(取材)日本を守るためになぜドローンが必要?元自衛官/JUIDA参与・嶋本学氏に聞く

(取材)日本を守るためになぜドローンが必要?元自衛官/JUIDA参与・嶋本学氏に聞く
2022年まで陸上自衛官として日本の防衛に従事していた嶋本学氏は、陸上自衛隊東部方面総監部情報部長として、ドローンが持つ可能性に早くから注目。各国のドローンに関する情報収集を行うとともに、ドローンパイロットの育成や災害時のドローン活用、自衛隊と民間ドローン団体との連携にも努めてこられました。

現在はさいたま市の危機管理部参事を勤める傍ら、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与として緊急時のドローン活用をけん引している嶋本氏に、日本の防衛においてドローンが果たす役割についてうかがいました。

さいたま市危機管理部参事、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与 嶋本学氏

ドローンが武器として使われる時代がやってきた 

――嶋本さんが最初にドローンの必要性を感じたのはいつごろでしょうか。
 
一般的に「ドローン」と言って想起しやすいマルチコプター型ドローンについてお話しますと、その必要性を最初に感じたのは、2015年の総理官邸へのドローン落下事件でした。それまでどちらかというと自衛隊の中で「おもちゃ」と認識されていたドローンでしたが、「このような使われ方をするのか」と衝撃を受けました。ただそのときは、ドローンの必要性というよりも、ドローンの危険性の方を強く感じましたね。
 
――「ドローンは危険なものだ」と考えられたんですね。 
 
そうですね。実際に2017年には、ウクライナにある世界最大の弾薬庫が爆破された事件について、ウクライナの国防大臣(当時)が「ロシアのドローンから爆発物が投下された可能性がある」と発言。このころには、ドローンは危険であるとの認識が軍事関係者の間で広がっていました
 
さらに2018年には、ベネズエラの軍事パレードで大統領の演説時を狙ったドローンによる暗殺未遂事件が発生したんです。その映像はYouTubeでも見ることができるのですが、事件そのものは失敗に終わったとはいえ、自分の近くでドローンが爆発したことで参列していた軍人らがパニックになって逃げ惑う光景が映し出されています。
 
陸上自衛隊の情報部長として情報の収集に追われながら、「これはいよいよ本格的にドローンが武器として使われる時代がやってきたな」と感じました。

実際にロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナがドローンを使用して成果を挙げていることが世界中で注目を浴びています。みなさんもそうした報道を目にされたことがあるのではないでしょうか。

ドローンを使った訓練の様子(陸上自衛隊宮古島駐屯地広報提供)

 
――ドローンが武器として使われることには、不安も感じてしまいます。 

 
その気持ちは分かります。ただそもそも何に対しても言えることですが、モノは使いようです。たとえば拳銃は、警察官が所持していれば役に立つものですが、不審者が所持していれば危険なものになってしまうように、「危険なもの」と「役に立つもの」は表裏一体の関係です。ドローンも同じで、例えばテログループが所持する場合と、我が国を守る自衛隊が所持する場合では、その意味合いは大きく異なってくるのではないでしょうか。
 
そもそも自衛隊がドローンを防衛に使わなくても良くするように外交努力に徹すべきと言う意見も良く耳にします。その意見自体には私も賛成ですが、飽くまで現実の国際情勢を踏まえ、それが可能な場合に限ります。
 
私が危機管理部の参事として勤務するさいたま市には、ウクライナから避難されてきた方々がおり、市はその方々が安心して滞在できるようにさまざまな支援を行っていますが、そんな時に、「紛争が起こらないような外交努力をして、このような支援をしなくても済むような世界にすべきだよね」と言うのは、現実とは向き合えていません。それと同じことなのだと思います。

もちろん国民に不安を与えないために、ドローンを活用する自衛隊自体を信用してもらえるよう、自衛隊も積極的な情報開示をしていくなど努力する必要はあるでしょう。また、どの国も悪用できないような国際ルールを構築していく取り組みも非常に重要です。

その前提の上でお話すると、そもそも各国は紛争が起こらないよう、最大限の努力をしなければなりません。ドローンが武器として使われないことが一番いいのは当然の話です。ですが、一たび紛争が始まってしまったときには、国を守る手段としてのドローン活用が必要です。
 
今回のウクライナ戦で、ウクライナがロシアの進攻をなんとか食い止めることができているのは、大小さまざまなドローンを効果的に運用できたことが大きな要因の一つです。
 
いま、ウクライナ国民の間では「バイラクタル」と言う軍歌が流行しています。このバイラクタルとは、ウクライナが使用しているドローンの名称です。ドローンの存在が軍歌となり、国民や兵士の士気を鼓舞するほど、ウクライナの人々にとっては「ドローンが自分達を守ってくれている」という気持ちが強いのです。
 
――ウクライナの人々にとって、ドローンは「自分たちを守ってくれるもの」の象徴なのですね。 

おっしゃる通りです。最近、ロシアのドローンを多数撃墜したウクライナの空軍少佐が、ゼレンスキー大統領から「ウクライナ英雄」の称号を授与されました。これも、ウクライナ防衛にとってドローンが重要な意味を持つと認識されていることを示す一つの例だと思いますね。

ドローンが隊員の命を救う

――では日本を守る自衛隊にとって、ドローンの活用はどのような意義があるのでしょうか。 
 
いくつかの意義があると思います。まずは隊員の安全が確保されること。自衛官は命の危険にさらされるおそれのある任務に就いていますが、危険を冒す必要がないのであれば、それに越したことがないのは言うまでもありません。
 
次に、省人化につながること。少子高齢化が進み若い隊員の確保が困難になりつつある日本では、無人機という人の手を大幅に省くことができる手段で任務を遂行することも必要です。
 
――なるほど。人を大切にしようとすればするほど、ドローンの存在価値が高まっていくのですね。 
 
その通りです。またコストパフォーマンスや育成の観点から見ても効果的です。航空機の場合は高価でパイロットの育成にも年月を要するため、戦略的によほど重要な場面でなければなかなか投入することができません。ですがドローンであれば、比較的容易かつ柔軟に作戦を展開できるようになります。
 
たとえば、航空機が偵察を行う場合、現地部隊から司令部に上がってくる偵察要請等に基づき、司令部が事前に綿密な計画を立て、これを航空部隊に依頼し、航空部隊がそれをもとに飛行計画を作成して初めて実行に移されます。しかし、個々の隊員が手持ちのドローンを持ってさえいれば、いま自分が見たいと思ったものを空中からすぐに確認することができます。
 
もしこれが組織全体でネットワーク化されれば、ある意味で革命的な出来事だと言っても過言ではないと思います。米陸軍や米海兵隊では、部隊の最小単位である「分隊」ごとにドローンの配備を始めました。それは、このような効果にいち早く気付いたからではないかと思います。

嶋本氏提供


――米軍では導入が進んでいるのですね。一方で日本ではどうでしょうか。 

日本の防衛分野におけるドローンの活用という観点では、諸外国と比較して大きく立ち遅れているのが現状です。ただし、日本の潜在的な技術力をうまく取り入れながら検討を進めていきさえすれば、まだこれから世界でも先進的な立ち位置を占めることは十分に可能だと思っています。
 
小さな機体にさまざまな創意工夫を詰め込むことができるドローンのようなシステムは、日本人が比較的得意とする分野ではないでしょうか。防衛分野に限らず、日本がドローンで世界をリードし、日本の国力の一部にしていくことを目指すべきだと思います。
 
――防衛分野では、ドローンにどのような役割を期待できるのでしょうか。
  

多種多様な役割が期待できます。今後はこれまで飛行機やヘリコプターが行ってきた任務のほとんどをドローンが担えるようになっていくと思います。具体的には輸送、偵察、警戒監視、迎撃、爆撃、管制、電子戦などです。
 
また、これまで航空機を使わなかったような領域でも、ドローンを活用していくことができるようになると思います。ドローンが飛行機の代わりとして航空自衛隊で活用されるのは、ある意味イメージ通りではないかと思います。私が所属していた陸上自衛隊は、自衛隊の中でも比較的航空機と関わらない任務が多いのですが、だからこそ新たにドローンを活用する余地が大きいと考えています。
 
――そこで陸上自衛隊に所属されていた嶋本さんがドローンの旗振り役として活動している意義も大きいというわけですね。陸自ではどのような役割が期待できるのでしょうか。 
 
今後の発想次第で多くの役割が期待できると思います。これはあくまでも一例ですが、たとえば日本に侵攻してくる艦船への対処の場面。現在陸上自衛隊では、そのような場面に対しては高価なミサイルの使用を想定していますが、安価なドローンでもかなりの程度まで対処できると思います。
 
これまでは人が行っていた地雷や爆発物の探知、化学剤や放射能汚染地域の偵察といった分野でも効果を発揮するでしょう。これは隊員を危険にさらさずに済むことにもつながります。
 
ほかにも沿岸部や国境付近での監視や通信領域での活用にも期待できます。将来的には、島国である日本にとっての大きな課題であった離島間輸送にも解決策を与えてくれる可能性を秘めていると考えられます。そして、これらの能力は国民保護の分野でも大いに発揮されることになるでしょう。

「専守防衛」の日本だからこそドローンが必要

――マルチコプター型のドローンは、固定翼のドローンと比較して航続距離が短い点が挙げられます。自衛隊としては、この特性はデメリットにはならないのでしょうか。
 
マルチコプター型ドローンの最大の特徴は、空中での静止にあります。これにより細かな作業を行うことができることは、固定翼のドローンにはない最大の利点だと捉えています。
 
マルチコプター型ドローンの航続距離の短さはデメリットとも思われがちですが、見方を変えれば、攻める側にとっては不利であっても、守る側にとっては利点とも言えます。攻める側は、自国から他国に対して攻めていくことになるので、必然的にドローンを遠くに飛ばす必要がありますが、守る側にとっては、自国に敵が入ってくるわけですから、そもそもドローンを遠くに飛ばす必要性がないからです。
 
また、攻める側がマルチコプター型ドローンを使おうとすると、これが使える位置まで部隊や兵士を移動させる必要があります。そうなると、その間はドローンの「無人」と言う利点が消えてしまいます。逆に、守る側は、ドローンを持って人や部隊が移動する必要性が少ないので、マルチコプター型ドローンの特性を最大限に発揮することが可能なのです。
 
――マルチコプター型ドローンは守る側に有利なんですね。 
 
そうですね。また、一般のドローンでも同じことが言えますが、ドローンを飛行させるには飛行地域の地上インフラが大きな役割を果たします。そういった意味でも、ドローンは、地上インフラを有する側、すなわち守りの側に有利に作用する装備だと言えるでしょう。
 
――では最後に、防衛の観点から見たこれからのドローンについて、お話いただけますでしょうか。
 
ドローンについては、ここまでお話してきた「活用」とは逆の観点で「ドローンによる被害をいかに防ぐか」を考えることも重要です。その意味でも、ドローンの研究をしっかりと進めていくことが必要だと考えます。
 
日本は他国への不要な攻撃を行わず、相手の攻撃に対して自国の領土周辺で守りに徹する「専守防衛」を基本とする国家です。そのような国家だからこそ、ドローンを体系的に装備し、活用していくことが求められるのです。

ドローンは日本の守護神になりうるものです。自衛隊でのドローン利用はまだ緒に就いたばかりですが、強固な安全保障体制を構築する上では不可欠な存在。官民が協力し合って積極的な利活用を進めていくことを期待しますし、私自身もその懸け橋となれたらと思います。
 

ドローンを使った訓練の様子(陸上自衛隊宮古島駐屯地広報提供)

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