(取材)ドローン空撮業界で求められる能力とは?「BOLJU」の白川代表に聞きました

「空撮ができます」だけじゃ足りない。ドローン空撮業界で活躍するために重要なスキルとは? BOLJU代表 白川賢治氏
ドローンの登場や普及によって、大きな変化を遂げた業界の一つが空撮業界です。それまでに見たことがないような視点や動きで映し出される映像に引き込まれた方も多いのではないでしょうか。映像を通して初めてドローンの存在を知ったという方もいるかもしれません。

新しい機体の開発や技術の進歩によって現在も進化を続けるドローン空撮業界。そこで活躍を目指すには、どのようなスキルを磨き、どのようなキャリアを進めば良いのでしょうか。

今回は、数多くのテレビ番組やCMなどのドローン撮影に携わっているBOLJU代表白川賢治氏に、ドローン空撮を始めた経緯や現在の事業内容、これから空撮業界を目指す人へのアドバイスなどをお聞きしました。


ドローンの登場によって自分で空撮が可能に

ーー現在に至るまでのご経歴や、ドローン空撮を始めたきっかけについて教えてください。

もともとは映像制作会社で勤務しており、今の仕事にもつながる作品作りや業界全体の構図への理解、マネジメントなどを学びました。その後、2012年にフリーランスの映像クリエイターとして独立して現在に至ります。

ドローンと出会ったのはちょうど独立したころで、DJI社のPhantomを購入しました。当時は機体にカメラが付いていないうえにジンバルも完成度が低かったので、映像はブレブレでしたね。

しかし、それまでは空撮といえばヘリコプターやセスナ機でなければ撮影できなかったので、自分の手で空から撮影できるようになったことはとても画期的でした。いち早くドローン空撮を始めましたが、現在はさらにドローンの種類が増えたり性能が上がったりしたことで、映像表現の幅も広がっていると感じています

ーーこれまでどのようなプロジェクトに携わってこられたのでしょうか。具体的なプロジェクト名や内容についてお聞かせください。

最近だと、テレビ番組の『罠の戦争』や『炎の体育会系TV』、Netflix『今際の国のアリス2』などでドローン撮影を担当しています。『ガキの使いやあらへんで』では、ドローンの企画で私自身も出演させていただきました。また、イベントの中継業務では『BreakingDown』でFPVを飛ばしたり、自動車をはじめとしたさまざまなCM撮影にも関わったりしています。特にFPVに関しては、企業のランディングページでの需要がかなり高まっている印象ですね

FPVドローン撮影が初の試みとなる企業も多く、求められるハードルの高さをいつも感じています。ただ、クライアントのみなさんがとても喜んでくれて「こんな映像を見るのは初めて」とはしゃいでいる様子を見られると、とてもうれしいです

ドローン空撮特化の「BOLJU」設立へ

ーー2012年にクリエイティブプロダクション 「TOKYOVIDEO」を設立し、2023年4月にはドローン撮影専門サービス部門として「BOLJU」を創設されたと伺いました。ドローンに特化した部門を立ち上げたのはなぜですか。

BOLJU」を立ち上げた背景としては、撮影フローにおいてカメラの知識や現場の流れを知っているパイロットが少ないという事情があります。業界全体としても大きな問題なのですが、パイロットに絵心がなかったり、映像の使いどころを理解しきれていなかったりするケースがみられるのです。

限られた時間で行われる撮影のなかで、進行を止めずに無駄な時間を使わないことは重要なポイントです。ドローンを使ってどのような構成で撮影するか、どのように効率的にドローンを活用するかといったニーズに応えるために、カメラマンとしての目線でドローンを操縦する必要性があると強く感じ、ドローンに特化した撮影フローに強い「BOLJU」を立ち上げました


TOKYOVIDEO」では地上撮影とドローン空撮を並行して行っていましたが、ドローン空撮の普及に伴って求められる映像表現の幅は広がっています。そのなかでも、特に近年はFPVの存在が非常に大きくなっていますね。これまでにはなかった独特の動物的な視点での撮影が可能になりました。そのようなFPVの普及も、「BOLJU」を立ち上げたきっかけの一つといえます。

ーー「BOLJU」の事業概要とサービスの特色について教えてください。

おもな事業内容は、企業PVやテレビ番組、CMの撮影、ドローンセミナーなどです。特徴としては、ムービーカメラ目線でドローンを飛ばすことができる点です。作品全体を俯瞰的に把握したうえでドローンの有効な使いどころを提案できます

例えば、作品に使われる楽曲がすでに決まっている場合には曲調やテンポに合わせてドローンの速度や角度を調整したり、編集点(ノリシロ)をふまえたフライトをしたりします。またWebページやランディングページで使う場合には、インパクトのある映像表現を提案するようにしています。

また、一般的なカメラドローンによる撮影とFPVによる撮影をシームレスに対応できるのも特徴です。依頼の内容に沿って「今回はFPVのマイクロドローンを使いましょう」とか「そのカットは2オペが必要なのでこの機体を使いましょう」というように、撮影の目的に適した方法を使い分けることができます。

重要なのはコミュニケーション能力

ーードローン空撮の仕事において、どのようなスキルや能力が重要だとお考えですか。

意外かもしれませんが、空撮においてドローンを操縦する技術はそれほど重要ではないと思っています。ドローンを飛ばすためのスキルはスクールでも学べますが、そこから先の仕事につなげていくにはビジネス的なスキルが必要になります。「空撮ができます」というのは、ただのあいさつに過ぎません。

映像コンテンツを作るクリエイターとして求められるのは、「常に相手の意図を先読みすること」と「相手の期待値を超え続けること」です。そのために最も重要なのはコミュニケーション能力ではないでしょうか

コミュニケーション能力を磨くために私個人が大切にしているのは、アウトプットの作業です。自分の気持ちや考えを、上手ではなくてもいいので積極的に伝えるように普段から心がけています。

技術的な面に関していうと、カメラと編集の知識は必要ですね。ドローンはあくまで道具の一つであり、各分野の専門知識と組み合わせることで有効に活用できるものです。空撮業界でいえば、カメラのホワイトバランスや適正露出、シチュエーションに合わせたシャッタースピードや、フレームレートとの関係性、解像度など撮影に関する専門知識が身についている必要があると思います。

例えば、地上のカメラと合わせて編集することも多いので、地上のカメラがどのようなタイプかを把握してベストなセッティングを提供する知識が求められることがあります。また、前準備や本番のオペレーション、後作業といった一連の流れや現場の手順、細かいセオリーも知っておかなければなりません。

今のカメラはオート機能が優秀ですが、カメラのスキルを磨くためにはオート機能を使わずにさまざまな設定を自分で試してみてほしいですね。色温度やシャッタースピード、ISO、露出などを場面に応じて調整する癖を付けると役に立つと思います。

さらに技術を磨くには、照明を意識してみましょう。撮影においてライティングは命です。ドローン撮影でも屋外で撮影する際は太陽光や陰影にこだわってみたり、室内で撮影する際は照明を追加したりしてみてください。ぐっと作品の仕上がりが変わると思いますよ。

加えて、安全管理や法令順守も忘れてはいけない大切なポイントです事故なく撮影を終えることが最大のミッションともいえます。飛行日誌の提出や業務レポートを付け加えてクライアントに渡すことも重要ですね。

ーーこれまで、ドローン空撮の仕事で困難だったことはありますか。

夜間の目視外飛行や、ドッキリなどチャンスが1回限りの撮影など、基本的に困難な撮影ばかりですね。特に技術的な難易度が高いのは、やはりFPVドローンです。組み立てから自作ですし、無線の免許や申請も必要です。時間もかかるので、ハードルはかなり高いですね。完全に1人で始めようとすると、1年はかかるのではないでしょうか。すでに知識や技術を持つ人から積極的に教えてもらうのが良いと思います。

もしFPVを練習する場合は、いきなり実機を操縦するのではなくシミュレーターなどを活用することをおすすめします。私も時間があるときは今でも欠かさず練習しています。DJI社から新しく「Avata 2」という機体が出ましたが、FPVを始めるにはとても良い機体です。FPV界にイノベーションが起きるのではないかと期待しています。

ーードローン空撮業界に入りたいと考えている方々へ、業界参入やキャリア形成についてアドバイスをいただけますか。

私はフリーランスという立場ですが、空撮業界に入りたい場合はまず組織やチームに入ることをおすすめします。通常の撮影はプロデューサー、ディレクター、カメラマンというようにチームで動くケースがほとんどです。ドローン撮影ではこれに安全管理も加わってきます。個人よりもチームの方がずっと効率的なうえに、安全面でも有効です。空撮においても同じようにチームで動き、コミュニケーションを取って学んでいくのが良いのではないでしょうか。

映像業界のさらなるイノベーションに期待

ーー今後の活動展開や目標など、未来への展望をお聞かせください。

映像業界における大きなイノベーションを楽しみにしています。今まで見たことがないような、ワクワクする映像を作っていきたいですね特にFPVにはまだまだ発揮しきれていないポテンシャルがあると思うので、これからも深掘りしていきたい領域です。これからもドローンの進化によって、さらに安全に楽しく、すばらしい空撮ができることを期待しています。


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