒さにも強く、おもに山岳救助などでの活躍に期待が高まっています。

今回は、Atlasを日本に導入した株式会社WINGGATE扇拓矢代表に、これまでの取り組みやAtlasの有用性などについてお話を聞きました。

WINGGATE設立の経緯

ーー2015年にWINGGATEを設立されるまでのご経歴を教えてください。

宇宙やものづくりといった理系分野に興味を持ち始めたのは高校生の時です。大学では物理学、なかでも素粒子宇宙物理学について学び、おもにASTRO-H「ひとみ」というX線天文衛星に搭載する硬X線望遠鏡を研究しました。そして2010年から宇宙開発系のベンチャー企業に勤め、人工衛星の地上局のソフトウェア開発に従事していました

宇宙関連の仕事に就きたいと考えていましたが、私の興味は「宇宙に行く」「宇宙を調べる」「宇宙を開発する」の3つに大きく分かれていると考えていました。このなかで自分が仕事にできるのは開発だと考えたときに、宇宙に限らない広い選択肢が見えてきました。

そのタイミングで無人航空機の地上局システム作成の依頼を受けたことがきっかけで、個人事業主として事業を立ち上げました。さらに3年が経ったころに株式会社として立ち上げたのがWINGGATEです。

ーー宇宙開発から、無人航空機の分野に興味を持つようになったきっかけは何でしょうか。

無人航空機が衛星と大きく違うと感じたのは、自分が作ったものがすぐに結果として実感できる点です。衛星は開発に数年間かかったり、地上局のシステムを作っていても実際の衛星を目にしなかったりと、自分が何を作っているのかが目の前ですぐにわかるわけではありません。

無人航空機に携わるようになり、目の前で結果がすぐにわかるところが開発者として興味深かったですね。また、無人航空機はこれまでの技術資産の結集といえます。電波通信やGPSなどのGNSSを使った誘導制御など、さまざまな技術の要素が詰め込まれているのです。物理学のほかにも気象や航空法などの幅広い知識が必要とされ、かなりやりがいのある分野だと感じました。

ーーWINGGATE設立当時は、無人航空機の設計やビジネスにおいてどのような課題感がありましたか。

設立当初はまだ「ドローン」と一般的に呼ばれるような状況ではなく、あまり社会で知られていませんでした。しかし、すぐにデータがほしい場合などにおいては無人航空機が非常に優位だろうと思い、それまでの経験で得た知識などを無人航空機の分野に活かしていきたいと考えていました。

それから徐々にドローンに対する期待感が大きくなる一方で、課題も多い状況が続きました。需要はあるのに私たちの会社の規模ではできることが限られていて、もどかしさを感じました。

JAXAとの連携による「海洋ゴミ回収プロジェクト」

ーー2015年に、無人航空機開発においてJAXAと契約を締結された背景を教えてください。

JAXA関係者より「JAXA航空イノベーションチャレンジ 2020 powered by DBJ」を紹介いただいたのがきっかけでした。当時私はオープンソースのフライトコントローラーを学んでおり、試験場所として銚子港を使わせてもらっていました。現地の方々が海洋ゴミの回収に取り組んでいるのを見て、何かお手伝いできないかと考えてJAXAに提案したのが「海洋ゴミ回収プロジェクト」です。

ーー「海洋ゴミ回収プロジェクト」の概要を教えてください。

最終目標は「人の手を借りずに完全自動で海洋ゴミを集めてくること」です。ゴミを集めるプロセスとして、まずは「ゴミを見つける」、そして「ゴミを取りに行く」という2つの作業が必要です。無人航空機でゴミを発見して位置を把握したうえで、無人船を向かわせてゴミを集めてくるという計画でした。

プロジェクトでは、無人航空機でゴミを見つけるだけではなく、波や風でゴミが移動するのをシミュレーションで予測した点もポイントです。採択の際には、実際に現地で海洋ゴミの回収に取り組んでいる団体と密に連携していた点も評価されました。

銚子海洋ゴミプロジェクトへの活用 | WINGGATE

開発中の無人水面清掃船を海洋ゴミ回収で活用させたいという話を頂き、実際に銚子の海でゴミを集めました。 この状況を下記で紹介されました。 船上から網では届かないゴミに対しては、有用であることが分かりました。 https://www.drone.jp/column/20200908112018.html

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ーーJAXAとの連携を通して、どのような発見や学びがありましたか。

いざプロジェクトを始めてみると、私たちが最初に提案した完全自動の方法よりも、みんなで船に乗ってゴミを集める作業のなかで、私たちが作った小さな無人船を操縦して、網では届かない少し遠くのゴミを集めるといった形で使われることになりました。私たちも想像していなかったことでしたね。

完全自動で解決するよりも、「みんなで銚子の海をきれいにする」ということ自体に意味があったのでしょう。問題の解決に向かって取り組むなかで、人の思いが合わさることで新しい解決方法が見つかるのだと学びました。頭で考えることも大切ですが、課題の現場に足を運んでチャレンジすることで見えるものもあるのだと感じました。

ラトビア訪問とAtlasの日本導入

ーー2018年にラトビアを訪問した背景や、Atlas導入のきっかけについてお聞かせいただけますか。

それまで運用していた無人航空機は、お客様から少し使い方が難しいと指摘され、別の無人航空機探すことになりました。そこで世界中の無人航空機に目を向けたときに、ラトビアの「PenguinC」という無人航空機が良いのではないかということになり、実際に性能などを見に行ったことがラトビア訪問のきっかけです。

その際、他にも新しい事業を持ち帰りたいと考え、出会ったのがAtlasです。まさにユーザーライクで、当時感じていた課題を解決してくれるような機体だと思いました。


ーーAtlasはどのような特徴・機能が際立っていると感じましたか。

PenguinCにもいえることですが、ラトビア製品の特徴として、不必要な機能を削ぎ落し、目的としている機能に特化している点が挙げられます。特に、ユーザーの人的要因による事故が多いことを受け、人的要因を排除しようと言う流れが強かったんですね。

そのため、基本的な仕組みさえ理解できれば誰にでも飛ばせるような機体であることが大きなポイントです。また、当時からすでにドローンポートを作り始めているなど、かなり動きが早いという点も特徴的でした。

ーーAtlasの日本導入において、ハードルはありましたか。

小さな会社だったので、第一に予算の面で壁がありました。そこで検討したのが、ものづくり補助金の活用です。軽井沢でドローンの試験を行っている際にお世話になった消防団の方と話しているなかで、山岳救助における2次災害が大きな問題だと知りました。Atlasは実際にノルウェーの山岳救助などでも使われている機体です。寒い地域でも誰でも簡単に飛ばせるというAtlasの特性が需要にマッチングするのではないかと考え、ものづくり補助金に応募しました。

トップページ|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト

【令和6年能登半島地震で被害を受けた中小企業・小規模事業者を対象とする公募受付期間の延長について】 事業実施場所を新潟県・富山県・石川県・福井県の4県とする計画に限定して、2024年5月9日(木)までの間、延長受付を行います。 ただし条件として、令和 6年能登半島地震による被害を受けたことの「被災証明書・罹災証明書」等の書類添付を必須といたしますので、詳細については公募要領(18次締切分)をご確認ください。 ▶措置内容 18 次公募の公募期間の延長  現 行:令和 6 年 1 月 31日(水) から 令和 6 年 3 月 27 日(水)17:00 まで  措置後:令和 6 年 1 月 31日(水) から 令和 6 年 5 月 9 日(木)17:00 まで  ※延長期間の電子申請受付は 2024 年 4 月 1 日(月)12:00 より行います ▶対象者: 令和 6 年能登半島地震による被災地域(石川県、富山県、新潟県、福井県)に事業実施場所が所在し、被害(直接・間接含む)を受けた中小企業・小規模事業者等

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また、技術的なハードルとしては、日本とラトビアでは法律が違う点ですね。特に電波法が異なるので、ヨーロッパでは飛ばせてもそのまま日本では飛ばせません。そこを日本仕様にして日本でも飛ばせるように許可を取る点は非常に苦労しました。

ーー日本の産業やビジネスにおいて、Atlasの導入がもたらす意義や影響について、お聞かせください。

特に山岳救助の初動において、今のところAtlasに勝るものはないと自負しています。欧州では極寒地での行方不明者の捜索など、さまざまな場面でAtlasが活躍しています。日本でも、山岳地帯・寒冷地帯での捜索活動や災害発生時の状況確認、警備などでの運用を期待しています。

山岳救助におけるAtlasの実証実験

ーー2022年に実施された山岳救助を想定したAtlasの実証実験について、概要を教えてください。

実証実験は2022年2月に、宮城県大郷町で行ないました。雪が降る寒い状況のなかでもAtlasが問題なく飛行することや、赤外線カメラで人の体温を検知して捜索できることなどを確認しました。

操縦者のいらない全自動防災ドローン「Atlas(アトラス)」国内初の実証試験を宮城県大郷町で実施

株式会社WINGGATEのプレスリリース(2022年5月19日 13時30分)操縦者のいらない全自動防災ドローン「Atlas(アトラス)」国内初の実証試験を宮城県大郷町で実施

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また、Atlasは一度に1人で最大5機を操縦することができます。実験では2機を用意し、同時にフライトさせて実際に運用できるのかを実証しました。非常に簡単な操作で飛ばせるため、人のドローンを操作する能力をそれほど必要としません。1人で複数機を操縦することで広域のエリアを捜索することができるので、山岳救助におけるAtlasの有用性を改めて感じる結果となりました

ーー実証実験を経て得られた課題はありましたか。

Atlasは探索に優れた機能を持ってはいますが、点検、測量や他のシステムと連携するような機能はありません。そういった部分を日本で追加できるような体制が組めればとは思っています。

「Atlasを広めていきたい」

ーーここまでのお話を踏まえて、今後の事業の方向性や未来への展望をお聞かせください。

Atlasは、私が「これが一番使えるんだ」と海外から連れてきた機体なので、さまざまな方に活用してもらいたいですね。今後はいかに横展開できるかが一つの課題です。

また、少人数のチームでやっているので、人的要因としてもどのようにアトラスを広めていこうかと試行錯誤しています。同じような志を持った人に参加してもらって広めていきたいです。少しでもWING GATEの取り組みに興味を持ってもらえたなら、チームとして何か一緒に仕事ができるとうれしいですね。そんな方がいらっしゃったら、連絡してきてもらいたいです。

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