(取材)ドローン特化VC「DRONE FUND」共同代表・大前創希氏が見つめるエアモビリティの未来とは

(取材)ドローン特化VC「DRONE FUND」共同代表・大前創希氏が見つめるエアモビリティの未来とは
ドローン活用への期待感が高まるなかで、さまざまなビジョンを持ってドローンに関わるビジネスを立ち上げるスタートアップ企業が増えています。そんな企業の取り組みを後押しするのが、ドローン特化型ベンチャーキャピタル(VC)の「DRONE FUND(ドローンファンド)」。ドローンやエアモビリティが当たり前に活躍する「ドローン・エアモビリティ前提社会」の実現を掲げ、ベンチャー企業への投資を行なっています。

この記事では、DRONE FUNDの共同創業者・代表パートナー大前創希に、DRONE FUND設立の背景や注目のスタートアップ企業、同社が掲げる「ドローン・エアモビリティ前提社会」実現の展望についてお話を聞きました。

DRONE FUND 共同創業者・代表パートナー 大前創希氏

ドローンによる映像制作を個人で開始。2号ファンド組成時に共同代表に就任

ーーまずは、これまでのご経歴についてお聞かせください。

2002年にWebコンサルティングの会社を創業し、Web戦略の立案やWebサイトの設計・構築・運用のワンストップサービスを立ち上げました。現在はビジネス・ブレークスルー大学の教授でもあり、デジタルマーケティングを教えています。また、ラジオのパーソナリティを務めたこともあり、二足、三足のわらじをはいている状況です。

DRONE FUNDとの関わりは、2017年にアドバイザーとして1号ファンドに参画したのが始まりです。その後の2018年9月、2号ファンドの組成にあたって共同代表に就任しました

ーー2014年から個人的にドローンの活動を開始されたとのことですが、ドローンに興味を持ったきっかけを教えてください。

きっかけは1本の動画でした。OK Goというバンドの「I Won’t Let You Down」という曲のPVで、ドローンを使って制作された映像を見たんです。これは衝撃でしたね。尋常じゃないレベルの作品を観て、「映像制作が変わるな」と直感しました


もともと映像制作が好きで空への興味も強かったので、ドローンで自由に飛びながら映像制作ができるのはかなり魅力的でした。ドローンで映像を撮って編集、表現する「ドローングラファ」という新しい職種が成立するのではないかと思い、本格的にドローンでの映像制作を始めたんです。

当時は撮影向きのドローンが発売され始めた頃です。それまでのドローンはおもちゃのようなもので、映像作品を作るのにあまり適していませんでした。私もそれまではラジコンやホビードローンで遊んでいましたね。映像制作を始めた当初はParrot社の初期型のものを使っていたのですが、電波や映像、ジンバルの機能があまり良くはなく、結果的に2台落として破損しています。

その後、撮影用の高性能ドローンであるDJI社のPhantomが出て、本格的に旅をしながらドローンで撮影するようになりました。当時は法整備があまり進んでいなかったので、ドローンを自由に飛ばしやすい状況でした。

北海道上川郡「白金青い池」(大前氏撮影)


糸島(大前氏撮影)

自治体の方とも話すなかで、「自治体の紹介ムービーを作りませんか」とこちらから提案する形で撮影許可をもらい、自治体向けの動画も撮りました。そうして広島県竹原市で撮影した動画が、2016年に日本で初めて開かれたドローンムービーコンテストで準優勝したんです。そこからお仕事を頂けるようになり、ドローンが仕事として形になるかもしれないと思い始めました。


投資先選定のポイントは「どのような技術を持っているか」


ーードローンに特化したVCの立ち上げには、どのような背景や経緯があったのでしょうか。

創業者の千葉功太郎がエンジェル投資家としてスタートアップ企業に出資するなかで、2016年ごろからドローン関連の企業が増え、それらをまとめてファンドを立ち上げるという方法を考えたようです。

千葉個人の出資だけでなく企業から出資頂く事でドローン系スタートアップに対する支援を強化できるため、「ドローン産業が立ち上がってきたときに、仕事として意義のあるものになるはず」と話していましたね。私自身も「ドローンが仕事になる」と感じていたこともあり、参画を決めました。

ーーDRONE FUND創業者の千葉功太郎氏とともに共同代表を務めることになった経緯を教えてください。

千葉とは、2016年にドローン好きが集まる会で出会いました。「ドローンがビジネスに活用できるのではないか」「空撮だけでなく社会の役に立つ未来がもうすぐ訪れるのではないか」という考えに共感し、1号ファンドにアドバイザーという形で参画しました。

1号ファンドの新規の組み入れが終わり、既存の投資先に追加の出資をする予算を残すだけとなったときに、もう少し大きいファンドを立ち上げたいと千葉から相談を受けました。その際に、より大きな組織が必要だという結論に至り、信頼が置けてドローンが好きな事業家という点で、結果的に私が適任だということで、2号ファンドの組成にあたって共同代表に就任し現在に至ります

ーーDRONE FUNDにおいて投資先を決める際に、どのようなポイントを重視していますか?

1つは、どのような技術を持っているかが大きなポイントです。本体を作るメーカーだけでなく、モーターやバッテリーを作る会社、構造解析をする会社、風洞実験の新しいソリューションを開発する会社などさまざまな会社を含めて、ドローン・エアモビリティ産業のなかで、どのように活躍できる技術を持っているのかということですね。


ーー現在特に注目しているドローンスタートアップと、その理由を教えていただけますか。

どの会社も重要性と成長性が高いので、70社くらい説明したい気持ちです。いくつか挙げるとするなら、例えば、株式会社Liberawareはとても重要な会社の一つではないでしょうか。ドローンの活用現場としてわかりやすいのは屋外での点検や巡回ですが、一方で屋内設備にも、人が入れない場所や入りづらい場所、「暗い、汚い、危険」で入るのに適していない場所が存在します。

そこにドローンが入ることで課題を解決できるのではないかと立ち上がったのが同社で、いまは「IBIS(アイビス)2」という新しい機体をロールアウトしています。小さく安定していて、狭所・暗所にも入っていけるすごいドローンですよ。防塵構造のモーターも独自開発していて、埃っぽい場所でも飛行できます。かなり期待されているソリューションだと感じています。

あとは、VFR株式会社にもぜひ注目してもらいたいですね。VFRは、ドローン産業のなかではどちらかというと裏方に当たる会社です。この先、ドローンが量産化されるにあたって、量産を担う工場機能を提供する会社として立ち上がりました。たとえば、自動車メーカーが自社工場を持って生産しているのに対し、携帯やパソコンは工場を持たずに製造設計だけを行ない、外部の工場に委託することで安価に製造できるわけです。

ちなみにVFRはVAIOが設立した企業なので、パソコンの製造工場を担っていた人たちがVFRを作っています。日本の中枢でものづくりに取り組んできた人たちが、新たにドローンを作ろうと立ち上がった会社です。日本でここまでしっかりドローンのものづくりの体勢を整え、量産に向けて実行できる会社はほかにはないのではないでしょうか。

「ドローン・エアモビリティ前提社会」への展望


ーーDRONE FUNDが掲げる「ドローン・エアモビリティ前提社会」とは、どのような社会なのでしょうか。

ドローン・エアモビリティ前提社会は必ず来る」という前提に私たちは立っています。背景を説明すると、日本の社会における重い課題の一つは労働力の減少で、これをテクノロジーで解決しようという方向性があります。人口が減少するなかで社会を豊かに維持、またはより良くするためには、何らかの方法で前進しなければなりません。そこで、さまざまな場面で人間の仕事をロボットが代替することで、社会の維持を可能にする形を目指しているのです。これがドローン・エアモビリティ前提社会です。

エアモビリティに関して言うと、日本は、東京を出発点に考えるとだいたい7時間半~8時間程度あれば「国内のどこにでも行ける国」なんですよね。一方で、地方間での交通網を考えると、今後の人口減少において交通網の維持が困難になるケースが表れ始めています。そこで、どのように交通の便を維持しようかと考えると、やはり自動走行型の交通しかありません。

人間の歴史において、交通の便によって社会が豊かになってきた側面があります。日本でも、高速道路や新幹線で都市と都市が結ばれることによって、社会が大きく発展しました。交通の便を維持し、人々の生活が豊かであり続けるためには交通のアップデートが必要であり、エアモビリティの実装が重要な意味を持つと考えています。

ーー「ドローン・エアモビリティ前提社会」は、いつごろ訪れると想定しているのですか。

段階的なものであり、ドローンとエアモビリティは一緒には語れない部分があります。例えば、点検や農業の分野においては、いままさにドローンを活用しようという流れが加速度的に進んでいて、2025年までにはかなり台頭してくるのではないかと予想しています。

エアモビリティに関しては、まだまだ法律も機体の性能も水準を高める必要がありますね。日本では2025年の大阪・関西万博をスタートラインとすると、残念なことに少し先の話になりますが、2030年や2035年には徐々に交通網の一つとしてみなさんが利用できる状況になってきているのではないかと思います。


ーーエアモビリティの社会実装にあたって、どのような課題があるのでしょうか。

まずはユースケース、ニーズと照らし合わせなければビジネスはスタートしません。なので、どこにユースケースがあるのかを探す必要があります。例えば、大阪エリアにおいては、伊丹空港が少し不便なところにあるため、関西の空港をエアモビリティで結ぶことで利便性が大きく向上するでしょう。また、東京の成田と羽田、品川を結んだり、中京圏でいえば中部国際空港(セントレア)と三重を結んだりといった、エアモビリティに適している運航エリアを見つけて整備する必要があると思います。エアモビリティによって生活が変わる、観光客の体験が変わる、という部分が大きな期待値ですね。

ーーDRONE FUNDのWebサイトに掲載されている、2023年のドローン前提社会を描いたイラストを拝見しました。このイラスト製作時に想定していた未来と照らし合わせて、2023年現在のドローン活用状況についてどのように感じますか?

あのイラストでは、あえて前倒しの年代を入れています。東京でドローンが飛び交うような未来が2023年に実現すると思っていたわけではなく、「これくらいのスピード感で取り組まないとダメだよね」と目標設定しており、いかにスピードアップできるかを目指しているんです。

DRONE FUND Webサイトに掲載のイラスト


結果として、日本国内のドローンのルール・レギュレーションは世界に比べてもかなり早い段階で意思決定し活用できる土台が作られています。まださすがに東京でここまでドローンを飛ばすことはできませんが、地方であればカーゴドローンや農薬散布ドローンの実装が始まっているところもあります。イラストが刺激になった方々もいるのではないかと思っていますし、早期に実現するためのきっかけとしてイラストが活用されたのであれば、意義があったのではないでしょうか。

ーー「ドローン・エアモビリティ前提社会」が実現したときに、私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。

「そこまで社会は大きく変わるのかな?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。実際に仕事をしているロボットと遭遇することは多くないと思います。例えば点検ドローンは、工場地帯や橋の下の橋脚周辺などで稼働するので、普通に生活している市民の皆さんがドローンを目にする機会は多くないです。

みなさんが生活の中で、徐々に「なんか最近ロボットを見るようになったな」という感覚を持ち始めたら、ドローン・エアモビリティ前提社会が到来する兆しです。ビルの中で警備ロボットが巡回していたり、飲食店で配膳ロボットが食事を運んでいたりと、だんだんロボットの存在が当たり前になってくる。少しずつ目にする機会が増えていき、最初は気になっていたものが気にならなくなってくる。当たり前のものとして「気にしない・話題にしない」ようになった段階で初めて、ドローン・エアモビリティ前提社会が成立するのだと思います。

便利なものが社会に一度現れると、そう簡単に後には戻りません。ドローンやエアモビリティはいま、車やスマートフォンが10年、15年の間で浸透したのと同じ歴史をたどっているところです。そんな歴史を皆さんと一緒に見ていきたいですね。私は少しだけでもドローン・エアモビリティ産業が立ち上がるお手伝いができればうれしいです。


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