ドローン保険の対談を取材「守りだけでは不十分!?」 受注と信頼を左右する保険設計
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今回お話を伺った方
本記事では、保険代理店ACF(エイ・シー・エフ)代表取締役の東中浩太郎氏と、合同会社SORABOT代表の奥村英樹氏によるソラハブ対談イベントを取材しました。
賠償リスクの見落とされがちなポイントから機体保険の実務まで、現場の視点で交わされた議論をお届けします。「保険に加入すること」自体が目的になっていないか、本対談を通じて、あらためて見直すきっかけとなれば幸いです。
ドローン保険の全体像「3つのリスクから考える基本構造」

左:奥村英樹氏(合同会社SORABOT 代表) 右:東中浩太郎氏(保険代理店ACF 代表取締役)
奥村氏:保険というと、まずドローンが壊れた時にお金が出るイメージがありますよね。大まかにはそのイメージで合っていますか。
東中氏:保険は大きく「人にかける保険(傷害保険)」「モノにかける保険(動産保険)」「賠償責任保険」の3つにわかれます。ドローン事業ではこの賠償責任と動産保険が主な対象です。
また、加入の形としては、ドローン関連の事故だけをカバーする「単体タイプ」と、ドローンの業務以外なども含めて会社全体をカバーする「事業包括」の2種類があります。
奥村氏:モノにかける保険は、モノが破損した際に保険金が支払われるため、わかりやすいですよね。しかし賠償責任保険は少し複雑で、補償内容に抜けや不足があるまま気づかずに加入している人が、意外と多いように感じます。
東中氏:賠償責任保険が適用されるかどうかは、「法律上の賠償責任が発生するかどうか」が前提です。
たとえばドローンが線路に向かって落ち、電車にぶつかり、電車が破損して止まった場合には、賠償責任保険が適用されるケースがほとんどです。
しかし、ドローンが線路に落下して、ドローンを見つけて電車がその前で止まったとしても、物損事故が発生していなければ対象外になる場合があります。
保険約款により細部は異なるため一概には言えませんが、こうした点は理解が難しく、内容を十分に把握しないまま加入しているケースも見受けられます。
見落としがちなドローン賠償リスク「管理下財物」という盲点

ここでは、「賠償責任保険」と「管理下財物」の話題が出てきます。簡単に説明すると
・賠償責任保険:第三者の人やモノに損害を与えたときの賠償
・管理下財物:預かっているモノ、管理しているモノを壊したときの賠償
です。
東中氏:保険会社の担当者によって判断がばらつくことがあるため、非常に曖昧です。たとえば太陽光発電所のようにフェンスで囲まれた施設の中で作業している場合は、管理下財物として認定される可能性が高いですね。
その場合、管理下財物の特約がついていないと補償されません。施設賠償の上限が10億円でも、管理下財物の補償が1,000万円しかなければ、1,000万円しか出ないという話になってしまいます。
ドローン保険では対人・対物の賠償責任について高額な補償を設定している一方で、管理下財物の補償内容まで十分に確認されていないケースも少なくありません。
まずはご自身の契約内容を見直し、補償範囲に抜けや不足がないかを確認することが重要です。
また、ドローンの活用方法は、空撮、点検、測量、農業用途など多岐にわたり、それぞれ想定されるリスクも異なります。
事業内容に応じて必要な補償は変わるため、自社の業務実態を正確に伝えたうえで、適切な保険設計を行う必要があります。その点では、やはりドローン関連にくわしい保険代理店を利用する方が安心ですね。
東中氏:そうです。元請けが「とりあえず保険入ってるよね?」と確認していても、証書の中身が実態に合っていなければ意味がありません。
代理店から「10億まで大丈夫ですよ」と言われていたのに、実際の事故ではまったく話が違うというケースは実際によくあるケースです。
奥村氏:保険に入っていると伝えた際に、「じゃあうちの施設は10億まで守れるんだよね?」という話になると、不安に感じますよね。
東中氏:元請けも多くの場合、下請けが入っている保険の内容を細かく見ていないんですよ。ちゃんとやっていますという証書が欲しいだけ、という側面もある。ただ、何かあった時には話が変わりますから。
自身が加入しているドローン保険の内容を正確に把握することが大前提です。
業務で下請けのドローン事業者を起用する場合には、保険内容についても口頭確認にとどめず、補償範囲や条件を含めて具体的に確認しておくことが重要ということがわかりました!
ドローン保険を「受注戦略」として活用する

東中氏:毎年更新した証書の提出を求めるクライアントもいますよね。保険証書の提出を求める対応は、徐々に一般的になってきています。
奥村氏:発注書や請書に保険証書を添付して、「この内容の範囲で賠償します」と明示するのは、自分を守る手段にもなりますよね。
東中氏:100%ではありませんが、第一段階のリスク管理としては有効だと思います。10億と言われると元請け側の印象としても悪くはないですし。大切なのは「証書が存在する」ことを示すことです。
航空法の改正以降、飛行申請の場面で賠償責任保険の加入状況が確認されるケースが増えています。
国土交通省のガイドラインでも第三者への賠償リスクへの対応が求められており、保険の内容を取引先に明示することが事業者の信頼性に直結する時代になっています。
キャッシュフローを守るドローン機体保険の実務知識
東中氏:物保険は機体を直すためのものと思われがちですが、本質は事業のキャッシュフローを守ることだと思っています。たとえば空撮で20万円の機体を使っていて、それが落ちたとします。利益で20万円を回収するのは大変なことですよね。
キャッシュが十分にある会社はかけなくてもいいかもしれませんが、普通の事業者はかけておいた方が安全です。損金処理できる点もメリットです。
奥村氏:保険料の目安は機体価格の10%くらいですか?
東中氏:事業計画で計算するなら10%で見ておくと安全です。
ただ、JUIDA(日本UAS産業振興協議会)の会員になると、入会金5,000円・年会費5,000円で通常より約12%割安な団体保険* に入れます。
30万円の機体なら保険料が年間で6,000円ほど安くなるイメージです。高額な機体であればあるほど効果が大きいですね。
奥村氏:保険金額を機体価格より低く設定することはできますか?200万の機体に対して100万円のみを設定するようなケースです。
東中氏:技術的にはできますが、修理が10万円かかった場合に5万円しか出ない「縮小払い」になります。
物保険の原則として、適切な保険金額を設定しないと削られてしまいますし、保険会社から不正を疑われるリスクもあるので、おすすめはしません。
ドローン保険について、おふたりが具体例などを交えて対談し、とてもわかりやすかったです。
質疑応答であがった内容をもとに、ドローン保険に関するよくある疑問とその回答をQ&A形式で整理しました。実際の対談イベントを踏まえた内容となっていますので、理解を深める参考としてご活用ください。
ドローン保険のよくある質問(FAQ)
Q1. 社員と業務委託スタッフ、保険の適用範囲は同じですか?
A. 法人で加入する賠償責任保険は、社員であれば誰が操縦しても適用されるのが一般的です。一方、業務委託(外注)の方は通常対象外です。業務委託先のスタッフには各自で保険に加入してもらうか、工事業者であれば特約として組み込める場合もあります。
念のため保険証券の記載内容を代理店に確認してください。
Q2. 自律飛行と手動操縦で保険料は変わりますか?
A. 現時点では、自律飛行と手動操縦で保険料の差はほぼありません。自律飛行の事故データがまだ十分に蓄積されていないため、保険会社としても商品を分けるコストが見合わない状況です。今後データが蓄積されれば変わる可能性はあります。
Q3. 撮影中止や会場レンタル延長など、間接的な損害は補償されますか?
A. 原則として、賠償責任事故(人への損害や第三者の財物損壊)が発生していることが前提です。ドローンが落下しただけで人や物への損害がなければ、間接的な経済損失は補償対象外になります。一方、ドローンが何かに衝突して物を壊し、それによって生じた間接損害であれば対象になるケースがあります。
Q4. 機体が回収できない場合、保険申請に必要な書類は何ですか?
A. ログデータや飛行中の画像・動画など、その場所で実際に業務を行っていたことを証明できる客観的な資料が重要です。飛行日誌も参考になりますが、保険会社によっては認めないケースもあります。
なお、機体回収不能のケースに対応していない保険会社も存在するため、加入前に確認しておくことが推奨されます。代理店が保険会社と粘り強く交渉できるかどうかも、選定の際の重要なポイントです。
Q5. 講習で機体を受講生に貸し出した場合、賠償保険は適用されますか?
A. 貸主の賠償保険は、受講生が操縦した際の事故には原則として適用されない場合があります。「レンタル対応」の保険や、受講生も補償対象とする特約をあらかじめ組み込んでおくことが安全です。受講生に保険の心配をさせないためにも、貸主側でカバーできる設計にしておくことが望まれます。
※本イベントは合同会社SORABOTが運営するコミュニティ「ソラハブ」による、毎月定例のドローンの事業者との対談です。
※東中氏は保険代理店ACF(エイ・シー・エフ)の代表取締役です。
ドローン保険を「経営の一部」として設計する
今回の対談を通じて浮かび上がったのは、「保険に入ること自体が目的」になってしまうことの危うさです。証書を持っていても、管理下財物の特約がなければ補償されない事故がある。業務委託スタッフが対象外になっている場合もある。内容を理解しないまま取引先に証書を提示しても、実際の事故時に「話が違う」となりかねません。
一方で、保険を戦略的に活用している事業者は、証書を営業ツールとして使い、リスクの説明責任を果たしながら信頼を積み重ねています。
機体保険は事業キャッシュフローを守る手段として捉え、JUIDA団体保険などを活用してコストを最適化する。こうした発想が、ドローンビジネスの持続的な経営基盤を支えます。
保険は「守り」であると同時に「戦略」です。自社の事業形態・取引先・委託関係を整理したうえで、信頼できる代理店とともに保険の設計を見直すことが、事業を長く続けるための確かな第一歩となります。
非常にためになるイベントでした!(コエテコドローン責任者・柴垣)
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賠償責任保険がおりないケースがあることを理解して、ドローン保険の内容を改めて確認しましょう。
とはいえ、保険内容はわかりづらいので、不明点が少しでもある場合は、保険代理店や保険会社に問い合わせてください。これ、とても大事なことです!