ドローンから産業イノベーション&災害対策を実現 三井不動産&日鉄興和不動産が挑む「新しい産業」
三井不動産と日鉄興和不動産の共同プロジェクトとして誕生したこの施設は、単なる不動産開発を超え、新産業創造と地域貢献の両立を目指しています。
三井不動産株式会社のロジスティクス本部・ロジスティクス事業部事業グループで統括を務める小菅健太郎氏と、日鉄興和不動産株式会社の開発企画本部 開発企画部 営業企画グループでチーフマネージャーを務める池田智氏に、板橋ドローンフィールドの意義や有事の際の機能、今後のビジョンなどについて伺いました。

(左)三井不動産株式会社 ロジスティクス本部 ロジスティクス事業部事業グループ 統括 小菅 健太郎 氏、(右)日鉄興和不動産株式会社 開発企画本部 開発企画部 営業企画グループ チーフマネージャー 池田 智 氏
業態などの枠組みを超えたコミュニティで新たな産業を興す
――本プロジェクトが発足した背景についてお聞かせください。小菅:
背景としては大きく二つあります。一つ目は三井不動産としての視点です。2024年の4月に新グループ長期経営方針を策定しており、その中で「不動産デベロッパー」という枠を超えて、「産業デベロッパー」として、社会の付加価値の創出に貢献していくという会社方針があります。既に日本橋では宇宙産業やライフサイエンスの創造といった取り組みが進んでいるのですが、物流との親和性が高いドローン領域にも注力したいと考えました。
もう一つの背景は板橋区側からのリクエストです。日本製鉄の工場跡地を大規模開発する際に、開発事業者へ地域防災への貢献に関する取り組みの要望をお寄せいただいたのですが、板橋区は産業やものづくりを非常に大切にされている自治体だったので、新しい時代のニーズに対応する産業の取り組みについても事業者側にリクエストをいただいておりました。この二つの文脈から、ドローンという領域に取り組むことになったのです。
池田:
当社は日本製鉄グループの一員として、物流施設に限らず産業用不動産にも注力していきたいと考えています。それと同時に「物流に限らないさまざまなアセットを幅広く展開していきたい」という思いがあり、R&Dにも注力しています。研究開発を行う領域を精査する中で、この地域においてはドローンが適切だと判断しました。
――三井不動産が「産業デベロッパー」として、社会の付加価値の創出に貢献していくという方針を打ち出した背景についてお聞かせください。
小菅:
少子高齢化が進む日本で新たな価値創造、イノベーションを起こしていく上で、当社はプラットフォーマーとして全産業の企業が生産性を高める取り組みを助け、ともに成長したいと考えています。ハードを作る不動産デベロッパーという従来の概念を変えて、産業を作る方々をサポートする「産業デベロッパー」の役割を担っていきたいと考えています。基本的にはハードとしての「場」を提供するのみならず、そこに産業コミュニティを作り、そのコミュニティが新産業の屋台骨となっていくという考え方です。
顧客の潜在ニーズをキャッチアップして「作り込んだ」施設に
――板橋ドローンフィールドやMFLP・LOGIFRONT東京板橋の特長について教えてください。小菅:
私たちは「お客様のニーズに応える」という顧客志向のスタンスで事業を展開しており、今回もドローン事業者の皆様が遠方地で実証実験をされるのが大変だというお声を聞き、ソリューションを実現した形です。
施設の設立にあたっては、企画設計の段階からドローン事業者の方々と綿密なコミュニケーションを取りながら進めてきました。板橋ドローンフィールドでは、屋外の広いスペースを利用して、適切なプロセスを通じ飛行実験や種々の研究ができるようにするなどさまざまな実験環境と屋内のディスカッションスペースなどを整えています。

またKDDIスマートドローン様もMFLP・LOGIFRONT東京板橋に入居されることになりましたが、これは私たちのオフィスビル事業でのつながりから生まれたご縁ですね。都内でスクール拠点を探されていたこと、我々もドローン産業の発展において人材育成や教育は必須であると考え、両社が意気投合して実現しました。
池田:
MFLP・LOGIFRONT東京板橋としては、物流倉庫の一部を「災害時配送ステーション」として板橋区に提供しているのも特長です。このステーションは備蓄倉庫として機能し、区内77の避難場所に支援物資が不足した際の供給拠点となるほか、都内が被災した際に広域から届く支援物資の受け入れ拠点のひとつとして活用されます。実際に今年2月上旬には、東京都ならびに板橋区により災害支援物資の配送訓練が実施されました。
――両社の役割分担や強みについて教えてください。
小菅:
三井不動産としては、日本橋での産業創造にかかる取り組みで得られた経験を活かしていきたいと考えています。特に宇宙産業での取り組みは、連携する企業においてもドローン産業と近いところもあり、宇宙産業に携わる企業さんがドローンに関する研究にも取り組んでいるケースも少なくありません。まだ本取り組みが開始したばかりの状況ではありますが、そういった事業者さんと連携し、産業創造の礎を作っていけるのではないかと考えています。
池田:
日鉄興和不動産としては「人と向き合い、街をつくる。」という企業理念に基づき事業を展開しています。私の所属する本部では、各製鉄所のある地域のニーズや課題解決を不動産でどう解いていくかを大事にし、エリアの価値を高めることが会社のポリシーですね。これまでも、八幡や釜石では地域に根差した街づくりを進めてきましたが、その経験が活かせると考えています。
とくに板橋においては「防災」の文脈が重要だと認識しており、ドローンがどのように役立てるかを行政と連携しながら相談しているところです。
両社の経験を活かした「集大成」となる災害拠点
――災害発生時、この施設はどのように機能するのでしょうか?池田:
災害時にこの場所から支援物資を配送する拠点としての役割もありますが、一番重要なのは、地域住民の方々が河川氾濫時等の水害から万が一逃げ遅れた際に、水害から身を守るための緊急一時避難場所としての機能も果たしています。
この地域は2つの河川に挟まれた低い場所にあり、なおかつ高台までは約4キロの距離があるため、逃げ遅れてしまう方をサポートする役割が非常に重要となります。また、施設内にはヘリポートも設けており、体調を崩された方などを病院へ緊急搬送できる体制も整えています。

池田:
板橋地域の重要課題として水害リスクへの対応があることから、テナントとして入居予定だったヤマト運輸さんも交えた災害協定書も締結しました。全国で豊富な実績があるヤマト運輸さんの知見も活かしながら、オペレーション体制の構築を含めた官民連携での協定締結に至りましたね。
――三井不動産では、MFLP・LOGIFRONT東京板橋を「街づくり型物流施設の集大成」とされていると伺いました。
小菅:
まず、当社は千葉県船橋市にあるMFLP船橋をはじめとした「街づくり型物流施設」の開発をいくつか手がけています。物流施設は本来、一般の方々が敷地に入れず閉じた空間であることが多いのですが、この「街づくり型物流施設」は物流倉庫の開発と同時に、地域の方々が利用できる公園やカフェテリア、保育施設などを併設した「地域に開かれた場」として活用されています。
板橋の施設はこれまでのノウハウを注ぎ込みつつ、プラスアルファとして「次世代産業創造」という要素を加えました。これはドローンという次世代産業の発展に貢献することで、地域の産業づくりだけでなく、ひいては日本全体の産業育成にも貢献していきたいという意味合いを込めています。単なる「街づくり型物流施設」を超え、さらに「次世代産業創造」としての機能も持たせた、まさに集大成と呼べる施設なんです。
MFLP船橋と同じく、板橋でも芝生広場を設けて地域の方々に開放しており、子どもたちが遊具で遊んだり、フィールドの中でサッカーを楽しんでいる姿も見られます。地域の方々にとって、憩える貴重な空間になっていれば嬉しい限りです。
ドローンの活用事例を増やして社会と技術の変革を後押し
――次世代モビリティとしてのドローン技術について、今後どのような発展を期待されていますか?小菅:
私たちが期待するのは、将来的な物流への活用です。特にラストワンマイルの配送をドローンで実現できれば、昨今話題になっているドライバー不足の問題緩和にもつながると考えています。
経済産業省が進めている「デジタルライフライン構想」では、河川や送電線でのドローン航路の設定にも言及されていますが、最初のステップとしてはそうした取り組みを事業者や国、行政と議論するところから始めたいと考えています。都内の河川沿いにドローンの離発着場を設置し、そこからドライバーさんが荷物を受け取り、配送するような仕組みが実現できれば、大きなメリットがあるのではと期待していますね。
また、私たち不動産会社のコスト減につながるような活用方法もあると考えています。オフィスビルやホテル、商業施設をはじめ建物の管理には点検や検査、維持管理に小さくないコストがかかっており、例えば窓や外壁の点検では、足場を組んだり、高所作業車を活用したりと様々な費用、手間がかかっています。

プラントや建設現場では既にドローンが活用されていると思いますが、オフィスビルや商業施設、ホテルなどでの活用はまだ十分ではありません。こうした分野での先進的な取り組みを示していければと考えています。
――ドローンの活用には、便利さとリスクのトレードオフがあるように思います。こうしたバランスも含め、今後板橋ドローンフィールドではどういった形でドローンを推進していかれるのでしょうか。
小菅:
ドローンによる配送や点検の話もありましたが、他にも警備分野はドローンが活躍できる領域だと考えています。MFLP・LOGIFRONT東京板橋において建物点検や警備へのドローン活用に向けた実証実験を行い、将来的には他の物流施設や他のアセットにも展開していければと思います。
海外の事例では中国などでドローンによる配送が普及していて、専用のドローンポートに置かれた商品を人が受け取るというスタイルが実現しているようです。日本では社会受容性の問題もありますが、人手不足解消のためにも技術革新が実現できればと感じますね。
これからも物流会社やドローン事業者、行政とも議論、意見交換をしながら、オープンな形でイノベーションを促進していきたいと考えています。
――最後に、このプロジェクトを通して社会にどのような価値を提供していきたいですか?
小菅:
短期的には不動産管理の分野でドローンを活用した事例を作り、「三井不動産や日鉄興和不動産はこんな取り組みをしている」というムーブメントを起こし、他の企業にも参加してもらうことで産業の発展に貢献したいと考えています。
中長期的には物流分野でのボトルネックが法整備の問題なのか、資金需要の問題なのか等、ドローン企業や大学研究者、行政等とも議論を重ねて方針を作っていきたいと思います。板橋ドローンフィールドはそのための舞台として活用していきます。
池田:
ドローンの取り組みはこれから育てていく必要があります。現在は建物管理などで活躍していますが、これを広げていくためには私たち2社やドローン関連企業だけでなく、他のデベロッパーや行政機関も交えた連携が必要です。自社の考えに固執することなく、ドローンの価値を広く伝えていくことが重要だと考えています。
また災害時の活用は昨年の災害も含めて期待が高まっていますが、さらにドローンの取り組みを広げていくためには、日常におけるドローンの社会受容性を高める必要があると思います。
日常的に複数台のドローンが飛び交う光景はまだイメージしにくいかもしれませんが、技術の革新とともに社会への周知活動も行い、ドローンが広く受け入れられる環境づくりを進めていきたいですね。
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