(取材)五島列島の空をドローンが飛ぶ!そらいいな株式会社が見据える物流の未来

豊田通商株式会社の100%子会社として誕生した「そらいいな株式会社」は2022年、長崎県南西部に浮かぶ五島列島でドローンによる日用品・医薬品の配送を開始しました。試験飛行開始から約1年で500回ほどの飛行を行い、累計航続距離も約2万6000kmを記録。
実際に配送を行う中で見えてきた課題やドローン物流の展望について、同社のヘッド・オブ・オペレーション(配送統括責任者)、土屋浩伸氏にうかがいました。

ドローン先進地域・五島列島 

――御社はどのような会社なのでしょうか。
 
「そらいいな」は豊田通商の100%子会社という形で、2021年4月に設立しました。22年5月末から長崎県の五島列島でドローンを使った医薬品配送を始め、いまでは複数の島で医薬品や日用品の配送までを行っています
 
従業員は全員で4人。代表と私は豊田通商からの出向ですが、残りの3人は現地で採用しています。
 
――「そらいいな」という会社名はインパクトがありますよね。 
 
ありがとうございます。当初は「豊田通商ドローンシステム」といった固めの候補も上がったのですが、最終的には上司のアイディアが採用されました。
名前の由来としては、「空の物流網を通じて、地域の皆さまの暮らしを、少しだけお手伝い。必要なものを必要な時に、必要な分お届けする。便利が届く空っていいな」の想いが込められています。住民の皆さんに親しみを持ってもらえるので、この名前にしてよかったと感じています。
 

そらいいな株式会社 配送統括責任者 土屋 浩伸氏(写真右から3番目)


――改めて、なぜ五島列島を選ばれたのでしょうか。 
 
大きくは①少子高齢化、②飛行可能地域、③制度面、④自治体の積極性―が挙げられます。まず五島列島では、①少子高齢化の社会課題がすでに顕在化しています。五島列島は高齢化率が全国平均より10%以上高く、若年層はどんどん島外へ流出。最若手が30歳の島もあります。どの島も人手不足に悩んでいる状況です。
 
②飛行可能地域ですが、私たちの使っているドローンは、半径80kmの非常に広い圏内を飛行することができます。将来的な発展を見据えたとき、その80kmの範囲内に島がたくさんある方が収益に結び付きやすいですよね。五島列島は大小約150の島々から構成されていますが、そのほとんどがドローンの飛行圏内にあり、かつ日本の離島の中でも人口規模が大きい点がポイントでした。
 
③制度面では、私たちがドローン配送事業の展開を決めた当時はまだ、人が密集する街の上をドローンが飛行することは認められていませんでした。そこでどの航路を利用するのが現実的かを考えたときに、海上での飛行が最も実現可能性が高いと判断したのです。
 
最後に④自治体の積極性。五島市はもともとドローンの活用を強力に推し進めていたんです。2018年には内閣府の助成を受け、5か年計画の「ドローンi-Landプロジェクト」を開始。自治体にも地域の方々にも、ドローンに対する理解がありました
 
加えて、豊田通商としてもすでに五島列島でマグロの養殖事業や、椿を使った化粧品の製造事業などを行っていて、信頼関係も構築できていた。これらの要素が重なり合い、「もう五島列島しかない」ということで検討が進展していきました。

1日4便、地域住民の「当たり前」に 

――物資をドローンで配送することのメリットを改めて教えていただけますか。
 
五島列島にある五島市の例では、そもそも商店がない島や、あったとしても夕方には閉まるような小規模な商店しかない島が複数存在しています。そういった島に住む方々は、だいたい皆さん週に1〜2度ほど五島市の中心地である福江島まで船で渡り、まとめ買いをしています。
 
ドローンを活用すれば、わざわざ船に乗って別の島まで足を運ぶ必要性が減少します。本州での生活により近くなるイメージですね。また、たとえいまは問題なく買い物に行くことができているとしても、高齢化が進んでいますから、5年後、10年後にどうなっているかはわかりません。
 
不便を感じたところで福江島に移り住む選択肢もありますが、そういった流れが続けば、その島はやがて無人島になるおそれがあります。ふるさとを守るためにも、また大きな観点からは国家として有人国境離島を維持するためにも、ドローンの役割は大きいと考えています。
 
――どのような機体で配送しているのでしょうか。 
 
私たちが使用しているのはアメリカのジップライン社のドローンです。パラシュート付きの箱を自動で事前に定めておいた場所に投下し、配送後はまた自動で拠点に帰還します。
 

同社提供


同機の特徴は二つあります。一つは航続距離が長いこと。マルチコプター型のドローンはどうしても離発着だけでエネルギーの大半を消費してしまいますが、ジップライン社のドローンは固定翼。そのため離着陸時にそれほどのエネルギーを消費しない上、エネルギー効率の高い飛行を実施できるんです。
 
もう一つの特徴が悪天候に強いこと。風速14m/sまでの風と50mm/hまでの雨なら耐えることができます。台風が直撃しているときはさすがに難しいですが、船が就航できないような台風の直前・直後の場面でも、ドローンであれば就航可能です。1日を通してずっと飛べないというケースはほとんどなく、日単位で見ると就航率はほぼ100%に近い状態です。
 
――どれくらいの頻度でどのようなものを運んでいるのでしょうか。 
 
一番配送が多い島では現在、1日4回の配送ダイヤを設定しています。例えば、朝10時20分に配送してほしい場合、前日の夕方17時までに注文、12時20分の配送であれば当日の10時半まで、15時20分と16時50分の配送は当日の13時半までに注文すれば品物が届くようになっています。
 
いま運んでいるのは医療機関向けの医療用薬品と、住民の皆さま向けの食品・日用品です。
食品・日用品では、福江島のスーパーから注文の入った商品を弊社の拠点に運び、1回につき最大4kgまで配送する形を取っています。
 
一つの機体の配送重量は1kgほどですが、住民の皆さんからは「1kgではとても足りない」との意見がありました。そこで間髪入れずに飛ばすことができるドローンの性質を利用し、連続飛行することで一度に多くの量を運べるように努めています。だいたい皆さん利用される際には、一回で3、4箱ほど購入されますね。

同社提供


――4kgのものをドローンが運んでくれるのはありがたいですね。どんなものでも配送できるんですか。 
 
そうですね。エアクッションや緩衝材を駆使することで、卵や果物、ビンなども問題なく運べます。最初の実験時には投下の衝撃でうまくいかないこともありましたが、実験を繰り返して改善していきました。たとえばお弁当であれば、蓋を占める前にラップをまいて中身を固定しています。
 
――ニーズが高い商品はあるのでしょうか。 
 
実は、注文を受けるのは特定のジャンルに偏っていないんです。しかしこれこそが、五島列島がドローンのある生活にシフトしている証拠だと思っています。
 
というのも、島に住む方々の購買行動として、まとめ買いが中心であることはこれからも変わらないと想定しているんですね。そのうえで私たちは、ドローンを通じて、週の途中でなくなったもの、急にほしくなったものなど、生活に必要なものを必要なタイミングで買っていただくことで、お力添えができればと考えているんです。なので「人気商品がない」ということはむしろ、我々の狙いが達成されつつあるように感じています。
 
――レベル4飛行が解禁になりましたが、今後どのような影響があるのでしょうか。 
 
飛行経路と投下場所が変化すると考えています。いままで海の上しか飛べなかったのが陸の上を飛行できるようになったことで、最短距離での飛行が可能になり、効率が上がります。

また投下場所も、いまはなるべく海に近い漁港や港に投下していましたが、より街中に近い場所に投下できるようになりますので、利便性がより増していくでしょう。

物流そのものを変える可能性を秘めたドローン

――実際に運航してみて感じた課題はどのようなものなのでしょうか。
 
機体の運航に関しては、それほど課題はありません。どちらかというと課題はその前後にあるんです。たとえば都会に住む人たちからすれば、五島列島はお店の数が少なく、買い物に労力がかかることは客観的に見ても事実です。
 
ただ一方で実際に離島に住む方とお話をすると、皆さんいまの環境を決して不便だとは思っていないんですね。そんな中で私たちが「不便ですよね、ぜひ使ってください」と言うのは押し付けになります。
 
そうではなく、私たちがすべきことはドローンを活用することによる事例と効果をお示しした上で、「よかったら使ってくださいね」と投げかけることだと感じています。
 
――なるほど。そういった方にドローン配送を活用してもらうには何が必要なのでしょうか。
 
まずは1回利用してもらうことが重要です。そのため、いまは実証実験中ということもあり配送料を無料にしています。今年度いっぱいはこの形で続ける予定です。
 
あとは注文方法にも工夫の必要を感じていますね。最初はアプリで注文する形を考えていましたが、果たして高齢者の方にはアプリがなじむのかという問題が生じました。実際にスマートフォンを持っていない人もいましたから、いまは全戸にカタログを配布し、電話でご注文いただく形を取っています。
 
ただ今後扱う商品が増えていけば、必然的にカタログも分厚くなってしまいます。より住民の方々に使いやすいサービスや体制を検討・構築していくことが求められます。

――配送料無料だと収益にも影響しますよね。収益面の課題はいかがでしょうか。

仰る通りです。この課題の大本は、物流に対して「支払ってもいい」と思える許容額の低さにあると考えています。いまは配送料無料のサービスも多いので、「配送料は安いものだ」というイメージがついてしまっているんですね。
 
そこに対して、たとえ「ドローンで運ぶ」という付加価値があったとしても、1000円、2000円と加算されるのであれば、到底許容されないですよね。人々が本質的に望んでいるのは商品が正確に届くことなので、それが可能なのであればドローンじゃなくてもいいわけです。なので、個人から大きく課金してもらうシステムは難しいと考えています。
 
――どうやってその課題を解決していくおつもりでしょうか。
 
一つは数をこなすこと。半径80km圏内の配送需要を拠点に束ねることで、1回あたりの収益性は低くても、多く配送することである程度まではカバーできます。もう一つのやり方としていま考えているのはは、BtoBの領域で収益をカバーできる構造を生み出していくことです。
 
イメージとしては医薬品などの荷主企業様にドローンの自動飛行を活用してもらうことを想定しています。企業にとっては天候や時間に縛られなくなるだけでなく、自動飛行を活用することで配送業務を効率化できる可能性があると感じています。理解を得られるよう、地道な話し合いを重ねていくつもりです。
 
――住民の利便性だけではなく、企業の業務の効率化に資するんですね。
 
そうですね。またこれは過疎地域だけの話でもありません。将来的に考えると、2024年にはトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されるのに伴い、輸送量が減少する「2024年問題」が懸念されています。そこで、全国的に業務を効率化していく必要があります
 
その際の選択肢として、ドローンは非常に期待できる存在です。五島列島での実績をどういった展開に落とし込んでいけるのか、慎重に検討していきたいと思います。
 

同社提供


――ドローンの活用の可能性が広がりますね。
 
ドローンの安全性や精度、またドローンを取り巻く制度などがさらに発展していけば、ドローンが全国的な物流の自動化に大きく貢献する未来が考えられます。
 
たとえば、これまで大まかな時間指定しかできなかった宅配でも、10分刻みで時間指定ができるようになったり、真夜中の指定ができるようになったりするかもしれません。またドローンでは運べる荷物に限りがあるということであれば、ドローンと航空機の中間のサイズの機体での輸送が始まるなど、新しい市場が生まれてくる可能性もあります。ドローンの未来はまだまだこれからです。
 
――最後に、ドローンを活用したいと考える読者へのメッセージをお願いします。
 
まだ日本の物流分野において、実際の事業としてドローンを活用しているところはそう多くありません。そこで、興味を持っていただける企業や自治体の皆さまとは、ぜひ広く一緒に何かできればと考えています。
 
私たちのシステムをそのまま応用する以外にも、運航前後で発生する問題やドローンによる配送の効果をそらいいなのシステムと五島の場を使って検証いただくなど、幅広いテーマでご協力ができるかと思います。全国どこからでも、ぜひお気軽にお声がけください!
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