東京電力パワーグリッド×Skydio×グリッドスカイウェイ|電力インフラを支えるドローン技術の最前線に迫る

東京電力パワーグリッド×Skydio×グリッドスカイウェイ|電力インフラを支えるドローン技術の最前線に迫る
電力設備の保守点検業務や災害対応の現場で、ドローン技術の活用が急速に進んでいます。

この変革の最前線に立つ、東京電力パワーグリッド株式会社 技術・業務革新推進室DX推進グループの篠原良介氏、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 代表の足立浩一氏、そしてSkydio合同会社 代表の柿島英和氏にお話を伺いました。

鉄塔点検でドローンを飛ばす男性

電力設備の点検効率化から災害時の迅速な初期対応まで、DFR(Drone as First Responder:初動対応におけるドローン活用)を軸とした最新の取り組みやその背景に迫ります。

空の道を切り拓く!東京電力パワーグリッドとグリッドスカイウェイの役割

東電パワーグリッドとグリッドスカイウェイの社員対談

左:東京電力パワーグリッド株式会社 技術・業務革新推進室DX推進グループ 篠原良介氏 右:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 代表 足立浩一氏


──最初に、東京電力パワーグリッドとグリッドスカイウェイの関係性について教えていただけますか?

足立氏:グリッドスカイウェイは、電力会社が抱える課題を解決するために立ち上げた組織です。2020年3月に東京電力パワーグリッド、NTTデータ、日立製作所の3社で設立し、現在は13社体制で有限責任事業組合として活動しています。

活動の目的は、電力設備の上空に全国共通のドローン航路(空の道)を作り、安全にドローンを飛行させて電力設備を保全することです。電力設備の保全担当者が不足している社会課題の解決や、激甚災害時に素早く対応するための基盤作りをめざしています。

グリッドスカイウェイのドローン航路プラットフォームの絵
出典:グリッドスカイウェイ

具体的には、送電線や配電線、変電所等の巡視と点検を、ドローンの自動飛行で実現するサービスを展開しています。

特に注力しているのは目視外自動飛行で、人が見えないところまでドローンが自動飛行することで、危険な場所に人が立ち入る必要をなくし、迅速に設備を確認できるようにしています。将来的には、電力設備のために作ったドローン航路を活用して、他のインフラ設備の点検や物流などにも展開していきたいと考えています。

篠原氏:補足ですが、東京電力パワーグリッドをはじめとする一般送配電事業者は、災害時に相互支援する協定を結んでいます。

たとえば2024年の能登半島地震の際は北陸電力管内の被害を、2019年の房総半島台風の際は千葉県での被害に対して、各一般送配電事業者が連携して復旧活動の支援を行いました。グリッドスカイウェイはそうした背景の中で、空の道を整備し、全国共通のプラットフォームを作るために活動しています。

電力設備点検が抱える課題とドローン導入への期待

ドローンについて熱心に語り合う三人

左からSkydio合同会社 代表柿島氏、東京電力パワーグリッド株式会社 篠原氏、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合 足立氏


──電力設備の点検や保守において、ドローン導入前にはどのような課題があったのでしょうか?

篠原氏:東京電力パワーグリッドは、電力設備の保守・メンテナンスを行っています。これまで電力設備の維持管理は主に人が担っており、現地に人が赴いて確認する必要があります。

たとえば送電設備では、電線を支えている碍子(がいし)という磁器製の部材の点検は、実際に送電鉄塔に昇り目視で確認する方法を取っています。

送電鉄塔は、山などの人があまり住んでいない地域に設置されていることが多いのです。まず山を登り、そこから鉄塔に昇って、さらに碍子の上を歩いて乗り出して確認する作業が必要です。これらを全て人が行っていたため、身体的負担や事故のリスク、時間的コストがかかる課題がありました。

また、2019年に発生した台風15号では、主に房総半島で倒木や土砂崩れによる道路の寸断があり、人の立ち入りが難しく、被害状況を把握するための巡視が困難になりました。

そのため、復旧の見通しを公表するまでに時間を要し、復旧作業も長期化してしまいました。このような課題を解決するため、ドローンをさらに活用して設備被害の状態把握を迅速化したいという背景から導入の検討を始めました。


──電力設備の課題解決に向けて、どのようなドローン活用を具体的に検討されましたか?

ドローンを運転する男性

出典:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合


篠原氏:ドローン活用に期待したのは、まず効率化です。

人が鉄塔に昇るよりも、ドローンで設備を撮影して映像で判別・診断することにより効率化をめざしました。

次に、安全性の向上です。送電鉄塔などに昇る機会を減らせば、事故の発生も少なくなるでしょう。自然災害などで発生した土砂崩れなどの被災場所に、被害状況を把握するために立ち入ることは、人への二次災害のおそれがありますが、ドローン活用により安全上のリスクを最小限にできます。

さらに維持管理の品質向上です。マルチコプター型のドローンは制御技術が高く、安定した飛行が可能です。高画質でズーム撮影やさまざまな角度からの撮影が容易なので、これまで人の目では確認が難しかった部分も含めて多角的な点検が可能になり、点検精度の向上が図れると考えました。

障害物回避機能が決め手となったSkydio X10の選定理由

skydio X10の写真

Skydio X10


──さまざまなドローンがある中で、なぜSkydio X10を選ばれたのですか?

篠原氏:Skydioに期待したのは、障害物を回避しながら飛行できる点です。

また、Skydio X10に搭載されている熱画像カメラでの診断も今後活用できると考えています。

高性能かつ多機能な機体であるにもかかわらず、操作性にも優れているという点でSkydio X10を選定しました。

──実際にSkydio X10を導入されてみて、使用感はいかがですか?

篠原氏:私もドローン操縦者ですが、障害物回避機能は期待通りの動作で、非常に満足しています。

これまでのドローン操縦は操縦者の技術・技能に大きく依存していましたが、Skydio X10は機体自ら障害物を検知して自動的に回避してくれる機能を持っています。飛行時の安全性が大幅に向上し、誰でも安全にドローンを扱えるようになると大きな可能性を感じています。

Skydio X10に搭載されている解像度と感度の高い熱画像カメラの活用も、今後の展開に期待しているところです。

災害時の初期対応を変えるDFRとDock活用の展望とは

Skydio X10とDockの写真

Skydio X10とDock


──DFR(Drone as First Responder)* やDock* 活用について、今後どのような展望をお持ちですか?

* DFR:災害・事件・事故等、緊急時の初動対応におけるドローン活用
* Dock:ドローンが自律的に離着陸・充電・データの送受信を行うための基地装置

篠原氏:東京電力パワーグリッドとしては、まだSkydio X10の導入初期段階ですので、まずは操縦者に慣れ親しんでもらうことが第一歩だと考えています。

現在は他のドローンでも行っている活用から始め、Skydio X10でなければできないニーズへの対応は、これから現場の使用感や意見を聞き取りながら推進していく段階です。

DFRについては、先ほど述べた台風などの被害を受けた際に、ドローンでの一次対応により復旧要員の二次災害回避ができる点が重要です。

上空から俯瞰的に情報を得られるのはドローンならではの活用シーンであり、迅速な被害状況把握によって電力設備の復旧を早め、停電時間を短縮するというレジリエンス強化に十分期待できると考えています。

ドローンポートやDockの活用については、現在検討を進めている段階です。

たとえば、変電所のトラブル対応において、特に事務所から離れた変電所では移動に時間がかかります。現状は設置カメラや警報で状況を把握していますが、詳細確認には現地に人が出向く必要があります。

こういった場所にSkydioのDockなどを設置できれば、人が出向かなくても原因把握や設備復旧の迅速化が図れると考えています。

ドローンの未来について話し合うSkydio代表や東電パワーグリッドの皆さん

──Skydioから見たDFRとDock活用の可能性について、柿島様のお考えをお聞かせください。

柿島氏:Skydioの本社がある米国では、DFRのソリューションの導入が急速に広がっています。

有事の際にドローンが現場に急行して状況確認を行う仕組みで、具体的には警察や消防、緊急通報センターと連携し、通報を受けると自動でドローンが現場に急行して初動の状況確認を行います。同時に、リアルタイムに現場の映像を関係者と共有して、状況把握や意思決定を迅速に行える環境を構築しています。

アメリカではドローンが「災害や事故の一次対応」に活躍している

アトランタ公共安全訓練センターとの提携により、アメリカ初の「ドローン・ファーストレスポンダー・センター・オブ・エクセレンス」を設立(Skydioプレスリリースより)

出典:Skydio

これを実現しているのが、先ほど篠原さんの説明にもあった自律飛行型のドローンであるSkydio X10と、そのドローンが自動で離発着し、充電やデータ送受信ができるドローンポートの役割のDockです。

DFRの運用では、Dockからドローンが自律的に出動し、任務後に自動で帰還して充電され、次の出動に備えるというサイクルが重要になります。Dockを適切に配備することで、夜間や休日、災害発生時など人手が不足する状況でも24時間365日の運用が可能です。

グリッドスカイウェイのような組織が災害時に連携する際、効率的な対応には自動化されたドローンシステムの普及が鍵となります。

Dockは無人運用を可能にする優れたソリューションであり、将来の新しい社会インフラとして大きな価値を持つでしょう。私たちSkydioは、このような技術を活用し、各関係機関と協力して災害時の迅速な初動対応(DFR)を実現していきたいと考えています。

──電力インフラを扱うにあたり、セキュリティ面で特に意識している点はありますか?

篠原氏:電力インフラという社会的に重要な設備を扱う上で、サプライチェーンリスクも当然考慮しています。

国際情勢の変動などでドローンが確保できなくなるリスクもあるため、幅広く選定していくという考えを持っています。東京電力パワーグリッドとしては、さまざまなメーカーのドローンについて、どの国の企業であるかという点も含めてサプライチェーンを考慮しています。

また、情報セキュリティの観点も重要な選定基となります。撮影した映像や取得したデータの保管先や通信経路の安全性なども検討しながら、ニーズと使用環境を総合的に判断して、状況に応じた選定を心がけています。

柿島氏:Skydioの製品は現在、世界中で3,000以上のお客様に利用いただいており、そのうち700以上が警察や消防など公共安全を担う機関であり、280以上もの電力会社などエネルギー関連のお客様にてご利用いただいております。

特に機密性の高い情報を扱う政府機関や重要インフラ事業者からも信頼をいただいており、情報セキュリティやデータガバナンスを含めた厳しい基準で評価した上で採用に至っている実績があります。

国家安全保障に関わる用途でも選ばれているという点は、私たちの誇りでもあります。

このような信頼性と技術力を基盤に、電力インフラをはじめとする社会基盤の維持・発展において、ドローンがより重要な役割を担っていくと確信しています。

ドローンが変えるインフラの未来!“DFR”と“空の道”の展開に今後も注目

電力インフラ設備の点検にドローンを操縦する男性

今回の取材を通じて、電力インフラ設備の保守点検や災害対応におけるドローン活用の現状と将来展望について詳しく伺うことができました。

テクノロジーの進化とともに、ドローンは社会インフラの維持や災害対応の最前線を支える重要な存在へと変わりつつあります。今後の実証実験や実用化の動向、そしてSkydio X10のさらなる活用に注目していきたいと思います。

インタビューマイクのアイコン取材・インタビュー
Skydio柿島代表が語る ドローン 自律飛行×AIで建設・点検現場をDXする未来

自律飛行技術において、世界をけん引するアメリカのドローンメーカー「Skydio」。2020年には日本で「Skydio合同会社」を設立し、国内の建設や電力、土木などの幅広い業界で導入されています。 この記事では、Skydio合同会社の柿島英和代表に、同社が強みとする自律飛行技術の概要や国内での導入事例、今後の展望などをお聞きしました。

Skydio柿島代表が語る ドローン 自律飛行×AIで建設・点検現場をDXする未来
徳川詩織
徳川詩織

2024/04/01 04:25

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