(取材)ciRobotics株式会社|『ドローンアナライザー』開発企業に聞く、安全・安価な性能評価の仕組みとドローンの未来
ciRobotics株式会社代表 小野俊二氏
大分県産業科学技術センター主幹研究員 下地広泰氏
県と二人三脚でドローン事業を推進
――ドローン産業に参入したきっかけを教えてください。小野:ドローンが世に出回り始めた2014年ごろ、当社の母体であるFIGグループに、大分県の産業科学技術センターから「ドローン事業を一緒にやりませんか?」と声がかかったのがきっかけです。イノベーションをテーマとする当グループとしても、「今までになかった新しい仕組みで社会に影響をもたらしたい」との思いがあり、うまくマッチしたことで2015年に会社を設立することになりました。
――県が主導されたんですね。
下地:もともとセンターでは県内産業の振興を目的に独自の技術シーズの研究開発を進めており、その一環としてドローンの開発を行っていたんです。その研究をさらに促進するため、お声がけさせていただきました。
――会社としてはどのような事業を展開されているのでしょうか。
小野:第一次産業、特に農業分野をメインとして農薬散布・防除事業を行うほか、ドローンスクールも展開しています。顧客は九州管内の事業者が中心ですね。製品を提供して終わりではなく、その後のアフターケアを含めて長くお付き合いをしたいと考える企業に選んでいただいています。

同社提供
――そんな中、貴社では実飛行なしに機体性能を評価できる装置「ドローンアナライザ ー」を開発されました。開発の背景には、どのような課題感があったのでしょうか?
小野:会社を設立したころはまだ各社手探りでドローンを製作している段階で、不安定な機体が多く、フライトの途中に墜落することも多々あったんです。中小企業はそこまで体力に余裕があるわけではありません。一機ドローンが落ちてしまうと経済的にも労力的にもかなりの痛手になります。
そこで「フライト前に検査できる装置がほしい」という声が上がったことが開発のきっかけになりました。ドローンの明確な検査、安全基準の需要が高まると予測して、開発思想を性能評価装置へとシフトしたのです。
また、ドローンが人口密集地の上空を飛ぶためには、機体に何らかの不具合があった場合、安全に着陸させるか、安全な場所に墜落させる「フェールセーフ機能」が必須になります。ただ実飛行によるテストは墜落リスクを伴いますよね。それらのテストを効率的に実施する必要があるとも思っていました。
下地:センターとしては、性能評価装置であれば自分たちの持つ技術を生かせると考えました。私の専門はドローンそのものではなく、モータや変圧器と言った電磁力の分野です。
当初ドローンを開発していた職員から「モータを作りたい」と相談があったので、ではいまどのようにモータの力を計測しているのかと聞いたんです。すると、「カタログに書かれている値を見て計算している」との答えが返ってきました。つまり実際に自分では計測していないし、計測できる機械もなかったんですね。
モータの世界では、自分たちでモータの力を計測することが当たり前です。そこで、計測する機械がないのであれば自分の強みである計測技術を生かして作ればいいのではと思ったんです。加えて、ドローンメーカー各社が展開するドローンの性能が上がっていく中で、ドローンの機体そのもので大きく勝負するのは難しいと思ったことも要因の一つです。
――県の持つ強みとうまくシナジーが生まれたのですね。
小野:そうですね。そもそも民間だけではまずドローンアナライザーの開発はできなかったと思います。2015年からそれなりの予算を投じて開発していますが、まだビジネスになっているとも言えない段階です。採算だけを考えるととても踏み切れなかったでしょうね。
ようやく私たちの思想に周りの状況が追いついてきて、これからどうビジネスを展開していくかというところまで考えられるようになってきました。これはまさに県のおかげです。
ドローンをだまして実際の飛行を再現
――ドローンアナライザーではどのような性能評価を行うのでしょうか。小野:ドローンアナライザーにドローン機体を取り付け、ソフトウェアからモータをPWM外部制御することで、ドローンの性能評価を行います。ドローンのバッテリーだけでなく、外部電源を接続した試験も行うことができます。
試験項目は標準で5つ。①フルスロットル状態における浮上力を計測する「動力性能試験」、②任意の浮上力における振動を計測する「振動試験」、③任意の浮上力における機体の状態を計測する「浮上力試験」、④任意の浮上力でのホバリング時間を計測する「ホバリング時間試験」、⑤実飛行のフライトログをインポートして再現する「飛行ログシミュレーション試験」—です。
ドローンアナライザー(同社提供)
――実際に飛んでいないのにどうやって計測するのでしょうか。
下地:ドローンを「だます」ことが重要です。それが自分で操縦するラジコンと、ロボットであるドローンとの大きな違いですね。
たとえば、ルームランナーは、本当はその場を走っているだけですが、走った距離が表示されますよね。そのように、本当は離陸していないのに「離陸した」、前進していないのに「前進している」などとドローンに思わせて計測します。これは非常に難しい技術です。
――ドローンアナライザーを使用するメリットを教えてください。
小野:ドローンは最大積載状態でもフルパワーの60%程度の力で飛行するのが一般的です。一方、「動力性能試験」では、機体の持つフルパワーを定量的に知ることができるため、開発機体の最大離陸重量の設定に役立ちます。
これまでのドローンの飛行試験は、カタログに書かれたモータやプロペラの性能を組み合わせて計算した上で、社員が自分の目と耳を使ってドローンの挙動やプロペラ音を確認していました。明確な数値ではなく「これだったらOK」と判断する、いわゆる“職人技”の世界だったんですね。
それを数値的に計測することは、機体の信頼性の向上に繋がります。メーカーとしても、きちんと自社の機体の性能を証明できた方がいいですよね。
ほかにも、ドローンの耐久性を確認するためには、100時間程度飛行させることが求められます。そこで、あくまで模擬にはなりますが、「飛行ログシミュレーション試験」によりその耐久試験をドローンアナライザーで行うことができます。飛行許可承認申請における機体の耐久性の証明の場面で、取得したデータを活用いただいている例もあります。
下地:実際に100時間飛行するとなれば、バッテリーを充電して、20分飛ばして降ろして、またバッテリーを充電して……と大変な労力とコストがかかります。それがドローンアナライザーだと4日程度あれば終わるんです。企業にとってメリットは大きいと思います。
「1県に1台」ドローンアナライザーが目指す未来
――今後ドローンアナライザーをどのように展開していきたいとお考えでしょうか。小野:性能面では、ドローンアナライザー上で自動飛行を完全に再現できる状態を目標としています。これはつまり、現状のドローンアナライザーではドローンが完全に固定され、外部からの制御で動いているところを、ドローンが自身で姿勢制御を行った上で、送信機を用いてドローンアナライザー上で操作できる状態を目指しているということです。
併せて実際に飛行するときの自動飛行ミッションを屋内で再現できる状態も目指しており、現在鋭意GPSシミュレータの開発・導入を進めています。
これらが可能になると、実際のフライト状態により近づくことになります。モータの一部停止や送信機電波の断絶、バッテリー電圧の低下などの「故障状態」の再現と、それに対応するフェールセーフ機能の試行を飛ばさずに行うことができるようになるはずだと考えています。
――課題解決のための糸口は見えているのでしょうか。
下地:それなりの予算を投じて実験を行うことができれば、解決の芽が見えてくるだろうというところまでは来ています。ただ国も全体としてはドローンを推進するための補助金をたくさん交付してくれているものの、緊急度の高いところにまず振り分けているので、一歩先を見据えて開発している私たちのところまではなかなか下りてきません。
2020年には福島県と連携協定を結び、ドローンアナライザーを福島ロボットテストフィールドに導入していますが、そのように協力連携できるパートナーを増やしていきたいですね。

――制度面について目指す展開を教えてください。
下地:最終的には、「ドローンアナライザーの使用がそのまま型式認証につながる」形を目標としています。レベル4(有人地帯における目視外飛行)の飛行を実施するためには型式認証を受ける必要がありますが、一つの型式を取得するには1000万単位のお金が必要になります。
現状、ドローンはそこまで大きな商圏にはなっていませんから、個々の会社が型式を取得しても元を取れない可能性があります。そこで、型式取得に必要なエビデンスデータをドローンアナライザーを使って取得できるとなれば、大幅なコスト削減になりますよね。
小野: 現在、大分県の委託事業の中で、型式認証制度における安全基準に対する検査要領に基づいて、ドローンアナライザーを活用できる項目の調査と試験を行っています。この事業で、ドローンアナライザーで得られたデータが認証のために使用できることがわかれば、新たなビジネスの創出につながるはずだと期待しています。
たとえば各県に一台ずつ設置して、車検のように製造時や定期点検といった場面で地域の事業者や個人が持ち込む形に展開していければ、ドローン全体の安全性も高まります。国の制度を注視するとともに、国内のドローン性能評価、検査装置の標準的な立ち位置となることを目指し、私たちからも国に働きかけていくつもりです。
下地:私たちが作った技術が社会に生かされるとなれば、こんなに嬉しいことはありません。現在ドローン事業は順調に拡大しており、県内の企業とともに新しい事業の創出を目指すセンターとしては、まさにサクセスストーリーだと感じています。
一方で、いまドローンは非常に大きなリスクを抱えている状態です。近いうちに大きな事故が起これば、産業全体が一気にしぼむ可能性があります。そうならないよう、私たちとしては研究開発や検査を進めると同時に、「ドローンはこれだけしっかり検査されているんだ」との認識を持ってもらえるような環境づくりを進めていきたいと思っています。
――今後ますます需要が高まるドローン市場で、御社はどのように貢献していきたいとお考えでしょうか?
小野:ドローン全体の話としては、近年はドローンを用いた物流など、市街地上空を飛行するような活用フィールドへ移り変わっている印象を受けます。ただ私たちがドローン事業を営む中で感じているのは、農業分野における農薬散布や、林業分野における資材搬送など、主に一次産業の分野で費用対効果が発揮されているということです。
たとえば、いままで手作業で3日間かかっていた農薬散布が、ドローンを導入することで半日に短縮されています。このように、九州地方大分県に身を置く企業として地場で本当に役に立つところから、コツコツと歩みを進めていきたいと考えています。
併せて、ドローンアナライザーの推進も行っていきたいと考えています。いまようやく大分と福島に設置し、事業者から少しずつ活用され始めている段階です。今後さまざまな意見が出てくると思いますので、その意見を反映しながら改善していくつもりです。
国内のドローンメーカーがデータを取得する際、ドローンアナライザーを使えば労力を大幅に軽減できます。それによって国内のドローンの普及に貢献できるはずだと感じています。
ドローンは空を飛んでいる以上、何か問題が起こればどうしても落ちてしまいます。ドローンが一般社会に受容されるために、定量的な検査や評価値は重要です。ドローンアナライザーを通して、産業としての信頼性の向上にもつなげていきたいと思います。
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