(取材)ホクレン農業協同組合連合会が挑む『ドローン農業』の未来|スマート農業で日本の食を支える

(取材)ホクレン農業協同組合連合会が挑む『ドローン農業』の未来|スマート農業で日本の食を支える
担い手の減少や高齢化など、多くの問題を抱えている農業。そこで北海道の農業を支えるホクレン農業協同組合連合会(以下、ホクレン)は、ドローンの活用による効率的な農業の展開を目指しています。「ドローン農業」の未来について、ホクレン農業協同組合連合会 経営企画部 課長補佐の丹羽昌信氏と、同会を技術面で支えるNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com) プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 ドローンサービス部門 主査の中川宏氏にうかがいました。

ホクレン農業協同組合連合会 経営企画部 課長補佐 丹羽昌信氏


NTTコミュニケーションズ株式会社 プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 ドローンサービス部門 主査 中川宏氏

日本の食を守る北海道が抱える課題 

――そもそも、いま日本の農業にはどのような課題があるのでしょうか。
 
丹羽:まず一つの大きな問題が食料自給率の低さです。2021年時点で、日本の食料自給率は38%しかありません。1965年には73%ありましたから、約半分になっているんですね。
 
何かしらの外的要因で貿易が止まってしまえば、日本人はすぐにでも食糧不足に直面することになります。ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、小麦などの価格が高騰したことは多くの方が日常生活の中でも感じていると思います。
 
「自分たちが食べるものは自分たちの国で賄わなければいけない」といった機運も徐々に高まりつつあります。やはり農業はビジネスの視点に加え、私たちの命を守り、育むものとして大きな枠組みでとらえ直すことが必要です。
 
そこで浮上してくる二つ目の問題が、農家の高齢化と担い手の不足です。農家は、いわゆるサラリーマンの働き方とは全く異なります。土地や機械などある程度の初期投資も必要になりますし、自然が相手なのでなかなか思い通りにはいきません。手をかけた分だけ反応があり、やりがいのある仕事なんですが、新規に就農する人が少ないのが現状です。

――北海道特有の農業の課題はあるのでしょうか。 
 
丹羽:いま全国的に人手が不足する中、一軒の農家が管理する農地の規模が大きくなっています。そのため、いかに生産基盤を維持・強化していくかが大きな課題ですね。

これは北海道にとってはさらに深刻な問題です。北海道における平均の経営耕地面積は2005年が約20ヘクタール、2020年が約30ヘクタールとこの15年で50%も拡大しています。この30ヘクタールは、他府県の14倍に上ります。そして30ヘクタールはあくまで「平均」で、特に面積の大きな十勝などに行くと40、50ヘクタールの農地を一軒だけで管理しているケースも珍しくないんです。
 
東京ドームが4.6ヘクタールくらいと想像してもらうと、どれだけ大きいかわかっていただけるかと思います。たとえば農薬を散布するだけでも、ものすごく時間がかかります。とてもじゃないけど徒歩で散布するのは無理ですよね。
 

また、ウクライナ侵攻や円安の影響などにより、輸入している化学肥料や牛の餌となる飼料のコストが上がっていることにも大きな影響を受けています。特に化学肥料はそのほとんどを輸入に頼っていますから、農家の経営をかなり圧迫しています。そのため、日本の食料基地である北海道の農家にとって、いかに営農コストを下げていくのかが喫緊の課題になっています。

ドローン活用で補助金も 

――そこで農業でドローンを活用しようと思われたわけですね。どのようなシーンでの活用が期待されるのか教えてください。 
 
丹羽:いま進めているのは農薬散布です。そもそも前提として、農作物の収量と品質を維持するには、農薬を使わなければいけません。
 
いま、多くの農家はトラクターとスプレーヤを使って農薬をまいていますが、特に北海道は農地が広いので、農薬をまくだけでも多くの時間がかかります。そこで、注目したのが農薬散布用のドローンです。
ドローンで農薬をまくのには農薬登録が必要なのと、機体が小さく搭載できる農薬の量に限りがありますが、なんと言っても作業効率が良い。また、雨が降った後にぬかるんだ農地に入って農薬をまくことはトラクターだとなかなか難しいですが、空中を飛行するドローンであれば可能です。雨や湿度が多くの病気の発生を助長する主な原因ですから大きなメリットなんです。

農水省は2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに化学農薬の使用量を(リスク換算で)50%低減させることを目標として打ち出しました。ホクレンとしてどういった取組が出来るのか、関係各所と検討を進めていますが、やはりドローンに頼る部分は大きいと思っています。
 
農薬を減らすには、今後必要なところに必要な分だけまくことが一層求められるようになります。空中を飛行するドローンはピンポイントで農薬をまくのにも適した機体であり、今後活用の場が広がっていくはずだと感じています。

NTT Comと二人三脚で農薬散布

――いま、ホクレンはNTT Comとタッグを組み、ドローンを活用した農薬散布の実証実験に取り組まれています。具体的にはどのようなものでしょうか。 
 
丹羽:まず広大な牧草地を空撮用のドローンでセンシングし、docomo sky Cloud*AI技術を用いて牧草地における雑草の生育状況を解析します。その結果を基に、雑草が生えている部分にのみ農薬をピンポイントで散布するという試みです。営農コストを下げることに加え、これまで人がやっていた作業を省力化・効率化できる点で非常に大きなメリットや可能性を感じています。
* 飛行準備からデータアップロード、レポート作成、AIによる解析まで、クラウド上でトータルに一元管理できる、ドローン業務に特化したサービス
 
Docomo  

地域からのお知らせ(北海道)

2021年8月11日 北海道せたな町 株式会社NTTドコモ北海道支社 北海道せたな町(町長 高橋 貞光、以下、せたな町)と、株式会社NTTドコモ北海道支社(執行役員支社長 本 ...

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――この技術は国の施策も関係しているのですか。

丹羽:環境負荷軽減型持続的生産支援事業(エコ畜事業)ですね。これは酪農・畜産を行うことで発生する温室効果ガスの削減の取り組みを支援する施策です。

具体的には、ドローンを活用したセンシングを農地の面積の2割以上で行い、その解析結果に基づいて農薬散布などに取り組むことで、国から交付金が受け取れるというものです。(メニューは複数あり、本技術はそのうちの一つ。2つメニューを選ぶことで交付金を受け取ることが出来ます)

ホクレンではこの事業に対応するためにNTTコミュニケーションズと連携し、ドローンによるセンシングやAI解析、雑草マップの作成までを請け負うサービスを2022年7月から開始しています。

現在は解析結果に基づいてドローンで農薬をピンポイント散布するための技術開発を進めており、将来的にセンシングからピンポイント散布まで一括で請け負う事業にしたいと考えています。
 

――農薬散布以外にもドローンを活用しているのでしょうか。
 
丹羽:特殊なカメラで作物の生育ムラを可視化し、生育が旺盛な場所に肥料を少なく、生育が良くない場所には多く施肥するといった「可変施肥技術」にも活用されています。また、酪農分野では、牧場施設内の指定場所へ放牧中の牛を誘導する「牛追い」で使っているケースもありますね。ドローンから警報音を出して牛を柵内に移動させたり、離れた場所にいる牛の様子を確認したりしています。
 
Docomo  

地域からのお知らせ(北海道)

2019年7月31日 株式会社NTTドコモ北海道支社 株式会社NTTドコモ北海道支社(以下、ドコモ)は、北海道天塩郡豊富町(以下、豊富町)にある株式会社豊富町振興公社と連携し、牛の放牧業務の効率化を目的に、豊富町 ...

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 ――なぜNTT Comとタッグを組むようになったのでしょうか?
 
丹羽:ホクレンとしても以前から、「農薬を減らしたい」「必要なところに必要なだけまきたい」とは思っていたんです。ただ、この雑草がどういった種類なのかといった知見はあっても、雑草と農作物を判別する技術は持ち合わせていませんでした。
 
そこで、AI技術とドローンに強みを持つNTT Comにご協力してもらうことになったんです。NTT Comは非常に丁寧にわれわれのニーズを酌み取ってくれ、うまくお互いの強みがマッチしていると感じています。
 
――NTT Com側から見て、ホクレンとの連携はいかがでしょうか。
 
中川:本当にお互いの足りないものを補い合える、良い関係性を築けていると感じています。われわれは通信、AIも含めたソフトウェアの開発技術や、ドローン技術には強みがありますが、サービスの質を高めていくためには、実際に農業に携わっている方のニーズや課題をより正確に把握したいと考えていました。また、実験にあたっても、自社で農地を保有していないため、農薬散布後の効果検証といった農業分野で重要となる実験を自社だけで実施できないことに課題を感じていました。

ちょうどそのあたりは、ホクレンが前々から丁寧に進めてこられたところです。農家のニーズを拾ってもらったり、システムの使い勝手や効果をヒアリングしてもらったりすることで、農家にとって使いやすいシステムを追求することができました。
 
特にありがたかったのは、ホクレンの存在そのものです。私たちは通信事業者ですから、どうしても農家の方からは「農業のことがわかるのか」といった目線を向けられがちなんですね。でもそこにホクレンに入っていただくことで、「ホクレンさんが認めているのであれば」と信用してもらえることが多かったんです。
 
システムを作っても、実際に農地に入ってテストができないと、問題の改善もできず農家の使い勝手も無視したシステムになってしまいます。何も説明しなくても農地に入れていただけるのは、まさにホクレンのおかげですね。
 

――実証実験をしてみて、予想と違った点はありましたか。
 
中川:技術に関してというよりも、“農業王国”というイメージをしていた北海道ですら人手不足が想像以上に進んでいることに驚きました。NTT Comとしては当初、ドローンやシステムを農家自身に使っていただくつもりだったんです。自分で飛ばして自分で確認した方が、農家にとっても使い勝手がいいだろうと思ったんですね。
 
ただ話を聞くと、「ドローンの操縦から農薬散布まで丸ごとお願いできるのであれば、お金を払ってでもお願いしたい」と考える人の方が多かったんです。このあたりの意見も反映し、ホクレンとの共同でまずはセンシングのみの形ではありますが、請負の形でサービスを開始しました。

――ドローンの使用は本州の農地面積が少ない場所でも効果的だと言えるのでしょうか。
 
中川:農薬散布用のドローンは、本州で非常に多い斜面などの作業で強みを発揮する技術でもあります。高度差があると、人手での農薬散布は大変ですからね。なので、本州でも中山間地域を中心に十分活用できるものだと思っています。

ドローンによる農薬散布は農業変革の第一歩

――ドローンを活用した農業の課題と、その課題を解消するためのヒントはどこにあるとお考えでしょうか。
 
丹羽:ドローンは農薬散布の場面だけを見るとすごく役に立つものです。ただ、すべての作業を担ってくれるわけではありません。現時点だとドローンを使わない時間の方が長いでしょう。

トラクターも付属の機械を変えることで農薬散布や耕起、収穫など複数の作業が可能です。やはり導入を進めるには同じようにドローンも播種や施肥など活用出来る場面を増やしていく必要があると考えています。ドローンの技術革新は目覚ましいため、今後活用場面は広がっていくことが想定されます。将来的に農業に有益で必要不可欠なものとなることを大いに期待したいです。
 
――今後、ドローンと農業をどのような形で結びつけていきたいとお考えでしょうか。
 
中川:NTT Comとしては、ドローン単体の活用を進めることはもとより、われわれが持つ通信事業者としての強みを生かして、ドローンやトラクターを通信でつなぎ、より効率的な農作業を支援するようなビジネスも行っていきたいですね。
 
農業はこれまで、あまり改革が進んでこなかった分野です。日本の美味しい食べ物を守るために、いまこそ農業を変えるチャンスが来たと思っています。
 
丹羽:いま進めているセンシング技術を活用した農薬のピンポイント散布技術は、省力化と営農コスト削減につながります。これ以外にもドローンによる見回りや鳥獣対策なども考えられますし、ドローンを活用した農業はとても将来性があるものだと感じています。
 
ただ、農家目線で考えると、やはりドローンを購入し、自分で操縦することに二の足を踏む方もいるかと思います。ホクレンではドローンによる農薬の請負散布事業を開始していますが、今後一層の経営面積拡大が想定されている中、誰かに頼むことができる選択肢が一般化していくことは非常に重要だと思っています。
 
ホクレンは引き続きNTT Comとタッグを組み、農家のニーズを吸い上げてよりよい取り組みを広げていくつもりです。中長期的な視野を持ちながら、今回紹介した技術が国産農産物の収量増や品質向上に繋がることを期待するとともに、農薬散布を足がかりとしてさまざまな分野にドローンの活用を拡大すべく、今後も力強く推進してまいります。

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