(取材)国家戦略特区・千葉市|事業公募やライセンス取得支援でドローン活用を後押し。千葉市が目指す地域づくりとは

国家戦略特区・千葉市|事業公募やライセンス取得支援でドローン活用を後押し
国家戦略特区の指定を受けている千葉市では、近未来技術を活用したまちづくりとして、ドローン宅配等の実現を目指すとともに、行政・民間ともにドローンの利活用を進めるためのさまざまな取り組みが行われています。

臨海部の物流倉庫から市内の高層マンションにドローンで日用品などを運ぶ「ドローン宅配構想」を掲げ、ドローン宅配の社会実装を推進するほか、ドローンを使った業務効率化等のための「ドローン活用推進事業」や、ドローンの操縦ライセンス取得を支援する「無人航空機操縦者技能証明取得支援事業」といった取り組みも行っています。

今回は、千葉市 未来都市戦略部 国家戦略特区推進課佐古典子氏に、千葉市でのドローン活用の取り組みやこれまでに採択した事例などについてお聞きしました。

千葉市 未来都市戦略部 国家戦略特区推進課 佐古典子氏

千葉市におけるドローン活用の取り組み

ーー千葉市でドローン活用に取り組むことになった経緯や背景を教えてください。

2016年に千葉市が国家戦略特区になる際に、幕張新都心を中核とした近未来技術実証多文化都市の構築を掲げました。具体的には、幕張新都心のエリアを中心に、ドローンや自動運転モビリティなどの展開を掲げたのが始まりです。

幕張新都心は東京都心と成田空港のほぼ中間という好立地です。特徴としては「職・住・学・遊」を融合した未来型の国際都市として、幕張メッセなどの国際的なコンベンション施設やオフィスビル、大学などがある一方で、立ち並ぶ集合住宅に多数の住民を擁しています。まさに住むところ・働くところ・学ぶところ・遊ぶところがすべてあるエリアなんですね。

さらに、幕張新都心と海沿いでつながっている市川市船橋市は、関東有数の物流拠点である一大倉庫の集積地です。この地理的なメリットを活かし、これらの物流拠点から幕張新都心の集合住宅にドローンを使って宅配ができれば、非常に便利で快適になるはずだと考えました。道路の渋滞や少子高齢化によるドライバー不足などの課題にも対応できる方法だといえるでしょう。

ーー「千葉市ドローン活用推進事業」について、公募をスタートした経緯をお聞かせください。

点検や警備など産業分野でのドローン利活用が先行して進んでいる状態を受けて、千葉市としても行政業務や市内事業者のドローンの活用を積極的に支援しようと考えました。まずは市が率先してドローンによる業務効率化を図っていこうということで、ドローン使用を必須条件に業務を発注するというドローン活用推進事業が2018年から始まりました

土木分野の点検や市の施設の点検など、庁内でニーズがある場所に声をかけたうえで私たちが代わりに発注し、プロポーザル方式で公募・審査して採用する流れで進めています。

ーープロポーザルという形を取るメリットは何ですか。

プロポーザル方式ですと、単なる価格勝負ではなく事業者からのアイディアを審査することができます。私たちが知らなかった方法が出てきたり勉強になるような内容もあったりして、価格だけではなくより良い提案を選ぶことで、さらにドローンの発展につなげられるのではないかと思っています。

また、公募という形を取ることで、ドローン活用を市が積極的に進めていくというPRにもなります。

ーー2023年度は、行政課題型として「産業廃棄物の不適正保管現場の測量」をテーマにされていますが、こちらの業務について公募をかけられた背景を教えてください。

今回のテーマについてですが、ヤードに積まれる廃棄物の高さには規制があり、保管が不適切な現場には行政から指導を行わなければなりません。その際には職員が高い所に登って測ったり、専門技術が必要だったりするうえに、迅速さも求められる状況でした。

そこでドローンで堆積物の測量ができれば、安全面や効率面で効果が期待できます。ただ、ドローン自体も高価ですし、所管の方で実際に利用できるかもやってみなければわかりません。行政という立場上リスクは取りづらいので、まずは私たち特区課が間に入って検証し、有用性を確認した後に予算の要望をあげて実装につなげていくという流れになります。

ドローン活用推進事業の事例

ーードローン活用推進事業でこれまでに採択した事例をいくつかご紹介ください。

2022年度から、ドローン活用推進事業に「B類型」という枠を設けました。これは、社会受容性の拡大を目的としたものです。これからドローン宅配が本格化する際に、ドローンが怖い・危ないといった抵抗感を持たれてしまうと活用が進みません。そこで、市民にドローンに親しんでもらう取り組みを補助することになったのです。

2022年には、千葉市科学館「Qiball(きぼーる)」においてドローン操縦体験会を開き、来場者の方にドローンの操作を体験してもらいました。また、2023年10月に千葉市で開いた「ちばデジフェス」でも、イベントの1つとしてドローンの体験会を行っています。おもに子どもたちに身近に体験してもらい、「ドローンっておもしろい」と思ってもらえるような事業に取り組んでいます。2023年度はドローンサッカーが採択されており、12月に体験会が行われる予定です。

また、2022年度でいうと、千葉都市モノレールさんが車両基地の点検にドローンを活用しています。これまでは人が高いところに登って目視で確認していましたが、ドローンによる撮影でどのように点検が可能かなどを検証しました。これによりドローンによる点検の有用性が確認できたということで、現在はドローン点検の内製化に取り組まれています。

実は、自社人材のパイロット育成のために、職員の方に二等ライセンス取得させるということで、2023年度に新しくできたライセンス補助にもエントリーしていただきました。

ーーライセンスの取得支援事業とはどういったものですか?

ライセンスの取得に必要となる経費の一部を補助する事業です。今年採択したもう1つの案件として、千葉共同サイロさんが挙げられます。千葉港は小麦粉が多く荷揚げされる場所で、2021年にはドローン活用支援事業で千葉共同サイロさんが保有するアンローダー(港湾荷役機械)の点検を行いました。ただ、日常的な点検というよりも地震などの災害時にすぐに点検をするためにドローンを活用したいとのことで、自分たちでドローンを所有して使うため、職員の方がライセンスを取得することになったのです。

外注でドローンの操縦者が来てくれるのも良いですが、やはり市内企業の自社人材が新しい技術を身に付けて高度化するのが市としてはうれしいですね。採択できる件数も限られていますし、それぞれが単発で終わってしまっては次につながっていきません。ドローン活用推進事業で試して良い効果があれば、社内の人材がライセンスを取得して機体を買い、取り組みを継続するというように、ステップアップしてくれるのが理想の形だと思います。

物流拠点と高層マンションを結ぶ「ドローン宅配構想」

ーー「ドローン宅配構想」の概要や、事業の背景をお聞かせください。

先ほども少し触れましたが、東京湾臨海部の物流倉庫から、ドローンで海上や河川の上空を飛行し、幕張新都心内の高層マンションへ生活必需品や医薬品などを配送する構想です。

東京湾臨海部に物流倉庫が多くあること、海上を通って輸送ができること、高層マンションなどの大規模な都心型住宅地であるということ。この3つの地理的な優位性を活かした取り組みになっています。

幕張新都心は9,400戸 約25,000人が住む幕張ベイタウンと、完成すれば4,500戸 約10,000人が住む幕張ベイパークを有し、特に新しいタワーマンションなどが建つ幕張ベイパークエリアでは、若い子育て世代の方も非常に多く住んでいます。例えばマンションのパンフレットにドローンや自動運転などの特区としての取り組みが紹介されているなど、比較的ドローンのような未来技術が受け入れられやすい地域特性があるといえるかもしれません。

ドローンの実証実験や社会実装において、人口密集地区ではなく山間部や離島で行われるケースが多いですが、それでは結局補助金に頼らざるをえません。私たちが目指すのは、補助金ではなく収益で採算性を取って回っていく事業です。マーケットが成立しなければドローン産業は発展しません。その点、千葉市には多くの消費者がいて、マーケットが十分に見込めると考えています。

ーー現在までに、どのような実証を実施したのでしょうか。

昨年、東京湾臨海部の物流倉庫から幕張ベイパークへ、ドローンで荷物配送を実施し、13kmというドローン宅配構想のフルルート飛行と運航管理システムを活用した2機体交差飛行に成功しました。

実際にドローン宅配を実装するなら、1機が飛行・到着して終わりということにはなりませんよね。複数のドローンが上空を飛び交う状況を想定したうえで、ぶつからないように飛ばすことが必要です。交差飛行の実証実験では、2機体を同時に運航管理し、幕張沖の海上で、南船橋の物流倉庫を出発した機体と、幕張ベイパークを出発した機体が交差した瞬間はとても印象深かったです。

その際に、ドローン事業に関わる現場スタッフの方々の優秀さにもとても感銘を受けました。彼らのような優秀な人材を海外に流出させず日本に留めるためには、やはり国内にマーケットが必要でしょう。補助金頼みの実証実験ではなく、マーケットを早く確立させる必要性を感じています。そのような優秀な方々に、幕張新都心に実証実験場所や事業拠点を置きたいと思ってもらいたいですね。

ドローンの活用で目指す地域づくり

ーードローン活用の取り組みを通して、これからどのような地域づくりを目指していますか。

千葉市は大規模な住宅地や工場、施設、農地もあって、さまざまなフィールドをそろえている土地です。その環境や地理特性を存分に活用してもらい、先進的な取り組みの場としても選んでいただけるような自治体にしていきたいですね。

千葉市は、仕事をするだけの場所でもなく、寝に帰るだけの場所でもない、働く場所と住む場所のバランスの良い自治体を目指しています。その1つの要因として、ドローンが大きな役割を果たしてくれることを期待しています

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