今回はブルーイノベーション社代表取締役社長の熊田貴之さんに、同社の活動内容や今後のドローン業界に求められるものについてお聞きしました。
防災事業からドローン業界へ
――まずは、御社がドローンビジネスに参入した経緯を教えてください。もともと私は、大学で津波や砂浜の浸食と言った海岸の防災対策の研究をしていました。ただ、大学院時代にお金があまりにもなくて、ゼネコンや建設コンサルタントに就職した先輩に「大学でできる仕事をください」と売り込んだんです(笑)。そこで初めてもらった仕事が、防波堤の高さを協議するための住民協議会を撮影・映像編集する作業でした。
その仕事をきっかけに、本格的に海岸の防災に関わる受託事業を始めました。そしてその中の取り組みの一つに、「災害の原因究明と将来の災害予測」がありました。国土地理院から入手した航空写真や、私たち自身が凧やラジコンを駆使して空撮した写真を用いて、過去から現在までの海岸の変遷を見るわけです。これは災害の原因究明の大きな力となり、空撮の可能性とビジネスとしての手応え、そして何より社会課題解決に向けた取り組みとしての必要性を感じました。
ただ、当時どうしても撮影できなかったのが災害直後の写真です。 これを「何とかして撮影できないか」と考えていたときに出会ったのが、航空宇宙工学分野で非常に著名な東京大学の鈴木真二先生でした。
当時鈴木先生は、御巣鷹山にジャンボ機が落ちた事故を契機として「落ちない飛行機」の研究をしておられました。これはたとえ飛行機の羽がなくなっても、自動で制御して飛行を続けるシステムです。しかし研究では、実際にジャンボ機を使うことはできません。そこで、ラジコンにその制御システムを搭載して研究をしていらっしゃったんです。このラジコンがドローンのはしりであり、そのドローンを見た私たちは、鈴木先生に「私たちの研究にも使わせてください」とお願いしたんですね。
許可を得て使ってみると、これまでの写真と全然違うんです。非常に低高度から撮影でき、画質もクリア、さらには動画まで撮れる。波長や波の周期、流速もわかるのは画期的でした。これをきっかけに、東京大学と一緒にドローンの共同研究をするように。弊社がドローン市場に参入したきっかけは、このような経緯でした。
マーケットインの発想で事業成長
――御社はドローンによる業務の効率化だけでなく、人材育成や映画撮影への協力など、いろいろな事業を展開されています。なぜ幅広に事業を展開されているのでしょうか。当初、ドローンは注目されてはいたものの、マーケットとしてはまだ黎明期にありました。なのでまだドローン一本でビジネスを展開しようとしてもなかなか難しかったんです。そこで弊社が取った手段が、「とにかく顧客の課題を解決すること」でした。
あくまでもドローンありきで「これしかできません」と突っぱねるのではなく、顧客のお悩みに寄り添って徹底的に解決する。こうした泥臭い姿勢をとり続けることで、多くの方に「ドローンって便利だな」と思ってもらえるのではないかと考えたんです。
だからこそ、「蓋を開けてみればドローンが不要だと分かり、別の解決策を提示した」ケースもありました。極端な例では、「入社式でドローンを使って撮影したい」との問い合わせがあったものの、規制上どうしても難しく、単純に高いところから写真を撮って納品したこともあります(笑)。
ここまでの例はそうありませんが、いま弊社でUGV(無人地上車両)やロボットを取り扱っているのも、「お客様からの要望があるから」です。プロダクトアウトではなく、あくまでマーケットインの発想で事業を進めているのが創業から変わらない我々の姿勢であり、強みです。
――幅広く事業展開される中で、特に思い出深かった出来事は。
震災後の需要爆発と、その後の低迷期ですね。
東日本大震災が起こり、それまで理解の薄かった海岸の防災事業の必要性をみんなが理解するようになりました。そのため、震災後しばらくはあちこちから仕事を頼まれ、寝る暇もないほどでした。
ところが、弊社はシミュレーションや調査といったソフト面でのサービスを提供しているので、堤防の高さなどある程度の方向性が決まってしまえば、あとは実際に建設するゼネコンにバトンタッチするわけです。なので震災から3年ぐらい経ったところで一気に仕事が減り、倒産まで覚悟しました。
しかし、捨てる神あれば拾う神ありです。低迷する弊社に、Yahoo!Japanが声をかけてくれたのです。これはドラえもんの映画のプロモーションの一環で、タケコプターで飛んだ世界(ドローンによるリアルな空撮映像とCGを組み合わせたコンテンツ)を体感できるアトラクションサイト『のび太と空中散歩』を共同開発することになりました。この世界を66万人が体験し、「ドローンには可能性がある」という認識を広めることができました。
複数のドローンやロボット、センサーなどデバイスを遠隔で制御・統合管理する独自開発のデバイス統合プラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」を活用し、社会課題の解決、そして日本の未来の構築のためのソリューションを開発・提供しています。
この記事をwww.blue-i.co.jp で読む >こうして様々な活動を続けるうちに、それまでほとんど見向きもされていなかった弊社のホームページが、「ドローン」と検索すれば上位に出てくるくらいに閲覧数が増加。知名度が急上昇し、非常に感慨深い出来事のひとつです。
発展に必要な三つのブレークスルー
――そのような動乱の時期がありつつも、2014年に一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA) の設立にもかかわられましたね。当時、ドローン業界はどのような状況にあったのでしょうか。当時はというと、ドローンのルールが無くて重大な事故が起こる可能性があったり、重要な情報がバラバラで本格的な運用が難しかったりといった状況がありました。そこで、ドローン業界が発展していくためには産官学でドローンのコンソーシアム団体を立ち上げ、皆で協議していくことが必要だと考え、JUIDA設立の運びとなりました。
――そんなJUIDAでは今後、どのような領域に力を入れたいですか。
人材育成ですね。JUIDAでは、ドローンを操縦できる人材を育成するに当たって一定の基準を満たしているスクールを「認定スクール」としています。この教育分野では、ドローン操縦訓練に関する世界共通の規格をISOに提案し、承認されています。これはドローン業界で日本が世界をリードしたことを意味しますから、非常にすごいことです。
これによってJUIDAの国際的な地位も上昇しました。2022年7月現在で海外20カ国以上・30団体以上と提携し、海外にも活動の幅を広げています。いまはシンガポールやマレーシア、台湾などで着々とドローンスクールの立ち上げが進んでいます。アジアではまだあまりドローンの活用が進んでいないので、アジアのリーダーとして普及啓発活動を進めていきたいですね。
――マクロな視点から見たときに、日本のドローン産業が発展するには何が必要でしょうか。
ポイントは三つあります。一つ目は、テクノロジーのブレークスルー。いまのドローンにはリチウムイオン・リチウムポリマーバッテリーを使っていますが、10〜20分しか持ちません。これでは点検中に電源が切れて落下してしまいます。水素燃料電池やガソリンエンジン、太陽光パネルなど、多様な動力源を駆使していくことが求められます。
また、これまでは2.4GHz帯の短い電波で飛行するケースが多かったのですが、長距離を飛行するには5GやLTEなどを活用していく必要もあります。
二つ目が法律。どれだけ自分たちが鼻息を荒く事業を進めても、法律で規制が緩和されたり認可が降りたりしないと、結局産業は育っていきません。特に重要なのは、空の空間資源に関する決まりをつくることです。
これまで、地上から高度150mにかけての空の空間は利用されてきませんでした。ドローンによってこの空間を利用できるとなれば、非常に大きな空の資源を活用できることにつながります。ドローンが「空の産業革命」と期待されている背景もここにあります。活用するにはルールが必要なので、ここは官民で話し合っていかなければなりません。
三つ目が人材。どれだけテクノロジーや法律が整備されても、ドローンを使える人がいないと話になりません。この3点が揃ってこそ、大きな変革が可能となります。
今年は法律が変わる節目の年です。12月には目視外飛行が可能となる「レベル4飛行」が解禁され、一気にビジネスチャンスが増大します。大手企業もソワソワしていますね。実際、弊社へのお問い合わせは増えていますし、すでにサポートに入っている企業もたくさんあります。
ドローン業界の発展は時間がかかる
――ドローン業界への参入の敷居が決して高くないいまだからこそ、参入を考えている事業者にぜひメッセージをお願いします。
私はよく、ドローン業界を「自動車業界とIT業界の子ども」と表現しています。自動車は6年ぐらい、ITは半年ぐらいのサイクルで新しい製品が出てきます。ドローンはその中間で、大体2~3年かかります。ドローンにはスマートなイメージがあると思いますが、実は意外と泥臭いもの。完全な自動運転もいますぐにできるものではなくて、現在はまだ人の手を介してようやく成立するツールです。
ドローンが出てきたときは、IT業界と同様に、早いサイクルでスケールしていくものだと思われていました。ベンチャーも多く設立されましたし、投資家も積極的に投資したんです。ただ、ドローンビジネスを育てるのは想像以上に時間がかかる。資金繰りに苦労したり、「こんなはずじゃなかった」と撤退していったりしたベンチャーも多いんですよ。いま上場できそうな会社も数える程度です。
一つのソリューションができるのに数年かかり、それで得られた利益が数千万というのも珍しくないので、決して簡単な世界ではありません。非常に面白い業界で、どこかのタイミングで爆発的に成長することは間違いないと確信していますが、現時点では忍耐力も必要です。 そのことを事業者にも投資家にも理解してもらうことがまずは大事ですね。