KDDIスマートドローンは、国内有数の総合建設コンサルタントである日本工営株式会社と協力し、Skydio社の最新機体、Skydio X10を使用して、道路トンネル内部の点検作業をドローンに置き換える実証実験を茨城県つくば市の国土技術政策総合研究所の実大トンネル実験施設を利用して行いました。
この記事では実証実験の内容について、KDDIスマートドローン株式会社ソリューションビジネス1部 貴島康二氏に伺いました。
最先端Skydio X10がトンネル点検の未来を変える
——今回の実証実験の背景を教えてください。KDDIスマートドローン社は、2024年5月に米Skydio社と資本業務提携を締結しました。KDDIの5Gをはじめとする最新の通信技術、そして当社のドローン運航管理技術とSkydioのドローンを組み合わせることで、点検・監視業務の効率化や、災害時における迅速な情報取集を可能にすることが期待されています。
SkydioとKDDIが資本業務提携を締結 | KDDI News Room
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この記事をnewsroom.kddi.com で読む >資本業務提携の背景には、高齢化、労働力不足、インフラの老朽化、激甚化する災害といった社会課題があります。こうした課題を受け、鉄塔や橋梁などのインフラ点検をはじめとするドローンの点検・監視領域におけるニーズは日に日に高まっています。
Skydio社の機体や自動充電ポート付きドローンは、KDDIスマートドローンにおいて以前から活用されており、様々な社会課題の解決に向けた次世代モビリティの社会実装に欠かせない存在です。提携により、両社が共同で高度なドローン活用と利用拡大を進めることで、ドローンの社会実装をますます加速することを目指しています。
そして今回、茨城県つくば市にある国土技術政策総合研究所の実大トンネル実験施設を利用して実施した実証実験において、KDDIスマートドローン株式会社が特に注目しているのは最新機体Skydio X10の機能です。
これまで、非GPS環境下であるトンネル内では、通常のドローンは飛行が困難であるという課題がありました。これは従来のSkydio 2+モデルも例外ではなく、カメラ性能や暗所での飛行には制限がありました。
しかし、最新機体であるSkydio X10はこれらの課題を克服しています。本実証実験ではその実用性を確かめるべく、国内No.1の総合建設コンサルタントである日本工営株式会社からの要望に応え、完全に暗闇の状態であるトンネル内での飛行能力と撮影結果を検証しました。
空間把握技術・暗所飛行・カメラ性能・防塵・防水…ハードな環境にも実用可
——Skydio X10の性能について、詳しく教えてください。Skydio X10の性能について、特筆すべきは以下の4点です。
特殊環境下での運用を可能にする空間把握技術
Skydio X10は機体上下に3つずつ合計6つのナビゲーションカメラを搭載しており、Visual SLAM技術とAIを活用した自律的な障害物回避機能を有しています。メインプロセッサにNVIDIA Jetson Orin SoCを搭載し従来機種に比べて10倍以上のコンピューティング処理性能を誇ります。これにより障害物を自動で回避しながらの安全な自律飛行が実現されています。「NightSense」により、暗所飛行が可能
オプション製品である「NightSense」を使用することで、機体自体が発光し、暗所での障害物回避を含む自律飛行と撮影が可能となります。これにより、トンネルなどの暗所空間の撮影に効果的に活用できます。カメラ性能の向上
64MPの高解像度なカメラを搭載し、従来ほど機体が近接しなくてもきれいな映像、画像が撮影可能。標準モードと望遠モードをワンタッチで切り替え可能で、128倍までデジタルズームすることができます。
防塵防水機能がIP55に強化
Skydio X10は、高水準の防塵防水性能を持つIP55レーティングを達成しており、過酷な環境でも使用可能です。これにより、粉塵が多い場所や水しぶきがある環境でも安心して使用できます。実証実験は成功、追加検証の結果にも満足
——ではいよいよ、実証実験の内容について教えてください。今回の実証実験では、トンネル内の照明を完全に消した状態で、トンネルの中央部から壁面の概況を確認するテストを行いました。
直径約10メートルほどの広大な空間でしたが、NightSenseのライトにより十分な光量を確保し、撮影と飛行はいずれも問題なく行えました。粉塵などの潜在的な影響も懸念されましたが、目立った影響はなく、撮影・飛行ともに成功を収めました。後日の実施となりますが、撮影された動画からは3Dモデルを作成し、構造物の自動検出も試みる予定です。
さらに追加の検証として、以下のテストも行いました。
まず、離隔を変えたクラックスケールの読み取り精度を検証しました。このテストは、ドローンがさまざまな距離から構造的なダメージや細かなひび割れをどれだけ正確に検出できるかを評価するために行われたものです。次に、損傷状況をオルソ画像で確認するためにオルソ画像作成用の撮影フライトを行いました。従来より撮影時間を短縮でき、作業効率の向上を確認できました。
この結果により、ドローンの利用が点検業務においていかに有効であるかが示されました。
また、ドローンの操作範囲と通信の安定性を確認するために、プロポ(送信機)と機体間のWi-Fi通信が可能な最大距離の測定も行いました。この測定により、操作者が安全な場所から広範囲にわたってドローンを効果的に制御できるかが確認され、遠隔操作のリスクを低減する一助となりました。
緊急対応や高精度な点検への活用にも期待
——実証実験の結果をどのように評価しますか。実証実験を通じて、Skydio X10の可能性を再認識しました。
第一の強みは、トンネル内の状況を迅速に把握する能力です。今回の実験に使用したトンネルは全長700メートルにも及びましたが、Skydio X10は問題なく飛行してくれました。これだけの性能があれば、万が一トンネル内で緊急事態が発生した場合に、人が入る前にドローンで概況を確認する用途などに活用できそうです。
第二の強みは、カメラ性能です。従来は点検時の撮影に時間がかかっていましたが、カメラ性能の向上により点検時間を大幅に短縮することが期待されます。
第三の強みは、NightSenseの光量です。今後は橋梁の裏側の点検などドローン単体では難しかった点検箇所で活用を行っていきます。
より高難度な点検にも意欲。「人間の補助役」から「主役」へ
——今後の展望を教えてください。ドローンやロボットなどはまだ、人間の補助役という位置づけが一般的です。しかし、暗闇や危険な場所など、人間にとってアクセスが困難な環境での点検は、ドローンが主導する未来が近づいています。今回のような実証実験を重ねることで、ドローンが点検業務の中心として認識される日もそう遠くないでしょう。
弊社ではこれから実運用への展開を積極的に推進していきます。今後はLTEを利用したより長距離の飛行や、実際のトンネル現場や発電所など、より厳しい環境での検証も予定しています。これにより、Skydio X10の実地での有用性をさらに高め、様々な条件下でのドローンの活用を推進していくことが目標です。