(取材)トルビズオンが展開する「ソラシェア」とは?地域の関係者を巻き込んでつくる「空の経済圏」の仕組み

(取材)トルビズオンが展開する「ソラシェア」とは?地域の関係者を巻き込んでつくる「空の経済圏」の仕組み
「世界中の空を利用可能にする」 とのミッションを掲げ、自治体や多岐にわたる業界、地域住民らを巻き込んで「空の道」を構築してきた株式会社トルビズオン。空に“住所”を付けて誰でも簡単に利用できるプラットフォームを展開することで、携わるすべての人たちが利益を得られる仕組みづくりを進めています。代表取締役社長の増本衛氏に、トルビズオンの想いやドローンを活用した空の経済圏づくり
について伺いました。

ドローンプラットフォーム「ソラシェア」 

株式会社トルビズオン代表取締役CEO 増本 衛さん


 


――どのような課題感を持ち、ドローン事業を展開されてこられたのでしょうか。
 

2014年、福岡で映像事業会社としてトルビズオンを立ち上げ、2015年からドローン事業に参入しました。当初は九州管内の大手インフラ会社や電力会社らと組んで「九州ドローンコンソーシアム」という協議会を立ち上げ、ドローンで何ができるかをいろいろと実験していました。
 
ただ、ドローンは珍しい存在でしたから、飛ばしていると地域の住民から不審がられることが多々あったんです。空を飛ばすにあたっては、「本当に事故は起きないのか」と不安に思う地権者らとの交渉を、かなり慎重かつ丁寧に進めていかなければなりません。その交渉に大きな労力がかかることに、早い段階で課題感を覚えていました。
 
また、技術的にはすでに注文されたものをドローンで配送したり、時速100kmで100kgの荷物を運んだりすることが可能なのに、なかなか実装されない。その大きな要因として、空の交通網が整備されていないことが挙げられると考えました。
 
無秩序にドローンが飛ぶと、盗撮などのプライバシーの問題や落下事故といったリスクがどうしても増してしまいます。ドローンには過疎地への物流による買い物問題の解決や医療困難者への医薬品の配送など、多くの社会課題を解決できる可能性がある一方で、そのようなリスクがあることから事業者も参入を躊躇してしまうのです。
 
そこで、それらの課題を解消するために、2018年に「sora:share(ソラシェア) 」というビジネスを立ち上げました
 

株式会社トルビズオン - 世界中の空を利用可能にする「sora:share(ソラシェア)」

株式会社トルビズオンは「世界中の空を利用可能にする」というミッションのもと、2014年4月に設立後、2018年10月より上空シェアリングサービス「sora:share」の提供を開始しました。 ドローン配送の実装のための実証実験を各自治体や事業者様と連携して行っています。地権者の理解を得た上で実装することにより全ての人にフェアなドローン社会を実現します。

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――「ソラシェア」とは。 
 
ソラシェアは、住民が自分の家などの上空で他者がドローンを飛行させることに対して同意の可否を選択でき、同意した場合には飛行時に収益を得ることができるプラットフォームです。サービスの基幹となる技術はビジネスモデル特許を取得しています。  
 
このサービスの大きな特徴が、自治体や地域と連携して、「合意の取れたドローン空路を管理する」点です。具体的な流れとしては、まず飛行する航路の直下に住む人たちにオンラインで土地の登録をしていただいて、「この辺りは飛んでもいいですよ」という合意情報を蓄積します。
 
そしてこの合意情報やリスクマネジメントに必要な航空支援情報を事業者に提供し、システム利用料を対価として頂戴する。その利益の一部をトルビズオンから土地の所有者らにインセンティブとしてお支払いするという形です。つまり、地域の方々にも利益の還元が行われる仕組みなのです。

「空に住所をつける」スカイドメイン 

――「ソラシェア」は全く新しいビジネスモデルなんですね。どのような点に特徴があるのか、もう少し深く教えてください。
 
ソラシェアの特徴は大きく三つあります。まず一つ目が「空に住所をつけるスカイドメイン」。要は、目には見えない空のエリアを「truebizon:fo:sky」といったような“住所”をつけることで特定して、トランザクション(取引)の対象にしていこうという取り組みです。
 
ドローンを飛ばしたいときには、この“空の住所”であるスカイドメインを指定すれば飛行ルートが自動的に立ち現れる仕組みです。これにより、複雑で注意を要する航路の選定を、そこまで知識がなくても簡単に実施することができます。
 
また、フライトシステムは各機体メーカーにより異なりますが、私たちはメーカーを問わないシステムを構築することに成功。どのメーカーの機体であっても、問題なく使用することができます。このシステムは多くの業界から支持されており、AmazonやMicrosoft、Googleなどからもご支援をいただいています。
 
二つ目の特徴が「空路の提案者は地域住民代表」であること。事業者側からすれば、ドローンを自由に飛ばしたいと思う一方、勝手に飛ばして後々クレームが来たら大変ですよね。そのため飛行前に地域の方々に納得してもらうことが必要になりますが、これには労力がかかります。そこで、トルビズオンが地域とのコミュニケーションを行います。
 
地域の住民の中には、ドローンに対して大変興味を持ってくださっている方も多いんです。そして当たり前ですが、現地のことをよくわかっている。一緒に地図を開いて「地権者を知っているから」とか「あそこには送電線がある」といったように具体的な情報を教えてもらいながら空路を決めていきます。
 
そうやってまずはアナログで対話して合意を獲得した上で、空路の登録や利用手続きについてはオンラインで進めていきます。デジタルだけで進めてしまうと、地域の人たち、特に高齢者はついてくることができません。アナログとデジタルを組み合わせることが重要なんです。
 
三つ目が「インセンティブによる参加促進」。ドローンを飛ばす上で実際に地域住民との対話を行うのは、私たちがスカイディベロッパー(代理店)と呼ぶ、地域をよく知る事業者です。私たちはあくまで航路のデータを扱うプラットフォームを提供し、空の道をスカイディベロッパーがつくるという役割です。
 
私たちはスカイディベロッパーに必要なスキルを体系化して展開しており、労力に対して正当なインセンティブを支払うことで多くの事業者にご参画いただいています。全国でソラシェアを進めていくため、いまも全国で鋭意募集中です。

――大きな役割を果たすスカイディベロッパーですが、どのような業者が担うことが多いのでしょうか?

スカイディベロッパーとして活動していただいているのは、ドローンスクールを運営している企業が多いですね。普段から地域住民とのコミュニケーションを取っているので、話がスムーズに進みやすいんです。
 
たとえばいきなり巨大資本が入ってきて、「今日からあなたたちの住むエリアの空域を我々が飛ばします」と言われても、なかなか受け入れられないですよね。地域に根付いているネットワークを利用することがポイントです。  
 
それでもなお、全く新しいコンセプトのビジネスなので、最初は理解されにくいことが多いですね。ご賛同いただくまでには丁寧に話を進めていく必要があることを痛感しています。

目指すはドローンを利用したまちづくり 

――ソラシェアは実際にどのような形で活用されているのでしょうか。
 
佐賀県多久市の事例を紹介したいと思います。私たちは2019年から空の道構築を始め、2022年に総務省の補助金を基に「ドローンを核にした交流によるまちづくり事業」の実証実験を行ってきました。現在多久市内で22本の空の道を開設しており、医薬品配送やフードデリバリーなどを展開しています。今後は30本まで増える予定です。

トルビズオン、上空シェアリング「ソラシェア」の開発拠点新設で、佐賀賀県多久市と進出協定を締結。

株式会社トルビズオンのプレスリリース(2022年2月14日 14時00分)トルビズオン、上空シェアリング「ソラシェア」の開発拠点新設で、佐賀賀県多久市と進出協定を締結。

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ソラシェアを使った多久市ドローン配送実験が「ガイアの夜明け」で放送されました!

【NEWS】ガイアの夜明けに出演しました。2021年1月26日(火)放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」に当社代表が、ドローン配送関連事業者として出演いたしました。多久市および多久市まちづくり協議会との二人三脚で実施した「ドローン配送実験の企画から実施にいたるまで」のストーリーを追われています。​放送日:2021年1月26日(火)夜10時 ...

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重要なのはやはり、私たちから押し付けるのではなく「住民のニーズベースでデザインしていく」こと。たとえば買い物では、利便性を考えてVRモールを導入しました。タブレット上でいつも地域の方々が買い物に行くスーパーの画像を映し出し、売り場をタッチすると買い物ができる仕組みです。
 
特に高齢者だと、商品リストを渡しても文字を追うのが大変だったりします。通い慣れている店の画像を見て「あの棚にあるこれが欲しいんだよね」という流れで買い物がしたいと望む住民の声に応えた形です。
 
――地元の人たちとともにつくりあげていくソリューションなのですね。 
 
買い物のVRシステム自体も、多久市に拠点を持つ建設会社が開発してくれました。地元の会社が率先して地元の人たちを巻き込むことで、“地元主体”の形で進めていくことができます。

VRモール。丸印をクリックすると商品情報が表示され、購入できます。


 
このように、重要なのは地域の住民が自分たちの力だけで持続できるシステムをつくりあげることです。まだ現状では、正直に言ってドローン事業は最初から儲かるようなものではありません。
 
トップダウンで進めてしまうと、最初大きく打ち上げたとしても、補助金がなくなった瞬間に事業が終わってしまうこともよくあります。地域の人たち自身が「やる」と決断するからこそ、みんな本気になり、そう簡単に終わらせることがなくなるわけです。

とはいえ、たとえば「過疎地に物資を配送する」ことだけを目的としてしまうと、ビジネスとしては成り立たない可能性は高いです。そこで、地域の物流会社や建設会社をはじめ多様なパートナーと組み、既存のビジネスと組み合わせることで、ビジネスとしても成立させていきたいと考えています。

VRモールを開発した建設会社もやはり最初は赤字でしたが、いまは本業と併せて事業を展開することで、十分な利益を出しています。
 
――ドローンを活用した事業を黒字化させるにはどうしたらよいのでしょうか。 

建設会社の例のように、別の事業と組み合わせることがひとつの手段となるでしょう。さらには今後、空の道を配送以外に点検や測量などでも使用するようになれば、さらに活用の幅が広がっていくはずです。
 
また、現段階では「ドローン活用を推進している」こと自体が一つのブランドになります。多久市では、私たちの取り組みを見に修学旅行生が訪れるようになりました。人口2万人ほどの市に何百人という学生がやってきて、食事や宿泊にお金を使ってくれるわけですから、まちにとっては大きな話です。私たちはこのように持続可能な経済圏をつくっていくことを目指しているのです。
 
――単にドローン活用の推進だけを目標としているわけではないんですね。 
 
その通りです。それこそが私たちが目指す「空のまちづくり」の姿です。ドローン配送の場合だと大手物流会社とタッグを組むことが一般的ですが、私たちが連携するパートナーは自治体からまちづくり団体、建設会社、通信会社、小売店、百貨店、病院、飲食店など多岐にわたります。ありとあらゆる産業を巻き込みながら、いま全国各地で事業の展開を進めているところです。
 
私たちが注力しているのは、「ドローンの社会受容性の構築」です。多様なパートナーと連携することで、社会インフラを構築する上で大切な“地域の視点”に気づくことができます。このような取り組みはあまり例がないものだと自負しています。
 
2月には、多久市で「集大成イベント」を開きました。これまでの取り組みを報告し、産官学のキーパーソンがパネルディスカッションを行うなど、活気あふれた会となりました。


トルビズオン、たく21、多久市とともに「ドローンを核にした交流によるまちづくり事業」の集大成イベントを産官学で実施

株式会社トルビズオンのプレスリリース(2023年2月17日 15時30分)トルビズオン、たく21、多久市とともに「ドローンを核にした交流によるまちづくり事業」の集大成イベントを産官学で実施

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エアロセンスT Box とDJI M300


愚直に正攻法で攻めることが唯一の道

――今後はレベル4飛行も実施していく予定でしょうか? 
 
将来的な可能性はありますが、現段階では具体的なレベル4飛行の想定はしていません。そもそも認証された機体が少ないですし、あっても非常に値段が高いことが予測されます。コストの観点からも、しばらくはレベル3飛行が中心になると思います。
 
――多久市で展開されたような事例を今後どのように横展開していくお考えでしょうか。 
 
ドローンの社会実装を進めていくには、レベル4飛行の要件でもある「人材」「機体」「安全運航管理」の質を高めていくことに尽きると考えています。まずは一等無人航空機操縦士資格を持った操縦士を増やし、国産メーカーには切磋琢磨してもらってコストパフォーマンスに優れた機体を開発してほしいですね。
 
安全運航管理では、地域との調整を行うことは国からも要求されている一方、具体的な中身についてはあまり具体的に定義されていません。ただ、地域の調整を真面目にやろうとすればするほど、コストがかかることを実感するはずです。そこで、すでに地域と調整するノウハウと実績を持っている私たちと組むことで、コストダウンにつなげてほしいと思います。
 
企業や自治体としては、本来自分たちがやらなければいけなかった面倒な工程をプラットフォーム上で完結させられる上、コストも下げられる。地域の住民にとっても、まちの上空を飛ぶドローンに対して自分たちの意見を反映させた上で、インセンティブが入ってくる。

そのように、地域の関係者の方全員にWin-Winなサービスをつくることが私たちの使命だと考えています。その利点を実感してもらうことができれば、スケールしていくはずだと期待しています。
   
――難しい挑戦ですね。 
 
ドローンは人の命をおびやかすおそれがあるものです。一方で、一たび鉄道や高速道路のようにしっかりと整備されると、50年、100年と続くインフラになるはずだと思っています。 そのためには「安全な機体だから飛ばします」ではやはり不十分。社会受容性を高めていく必要があります。

確かに、社会受容性を高めていくのは大変です。「これさえやればいい」なんて秘策は存在しません。だからこそ、真摯に向き合いながら愚直にやっていくしかないんです。それができるプレイヤーだけが生き残っていくでしょう。
 
――最後に、読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
 


 
ドローンは非常に夢のあるツールです。自動車と同じように、ゆくゆくは当たり前の存在になり、社会を変えていける可能性を秘めています。まだ新しい業界なので参入のハードルも高くありません。少しでも興味のある方はぜひチャレンジしてほしいと思います。

また私たちは、ドローンを活用したいと思うすべての方たちに貢献していくとともに、そのような方たちと一緒になって経済圏を構築していきたいと考えています。私たちとともに何かをやってみたいと考えてくださる企業や自治体は、どうぞ気軽に戸を叩いてもらえたらと思います。 
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