ピアノの習い事でよく耳にする「バイエル」とは?古典でありながら、なぜいまも人気の教本なのか。優れているポイントと、古いという批判についても分析します。ブルグミューラーやソナチネと比較しながら、曲ごとの難易度を紹介。今回は、武蔵野音楽大学大学院ピアノ専攻修了後、ピアニスト、音楽教育家、音楽イベンターとして、幅広い演奏活動を行っている、野口幸太さんが解説します。
今日のポイント
1.ピアノの「バイエル」とは
2.バイエルの種類について
3.なぜバイエルは人気なのか
4.古典ながら今でも現役で使われる理由
5.他の教本や練習曲と比較して、何が優れているのか
6.バイエルはもう古い?批判について
7.バイエル以外の子ども向け教本例
8.ブルグミュラーやソナチネと比較してバイエルの難易度は?
9.現場感覚で見るバイエルの全体像は?
10.【初級】【中級】【上級】
11.バイエルは何歳から始めて、何歳までに終えるべき?
12.まとめ
ピアノの「バイエル」とは
「バイエル」はピアノの練習で使われる入門用の教本として知られていますが、実は人の名前です。フルネームはフェルディナント・バイエル。1806年にドイツに生まれ 、ピアノや音楽の勉強をし、かなり売れっ子の編曲家として活躍していました。そんな彼が44歳の時に出版した教本が、現在私たちが「バイエル」と呼んでいる教本です。ドイツでの正式なタイトルは「幼い生徒のためのピアノ演奏の予備教本」といい、出版直後から様々な言語に訳され世界中でベストセラーになりました。日本には明治時代にアメリカから入ってきて以降、1990年代頃まで「ピアノ初心者の教本といえば、ほとんどバイエル一択」といった状況が続きました。
現在では、バイエルの使用率はかなり減ってはいるものの、まだまだ一定数の支持があり、決して無視はできない教材でしょう。
バイエルの種類について
左から、「子供のバイエル」上巻・下巻(全音楽譜出版社)、「こどものバイエル 上巻」(音楽之友社)、「こどものバイエル」下巻・上巻(カワイ出版)。日本には「バイエル」という名前がついたピアノ教本が山ほどあります。ここではどんな種類があり、それぞれにどんな違いがあるのかを解説します。
「バイエル・ピアノ教本」と「こどものバイエル」の違い
楽譜屋さんでは「バイエル・ピアノ教則本」と「こどものバイエル」の2種類がよく目に入ります。「バイエル」は、元々ドイツで子ども向けに作られた1冊の教本でした。が、明治の日本ではこれを大人のピアノ練習用教本として使いました。
のちに、日本でも子どものレッスンで使うため、音符を大きくしたり挿絵を挿入したりと手が加えられ、上下2巻セットで出版されました。この際、それまでの大人用と区別するためタイトルに「こどもの」を付けることになりました。内容はどちらも一緒で106曲の練習曲が収録されています。
「こどものバイエル(上)」(赤バイエル)、「こどものバイエル(下)」(黄バイエル)について
現在「こどものバイエル」は様々な出版社から発売されています。なかでも、全音楽譜出版社が出した「子供のバイエル」は、上・下巻それぞれの表紙の色から上巻が「赤バイエル」、下巻が「黄バイエル」と呼ばれるようになりました。他の出版社から出されている「こどものバイエル」は、各社ごとに表紙や挿絵のデザインは違いますが、教本としての基本的な構成はほとんど同じです。いずれも1〜43番が上巻、44〜106番が下巻に収められています。
なぜバイエルは人気なのか
子どもたちが学習しやすいように改編された「こどものバイエル」は、たった1回の改良で今の形になったわけではありませんでした。ここでは、その経緯について解説します。ピアノの教本・練習曲として定着した理由
まずはじめに、1936年(昭和11年)に日本の絶対音感教育の創始者である園田清秀さんが「新しいバイエル」というタイトルで改編・出版しました。以降、それを元にして、彼の後継者たちが次々と改良を重ねていきました。「こどものバイエル」がようやく今の形になってくるのと同時に、日本は高度成長期を迎え、一気にピアノが普及しました。「1億総中流」というムードの中、ピアノを習うことがひとつのステータスシンボルになった時代背景と重なり、バイエルも広く普及しました。
日本の文化になった「バイエル」
今、筆者の手元には1992年(平成4年)に集英社から出版された、干刈あがたさんの「野菊とバイエル」という小説の文庫本があります。これは、戦後間もない昭和20年代半ばを舞台に、小学3年生の少女がピアノのお稽古などを通して成長していく物語です。この本の表紙に描かれている少女が腕に抱えているのは、赤い表紙のバイエルです。また、小説内では主人公の少女がバイエルの8番を弾いている様子も描写されていて、この当時からやはりピアノのお稽古といえばまずはバイエルだったということが伺えます。
戦後間もない時期から高度成長期にかけて子ども時代を過ごした方々にお話を伺うと、ピアノを習っていなかった方でさえも「クラスのピアノを習っていた女子たちが、よく赤バイエル・黄バイエルの話をしていたのを憶えている」と言います。
これを現代に当てはめて考えてみましょう。
今現在の売れ筋であるピアノ教本、「オルガンピアノの本」や「ぴあのどりーむ」「バーナムピアノテクニック」の名前を知っている非ピアノ学習者がどれだけいるでしょうか。
バイエルが入門や初歩を意味する言葉に
さらに驚くことに、「バイエル」という名前はピアノの世界から飛び出し、「入門」や「初歩」を意味する言葉としてイメージされるようになります。「言葉のバイエル教室」や「きりえバイエル」というように使われるほど、広く日本人に知られ、定着しました。バイエル研究の第1人者である安田寛先生は、こうした日本独特の現象を「バイエル文化」と呼んでいます。
古典ながら今でも現役で使われる理由
この教本は、前半の64番までが「第1過程」、65番以降が「第2過程」というように、明確に区分されています。このことは、一般的にはあまり認識されていません。「第1過程」は、綿密なスモールステップでカリキュラムが設計されています。その点に着目した場合、小さな子どもでも無理なく課題がこなせると判断してレッスンに取り入れているという教師もいます。(「静かにした手」について後述します。)
「第2過程」は、飛躍的に難易度が増していく作りになっていますが、旋律の素朴な美しさに着目し、歌うように弾くための練習として活用する教師もいます。
また、例外はあるものの、右手でメロディを弾き、左手で伴奏を弾くスタイルの曲が多いため、同じスタイルで書かれることが多い童謡の伴奏を弾きこなすための練習曲として適していることから、将来的に幼稚園の先生や保育士を目指す場合、バイエルは必須教材になります。
他の教本や練習曲と比較して、何が優れているのか
ここでは、バイエルの優れているところを、3つのポイントに絞って紹介します。①「静かにした手」の徹底的な練習
画像提供:野口幸太初歩のピアノ教育には「5指ポジション」という考え方があります。これは、5本の指を、連続する5つの鍵盤の上に置き、手の位置を固定したまま弾く練習です。つまり、左右の手それぞれに、連続した5つまでの音しか割り当てず、その範囲内で演奏をする初歩段階のトレーニングです。
バイエルさんが活躍していた時代のドイツでは、この練習を「静かにした手(の練習)」と呼んでいました。一度、鍵盤上に手を置いたら動かすのは指だけ、手の位置は動かさないことからこの呼び方になったようです。
教本「バイエル」の最も大きな特徴は、第1過程(1〜64番)で、この「静かな手」の練習を徹底的に行えるところにあります。それが、ドイツでの発売当時の宣伝文句でもありました。
実際は、62番の左手の練習で、ほんの少し「静かにした手」になっていないところがありますが、全体的に「5指ポジション」のなかで出来る様々な音の動きを習得できるカリキュラム設計になっています。
②「ブルグミュラー」「ソナチネアルバム」への準備段階として適している
日本では長い間、ピアノといえば「バイエル」から始まり、「ブルグミュラー25の練習曲」、そして「ソナチネアルバム」という順で学習するのが標準的なコースとされてきました。それはそれで理にかなった面もあり、様々な教材使用の可能性が用意されている現代においても、バイエルは教本の選択肢のひとつとして評価すべき点があるでしょう。さて、「バイエル」から「ブルグミュラー25の練習曲」への橋渡しの面白い例として、全音楽譜出版社のバイエル「子供のバイエル(下)」(黃バイエル)の92番があります。音楽之友社やカワイ出版では、90番として振り分けられている曲です。
全音楽譜出版社のバイエルでは、この曲の隣のページに「ブルグミュラー25の練習曲」の2番「アラベスク」が、そのまま引用・掲載されていています。実はこの2つの曲のテクニックは、よく似ているのです。そのため、ブルグミュラーの練習への橋渡しになる流れが用意されていると言えます。
これはわかりやすい一例ですが、この様に「バイエル」はのちに「ブルグミュラー25の練習曲」に進む前段階として適している面があります。
③親子の会話の種にもなり得る
「バイエル」が日本に入ってきた1880年以降、代表的なピアノ教本として使われ続けること約140年。これほど長く使われ続けたピアノ教本は、他に例がありません。ピアノを習っていた保護者なら、バイエルを弾いた経験がある方も多いはず。もしかしたら、おばあちゃんも。例えば「あの曲が好きだったな」「あの曲が難しくて大変だったよ」なんて、親子3代を繋ぐ会話の種になるかもしれません。
バイエルはもう古い?批判について
昭和から平成に時代が変わる頃から、バイエルは強い批判にさらされ始めます。真っ当と思える批判もありますが、なかには、「本当のところはよくわかっていない」状態のまま、批判言葉だけが一人歩きして広まっていってしまったのだろうと思えるものもあります。古い?忘れられた存在?日本だけ?
まず、一般的なバイエル批判としてよく耳にするのは、「古い」「本場ドイツでは忘れ去られた教本」「使っているのは日本だけ」といった類のものでしょう。これらに対する筆者の回答はこうです。
確かに「古い」ことは間違いありません。ただ、170年も前に出版された古い教本が今もなお、一定数使われ続けている事実は評価に値するでしょう。
また、「本場ドイツでは忘れ去られた教本」「使っているのは日本だけ」という批判に関しては、そうとは言い切れないでしょう。ウィーンのユニヴァーサル・エディション、ライプツィヒ(ドイツ)のペータース社、マインツ(ドイツ)のショット社において、現在でもバイエルが出版され続けています。(「バイエル原点探訪」2016年音楽之友社)
カリキュラム自体への批判
一方で、バイエルのカリキュラムそのものへの批判の多くは、うなずけるものも多いです。- 片手で弾く課題から入るのは、両手で弾くことが前提であるピアノの学習上、合理的ではない。
- 最初の60曲以上にト音記号しか出てこないのはおかしい。
- 左手の動きのバリエーションが少ない……などなど。
また、どんな教本を使用したとしても、たった一冊しか使わないということはまずありません。どんな本にもメリット・デメリットはあるため、複数の教本を組み合わせてレッスンを行うのが現在のスタンダードです。
したがって、バイエルを使う教師は、そのデメリットも把握した上で、他の教本や教師オリジナルの教材などで補っているものと思われます。
バイエル以外の子ども向け教本例
現在はバイエル一辺倒だった時代は終わり、バイエルは数ある教本の選択肢のひとつとして存在しています。そのため「バイエルに馴染めない=ピアノに向いていない」と判断するものではありません。
例えば、バイエルは、最初の曲からいきなり五線譜を読ませること、或いは既に読めることが前提として作られている教本です。バイエル1番の楽譜:1曲目から五線譜を読むことが課せられている。全音楽譜出版「子供のバイエル(上)」(赤バイエル)より。
その上で、ここでは「読譜」という観点から見て、読譜が苦手な子ども向けの教本を紹介します。
五線譜を読むのが難しい子どもはプレリーディングから
左「おんぷの学校」(全音楽譜出版社)、右上「4才のリズムとソルフェージュ」(音楽之友社)、右下「指をきたえる」(音楽之友社)バイエル以外にも五線譜の読譜を前提とした教本は沢山ありますが、小さな子どもに「いきなり五線譜を読ませるのは難しい」という考え方から、五線譜を用いない読譜である「プレリーディング」から入る教本も沢山あります。
それらは、歌詞や、図、イラストなどを手掛かりにして、音の動きを把握させるように工夫されています。五線譜を読むことが難しい子のレッスンでは、プレリーディングの教本を使う選択肢があります。
例えば、「ミッフィーのぴあの絵本」「おんぷの学校」「アルフレッド レッスンブック レベルA」「ピアノアドヴェンチャー」などが知られています。
ブルグミュラーやソナチネと比較してバイエルの難易度は?
ここでは、ピアノの難易度に関する考え方から解説します。「ピアノの難易度」に関する考え方
曲の難易度というのは、その曲のどの要素に着目するかによって判断が変わるものです。また、子どもによって得手・不得手は様々です。一般的に大まかに区分されている難易度を指標にしつつ、個々の様子をよく観察しながら先々の課題を選択していくのが理想と言えます。
ソナチネよりも難しいバイエルもある
日本では、初めに「バイエル」、次に「ブルグミュラー 25の練習曲」、そして「ソナチネアルバム」という順番でレッスンを進めていくことが当たり前だった時期が長かったため、今弾いている教本や曲がそのまま、その時点での習熟度を表す目安になってきました。ただし、これらの教本は別々の作曲家や教育者が、それぞれに異なったコンセプトの元に作ったり、編集したりしたものですので、完全にひと繋がりのものとして考えられるものではありません。
例えば、バイエルの後半の曲では、ブルグミュラーの前半の曲やソナチネアルバムの初歩の曲より高度な読譜力、演奏技術が必要になるであろう曲もあります。
日本のピアノ指導者の総意は?
曲の難易度を一言で言い表すのは難しいことを理解した上で、それでも目安を知りたい場合、日本のピアノ指導者団体であるピティナが開催する「ピアノステップ」の課題曲(2021年度)を調べてみると、その概要が見えてくるでしょう。ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)は、ピアノ指導者を含む1万7000人の会員数を擁し、関連の事務局を620箇所置く全国規模のピアノ指導者団体です。したがって、ピティナが公表する曲の難易度は、日本全体のピアノ教師の考えの総意と見ることもできます。
そんなピティナが開催する「ピアノステップ」のうち「23ステップ」という部門では、曲のレベルを23段階に分け、段階ごとに課題曲が設定されており、その中にバイエルの曲も入れられています。
全23段階のうち最初の1〜8段階にかけて「バイエル」が、7〜10段階にかけて「ブルグミュラー25の練習曲」が、8〜15段階にかけて「ソナチネアルバム1」に収録されているソナチネが、それぞれ課題曲入りしています。
現場感覚で見るバイエルの全体像は?
高度成長期ピアノブームの始まりの頃にピアノを習い始めバイエルを学んだピアノ教師の久保田彰子(くぼたあやこ)先生にお話を聞くと、当時は、バイエルの楽しさを感じるのと同時に、のちに批判されることになるバイエルのデメリットについても子どもながらに感じていたと言います。そういったご経験から、ご自身が教師として教え始めた当初より「バイエルは全員に使えるものではない」という考えを持ち、バイエルのメリット・デメリットを詳細に見極めるべく教材研究をされてきました。
そんな久保田先生とともに、教師としての現場感覚をもとにしながら、全106曲のうちポイントとなる曲をピックアップして解説します。
バイエルは、最初の64番までは曲順が進むに連れて徐々に難易度が増していく「段階型」、65番以降は難易度が上下する「登山型」のようなスタイルで曲が配列されています。
従って、特に後半部分においては、曲順と難易度が必ずしもイコールではない点に留意しつつ、ここでは敢えて教本全体を【初級】【中級】【上級】というように段階分けして考えます。
なお、曲番は全音楽譜出版社「子供のバイエル(上)」「子供のバイエル(下)」(赤バイエルと黄バイエル)をもとにしています。
【初級】
8番
- 右手と左手が別々の動きになり、正式に「旋律と伴奏」の形になる。
- 子どもの人気も高く、バイエル以外の他の教本でもよく引用される。
18番
- 初めて左手で和音を弾く。
- 新しいテクニックに喜ぶ子どももいる。
19番
- これまでの、左手=伴奏、右手=旋律、という形から、「左右共に旋律」であるポリフォニーの曲が登場する。(バッハの「インベンション」と同じスタイル。)
25番
- 19番と同じポリフォニーのスタイルで書かれているが、少し複雑な形になっている。
- この曲辺りで、バイエルが難しいかも?と感じる子が出始める。
32番
- 初めてハ長調以外の曲(ト長調)が登場する。
- 五線外(加線)の音符を読むようになる。
41番
- 初めて短調(イ短調)の曲が登場する。
- 以降、3曲イ短調を経験して下巻に入る。
44番
- 初めて八分音符が登場し速い動きが求められる。
- 一方で、速く動かすことよりも、ゆっくりの音符で長く伸ばすことの方が難しい場合が多い。
【中級】
65番
- 音階の練習が始まり、指くぐり・指またぎなどのテクニックを学ぶ課程に入る。
- カリキュラム路線が、それまでのスモールステップタイプから、急激に難しくなっていくタイプに変わる。
78番
- 音大附属音楽教室では、幼児が実技試験の曲として選ぶことが多い。演奏効果が高いからだと推察できる。
【上級】
80〜82番
- この3曲は、急激に難易度を上げ、教本中のひとつの山場と言える。
- 新しいテクニックや知識を学ぶ順番が綿密にコントロールされているわけではないので、学習者の習得状況によって、弾く順番を入れ替えたり、不足部分を他の教本で補うなどの処置が有効。
- この曲に入る前で他の教本に変えるという処置を検討されることも多い。
83番以降
- 83番からは一旦難易度が落ち着き、16分音符や3連符などの新しい音符を学習したのち、再び難易度が増していく。
- 106番まで弾ききる前に「ブルグミュラー25の練習曲」に進むことも十分に想定される。
バイエルは何歳から始めて、何歳までに終えるべき?
もし将来的に専門家レベルにまで上達したいと考える場合、先ほどのピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が開催する「コンペティション2021年度」の課題曲を調べると、その目安が見えてくるでしょう。ピティナの「コンペティション」は「ピアノステップ」とは違い、年齢層ごとに部門分けされ、それぞれに課題曲が設定されています。そのうちA2級(未就学児部門)のなかにバイエルの「37番」が課題曲入りしています。
ほかの部門ではバイエルは課題曲入りしていませんが、A1級(小2以下)で「ブルグミュラー25の練習曲」の中から1曲、またB級(小4以下)で「クレメンティのソナチネOp.36-2 第1楽章」がそれぞれ課題曲入りしています。
後者の曲(ソナチネ)は、先ほどのピティナの「ステップ」において、全23段階のレベル分けのうち8〜11段階の課題曲になっていること、その一方で、バイエルの最高レベルの曲は8段階目に位置していること、この2点を考え合わせると、ピティナとしては、小4の時点で「バイエル全曲弾く程度の能力」を身につけておく必要があると考えている、と読み取れるでしょう。
まとめ
日本では「ピアノ教本といえばバイエル」という時代が100年以上続き、現在でも一定数使われ続けています。しかし、教本自体は、改良を重ねられた結果、ドイツでの初版発売当時の姿や目的がわかりにくくなった側面があるほか、つい最近まで当の著者であるバイエルさんのことについてはほとんど何もわかっていませんでした。今では多種多様な教本が作られており、習い事としてのピアノの目的も多様化したため、バイエル一辺倒な考え方では通用しません。
一方で、最近行われたバイエルの本格的な調査や研究によって、これまでの常識を覆す結果も報告されており、ピアノ教師達の間でもじんわりと共有されはじめています。今後、バイエルについて新しい視点がもたらされ、導入期のピアノ教育のあり方について再考される可能性も十分にあるでしょう。
バイエルは、実際に使う・使わないだけの問題ではなく、日本のピアノ教育においてそれだけ大きな影響力を持った教本であることは間違いありません。
- 取材協力(50音順)
久保田彰子さん(元武蔵野音楽大学附属音楽教室講師、現野口幸太ピアノ教室講師、ピティナ正会員)
田中里美さん(Satomi Piano Lesson Room主宰)
萩森小椰香さん(さやか音楽教室講師)
- アンケート協力
- 参考文献
「バイエルの刊行台帳」小野亮祐・安田寛 著(音楽之友社)
「『バイエル』原典探訪」安田寛監修、小野亮祐・多田純一・長尾智絵 著(音楽之友社)
「ピアノ教本ガイドブック」山本美芽 著(音楽之友社)
「2018年問題とこれからの音楽教育」久保田慶一 著(ヤマハミュージックメディア)
「野菊とバイエル」干刈あがた 著(集英社)